19話 期待と現実は違う。
「レヴィ! なんでてめぇまで着いて来てんだ!」
ブレイズちゃんとコハクに続いて、なぜかレヴィまで着いて来てやがる。
真面目系OLと人妻の背徳ハーレム形成してんのに、一人場違いすぎんだろ。そもそもてめぇが来て何が出来んだ。
「ば、ばってん、しゃっきん話ば聞いたら、黙っちられまっしぇんちゃ! おんしゃんやろ、ディジェ君!」
その通り、上級の魔物が居る場所に、なぜかディジェが居やがるんだ。
確か前に、日課で郊外をロードワークしてるとか聞いた事がある。大方その道中で鉢合わせちまったんだろう。
「今回ばかりは、私もこの人に賛成よ。レヴィさん、貴方は帰りなさい!」
「友達の危なかんに、放っちおけまっしぇん! ディジェ君、うちん最初ん友達だから……大事にしたばい! だから……反対しゃれてもうちは行きましゅ!」
「けど……」
「そこまでだブレイズちゃん。そーいう事なら足手まとい上等、来な!」
変に突っぱねたら余計な事すんぜ、なら俺達の傍にいた方が安全だ。
「中々いいガッツだ、褒めてやるよレヴィ。でもって、到着だ」
案の定、ディジェの奴が一人で立ち向かってやがった。
「うおおおっ!」
ハルバードを振り回して、自分よか数倍あるでけぇ魔物相手に善戦してやがる。俺様が鍛えた甲斐、あったみてぇだな。
ただ、ちょっと相手が悪すぎるか。
黒い毛を生やした、丸いフォルムのゴリラみてぇな奴だ。見るからにパワータイプの上級の魔物、ヘカトンケイルだな。
『人間のくせにやるな、小僧! まさか人間界にこんな殴りがいのある小童が居るとはおもわなんだ!』
「ちっくしょう! なんだよこいつ、頭から突っ込んでるだけなのに、強すぎる!」
たりめーだ、ヘカトンケイルは物理方面にステ極振りした、ゴリゴリのインファイターだ。並の人間じゃ真正面からのぶつかり合いで潰されるのがオチだぜ。
だってのに、正面から殴り合って生き延びてるたぁ、感心感心。
『さぁ、もっと力比べをしよう。俺のパワーが魔界最強だと証明するために! そして魔具は戦えば戦う程強くなる! あの方へ捧げるために、さぁ、さぁ! 贄となれ強き小童よ!』
「簡単にやられてたまるか、俺は……ぐあっ!?」
あ、殴られて吹っ飛ばされた。こりゃまずいな。
「ディジェ君っ!」
って、レヴィ。俺様よか早くヘカトンケイルに飛び出しやがって。
トンファー握って、魔物の打ち下ろしの右にぶつける。そしたらなんと、見事に受け止めたじゃないの。
あいつ、サボらずちゃんと握力鍛えてたんだな。
「はよ、逃げて……長く、持たなか!」
「レヴィ!? 先生たちも、どうして!?」
「話は後だ、頼むぜコハク!」
「任せて!」
さっすがコハク、もう詠唱を終わらせてやがったか。
テレポートの魔法で二人を連れ戻し、見事に救出する。場数踏んでるだけあるぜ、行動が早くて的確だ。
「大丈夫、ディジェ君、レヴィさん! あんな無茶しちゃだめでしょ!」
「けど……あんな化け物が街に来たら、どれだけの被害が出るか。助けを待ってたら、手遅れになる! 俺は卵でも勇者だ、守れる物は、守らなきゃならないんだよ!」
熱血漢だねぇ、んなくだらねぇ理由で無茶したわけか。
卵なら卵らしく孵卵器で大人しくしてろ、無謀な無茶でスクランブルエッグになった所で、誰も食いやしねぇぜ。
「怪我してるみてぇだし、コハク、治療してやれ。ブレイズちゃんはその間、こいつら守っててちょうだい。ヘカトンケイルは、俺様が特別に遊んでやる」
「ハワードさん、やりすぎないよう気を付けてね」
「そいつぁ無理だな、何しろ今ワクワクしてっからよ」
ヘカトンケイルから、妙なオーラが漂ってやがる。俺様の作った魔具でブーストされて、格段に強くなっている証拠だ。
久しぶりに遊び相手になりそうな奴が居るんだ、もうニヤニヤが止まんなくて止まんなくて♪
『貴様……ほぉ、その右腕を持つという事は、かの有名なハワード・ロックか』
「せいかーい。俺の事を知っているとは、ちゃんとお勉強しているようで感心感心」
