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21話 ハードボイルドとはこういう事を指すのである。

「さて、そんじゃ情報交換会を始めましょうかね」


 学園の理事長室にて、俺ら元勇者パーティとブレイズちゃんによる会議の始まりだ。

 ヘカトンケイルと、明らかに黒幕なUAのお陰で、色々現状が浮かび上がってきたぜ。


「俺の魔具には強力なプロテクトをかけてある、そんでもってヘカトンケイルの奴が零した話じゃ、魔王はまだまだ弱っているみてぇだ。にもかかわらずそんな芸当が出来たって事は、魔王は俺様と同じ波長の魔力を持っているとみていいだろう」


 これで俺が探知できなかった理由も分かったぜ。俺様の魔力を解析して、探知できないよう結界でも身に纏ってんだろう。ただ、カインの探知力を甘く見ている辺りはがばがばだがな。


「そして師匠の魔力を持っている事で、貴方が魔界で倒した魔王の一人である事も特定できますね。師匠との戦いで力を失っていたから、人間界へ現出できてしまったのでしょう」

「それに魔力を保持できてるから、多分ドレインの使い手だろうな。ハワードさん、心当たりない?」

「つってもなぁ、ドレイン使う魔王なんざごまんといやがるんだ。そいつら手繰るのはちょーっと骨だぜ。つか、雑魚の顔と名前なんか覚えちゃねぇしよ」

「師匠らしい。でも魔王の正体はこの際どうでもいいよ、過程がどうあれ、求める結果は変わらない」

「魔王の殲滅、でしょ。そのために魔王が力を取り戻すのを、阻止しなくちゃいけないわね」

「なら行動指針としては、魔具の回収って所か。魔王さんは俺様の魔具に魔力を蓄えて、力を取り戻そうって腹らしいからな。だが具体的にどうすんだ」


「ふふ、それに関してはコハクに任せてください。魔具の欠片を手に入れましたからね」

「さっきは足引っ張っちゃったから、今度は汚名挽回しないと」

「挽回してどーする、汚名は返上するもんだ」


 古典的なボケやらかすな。本当に大丈夫かよコハクぅ……。

 てな心配していたが、魔具の欠片に魔法をかけるなり、地図上に光のマーカーが浮かび上がった。こいつは、魔具の位置か。


「UAの残照はないけど、ハワードさんの魔力はわずかに残っていたわ。それを辿れば、奪われた魔具の位置もこうして特定できるってわけ」

「成程な。俺が質に出した魔具は七つ、マーカーの数は六つ、ぴったりだ」

「戦闘は完全に鈍っちゃってるけど、仕事の補助で魔法は使っているの。だからサポートに関しては、昔より洗練しているわよ」


 へっ、方向性を変えて役に立つか。転んでもただでは起きねぇ女だぜ。


「魔具を集めれば、必ずUAか魔王の手掛かりがつかめる。コハクならそれを元にして、敵の位置を逆探知する事が出来ます」

「力が戻っていない今なら、魔王を安全に対処する事が出来るわ。何としても魔王の復活は、阻止しなくちゃならない」

「これで目的も行動もはっきりしたね。僕ら四人が揃っている今なら、恐い物は何もないな。へへ、希望が見えてきたよ、ハワードさん」

「……ああ、そうだな」


 一応俺も空気は読むんでね、懸念は黙っておくか。

 読者諸君は疑問に思わねぇかい、あまりにも都合良すぎやしねぇかってな。


 UAは馬鹿じゃねぇ、直接対峙した俺様が言うんだから間違いねぇだろ。そんな奴がどうして、こうまで自分が不利になるような情報をむざむざ渡したんだ?


 俺達は仮にも、魔王をぶっ倒した勇者パーティだ。そんな奴らに僅かでも情報渡せば、ここまで話が進むのは目に見えているだろう。

 読者諸君も心しておけよ、都合がよい時ほど、裏を疑えってな。


 てめぇらの世界にもあるんだろ? 妙に都合が良すぎる美味い話って奴が。そんな話ほど大抵は詐欺の確率がたけぇんだ。


 こいつらは悪い意味でも変わってねぇ、都合が良い時ほど、それに向かって進みすぎちまう。ま、そのブレーキ役として俺様が居たわけなんだがね。

 俺だけは、徹底的に警戒しておくか。すんなり事が済めば、身構え過ぎたねてへっ☆って笑い話になるだけだしよ。


 ……それに、俺の探知を掻い潜る方法は、もう一つある。


 ぶっちゃけあまりにも有り得なさすぎる可能性だから、読者諸君にも伝えられねぇ。だが、僅かな危険性であっても、頭の片隅には残しとかねぇと。


「魔具の回収に関しては、俺と師匠を中心に、腕利きの勇者に協力してもらって行いましょう。勿論ブレイズ、君の活躍にも期待しているよ」

「……あの、私なんかが、本当に役に立つのでしょうか」


 ずっと黙っていたから、何となくそうかとは思っていたが、やっぱ自信無くしていたか。


「私は、ヘカトンケイルは勿論、UAと対峙した時も、何も出来ませんでした。……勇者ランキング、1位にも関わらず。どれだけ私達世代が強いと言っても、皆さんの足元には、到底及びません。この人にも、何度も助けられて……自分が、情けないです」


