24話 意外な側面。
コハク親子と別れてから、なんか気分がアンニュイだ。
レヴィの所でほっこりしてから、仲睦まじい親子愛見せつけられたからかねぇ。妙にしんみりした気分になっちまった。
適当な民家の屋根に上って、ベルリックを見渡す。うーん、なんとも壮観な景色だぜ。
「人間界に戻ってきて、ほんの一月半か。はは、この短期間でまぁ、大事なモンが増えたもんだ」
それもこれも、俺のコミュ力が高いせいだな。人脈作りまで天才となると、もう手におえねぇなぁ。
なーんて、軽口叩いてみたものの……ダメだな、気分は晴れねぇや。
カインは勿論、ヨハンにコハク、下の世代だとレヴィにディジェにネロ、ブレイズちゃん。あいつらには、帰る場所に居るべき奴がいるんだよな。
それが時々、すげぇ羨ましく思う時がある。何しろ俺には帰った所で、誰も居やしねぇ。文通相手も居ねぇ。一人暗い部屋で酒飲むくらいしか、時間潰しの手段がねぇからな。
珍しく弱気だなってか、読者諸君。ま、てめぇら相手なら弱音を吐いてもいいかね。
これでも結構寂しがりなんだよ、俺は。大口叩いて、騒いで人の気を引かねぇと、大事な奴らがどっか行っちまいそうでね、不安なのさ。
俺が自分自慢してんのは、そんな弱いてめぇを隠すためのブラフだ。勿論自慢できるくらい自分磨きしてんのは確かだけどな。はっはっは!
……はぁ、自分でほざいて情けなくなるぜ、ファ○ク野郎。
「先生? 屋根の上で何してんだよ」
「あん? 誰かと思えばディジェに、ヨハンじゃねぇか。しかも横には見知らぬ美女ときたもんだ」
意外といいタイミングだな、暇つぶしにはなるか。今降りるぜ。
「よぉヨハン、こんな夜に何してんだ」
「たまの家族サービスさ、家族で食事しに行ってただけ。ディジェもそろそろ試験勉強に集中しないとだし、壮行会もかねてね」
「いい親父演出してんなぁ……って家族? その横の女っててめぇの?」
「うん、家内さ」
こいつぁ、驚いたな。
小顔で短い黒髪がチャームポイントの女だ。経産婦とは思えねぇスレンダーな体してやがる。
「初めまして、夫からお話しは伺っています。かの高名な賢者ハワード様、息子がお世話になっているようで」
「はっ、世話焼いてるつもりはねぇよ。そいつが毎日懲りずに殴られに来てるだけだ」
「おいこらハワード、父親目の前に居るのにいい度胸した発言だな」
そりゃ俺様だしー。恐れるものなんか何もないしー。
「しかしいい女捕まえたもんだぜ。どんなプレイで子供拵えたんだ? ○○○か? それとも○○○か? てめぇ結構悪ノリする性格だもんなぁ」
「あのな! 嫁の前でバンバン下ネタ言うの止めてくれよ!」
「親の夜事情聞かされる息子の身にもなってほしいんだけど……」
「HAHAHA! こりゃ失敬! んで奥さん、ヨハンのアレはきちんとあんたを満足させほぉっ!」
「いい加減にしないと殴るぞおい! あと僕あんたよりデカいって知ってるだろ!」
「いやお前も下ネタ振りながら殴りかかってんじゃねぇ!」
俺様でもお前の拳は受けたくねぇよ、遠慮なく殴ってくんな!
