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17話 ファミレスだとコーヒー1杯で1時間粘るタイプ。

 はー……ひでぇ目にあった。ヨハン君説教長すぎ!

 それにこれから会う奴も面倒くさそうだし、濃い一日になりそうだ。


「んじゃ、ブレイズちゃん。俺ちゃんネロと約束してっから」

「素直に行くのね。てっきりすっぽかすかと思った」

「まぁ他人の約束だったら破るが、一回ボコった相手だ。袖すり合った程度でも、一応顔合わさねぇと。本音を言えば行きたくはねぇんだがなぁ」

「妙な所で律儀な人。……貴方って、真面目なの? 不真面目なの? どっち?」

「俺は俺だ。自分のやりたい事を正直にやってるだけだよ」


 人間のクズでも流儀や美学はある、俺ぁそいつを曲げずに続けている。ただそれだけだ。


「ブレイズちゃん、わりぃけど先に外回り頼まぁ。すぐに合流すっからさ」

「はいはい。事情が事情なだけに、強く言えないわ。……ちょっとだけ、見直したわよ」

「なら今夜ご一緒に寝るのはどうだい?」

「お断りします」


 ちぇ、つれないねぇ。

 って事で、ネロとの会談に向かいますか。学食を指定していたな。


「やぁ、ハワード先生。来て頂いて嬉しいです」

「三十分だけしか取らねぇつっただろ。さっさと用件話せよ」


 そ、ネロとの会談だ。クーポン貰った以上出ねぇわけにはいかねぇしなぁ。

 しかし……学食のテラス、しかもコーヒーまで用意しているたぁ、随分な歓迎具合だぜ。


「先生はコーヒー党だと伺いましたので。ふふ、学食のカフェテリアですから、あまり期待はできませんが」

「親父から聞いたのか?」

「いいえ、僕独自に調べました」

「そいつは、感心だな」


 ま、ここのコーヒーは嫌いじゃねぇさ。専門店よか劣るのは仕方ねぇが、それでもまずまずのクオリティだしよ。


 ……ボディがくっきりして、豆の甘味が強い。酸味を抑えたフルーティな風味……コルドナ産か。読者諸君の世界だったら、コロンビアが近いんじゃねぇか?

 コーヒーを覚えるとモテるぜ野郎諸君、たまには大人ぶってみな。


「んで、俺様に相談事ってなんだよ?」

「はは、そんな堅苦しく構えないでください。ただ、父の事について教えてほしいだけです」

「カインの事か」

「ええ。両親と旅していた頃、二人がどのような冒険者だったのかを伺いたくて」

「そんなもん自分の親から聞けよ、なんで俺様がいちいち話さにゃならねぇんだ」

「昔から、両親と話す機会がない物で。先生はトークも切れますから、父と話すよりずっと面白くなりそうですし」


 まぁ、カインにユーモアセンスはねぇしな……その辺は俺の指導不足だぜ。


「しゃあねぇな、さわり程度でいいなら、話してやるよ」


 親父の事を、ネロの奴は随分熱心に聞いてくれたよ。

 特に、あんにゃろうの弱点を重点的に聞こうとしていた。なんつーか、それだけでネロが何を考えているのか、よく分かるぜ。


 カインは世間じゃ品行方正な勇者とか言われているが、あいつは単に頑固なだけだ。しかも無自覚に天然な所もある、俺様にとっちゃ苦手な人間なのさ。


 旅の中であいつがやらかした事を、俺様はそりゃあ正直に話してやったよ。


 コハクとの関係がラッキースケベで乳揉みした所から始まった事とか、意外に収集癖があって瓶の王冠を集めていたり、家事が壊滅的にへたくそで自活能力ゼロだったり。


 しかもコハクもコハクでセクハラ願望あるせいで、自分からカインを求めてたりしたんだよなぁ。俺ちゃんとヨハンが居る前で。ありゃ、生来の痴女だぜ。フ○○クだ。


 ま、コハクとのなれそめ聞いた時はしぶい顔されたがね。親のエロい話なんざ聞いても気持ち悪いだけか、ハハッ。


「父さん……なんで寝ぼけて母さんの服ひん剥けるんだ……しかも股間に顔ツッコむとか犯罪だろう……! それに母さんもなんで喜んでるんだよ!」

「それがカインクオリティって奴だ。コハクはとにかくあいつからセクハラ受け続けてたからな、惚れてなけりゃ速攻お別れよ」

「父の聞きたくない過去が聞けて何よりです。……思っていた弱点とは違いましたが、これはこれで使えそうですし」

「いやぁ、俺様の話は結婚した今じゃ笑い話にしかならねぇさ。むしろ痴話げんかのネタ振る事になりかねねぇし、止めときな」

「……我が親ながら、否定できない所が逆に恐いですね。それで、父の他の弱点は? どうすれば父を、捻り潰せるようになりますか?」


 おいおい、まだ聞こうってのか?

