22話 粗末なアロンダイト(隠語)
「ま、始めた頃に比べたら上々か」
いつも通り、放課後にレヴィとディジェの特訓をしている俺様。今回はブレイズちゃんも手伝ってくれてるよ。
後輩と手合わせすれば見えてくる物がある、そんな事を言ってたな。
でもって、その後輩どもは相変わらず俺にゲロ吐かされている。ただ、初期に比べれば大分マシになってきたぜ。しかも、俺様の事は口外していないときたもんだ。いい奴らだよ。
レヴィは泣き虫じゃなくなったし、ディジェも文句を言わなくなった。何度も俺に負けてるが、その度に自分で考えて工夫してきやがる。見てて楽しくなるわな。
ただ、今日はちょっと感心しねぇ。
「いまいち集中しきれてねぇみてぇだが。やる気ねぇなら帰れ」
「いや、昨日あんな事があったんじゃ、どうにも気が散るよ」
「あー、UAの事か」
こいつらには、魔王の事は伏せてある。それでも、勘のいい奴らだからな。俺らがデカいヤマに挑もうとしてんのは気付かれてるみてぇだ。
「お前らが心配しようがどうしようもねぇだろ、それにこの大賢者様が事に当たろうとしているんだ。今は自分らの事に集中しろ、演習試験、落ちちまうぞ」
どうもこの学園の試験には、対人形式の模擬戦も含まれているそうだ。
純粋に勝ち負けを競うもんじゃなくて、どう立ち回り、戦うのかを見るもんのようだが、こう気が散ってる有様じゃ結果は目に見えてるぜ。
「先生も心配やし、UAも気になるし、試験も不安やし……頭ん中の目ぼっことよ」
「集中できなくなるのは分かるけど……困ったわね。これじゃ訓練にならないわ」
はー……このアホンダラ共。てめぇの頭上の蠅も払えねぇくせに生意気な事考えてんじゃねぇよ。
試験まではあと二週間って所か。……仕方ねぇ、こいつらを試験に集中させる、とっておきを伝授してやる。
「そんじゃ、てめぇらが他の事考えられねぇようにしてやる。教えてやるよ、必殺技をな」
『必殺技!?』
急に態度変えやがって。伝説の大賢者ハワード様が教える技だ、きちんと頭に叩き込めよ。
「まずディジェ。てめぇにこれを言うのはあれなんだが、やっぱてめぇはヨハンの息子だ。ヘカトンケイルと真正面からぶつかっても持ちこたえる耐久性、天性のタンクの才能がある。だがタンク役は得てして火力が不足する。そいつは勿論痛感しているだろ」
「うん、それを補うのにハルバードを使ってるけど、どうにもね……」
「てめぇに教えるのはかつて、ヨハンが使っていた技でもある。まさかこんな形で伝授するとは思わなかったが」
「先生、親父の技が使えるのか?」
驚いているようだが、俺を誰だとおもってやがる。天才大賢者、ハワード様だぞ。
カインの技ならいざ知らず、コハクとヨハンの魔法や技くらいならラーニングできらぁ。
「自分の長所を活かしつつ火力を上げる技、難易度はたけぇがあいつは使いこなした。それを息子のてめぇが使えないわけがねぇ。そう信じて教えてやるから、覚悟しろ。次レヴィ!」
「は、はいっ!」
「随分熱心に握力鍛えてたようだな、昨日見せて貰ったぜ。これなら、あれを教えてやれる。元々足腰は出来上がっていた、上半身の仕込みも十分だろう」
レヴィに教えんのは、教団で使っていた殺人技。元勇者パーティである俺様の必殺技だ。
ぶっちゃけ、学生が使う物じゃねぇ。だがこいつなら、正しく使いこなすだろう。技なんざ使い手次第で意味が変わるしな。
伝統武術を使う関係上、体重移動や体捌きと言ったもんはきちんと習得できている。トンファーをより自在に操れるようになったのなら、形にはなるはずだ。