『勿論だ。長らく魔界から姿を消していたようだが、成程、人間界へ戻っていたわけだな』
「そゆこと。図らずも懐かしき故郷への片道切符をタダで手に入れちまってね」
『それは重畳。誰しも故郷は恋しい物、俺も時折魔界が恋しくなる。よかったな、人間界へ戻る事が出来て』
「そいつはどうも、ごつい見た目に反して意外と紳士的だな」
『魔物は見た目に寄らぬというだけよ。だが俺は、あのお方に忠誠を誓い人間界へ馳せ参じた。敵対するのであれば、情けや問答をする気はない』
「むしろ望むところよ。お前、強いだろ? 俺様特製の魔具で強化されてるみたいだし」
『ほぉ、この魔具は、貴様が作った物か』
おっ、オーラが強くなった。てか魔具見せねぇのかよ。
『生憎俺には使えんが、ブースターとして活用させてもらっている。その礼として、全身全霊を持って相手させてもらおう! わが主が認めた、かの高名な大賢者と戦えるとは、光栄の極みだ!』
「へへ、武人気質とは感心だな。御託は終わりだ、Come,on!」
『応!』
ガード固めたピーカブースタイルで突進してきたか。魔物のくせして一級品のダッシュだぜ。
でもって、でかい図体から繰り出される右フック。さて、どんなもんか。
『むぅん!』
「あだっ」
うおっ、一発で体ぶっ飛んじまった!
しかも追撃が早ぇ、俺の背後に回ってアッパーかましてきやがる。空へと殴り飛ばされる俺様、打ち上げ花火の気分。
『むぅおおおおっ!』
でもって空気を蹴って、自在に空中移動をしてくるな。全方位からオールレンジ攻撃するとは、存外実力のある魔物みてぇだぜ。あ、今日満月か。
『せいやあああっ!』
トドメと言わんばかりの打ち下ろしの右。体重乗った一発受けて、俺様撃墜! ……やべ、そういや明日の朝飯買ってなかったな。
あん? ヘカトンケイルはどうだって?
うーん、ブーストされてるだけあって、それなりに強いな。けどさぁ……。
「……こんなもん?」
『何?』
「いや、別に気遣いしなくていいんだぜ? これ準備運動なんだろ? 俺様の魔具でブーストされてんだから、もっとやれるだろ?(´・ω・`)」
『……! い、いいだろう! これから見せるのが全力だ! ぬおおおおっ!』
健気にパンチ連打してくるけど……えー……俺の魔具使ってこんなもん、なのか?
いや、一般人目線で見れば充分危険な魔物だぜ? でもさぁ、正直言うと、がっかりだ。
俺様基準じゃ、めっちゃくちゃ弱ぇ。どんだけ殴ろうが、その程度のパンチで俺様にダメージ通るわけねぇだろボクサー君。
「おいおい、期待してたのにこのザマかよ……久しぶりに強い奴と戦えると思ったのに……俺のワクワクを返せ馬鹿野郎!」
『な、んだとぉっ! ならば、喰らえ! 魔具のブーストを受けた、波動砲を!』
ヘカトンケイルが極太ビームぶっ放してきたが、そんなモン効くかアホンダラ。
俺様の魔王の右腕は魔力を吸収する力がある。だからちょいと翳せばほれ、一瞬でビームが消滅よ。
『ば、かな……我が力が、一切通用せんだと……!』
「てめぇが俺に敵うわきゃねーだろ。折角人が丹精込めて作った魔具もろくすっぽ使えてねぇし、期待外れも甚だしいわ! 返せそれ!」
背中だろ、魔具隠してんの! てめぇにそいつを使う資格はねぇ!
『ぬあっ!? い、一瞬で魔具を、奪われた!?』
「ちっ、むしゃくしゃすんぜ、腹いせにド派手なライブをかまそうか!」
読者諸君にも紹介してやるよ、俺様が作った魔具をな。
このノータリンが持っていたのは、ギターだ。スタイリッシュな形状のこいつは、魔王セイレーンから作り上げた物さ。
「俺の歌を聞けぇ!」
ギターをかき鳴らし、俺様の即興ライブスタートだ。文章の尺取るから歌詞は描写できねぇが、ハートフルなロックを思い切り歌わせてもらうぜ。
「な、なんで歌ってるの、あの人……」
「ハワードさんらしいわね。いいぞいいぞー! もっと歌えー!」
ノリいいねぇコハク、ブレイズちゃんもそいつを見習いな。
『俺を愚弄する気か、そんなふざけた戦い方をするとは!』
あのなぁ、お前この武器の本質マジで知らねぇの?