「ふふ、夫から聞いていた通り、騒がしい人。けど、少し寂しがりやな感じ」
「そうかぁ? 先生ほどその言葉が似合わない人は居ないと思うけど」
くくっ、まだまだ甘いなディジェよ。人間誰しも仮面をかぶって生きている、世はまさに大マスカレード時代だぜ。
「ま、ともかくだ……ここで会ったのもあれだし、一緒に来るか? クラス内でのディジェの様子も聞きたいし」
「来なくていいから先生! あんた、何言い出すか分からないしさ!」
「はっはっは! 折角の誘いだが、遠慮しとくわ。もう夕飯済ませてるからな、三人水入らずで行ってこい。レヴィんとこの店が中々いけるぜ」
家族の時間邪魔する程野暮じゃねぇよ、気にかけてくれるのは嬉しいがね。
ただまぁ、道案内はさせてもらうさ。暇だし、話し相手も欲しかったからよ。
「おや、また会いましたね先生。それに横に居るのは」
「ヨハン! 貴方達もお出かけ中?」
でもってレヴィの店に着くなり、コハク親子と再会ってね。
なんだなんだ? 今日は随分賑やかじゃねぇか。
「やれやれ、僕に啖呵切っておきながら油を売っているとはね。その度胸だけは僕より上じゃないかな」
「そう言うお前こそ同じ様なもんだろ」
「僕はやる事をきちんとやっているよ。凡才の君と違ってね」
だからよぉ、顔合わせる度に喧嘩はやめろってんだ。あーくそめんどくせぇガキだな。
おら喧嘩すんのやめろ。ハワード先生から愛情込めた拳骨プレゼントしてやるから♪
ってな感じで馬鹿二人を鉄拳制裁したら、またしてもお客様の登場だ。
「あ、皆さん、ここで何を?」
「おやまぁ、ブレイズちゃんまで来ちゃってまぁ。なんだよ、今夜はマジでパーティタイムじゃない」
しかも私服で顔ほんのり赤らめて。若干リキュールの匂いもするよブレイズちゃん。
「ははぁん、マスターん所行ったんだな。すっかり酒飲みになっちゃってまぁ」
「あのお店、気に入ったから。オフの時くらい、たまにはいいでしょ? それに困っても、変な腕したおじさんが何とかしてくれるみたいだし」
結構酔っ払ってんなぁ。普段なら絶対言わねぇ事口に出してるよ。
よし、このまま酔いに任せて連れ込みホテルと行きますか。三十発くらいやっとけば確実に孕むだろ。ぐへへ、俺ちゃんスタミナ絶倫ちゃんなのよぉ☆
「確実に悪い事考えてるな、こっちおいでブレイズ、守ってやる」
「顔に出るから分かりやすいのよね、ハワードさん」
「おいこら、人が折角一発ばちこりかまそうとしていたってのに邪魔すんな」
「口に出したら台無しじゃないそれ」
「ありゃあ、こりゃ一本取られたわい」
やっぱ男は黙っていたほうがいいわねぇ。
にしても、楽しいなぁ。
やっぱこいつらと居ると、時間忘れるわ。楽しくて仕方がなくて、嬉しくて笑っちまう。
さっきまで陰鬱な気分で居たのが嘘みてぇだ、気持ちがスゲェ晴れ晴れしてて、気分良すぎて、泣きそうだぜ。
「あい、先生? そいに皆しゃんも、家ん前でなんばしんしゃっとぉ?」
「おうレヴィ! 客連れてきたぜ、こいつらになんか食わせてやれ! 気分いいから奢ってやるよてめぇら!」
「ってハワードさん、あんた金あるの?」
「魔具質に入れりゃあすぐに作れるさ! 遠慮すんなよ!」
「あのねぇ……貴方って人は、もぉ……」
呆れるなよブレイズちゃん、俺らしくていいだろ。いつでも自分を偽らず、そのまま表現すんのが人生楽しく生きるコツだよ。
「そいや、しゅぐに席用意するけんね。えっち、人数は……!?」
「……ん?」
レヴィですら気づいたんだ、俺様が気付かねぇわけねぇだろ。
急に、腹の奥底に響くような気配を感じた。同時に、右腕もビリビリ痺れてきやがる。
このビンビン来るトキメキ、俺のメモリアルが蘇ってくるぜ。魔界での百億年にも及ぶ、ブラッディなエブリデーがな。
「全員伏せろ!」
吼えろ、魔王の右腕! ってな感じに街全体に障壁を展開。同時に空が爆発して、大量の炎を降らしながら隕石が落っこちてきやがった。
隕石は石だけに意志でも持ってんのか、俺様の障壁を避けて郊外に抜けていく。でもって着弾するなり、急激に形を変え始めた。城の形にな。
「……魔王城みてぇだな」
否が応でも思いだす、禍々しい形状の城だ。かつて俺達勇者パーティが挑み、そして一度別れた、因縁の場所。
でもって、魔物の巣窟でもある。城から大量の黒い影、魔物の群れが迫ってきやがった。
空が3、魔物が7って所か? 随分とまぁ、沢山やってくるじゃあないの。密度が違うね。
「せ、先生!? 魔物が、物凄い数ん魔物の来ましゅ!」
「喚くなよ、魔界からわざわざパレード見せにやってきたんだぜ? むしろ笑顔でやんややんやの大喝采を送るべきだろ」
「余裕かましてる場合かよ!? いくら先生でもあんな数、無理だって!」
「無理? 別に楽勝だけど。なんなら先頭に立って踊ってやろうか? 往年のデビットダンスを披露してやるぜ。Yahoo! ってな♪」
折角の御来賓を無下にしちゃあだめだろ。エスプリの利いたジョークかましてお出迎えしなくちゃなぁ。
それに、主賓は別に俺様だけじゃねぇぜ。
「ふふ、相変わらずの頼もしさですね。師匠」
「主役は遅れてやってくるってか? 美味しい所ばっかもってきやがって」
なんも言わなくたって、こいつなら合わせてくれるさ!