「まずは一回、技を見せてやる。そしてそれを受けてみろ。自分が相手に向ける武器がどれほどの物か、そして相手に向ける技がどんな意味を持つか。てめぇ自身で味わい、理解しろ」
俺の技を喰らった後、二人は暫く動けなくなったよ。
だが、目の前にぶら下げられたでけぇ餌には、見事に食いついてくれたようだ。
◇◇◇
一旦二人を帰して、学園の仕事を済ませたら、今度は賢者としての仕事だ。
ブレイズちゃんと夜の街に繰り出して、魔具漁りだ。コハクが地図に魔具の居場所をマーキングしてくれたからな、どこに目当てのもんがあるのかすぐに分かる。
って事で、行きますか。魔具回収に。
「さっきの、勇者パーティの技……凄かったわね」
「俺とヨハンが使った技だからな。学生に伝授するには過剰火力だが、二人の目的を考えりゃ、派手な力の演出は必要だろう」
あいつらの目的は、二人で学年トップの成績取って、クラスの連中を引っ張る事だ。
テストの成績も勿論だが、演習試験で目が覚めるような技を見せれば、必ず覇気のねぇ連中を目覚めさせるだろうさ。
「ブレイズちゃんも練習相手あんがとさん、あいつらにゃいい刺激になったろうよ。ご褒美に君にもいいもん教えてやろうか?」
「卑猥な事じゃなければ。何を教えてくれるの?」
「カインが使ってた剣技だ、唯一ラーニング出来たもんでね。師匠としては言いたくねぇが、剣術に関しちゃあいつに一日の長がある。単純な物だが、それでも習得できれば大きな武器になるはずだぜ」
「カイン様の剣術を……でも貴方、本当に何でも出来るのね」
「そりゃそうだ。天才だからな」
道中手ほどきしながら向かってると、見えてきたぜ。目的の物を持った魔物がよ。
『待っていたぞ賢者よ』
『同じく待ち望んだぞ勇者よ』
俺らを見るなり、そいつらは交互に台詞を言い始める。各々、白と黒の鎧を着こんだ騎士風の、兄弟魔物だ。
白が兄のメフィスト、黒が弟のフェレス。ぶっちゃけ言うとクソめんどくせぇ、俺様の一番大っ嫌いな魔物でよ。
『兄者、賢者とはどちらの事を申した』
『賢者とは男の方を申した。弟、勇者とはどちらの事を申した』
『勇者とは女の方を申した。勇者はさほど強くは思えんが、あれが本当に勇者なのか兄者』
『この世界では勇者なのだろう。賢者の方は魔王の右腕を持つようだが、あれは人間か弟』
『一応人間のようだが、あれほど逸した力を持っては最早人間ではあるまい兄者』
『左様か。しかしそれは戦いがいがあるという物だ弟』
『うむ。魔界にて我らが同胞を何億と殺した男、仇は取らねばならぬ兄者。してどう戦う』
『うぬ、敵は只者ではない。無策で戦うのは得策ではなかろう弟』
『では作戦を立てるべきか。しかし数は互角、これではどう戦えば悩むな兄者』
『そう考える必要はない。片側はさほど強くはない、それに我らにはこの魔具が』
「うるっせぇよ黙れてめぇら!」
な、鬱陶しいだろこいつら。どういう思考回路してるか知らねぇが、いちいち発言が薄っぺらいくせに回りくどいんだよ。
魔界じゃどう繁殖してんだか、こんなのが群生してんだよ、クローンかってくらいにな。四方八方から漫才みてぇな押し問答繰り返すもんだからストレスで殺されそうになったわ。
「頭痛くなる魔物ね……あれでも上位なの?」
「あれでも上位なんだよ……俺ぁ、俺よりおしゃべりな奴は大嫌いなんだ!」
『兄者よ、おしゃべりな奴とは我らの事か?』
『そのようだ弟よ。しかし我らは決しておしゃべりでは』
「No,Talking!」
ガチでうざってぇから静かにしろ!
