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23話 ハワードさんのプライベート♡

「さて、てめぇで二つ目だ。返してもらうぜ、俺様の金づる……じゃなくて質草をな」

「言い換えた意味ないでしょそれ」


 ブレイズちゃんのナイスツッコミを受けながら俺様、二つ目の魔具を回収っとね。

 バエルって魔物をぶっ殺して作った鎌だ。触れた相手を凍結させる冷気を帯びた武器でな。凍らせながら相手の体を切り刻む、防御を無視して攻撃できる優れものなのよ。


「カインも二つ魔具を回収してるから、あとは一人一つ魔具を回収すればOKか。出来ればあいつより先に二つとも回収しときてぇが」

「どうして?」

「あいつには負けたくねぇ。このままじゃドローだ、なんつーかあいつに負けるのは、むかつく」


 師匠としてあいつにだきゃあ負けるわけにはいかねぇ、俺のプライドに賭けても絶対打ち負かしてやる。


「妙な所で意地張って、楽しそうね。カイン様と勝ち負け競って面白いの?」

「面白ぇよ、相当な。俺とまともに張り合えるのはカインだけ、弟子であると同時にライバルだ。だからこそ勝ち負けには拘りたいのよ」


 あまり声を大にして言いたくねぇから、読者諸君にだけ教えてやる。俺ぁ、カインを内心尊敬している。

 俺に肩並べて、自分の身を粉にして動き回って、有言実行しようとする根性を持つ。こんな奴が弟子なんて、鼻が高いもんよ。


 ま、そんな奴だからこそ、対抗心も湧いちまってな。


 あいつにとっての壁であり続けてぇ、その一心でこっちも必死でな。師匠として超えられねぇよう、勝ち負け競える所じゃ上で居続けてぇんだ。


「魔具もUAも魔王も、全部俺が片付ける。下らんおっさんの片意地だ。笑えるだろ」

「そうね。でもま、私は貴方に世話になりっぱなしだし……応援してあげても、いいわよ」

「おっ、嬉しいねぇ。出来れば応援ついでにサービス願いたいもんだが」

「何よ」

「そーだな。ここはその可愛いお口でフェ」

「死ねぇスタイリッシュ変態男!」


 Wow! 唐突な身喰ラウ蛇ノ毒牙(オーバーロード)やめい! しかも二刀流でって、もう自分の物にしてるのねブレイズちゃん!


「とまぁ、閑話休題として……一旦あいつらと会議したほうがいーかもしんねーな。これだけきちんと魔具を回収できてるんなら、魔王やUAの居所も探れるだろ。残った組み合わせ的に、UAが一度自分の手に収めている可能性も否めねぇしな」

「物凄く強引な話題転換だけど……賛成と言えば賛成ね。なんとしても魔王を倒さないと、後輩達も試験に集中できないし」

「だろ。あいつら、人の心配ばかりで自分の事疎かにしてんじゃねぇってんだよ」


 出来が悪すぎて不安になるぜ、あんにゃろうども。ネロより上の成績取るって意気込んでるくせに、そんなんでどうにかなる相手じゃねぇだろ。

 ったく、馬鹿っつーかなんっつーか……。


「大分今の弟子が可愛くて仕方ないみたいね」

「へっ、誰が。頼んでねぇのに付き纏って、弱いくせに下らねぇ正義感振りかざして、俺なんかの傍に居続ける子犬なんざ大嫌いだよ」


 これ、本当の事だからな。俺の本音だからな。あんな連中に付き合ってる時間なんて本当は作りたくねぇんだぞ。別に? たまたま俺様が空いた隙間時間を狙ってあいつらが来てるだけだし。好き好んであんな連中と俺ちゃんがつるむわけなーいじゃーん。