 ま、いくら子供世代が強いと言っても、比較対象が俺とカインじゃかわいそうだぜ。

 けどよ、責任感の塊みてぇな子だしな。ランキング1位も自分なりに頑張って上り詰めたようだし。


「はぁ……カイン、今すぐ給料前借させてくれ。一割程度でいい」

「いいですよ、ちょっとだけ色付けてさしあげます」


 へ、やっぱ空気読めるねぇ。ほれ行くよブレイズちゃん。


「え、ちょっと? どこへ連れていこうっていうの? ちょっと、ねぇ?」


 うるせぇ、たまには悪い事でもしてみやがれってんだ。


  ◇◇◇


 ベルリックの酒場はほぼ網羅していてね、こーいうちょっと落ち込んだ女の子を連れていくんなら、騒がしい所より静かな所がいいだろうな。

 あん? なんだよ読者諸君。金がねぇのにどうして酒場に行ってんだって?


 いやー、どこぞの心優しい鼠小僧さんのおかげかしんねぇけど、ある程度ツケが利くようになってねぇ。ブレイズちゃんの一件以来、後払いで酒が飲める立場になったってわけ♪


「ねぇ、こんな所に連れ込んで、いやらしい事するつもり?」

「それもいいねぇ。どうだい今夜一発」

「帰る!」

「あ、そ。んじゃあそこに居る麗しい彼女、俺様とちょっとつきあわなぁい?」


 ブレイズちゃんが駄目でも女はそこらに居るからな、現地調達でキャストを確保すりゃいいだけの事よ♡

 まーナンパなんてあんま成功しねーけど、数うちゃその内当たんだろ!


「って何みっともない真似してんの!? 私まで変な目で見られるからやめてよね!」

「だったらブレイズちゃんが来ればいいんじゃなぁい? そうすりゃ、俺様に食べられちゃう女の子を減らせるよん♪」

「ぐっ……本当に卑怯と言うか卑劣と言うか……! 分かったわよ! この女の敵の犠牲者が出る前に私が対処してあげるわよ!」


 挑発に弱いねぇ。こっちもからかいがいがあるってもんよ。てなわけで、目当てのバーに突撃!