 こいつが話を振る度、やけに目がぎらつきやがる。ディジェとは違う、やけに敵意の強い目だ。

 ……初対面の時と、マジでキャラが違うな。

 小物感が消えたのはいいんだが、急に変わりすぎていて気味が悪ぃぜ。それになんだ? 微かだが威圧感も漂ってやがる。


 それはまぁ、それとしておくか。


「お前がどうしてカインの弱点を知ろうとするのか、理由は分かっている。だがな、あんまりてめぇの心に嘘を吐き続けたら、自分が苦しくなるだけだぜ」

「どういう意味ですか?」

「それは、自分がよく分かってんだろ。ネロ」


 ははっ、押し黙りやがって。図星突かれたようだな。

 伊達に歳重ねてねぇんだよ、こっちは。読者諸君は知ってるよな、俺は多少話せば、相手の事が大体分かるってよ。


「ネロ、ここで何をしているんだ?」

「っと、話をすればなんとやらか」


 カインの奴が来やがった。でもってネロの奴、露骨に顔を険しくしたな。


「では先生、僕はここで。理事長も、さようなら」

「待ってくれネロ。……ハワード教諭から聞いたぞ、レヴィからカツアゲしていたようだな」


 っておいおい、それもう先月の話だろうが。

 足しげく学園に来てんのに、どうしてその話を今混ぜっ返すかね。相変わらずKYつーか。


「大賢者様から伺った話なら、誤魔化せないようですね。ええそうですよ、それがどうしました? 何か問題でも?」

「大ありだ、学園の理事長として看過する事は出来ない。……処分が遅くなったが、お前に生徒会長を務める資格はない。即刻退任しろ。説教はその後だ」

「ふん、処分が遅すぎるでしょう。むしろ今処分を下すのは、理事長としてもダメージがあるのでは? 学園のいじめを知っていながら、その対処が遅れた。学園のブランドに大きな傷がつきますよ。そうなれば、僕以外の生徒にどんな悪影響が出るかわかりませんがね」


 中々度胸あるなこいつ、親に対して真っ向からぶつかってやがらぁ。

 ただの開き直り、ともとれるがな。でもってカイン、なんでお前、ネロに言い返さねぇんだ? あんにゃろうの言い分は屁理屈だ、正論叩き込めば潰せんだろうに。


「少なくとも、今下手な混乱を招くのは止した方がよろしいのでは? 魔王出現の噂が出ている以上、生徒へ不安を与えては余計なストレスになってしまいますし」

「! ネロ、どうして魔王の事を」

「僕は貴方の息子ですよ? 貴方が話さなくても、僕は調べる事が出来る。何しろ、平和の象徴様の優秀な息子なんです。その程度の事も出来ないで、貴方の子供が務まりますか」

「……くっ」


 言い負かされてどうすんだ、馬鹿弟子。


「ともあれ、生徒会長と言う立場をぐらつかせたら、理事長様のお仕事にも影響が出ますよ。今は、見て見ぬふりをするのが賢明な判断ではありませんか?」

「だがな、ネロ。親として俺は、お前のやった事を」

「ならもっと早く時間を作ればよかっただけの話でしょう! ……声を荒らげて失礼しました。ともあれ、今理事長様と話す事は、何もありません」


 ネロの奴、帰っちまった。人呼び出しといて勝手に消えるたぁ、マジクソ度胸だけはあるぜ。ただ……。


「情けねぇ姿だな、カイン」

「みっともない所を、見せてしまいましたね。……親としては、失格です。ネロと会うと、どうしても父親と言うより理事長として接してしまうので……」

「そんだけじゃねぇだろ? てめぇ、ネロとまともに会話した事、あんのか?」

「……ここ数年は、全く」


 はぁ……俺様、頭痛くなってきたぜ。

 真面目なのはいい事だが、息子に対して経営者面すんのはダメだろうよ。


「子育てというのは難しいですね。昔は両親に抱いた不満を、自分の子供には抱かせまいと意気込んだ物ですが……いざ親になると思い通りに出来ない事ばかりです」

「へっ、少しは俺様の苦労がわーったか? 出来の悪い馬鹿弟子」

「はは、俺も師匠のように真っ直ぐ相手を見れればいいのですけど。今になって師匠のありがたみを噛みしめてますよ。こんな弱気な事を言えるのは、貴方だけですから」

「けっ、コハクに膝枕でもされて甘えてろ」


 どいつもこいつも、ファ○クすぎるぜ。てめぇで問題抱えやがって、馬鹿野郎。

 ……だがよぉ、ネロの奴は本心から嫌ってるわけじゃねぇはずだ。

 聡明な読者諸君は気づいているかもしれねぇが、俺との会話であいつは両親を、きちんと父さん母さんと呼んでやがった。


 少なくとも、その呼び方を俺の前でしてたって事はだ。奴の中にはまだ、親に対する情があるって事だろうよ。多感な思春期のせいで色々拗らせちまっているようだが、話している感じネロ自身は愛情深い性格、そう読み取れた。

 だが愛情深さがたたったせいだろうな。親父が仕事で帰ってこなくて寂しい。その気持ちが歪み、ねじれた結果、親父を憎まないと心を安定させられなくなったんだ。


 ネロ自身はそれを理解している、だが認めちまったら、自分の存在が崩れそうな気がする。そんなところか。いやはや、難しい年ごろだね。思春期ってのはよ。


「ネロは少なくとも、現時点で面突き合わすのは逆効果だろう。今はほとぼり冷めるまで離れときな」

「そうします。それと師匠、これを」

「あん? なんだこの書類」

「俺が集めた魔王に関する情報です。空振りもあるかと思いますが、頭の片隅にでも入れておいてください」

「生真面目すぎんだろ、せいぜい斜め読みさせてもらうわ」


 その勤勉さを少しは親子関係に向けとけ、馬鹿。

 って、気が付きゃ一時間経ってんじゃねぇかよ……ネロより俺様の方がはしゃいでたかもしんねぇな。


 けど、ま。なんだ。


 ネロの奴は、嫌いになりきれねぇな。カインの息子だからって言うのはあいつに失礼だが、俺にしてみれば甥っ子みたいな感じでね。生意気なガキほど、可愛く思えるもんさ。


 だからこそ、あいつの冷たいガッツが気になるんだよな……。

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