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31話 新旧勇者パーティ

 以前UAこと、ネロが作りやがった魔王城もどき。そいつはどうやら、あれを作るためのデモンストレーションだったらしい。

 ベルリックのすぐ近くに、前にネロが作った物よりもしっかりした塔が出現しやがったんだ。


 石造りの、堅牢な構造を持った塔だ。全長およそ、百メートルってところか? 読者諸君にゃ小せぇ塔かもしれねぇが、俺らの世界観じゃ結構な高さの建造物だ。


 でもってその天辺に、ネロが居た。


 微かにだが、天辺で地上を見下ろしているよ。UAの赤い鎧を纏ってな。

 ベルリックはまたもや大混乱、酷い乱痴気騒ぎだ。冒険者やら勇者やらが大慌てで対応しているが、完全に不意を突かれたせいで完全に後手に回っている。


「ネロ……どうして、どうして、お前が魔王に……!」

「ショックを受けるのは分かるが、結果は結果、それはそれだ。ネロが今回の黒幕、いや、魔王に取り込まれた。そいつだけは確かな事だろ?」


 カインは随分落ち込んでいる。当たり前だよな、自分の息子がこんなどでかい悪事を企んでいたんだからな。

 だがな、いつまでもしょぼくれてるわけにはいかねぇだろ?


「ネロがルシフェルを復活させようとしてんなら、俺らで止めなきゃ。だろ? 特にてめぇは、ネロの親だ。だったら腹くくれ」

「俺に、ネロを殺せと……? 息子を殺せと、言うんですか?」

「あのなぁ、なんでそう思考を飛躍させんだてめぇは」


 少し胸ぐら掴んで、頭を冷やす必要がありそうだな。


「いいか、あいつがどうして魔王に取り込まれたのか、そんな事ぁわからねぇ。だがな、ネロの本心が分からねぇ現状、まずはあいつに会いに行かなきゃ何も聞けねぇだろうが」


「…………」


「それによ、俺ぁあいつが、本心から魔王に心酔しているとは思えねぇんだわ」


 これは何度か、ネロと対話して感じた事だ。

 ネロが本来、優しい性格なのは分かっている。妹やお袋を大事に思う心や、親父を尊敬し、慕う気持ちがある。一応、あいつを間近で見ていたからな。それくらいの事はわかるさ。


 あいつが、魔王とどう出会い、何を吹き込まれたのかまではわからねぇ。だがな……もし拗れた心の隙を突かれたのだとしたら、俺達大人が助けなきゃならねぇだろうが。


「それにてめぇ、親父だろ。親父なら、どうして息子を信じてやれねぇ。親だったら、息子をとことんまで信じてみろよ、ネロをちゃんと見てやれよ! 俺が腹くくれって言ったのはそう言う事だ、きちんと親父として、あいつと向き合う覚悟決めろって事だ!」

「……師匠」

「僕も同意見だよ、カイン」


 おっ、珍しく助け船を出してくれるか、ヨハン。


「僕は今まで、ディジェときちんと向き合えていなかった。けどな、ハワードさんに背中を押されて、改めてディジェと向き合って……やっとあいつの寂しさを理解できたんだ。ずっとほったらかしにして、見る事が出来なかった。それがどれだけディジェを苦しめていたか、気づくのに送れるなんて、親失格だよな」


「だが、気づけただけ上等だ。じゃあカイン、改めて聞くぞ。お前はネロの事を、きちんと理解できたのか? ネロがどんな心の痛みを持っていたのか、あいつと触れ合う中で分かったのか?」