「こっちもセクハラばっかりで、口を開けば下ネタばかりのおっさんとなんか一緒に居たくないわ。でも……いや、言わないでおく。調子に乗せたら面倒そうだし」

「そーりゃないわよブレイズちゃーん」

「ふんだ。今日の所は解散よ、明日カイン様の所でまた会いましょう。じゃあね」


 あっ、ちょっとぉブレイズちゃーん。先に帰っちゃうなんていけずぅ。


「……小声でもちゃんと聞こえてんぞー」


 去り際に零したろ、「優しい所は評価してもいい(声帯模写)」ってよ。俺ちゃん、地獄耳なのよね。

 別に優しかねぇよ、俺は俺のやりたい事を好き勝手やってるだけだ。

 それ以外に俺を表現する方法を、俺は知らねぇからな。


  ◇◇◇


 明日には、UAの所へ殴り込みをかけられるだろう。って事で今日は壮行会も兼ねて、ビールでも飲んで帰るか。

 と言っても、金がねぇからレヴィの店だがな。店に出せねぇあいつの練習料理なら、週一で食っていいって約束取り付けてあんのよ。これならかかる代金酒代だけだろ。

 せこいと思うなよ、特に18歳未満のガキども。金のねぇ大人ってのは、涙ぐましい努力で節約するもんなのよ。


「いらっしゃい先生! 待ってたとたい!」


 でもって店に入った瞬間熱烈歓迎してくるレヴィ。なんだなんだ? 今日は妙に楽しそうじゃねぇか。


「実は新メニューば開発しまして。ぜひ先生に味見ばっち思っとったんたい」

「そいつは重畳、ただちゃんと試験勉強してんだろうな」

「あう、そいは……そんのぉ……」


 だろうな、勉強したくねぇから掃除するのと同じ理論だ。こいつの場合はそれが料理ってわけね。


「てめぇ理系科目ダメダメだろうが。新メニュー開発すんのはいいが、その間に一問でも数学の問題解いてろ馬鹿」

「あ、あはは……仰る通りたい……」


 ……しょうがねぇなぁ。


「メシ作ったら親に一声かけて俺の席に来い。少し、教えてやる」

「よかと?」

「泣き虫も大分解消されたからな。隣でめそめそしなけりゃ、メシ代がわりに付き合ってやるよ」


 それにどうせ、寮に戻ってもやる事ねぇし。暇つぶしにはなんだろ。

 さて、レヴィの奴何思いついたんだかな。結構料理上手だから、実は楽しみではあるんだ。


「お待たしぇしとった! 鯖ハンバーグ、トマトソースかけたい!」

「鯖だと? ハンバーグにゃ普通肉だが」

「ふっふっふ、騙しゃれたと思っち食べちゃんない、美味しいとよ」


 半信半疑で食ってみたが、確かに美味いな。鯖の脂の旨味がにじみ出て、トマトソースの酸味が上手い事魚臭さを消して爽やかな風味を演出してやがる。これは、ビールに合うわ。


「先生食べっぷりよかから、作りのいのいるけん。うち、勉強道具持っちきましゅね」


 って事で、メシ食いながらレヴィの勉強を見てやる俺様、やっさしー。

 まぁ、なんだかんだ一生懸命な奴だ。指導する側としては、やってて楽しいさ。


 ……前に年齢教えて、「お父しゃんと同い年たい」と言われた時はちょっとグサッときたがな。


「おいレヴィ。俺となんか居て、楽しいか。親父と同じ年齢のおっさんと一緒だぞ」

「楽しかとよ。今までお世話になりよった人ん中で、先生のいっちゃんよか人やから」

「魔王の右腕持った人間によく言うぜ。もし俺が急に襲い掛かったらどうすんだ」

「ありえましぇん。先生は前に、力は使い手次第っち言うてたとたい。正しく使えば善行、私利私欲に走れば悪行って。現に先生は右腕ば、悪か事に使っちまっしぇん。だからうち、先生ば信じてましゅ」

「はー……ダメだなてめぇは。こんなケダモノを信用しちゃダメだって」


 人たらしにも程があんだろ、相手のいい所しか見ねぇ天才だな本当に。

 相手が必ずしもいい人間なわけねぇじゃねぇか。俺みてぇなヤクザもんなんてな、欠点の満漢全席だ。ホイホイ信用してついてくんじゃねーよ。


「……ま、悪い気分はしねーがな」

「先生?」

「ぼさっとすんな。ほらそこ間違えてる、ちゃんと問題読めよ」


 こいつの純粋さに救われている俺が居る、それも確かな事だしな。


  ◇◇◇


 程よく酒も回って、ほろ酔い状態っとくらぁ。

 あの調子で試験大丈夫かねぇ。ま、俺が心配する事じゃねぇんだが。


「あら、ハワードさん。お酒飲んだ帰り?」

「コハク? てめ、どうしてここに。しかも横に居るの」

「こんばんは、先生」


 こいつはレアな組み合わせだ。コハクにネロだと? てめぇ、反抗期じゃねぇのかよ。


「どうしてって、ご挨拶ね。貴方なら分かると思うんだけど」

「あ、そうか。んじゃ、一仕事前の家族団らんか。つかネロ、お袋と一緒に居るとか意外過ぎるんだが」

「別にいいじゃないですか、母さ……母上と歩くくらい」


 今母さん言いかけたろ、ディジェがファザコンならこっちはマザコンかい、この似た者同士が。


「ふふ、この子ってば私が泊ってる宿にわざわざ来てくれたんですよ。暫く会ってないからって。息子にデートに誘われるのも悪くないですね」

「デートじゃないよ! ただ、王都のシズクがどうしてるのか知りたかっただけだし、この街は僕の方が詳しいから、ただ付き添ってるだけで……あの、先生。なんですかその温かい眼差しは」


 可愛い所あんじゃねぇか、シズクってのは妹か?