「おや、これは愉快な鼠小僧様か。おっと、あまりおおっぴらにしてはいけないんだったね」


 俺様が来たのは穴倉みてぇなバーだ。マスターは白髪の紳士でよ、結構話の通じるおっさんだ。

 こいつも鼠小僧様が救ってくれた奴の一人でなぁ、悪徳金融に貸し作って困ってたらしいぜ。


「マスター、いつもの。ついでにこの子に合ったモン作ってくれ」

「ほぉ……勇者ランキング1位の。これはいい、うちの店に箔が付くって物さ」


 ま、当の本人は初めてくる酒場に戸惑っているようだがね。キョロキョロしてちゃおのぼりさん感が強いぜ。


「こんな、綺麗な所に連れてこれるのね」

「一応俺様、空気は読むんだよ。店の雰囲気はどうだい?」

「ふー、ん……悪く、ないかな」


 胸に手を当てちゃって、ドキドキした姿も可愛いねぇ。


「さ、どうぞ。ハワード君にはキール、そして今日のブレイズさんには、ベルモントがいいだろう」

「あ、ありがとう、ございます……?」


 へへ、来た来た。俺の好きなカクテルだ。


「……今日の?」

「カクテル言葉ってご存知かい、ブレイズちゃん」


 読者諸君も覚えておくといいぜ、カクテルの名前には花言葉のように意味を持っているんだ。

 その意味を理解した上で飲むと、心に染み入るもんがある。ひと齧りでもいいから覚えておきな。


「マスターは人間観察のプロだ。初対面だろうと心情を掴んで、シーンに合わせた酒を提供してくれるのよ」

「そう、なんだ。マスターさん、ベルモントの意味は?」

「優しい慰め。落ち込んだ心を包み込む、包容力のあるカクテルです」


 ナイスマスター。でもってこれ以上余計な事を言わない、後は俺がどうにかしろって事だ。

 いいバーテンは気配り上手。分かっているぜ、ここのマスターは。


「……凄いな、本当に人の心を読んでいるみたい」

「それがプロってもんさ。アルコールの経験は?」

「初めてなの。悪い事してるみたいで、ちょっと緊張する」

「今くらい悪い子になっちまいな。酒は大人の心を豊かにする、魔法の水だ」

「じゃあ、んっ……生クリームが入ってるの? 喉の奥が少し熱くなるけど、飲みやすい」

「ジンがベースだからな。ブレイズちゃんに合わせて控えているようだが、初アルコールにゃ刺激が強いか」

「ううん、むしろ好きかも」


 ジンを気に入るか。将来はいい酒飲みになりそうだ。


「お酒感が強いのに、安心する。本当に、優しく慰められてるみたい。……なんだか、気持ちが落ち着くな」

「まだ引きずっているかい、さっきの事」


「少し、ううん、かなりかな。このところ、醜態ばっかり晒してるから。母さんや妹は結局、貴方に救われてしまった。勇者なのに、貴方に何度も助けられた。そんな自分が情けなくて、嫌になっちゃう。……まだ勇者って職業が設立されて、日が浅いのは分かるの。でも、やっぱり全体的なレベルは低すぎる。カイン様はあんなに強いのに、こんな有様じゃ、私……」


「カインとブレイズちゃん、二人の間にどうして差があるか分かるかい?」

「才能が違うから、でしょう?」

「カインに謝れ、その発言はブレイズちゃんでも許せねぇ」


 あいつは確かに才能があった。だがそいつで済むような、安っぽい人生を歩んでねぇよ。


「カインが強いのは、ブレイズちゃんより遥かに多くの努力を積み重ねたからに他ならねぇ。師匠である俺が断言する、あいつは人百倍の努力で勇者になった男だ」

「カイン様の修行時代、興味あるな」


「壮絶だぞ。俺に一発当てるまで眠らせなかったり、四六時中戦い続けて何度もゲロ吐かせたり……並の人間なら死ぬような修行をさせたもんだ」


「殺人的すぎる……!」

「だろ。だが逆に言えば、それだけの事をこなしたからこそ、あいつは強くなった。ブレイズちゃん達は、平和な学校で普通に鍛えただけに過ぎない。積み重ねた土台が違うのさ」

「…………」


「だからと言って、君に才能がないとは言わねぇよ。むしろカインよりも優れている。磨き方をちょっと間違えただけだ」

「じゃあ、どうすれば?」


「悩んで、考えるんだ。剣術に自信がないなら、自信が付くまで素振りする。知識に自信がねぇなら、納得するまで本を読む。ちょっとした事を変えながら、少しずつ力をつける。遠回りかもしれねぇが、強くなるってのはそういう事でもある。そいつを君の後輩が、実践してるだろ」


 自分の不甲斐なさを才能がないで片付けるのは、簡単さ。だがそいつは、自分の成長を止める呪いでしかねぇ。

 不甲斐ないなら、それを埋める工夫をすべきだ。弱いと思うなら、それを補う方法を考えるべきだ。何も思いつかねぇなら、考えながら足搔くべきだ。ディジェとレヴィが、分かりやすい例だよな。


「行き詰まりを感じたら、俺みたいな奴に頼れ。君はまだ二十歳だ、十分な伸びしろがある。そいつを無駄にしちまったら、勿体ねぇよ」

「……ずっと思ってたけど、世話焼きよね、貴方って。なんでそんなに面倒見がいいの?」

「そいつは、このカクテルが教えてくれるよ」


 キールのカクテル言葉、読者諸君はお分かりかね?


「こいつの意味は、最高の巡り合いだ。情熱的な言葉だろ」

「うん……」


「俺はガキの頃から、独りで生きてきた。だが賢者になって、カインと出会って、あの二人と出会って……俺は独りじゃなくなった。喉から手が出る程渇望していた物を、手に出来たのさ」


 下らねぇ事で喧嘩して、本音をぶちまけ合って、時には助け合って……浮浪児の頃、虚しい空を見上げながら、俺はずっと欲しがっていたんだ。そんな、当たり前の事が出来る家族をな。

 今の俺は、全部を手にしている。仲間っつー、最高の巡り合いのおかげでな。その中には読書諸君(君たち)も含まれているんだぜ。


「こいつを飲む度、身に染みるんだ。俺にとって、関係を持った連中全員が大事な家族。この右腕で何としても守らにゃなんねぇ宝物だとな。それは君も例外じゃねぇ。キールで得た絆を俺は、手放すつもりはない。守ると決めたモンは、どんな代償を払っても抱え込んでやるさ。何しろ俺様は、世界で一番欲張りな男だからな」


「ふふ、言いえて妙ね」

「だろ。だから、辛い事があったらいつでも頼りな。小汚ぇ男だが、悲しむ女に貸す胸くらいは、持ち合わせているよ」

「……ありがとう。なら、もう一杯、甘えていい?」

「どうぞ。マスター!」

「そう来ると思いましたよ。どうぞ、ダイキリです」


 くくっ、やっぱり小粋な事をしてくれるねぇ。ダイキリがどんな意味か、読者諸君は分かるかい。


 「希望」、だよ。


 再出発を図ろうとする若者に、乾杯! ってな。

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