 なんも返してこないって事は、出来てなかったようだな。

 ったく、この不器用な馬鹿弟子が。てめぇがそんな体たらくでどうすんだ。


「カイン! ネロが、ネロがUAって、本当なの!?」

「コハク様、落ち着いてください! 確かに、道中話した通りですけど……」


 コハクが来たか。ブレイズちゃんに頼んで、連れてきてもらってたのよ。

 嫁さんが来るなり、カインは抱き着きやがった。自分の息子が黒幕だった。その事実を必死に飲み込もうとしてんだろうさ。


 情けない、とは言わねぇよ。カインがどんだけ気持ちを押し殺しているのか、理解できない程馬鹿じゃないんでね。


「落ち着いたんなら、声掛けろ。殴り込みに行くぞ、あのバカげた塔の中にな」


 俺もちょっと、本腰を上げて挑まにゃならねぇ案件だ。


 何しろ、ネロに取りついたであろう魔王は、俺にとっても因縁深い相手だからな。この右腕の、元々の持ち主。かつて俺が仕留め損ねたくそ野郎だ、責任は取らねぇとな。


 って事だ読者諸君、自分のやらかした事はきちんと自分で片を付けろよ。じゃねぇと、周りにこんな迷惑をかける事になっちまうからな。


「……師匠。覚悟は、出来ました。ネロの所へ行きます。俺達が行かないと、だめだ。だってネロは、ネロは俺達の……息子なのですから」

「よく言った。んじゃさっさと行くぜ。癇癪起こしたバカ息子を叱り飛ばすためにな」


 んで、この問題は流石にコハクも連れていきたいんだが……。


「てめぇ、ちゃんと調整したんだろうな? 前みたいに魔法が暴走しましたー、になったら流石にフォローしきれねぇぞ」

「大丈夫よ、きちんと特訓してきたんだから。もう足を引っ張ったりなんか、しないわ」

「僕も鍛え直してきたよ、ディジェに恥ずかしい所見せてしまったからね、汚名返上しとかないとさ」

「へぇ、ヨハンも行く気か」

「当たり前だろ、折角この四人が揃っているんだ。それに、ネロは小さい頃から知っている。友人の子供だから、放っておけないよ」


 へっ、まぁいいぜ。好きにしな。つか、余計なお客さんが来やがったな。


「先生! 一体、一体これは、どうなってると!?」

「ネロの姿が見えないんだ、あいつは、どこに!?」


 レヴィに、ディジェだ。まぁ勘づくだろうな、無駄に賢いガキだしよ。


「二人とも、その、ネロ君は……」

「あいつがあの塔を出したんだ。でもって、あいつがUAの正体なんだ」

「ってちょっと!? なんでいつもいつもそんなあっぴろげに!」

「隠した所でどうしようもねぇだろ。簡単に教えてやる、よく聞け」


 話していく内に、二人の顔が青くなっていく。ま、さっきまではしゃぎまわっていた間柄だ。そうなるのも分かるわな。


「ネロが、UA……あいつが、魔王を!?」

「信じられまっしぇん、ネロ君が……どうしてそんな事を」

「それを今から確認しに行くんだよ。お前らは待ってな、流石に今回は荷が重いぜ」


 んー、でもそう言って止まる奴らじゃねぇし。かといって下手について来るよう言うと、カイン共が黙っちゃねぇしなぁ。


「師匠の言う通りだ、君達は避難してくれ」

「ここから先は私達に任せておきなさい。必ず、ネロは助けるから……!」

「……けど」

「たい……」

「ま、気持ちだけは受け取っとくぜ。ブレイズちゃん」


「何よ」

「街の防衛は任せた、役所にでも行って避難してな。あそこなら、魔具が結界代わりになってるかもしんねぇしな」


 くくっ、コハクに聞こえないよう小声で言ったから、ちょっとあからさますぎるかねぇ。けど変に繋ぎ止めておくより面白くなりそうじゃね?


「貴方……分かった。止めようのない魔物が出てくるかもしれないし、私はここに残っておく」

「頼んだよブレイズ! じゃあハワードさん、カイン!」

「おう、行くとするか。馬鹿弟子の息子を連れ戻しによ」


 でもって、俺もけじめをつけにいくか。昔仕留め損ねた阿呆を潰しにな。


  ◇◇◇


 塔の中は、高い吹き抜けになっている。正面にあるのは二つの扉……なるほど、二手に分かれないと攻略できない。そんなこざかしい作りになってんのね。

 あちこちに美術館に飾ってあるような彫刻や絵画やらが飾ってあってな、全部ぱくって売り飛ばしたらどれくらいになる事やら。


 っと、んな下らねぇ事考えてる場合じゃなかったな。


「ネロは、この頂上に居る……急がないと」

『へぇ、やっぱり来てくれたんですね。父上』


 意気込むカインを嘲笑うような、ネロの声が反響する。相変らずクソ生意気な台詞言いやがるな、マザ○ァッ○小僧が。


「ネロ、どうしてこんな事を!? 魔王なんてそんな……貴方はそんな子じゃないでしょ!?」

『母上も、来てくれたようですね。とても嬉しいですよ。いかがですか、この圧倒的な力の象徴! 魔王様曰く、この塔の名はバアルゼブルと言うようです。魔界でも強大な力を持つ魔王の名を冠しているそうですよ!』

「……汚ぇ名前、つけてんなぁ……」


 バアルゼブルって、どんな名前つけてんだよあの野郎。蠅山の王だぞ? それに俺そいつぶっ潰したし。

 相変わらず、美意識がいまいち分からん奴だな。ま、別にいいか。

 援軍も来てくれているようだし、ここは一つ、合流するとしますかね!