魔王セイレーンは歌を操る敵だった。聞くだけでチャームをかけてきたり、眷属召喚してきたり、はたまた即死攻撃を繰り出したり。音ってのは馬鹿にできない武器なんだ。
このギターは、そんな魔王を素材に作り上げた物だ。歌えば歌う程、ギターにエネルギーが溜まっていく。あとは適当なタイミングでそいつを解放すれば、
「Fire!」
凄まじい轟音を放出して、目の前の敵をぶっ殺すのさ。
おっと、勿論コハク達が俺様の後ろになる位置で使ったからな。
『うぐぅあああっ!?』
ヘカトンケイルの右半身を吹っ飛ばして、勝負ありだ。ま、この武器は使い手を選ぶ。脳筋野郎には使いこなせねぇもんだな。
「さて、と。どうしてお前を生かしたか分かるか?」
『情報を得るため……だな?』
「その通り。理解が早くて助かるぜ」
こいつも口を滑らせたからな。あの方のためってよ。
つまり前に出てきたクリフォト同様、ヘカトンケイルも人間界へバケーションしにきた魔王の眷属ってわけだ。そいつが盗まれた俺の魔具を持っていた、つまり質屋から魔具をちょろまかしたのは、件の魔王様って事になる。
「敗北者である以上、洗いざらい吐いてもらうぜ。そしたら傷だけは治してやる」
『よかろう……負けた身の上、敵の要求に応えるのが筋だ。流石、我が主を倒した男なだけは、あるな……』
「……おっし、じゃあ教えてくれるかい。魔王は魔具を盗んで何を企んでいる」
『力を取り戻すためだ。あの方は、非常に弱っていてな。力を取り戻すためには、相当量の魔力が必要となる……貴様の魔具は、莫大な魔力を有していた。そして我ら眷属が媒体となる事で、魔具の魔力は増大し、あの方をお救いする聖具となるのだ』
「……へぇ? そんじゃあよ、お前この魔具を、どうやって使っていた? こいつは魔物が触ればたちまち消し炭になるプロテクトをかけてあるんだが」
『プロテクト? そんな物は最初からなかったぞ』
「なかった、だぁ?」
単純だが、確かに理屈は通る。だがちょっと待て。
プロテクトを解除するには、俺以上の力が必要になるんだぞ。なのにどうして弱った魔王が、魔具のプロテクトを外せるんだ?
そんな離れ業をするには、俺と同じ種類の魔力を持ってなきゃならねぇ。
読者諸君に分かりやすくするには、淡水魚と海水魚で例えればいいか。
俺様の魔具を海水、魔物や魔王を淡水魚だとしよう。淡水魚は海水じゃ生きられねぇから、入った瞬間死亡する。だが、もし魔王が海水魚なら、問題なく活動出来るだろ?
それと同じさ、魔力には波長ってもんがある。その波長が俺様と全く同じであれば、例え力が弱くとも魔具に干渉する事が出来る。
だが、そいつぁはっきり言って、ありえない事だ。
クローンか双子でもない限り、魔力の波長が合う事はない。俺様に家族は居ねぇ、俺様以外で魔具に干渉出来る奴なんか、この世には存在しないはずなんだ。
……ただ、こいつがちょいちょい出す言葉の節々に、気になる事があんだよな。
「おい、お前を使役している魔王は誰だ」
『あのお方の名、それは……はぐっ!?』
ヘカトンケイルの奴に、赤い剣が飛んできやがった。
胸に突き刺さって、深々と心臓を抉り出す。こいつはクリフォトの時と全く同じだ。
『ふ、ふふ……敗者に、価値はない、と言う事か……ぐふあっ!』
ヘカトンケイルに止めを刺したら、剣はまた消えやがった。明らかに魔物を殺してんのに、やっぱり気配がねぇ。
「一体誰だ、姿を見せろ!」
「後ろよハワードさん!」
コハクに言われて振り向いてみりゃ、確かに居やがった。
……深紅の鎧を纏った、異質な威圧感を持った奴が。