 親父に対してはきつい態度を取るようだが、お袋と妹は随分大事にしているみてぇだな。


「母上、行きましょう。今の時間帯ならギリギリ雑貨店も開いていますし」

「妹への贈り物でも買うのか」

「それと私のもね。会う度にプレゼントしてくれるの」

「くくっ、仲睦まじくていいねぇ」


 そんなら少し、手ぇ貸してやるか。来いよ二人とも。

 ベルリックには職人街がある。その隅っこの方に、女向けの物を扱っている上等な店があんのさ。

 一見小汚ぇ店構えで二人とも首を傾げているが、まぁ驚いておくれやす。


「おや、ハワード君か。いらっしゃい」


 職人の顔を見て、コハクは察したみてぇだな。こいつは只者じゃねぇって。

 黙って仕事に人生捧げた本物の職人だ。酒場で知り合って以来、時々飲み交わす仲なのさ。


「成程、お客はそちらの少年か。目当ての物は、少女向けの髪飾りと婦人向けの指輪、と言った所かな」

「なぜ、分かったのですか?」

「勘だよ。長い事この仕事をしていると、相手の欲する物が何となくわかる物さ。どれ、ハワード君の知り合いなら少し、サービスしてやるとしよう。好きに見ていきなさい」


 職人街の連中とはほぼほぼ顔見知りだからな。顔クーポンで数割程度は値引きしてくれんのよ。

 んで、ネロが買い物済ませたら、次は雑貨店だ。妹とコハクにハンカチかストールも送りてぇそうでな。ここでも俺ちゃん、いい所知ってんのよ。


「あらハワードちゃん! いらっしゃーい」

「やっほーモモたーん! どうだいこの後ホテルで一発」

「ノーセンキュー☆」


 入店するなり右ストレート、頂きましたー♪ 顔めり込んで前が見えねぇ。

 ちなみにこの雑貨店は、織物職人のねーちゃんが経営しているのさ。前にナンパした縁で知り合ってね。美人で若いのに、そこらの職人よかいい腕してんのよ。


「驚きました、こんな、上質な品物は初めて見ます」

「ふふ、褒めてくれてありがと。お母様への贈り物? ならハワードちゃんの知り合いって事で、ちょこっとサービスしてあげちゃおっかな」


 って事で、上等なストールとハンカチを割引で購入よっと。

 遊び人ってのは人脈が増えやすいもんさ。ナンパしたり酒飲みに行ったりナンパしたりで知り合い増えちまってよ、今やベルリックは俺色に染まり切ってんのだ。


 読者諸君もコネは作っとけよー。まぁ中には、それ悪用して儲けようとするお笑い芸人もいるようだがな?


「ありがとうございます、先生。おかげで母さ……母上と妹への贈り物が決まりました」

「無理して母上言うなよ、メッキがはがれてるぜ。母親想いのいい息子じゃねぇか、コハク」

「でしょう、自慢の息子なんです。小さい頃なんかは家事も手伝ってくれたり、シズクの面倒も積極的に見てくれたり。シズクもネロにはよく懐いているんです」


 ま、そうだろうな。見ていて思ったよ、心根自体は優しい奴だとな。

 ……カインの奴、恐喝の事はコハクに伝えてねぇのか。ま、別にいいんだが。


「お袋と妹、随分大事にしているみてぇだな」


「それは、当然です。何しろ父は家族をほったらかしにしてますからね、それなら長男である僕がきちんと面倒みないとダメでしょう。それに妹は母上に似て麗しく育ちましたからね。人を疑わない純真で天使のような女ですから、悪い虫がついていないか僕が見ておかないとならないんです。もし変な虫が近寄ってきたら……コノ剣デ殺虫シナクテハ」


 目がマジだこいつ。ロケット眺めて目を細めてる辺り、かなり拗らせてんな。


「あら? ついさっきまで私に抱き着いて甘えていた子が何言ってるのかしら」

「だから母さん!」

「聞いてくださいよハワードさん、この子ってば毎回私に会う度抱き着いて胸に顔埋めてくるんですよ。もう可愛くてゾクゾクしちゃって……この間なんか膝枕を要求してきて」

「だーっだーっ! ち、違います! 先生、僕は決してそんな恥ずかしい事なんかしていませんよ!」


 はっはっは! いいんじゃねぇか、母親には甘えておけ! 特に美人のかーちゃんならなおさらだ! 中二病でマザコンでシスコンでイキりで無駄にロマンチストとか彼氏にしたくない要素の福袋だけどな。

 ……俺のお袋ってのはどんな顔してたんだかな。ま、ろくでもねぇってだけは、確かだろうけどよ。


「ただ、少し見直したぜ。力求めてる理由もちったぁ分かるかな。ってわけで、俺からちょっとアドバイスだ」

「アドバイス、ですか」

「おう。……親父はいくらでもぶちのめしていい、だがお袋と妹だけは、泣かすんじゃねぇ。それだけだ」


 男同士なら、譲れねぇもんがあるからぶつかり合っていい。だが、女家族はそうはいかねぇよ。


「特にお袋は大事にしろ。腹と股座痛めてテメェを産んでくれたんだ、その恩に背くような真似はすんじゃねぇ。今のまま、大事にすんだぞ」


 ちょっと、らしくねぇ事言っちまったな。

 ただ、学園であんだけ小生意気なだけのクソガキが存外家族想いな奴だった。それが知れただけでも、十分な収穫だったかな。

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