「ヘイネロ! ここでグダグダ自慢話をすんのは、無しにしようぜ。そういうのはきちんと面通しして、真正面から言ってやるもんだろ?」

『確かに、そうですね。僕とした事が失礼しました……では、先生、父上』


 ネロが指を鳴らすなり、頭上からワン公が召喚されてきた。

 三つ首の黒い猛犬、ケルベロスだ。結構でかいな、十メートルはあんじゃね?


『紹介したい方がいらっしゃるので、是非とも僕の所へ来てください。その間、おもてなしをさせて頂きますから。……やれ、ケルベロス』

『御意に』


 ケルベロスは、魔界じゃそれなりの地位に居る上位の魔物だ。意外と頭のいい魔物でね、自分より強い奴だと認めると、そいつの従順な僕になるのさ。


 そいつを難なく使役しているとは、口だけじゃなく腕前も達者みたいだな。


『我が主の命により、ここより先へは行かせん! 立ち去るがよい咎人どもよ!』

「ほー、文字通り魔王様の犬がご登場か。三つ首の犬なんて人間界じゃ珍しいぜ? 俺について血統書付きのタネ犬になったらどうだ。ドッグブリーダーってのは柄じゃねぇが、お前を利用すればちょっとした金儲けができそうだぜ」

『下劣な事を抜かす人間が、たわごとをほざきおって!』


 ヒュウ! 負け犬の遠吠えだぜ。ネロに傅いてるって事ぁよ、てめぇあいつに負けたって事だろ?

 だったら、相手する必要もねぇな。


「さて、と。からかい終わったし、行くか?」

「えっ、ハワードさん?」

「そうですね。こんな雑魚を相手にしている暇はありません、急がないと」

「カインも? でもケルベロスが」


「ネロごときに負けるような雑魚だ、俺らが戦う価値なんかねぇよ」

「その通り。それに俺達の代わりに戦ってくれそうな子達が、ここへ来ているようだしね」


 あら、やっぱバレてーら。ま、あからさまな煽り入れてたから当然かねぇ。


『下賤なる人間、やはり生かす価値、なし! 主の下へ行くまでもない、ここで死ぬがよい!』

「ここで死ね そう言う奴が 先に死ぬ。ってな。だろ? ブレイズちゃん」

「そうね、つまらない川柳も加えてありがとう!」


 ばりーんと小気味よい音を立てて、壁を壊して援軍登場。誰だって? 決まってんだろ読者諸君、俺の新たな馬鹿弟子たちだよ。


「ディジェ!? それに、レヴィまで!?」

「どうしてここに、しかも、魔具を!」

「あー、そういや魔具のありかを間違えて呟いちゃったっけーあー失敗した失敗したー」


 あら読者諸君、別に俺様わざとやったわけじゃないのよ。

 俺のミスにつけこんで、こいつらが勝手に魔具を盗み出しただけなんだ。あちゃーこりゃー後で始末書もんかねー。

 ……あいつらの気持ち汲むんなら、この程度のデスクワークはやってやるよ。


「とりあえずついてきたけりゃ、そこのワンころぶっ殺しとけ。じゃないと仮免許は出せねぇな」

「分かってる! それに後輩が頑張った姿を見た後で、黙ってられるわけないでしょ!」


 やる気にはやってるねぇ。じゃ、見せてみ。ウヴァルとグレモリーを使った、近接特化の戦闘スタイルをよ。


「とりあえず、お座り!」


 ブレイズちゃんの流星キック! お座りどころか、一発で伏せをさせられたケルベロス。でもって、そんだけでは終わらんよなぁ。


「剣を合わせて、魔力を込めて……! よし!」


 ブレイズちゃんが剣の柄を合体させると、ダブルセイバーになる。あの剣は連結機構を持っていてね、合体させて双頭剣に出来るのさ。

 あん? むしろ使いづらくなってるって? そりゃそうさ、だってあれ、ロマンを求めて作っただけだもん☆


 ただし、普通のロマン武器じゃねぇぞ。特に俺が教えたスタイルと組み合わせればな。


「技をお借りします、カイン様……ツイスター!」


 ダブルセイバーをバトンみたいにぶん回して、全身を限りなく酷使した連撃を繰り出す。でもって連結を解いたら、今度は人間の関節稼働を無視した、一見無茶苦茶な乱舞でケルベロスを切り刻んでいくぅ。