「命を奪ってやるよ、雑魚共!」
「消えろ、開ケノ明星!」
遅れてきた馬鹿弟子が指を鳴らすなり、地水火風の力を宿した球が魔物に飛んでいった。水風船みたいに弾けるなり、中に封じられた属性攻撃が魔物共を駆逐し尽す。
でもって俺様が右腕を突き出せば、オーラで作った幻影の腕が伸びていくぅ。こいつで魔物を次々掴んじまえば、あとは魂を吸収してミイラの出来上がりよ。
魔物の大群、一瞬で全滅ってな。……げっぷ……失礼。魔物の魂吸い過ぎた。こりゃ明日、胸やけかねぇ。
「父上……やはり、貴方も……」
「勿論来ていたよ、ネロ。コハクと一緒に仕事で来ていたのだけど、まさかこんな事になるとはね」
ネロ君のつぶやきに合わせて、最後の登場人物カインのログインだ。
「へっ、即興ライブに合わせてくれるとはね。音痴じゃなかったか?」
「コハクに鍛えられましたから。多少は聞かせられる歌が出来るようになりましたよ」
「そいつはいい、あとで聞かせろや」
どうだい読者諸君、頼もしくて仕方ねぇだろ。緊迫感あるはずの展開なのに、緊張感がまるでない。これが俺ら師弟の空気感って奴さ。
『ほぅ、あいさつ程度とは言え、あの大群を一撃で退けるか。大したものだ』
んでもって、魔王城の真上に赤い鎧の幻影が立ち上る。俺らが捜していた愛しい人、unknown actorことUAさんのお出ましだ。
『ベルリックに居るのだろう、勇者パーティの諸君。一足先に宴の支度が出来た物でね、こちらから出向かせてもらったよ』
「ご丁寧にどうも。デコレーションが下品なケーキだから、若干興ざめだがな」
『それは失礼した。だが中のクリームは特別性だ、それで許してほしい』
粋な返答の後で落ちてくる雷。ベルリックのあちこちに堕ちて家をぶっ壊しやがった。
『準備が不十分な状態で、かつての勇者パーティに襲われてはたまらないのでね。支度を前倒しして、宴を始めさせてもらおう。……我が悲願である、魔王の復活を阻止する勇者どもよ。ここで潰えて、二十年前の悪夢を再臨する贄となれ!』
おー、魔王城からまた魔物が溢れ出てきやがった。いつも通りの日常を送っていた街の人間共は大混乱の大慌てだ。
中々、急な展開じゃないの。だが嫌いじゃねぇぜ、こういうサプライズ!
「ヨハン、コハク! ベルリックの連中を一ヶ所に集めとけ」
「コハクなら町の人を守る結界を作れるよね。ヨハンは勇者に要請を出して魔物の討伐に向かわせてくれ」
「いいけど……二人とも」
「行くのね、貴方達だけで」
当たり前だ、なまり切ったてめぇらじゃ足手まといだからな。
「アルコールの具合は大丈夫かいブレイズちゃん、君にも街の防衛に回ってほしいんだが」
「分かってる、あれ見たら酔いは覚めたわよ。来い、ウヴァル、グレモリー!」
おっ、呼びつけるなり剣が飛んできやがった。もうそいつらを飼いならしているようだな、感心感心。
「ネロ達は二人を手伝ってくれ。君達は見習いでも勇者だ、人々を守る力がある。今まで身に着けた事を駆使して、一人でも多くの人達を助けるんだ!」
「わ、分かったけん!」
「先生、カイン様……頑張ってくれよ!」
「へいへい。んで、ネロ? てめぇからはなんもねぇのか?」
流石に一人無言ってのもしまりがねぇからな、発言の機会はやらねぇと。
「……母上は、僕が必ず守ります。だから、父上は役割を果たしてください。……貴方は僕の父親で、平和の象徴、勇者なのですから」
「分かってる、任せておけよ」
ぎこちないが、親子の会話だな。へ、少しだけ俺ちゃんも、やる気になってきたぜ。
久方ぶりの、師弟ツーマンセルだ。年甲斐もなく、燃えてくるな!