こいつらと戦ってちゃ文章の尺も取りすぎちまう、悪いが速攻惨殺させてもらうぜ読者諸君。
「おらてめぇら、とっとと武器構えてかかってこいや!」
『よかろう、我らが主より下賜されたこの魔具の力』
『存分に味わうがよい、人間よ!』
いや、もとをただせば俺の物だからなそれ。とっとと取り返すぞ。
魔王の右腕を文字通り伸ばし、直接魔具を奪い取る。魔王の力、伸縮で右腕のリーチを自在に変える事が出来るのよ。
こいつらの持っていた魔具は剣、二本一組の双剣だ。銘はウヴァルとグレモリー、ぶっ殺した魔王の名前からとってある。
取り回しやすい片刃片手剣、こいつならブレイズちゃんも使えるだろ。
「これやるよ、そのナマクラよか威力あるぜ。さっき教えた技なら、一撃で倒せる」
「ありがと、それじゃ、やってみるね。カイン様の剣技!」
剣を逆手に持って、刀身に魔力を込める。そんな単純な技だから真似できたのさ。
『貴様ら、返せ! 我らが誇り高き武器を!』
『それは我らが主より賜りし』
「Shut Up!」
剣に込めた魔力を同時に、思いっきりぶっ放してやる! 赤と青の斬撃が直撃するなり、哀れメフィストフェレスは跡形もなく吹っ飛びましたとさ!
「ふー……全くうるせぇ連中だったぜ。それよりどうだいブレイズちゃん、この技の具合は」
これがカインの使ってた技の一つ。魔力を込めて斬撃を飛ばす物だ。
俺の世界じゃ、遠距離攻撃は詠唱が必要な魔法しかない。だがこいつは、無詠唱で使える遠距離攻撃だ。近距離主体の剣士にとっては相当便利な技なのよ。
構造自体は単純な物だが、それだけに技量が問われる物だ。何しろ魔力を武器に込めるには、相当な集中力が必要だからな。
込める魔力が少なければ斬撃は飛ばねぇし、かといって多すぎると斬撃を形に出来ず、飛ばした瞬間四散する。そして適量込めたとしても、今度は威力の高さで使用者がぶっ飛ぶ。
使いこなすには瞬時に適切なエナジーバランスを判断する戦闘勘と、反動に耐える体力を身に着けなくちゃならねぇ。作りがシンプルな技ほど、逆に使い勝手が悪くなるもんなのさ。
名前は、身喰ラウ蛇ノ毒牙って言うらしい。……うん、皆まで言うな読者諸君。あいつにその手のセンスはねぇんだ。ある意味あるっちゃあるんだが……。
「身喰ラウ蛇ノ毒牙、使った手が痺れてる。これをカイン様は、連発してたの?」
「ああ。今回は制止して使ったが、あいつは動き回りながら飛び道具感覚で使っていたよ。遠近共に隙のねぇ、戦士としては完成された奴だ。間違いなく、俺と肩並べて戦える唯一の人間だろうな」
「そんな人を目標にするなんてね。差を体感すればするほど、どれだけ無謀な挑戦をしようとしているのか痛感しちゃう」
「じゃ、諦めるか?」
「ううん、あの人のスタイルは私じゃ使えないから。でも、私だけのスタイルなら、カイン様でも使えない。そうでしょう」
「正解だ」
人生ってのは、誰の物でもねぇ。自分だけの物だ。
だから、自己流で行け。誰かの人生模倣するなんて不可能なんだからな。
「さっきも言った通り、それやるよ。グレモリーもな。付き合ってくれたご褒美だ。勿論ご希望とあらばもう一つのご褒美、俺のとっておきの名刀アロンダイトを君の柔らかな鞘に一発差し込んであげるけど」
「魔具に関してはありがとう、でもそっちの粗末な魔具はいっそ切り落とした方がよさそうねぇ!」
あらー、冗談(と書いてマジ)が通じない子よねー! お願いだからウヴァルとグレモリー振り回さないで、それ食らったら俺様でも危ないからー!
てなわけで今回は終わり! じゃあな読者諸君、俺ちゃんこの子から逃げないと自慢のアロンダイト去勢されちゃうのー!