 あれが近接特化の戦闘スタイル、バトルマスターだ。全身を限界まで、それこそ骨格が悲鳴を上げるレベルで武器を振り回し、敵が死ぬまで攻撃し続ける。良い子が真似しちゃいけないスタイルよ。


「んあああっ!」


 おお、右の首を切り落とした。多量の血が降り注いで……って汚ぇなおい。


『ぐ、ふっ!? なぜ、だ……傷が、血が、止まらぬ……首も、再生しないだと!?』

「ウヴァルとグレモリーの力よ、この剣でつけた傷はふさがらなくなる。どれだけ強い魔物でも、体から血が無くなったら、おしまいでしょ」


 魔界じゃ再生能力を持った魔王や魔物も多い、ケルベロスもその例に漏れず、強力な再生能力持ちよ。

 けどウヴァルとグレモリーはそいつを無効化する。「俺再生能力持ちだぜウェーイ」っていきってる馬鹿を嬲り殺しにするため作った拷問器具が、あの武器の正体なのさ。


 趣味悪いって? だって俺様ドSなんだもん、いいじゃんか。


 さて、お前らはどうすんだい、幼虫達。一応言っとくと、ランダは直してあったのよ。


「きちんとドレスコードは守ってきたか? 舞踏会にはフォーマルな衣装で来るのがマナーだぜ」

「当然、用意してきたばい!」

「のけ者にされるなんて、まっぴらごめんだからな!」


 ランダを持ったレヴィがデビルブレイカーで左の頭を、でもってバエルを持ってきたディジェがリベリオンでど真ん中をぶち抜いた。ブレイズちゃんが再生能力潰してるから、二人でも止めを刺せるわな。

 ま、ネロにやられる程度の番犬だ。俺が鍛えた連中が、後れを取るわけねぇだろ。


「君達、どうして……ディジェ! 待っていろと言っただろ! 魔具まで持ち出して……なんのつもりだ!」

「ここへ来たのが答えだよ、親父。俺だって、戦える。先生が作ったこの魔具があれば!」

「ネロ君な、ディジェ君ん友達たい。そんなら、助けなかっち! ベルリックで黙っちなんか、居られまっしぇん!」

「でも、相手は魔王なのよ。貴方達が来ても……」

「お言葉ですが、コハク様。私は勇者です。勇者たる者、魔王を倒す義務があります。私が目指すのは、平和の象徴たるカイン様。なら、その目標を果たすために魔王の下へ向かうのは、至極当然の事です」


 くくっ、ブレイズちゃんのはちょっと屁理屈入ってるが、いいんじゃねぇか?

 馬鹿二人はさっき本音で殴り合った仲だ、本気で喧嘩した後ってのは、青臭いが友情が芽生える物だ。レヴィは感化されやすいし、ディジェはやっと対等に立てた友達だ。ほっとけるわけねぇよな。


 それにブレイズちゃんも、バーで語った事が利いてるみたいだ。

 自分の目標にしている連中が気張っている、それに引っ張られない女じゃねぇ。だろ?


「ここまで来た以上、今更帰れっつのもあれだろ。下手に突っぱねたら勝手に行動しかねないぜ」

「それは同意見ですが、どうするんです? 流石に彼らだけでは行動させられませんよ」


「俺が保護者になってやる。それに都合いいじゃねぇか、この塔は二手に分かれねぇと進めねぇようになっている。お前ら三人で右、俺ら四人で左。戦力は丁度半分、だろ」


「……確かに、師匠が居れば安全か」

「その通り! こいつらは任せておけ、なんせ俺様は」


『絶対無敵最強の天才賢者、ハワード様』


「だからでしょ」

「だからだよ」


 分かってるじゃなーい、カイン。ほれ、タッチするぞ。バーンてな♪


「事ここに及んだら、僕らも受け入れるしかないか……ディジェ!」

「レヴィも! 絶対、無理だけはしちゃだめよ」

『はい!』


 んじゃ、行って来いよ旧勇者パーティ。

 俺はこっちの、新勇者パーティの引率すっからさ。


「考えてみると、魔王に挑む私達って……勇者パーティみたいね」

「みたいじゃねぇ、事実だよ。ま、俺様から見りゃ未熟者の集まりだがね。せいぜい楽しく攻略しようじゃないか。魔王様が作りなさった、ご立派な塔をな」

『おう!』


 それじゃ、始めるとしよう。クソッタレな旧友が用意した、つまらねぇ喜劇(コメディ)をな。

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