13話 触手プレイと女勇者
「って、外回りにきたと思ったら……なんで競馬場に案内されるのよ!」
おー、ブレイズちゃんの悲鳴が木霊するぜ。
彼女の言う通り、俺ちゃん達は競馬場に居る。いやー、今日は中々でけぇレースが開催されててよ。学校抜け出す口実が出来てよかったわー。あんがとさん、魔王様。
おかげで平日だってのに結構客も来てるぜ、へへ、今日は一山当てて、ぱーっと遊ぶか!
「これが大賢者様の姿なわけないじゃない……それに昼間っからギャンブルなんて、ハワード様のイメージ崩れるからやめてくれない!」
「イメージも何も、これが伝説の賢者、ハワード様の姿だよ。カインの奴が書いた事に嘘はねぇけど、人間誰しもだらしない面はあんでしょ?」
「貴方はだらしない面しかないわ、私、不真面目な人は大嫌いなの」
「ちぇー、これでも俺様、超大真面目なんだけどー」
怒った顔も可愛いねぇ、やっぱからかいがいがあるぜ。
それによぉ、俺様に過剰な反応見せている辺り……。
「嫌よ嫌よも好きの内、ってな。そんな説教垂れているって事は、俺様に気があるのかい?」
「勝手な言わないで、気分悪いから」
「それとも、誰かと俺様を重ねちゃったりしてる?」
おっ、顔色変わったな。図星か。
「人を見透かしたような事を……黙りなさい!」
「これが黙ってられるか……ほら見ろ! 出てきたぜライガーショットが出てきたぜぇ!」
第九レース一番人気の馬だ! しかも後ろにゃ五番と二番がついて来ている、今の順番でゴールすりゃ、三連単の大当たりよ!
「ってなぁ!? なんで最後二番抜かすんだよおいー! ちっきしょー馬券がぱーだぜ!」
「全く……ちょっとは真剣になってやってよ! 私の評判まで落ちちゃうんだから! 私が一体どれだけ必死になってランキング1位についたと思ってるのよ!」
「あー? んなもん知るかよ、俺様エスパーじゃねぇんだし」
サイコメトリー使えよと思った読者諸君、流石にそいつはマナー違反だぜ。
てめぇの思っている事を勝手に覗かれたらどうよ? 胸糞悪いだろ? 男ならともかく、女心を勝手に覗くのは紳士じゃねぇって。
あ、「元から紳士じゃないだろ」とか「レヴィには使ったよね?」って思った奴はそこで正座な? あとできっちりお仕置きしてやる。
「学園じゃマジックショーで恥ずかしい事をするし……貴方みたいなロクデナシは久しぶりに見たわ!」
「へぇ? って事は俺様並のロクデナシと関係持ってた事があるのかい?」
「そんなの、どうでもいいでしょ」
「自分から墓穴掘ってんじゃねぇか。さーて、俺様は次レースの馬券でも買ってくか。ブレイズちゃんもどぉ?」
「や り ま せ ん! 私は私で行動します、さよなら!」
あーあ、ふられちまった。
けど、競馬場から離れるわけじゃあねぇようだな。きちんと気づいていたようで、感心感心。
言っとくが読者諸君、別に俺様はただ遊びたくて競馬場に来たわけじゃねぇぞ。今朝から妙な気配を、ここから感じ続けていたんだ。
魔王を知るには、まず魔物からってな。話を聞けそうな上級の魔物を探すために来たのさ。
「パドック見る暇は無さそうだな。さて、ブレイズちゃんを追うかね」
追いかける間に、読者諸君にちょっとだけ授業をしてやるか。
魔界からくる魔物ってのは、大抵は下級が占めている。と言うのも力が弱い分魔界と人間界の境界線をすり抜けやすくてな。上級の魔物は力が強いから境界線につっかえて出てこれねぇのさ。
だが、上級の魔物がすり抜けやすくなる場所ってのがあるのさ。
それは、人間の欲望が集まっている場所だ。理由は簡単、上級の魔物は人間の感情を吸い取って力に変える性質がある。欲望は特に強い感情だ、それを吸い上げた魔物は、境界線を無理やりぶっ壊して人間界へやってきちまうのよ。
中でも競馬場やカジノ、でもって歓楽街なんかは汚ぇ人間の欲が集中するからな。上級の魔物が出てきやすい。先月のバフォメットはカジノからヨーソローした口らしいぜ。
「とうちゃーく、地下室っと。倉庫みてぇだな」
でもって、案の定居やがった。上級の魔物だ。
気持ち悪い触手を全身に生やした植物型の魔獣、クリフォトって奴さ。倉庫を完全に根城にして、風船みてぇに膨らんだ種子が、壁や天井にくっついてやがる。
「せやぁっ!」
ブレイズちゃんはと言うと、クリフォトと一生懸命戦ってるよ。レイピアで触手を切って、炎属性の魔法で応戦していやがるが……残念。クリフォトは炎属性に耐性があんだよなぁ。
「ふん、のんきに遊んでいるかと思ったら、一応仕事はする気みたいね」
「手伝おうかい?」
「冗談! 見ていなさい、今度こそ私の力を見せてやる!」
はぁ、プライド高い子だねぇ。しゃあねぇ、様子見してやるか。
『コレハ、勇者ノ力カ。ナント上質ナ餌ガ来テクレタ』
「餌になるのは、貴様の方だ! 魔物め、喰らえっ」
おー、すげぇ連続突きだ。残像出てるぜ。
だがなぁ、クリフォト退治すんのにそいつは悪手だ。
「なんだこの触手……壊しても壊しても、倒しきれない!」
『無駄ダ、ホラ、捕マエタ』
相手は無数の触手を持つ魔物だ、そいつに連続攻撃した所で、触手の物量差に負けるだけだろーよ。
「つ、捕まってたまるか!」
押し負けたが、上手く回避したな。けどこのままじゃじり貧だぜ、どうすんだい?
『人間ノ女ハ上質ナ餌ダ。貴様ヲ喰ラエバ、ヨリ多クノ栄養ヲ頂ケル。特ニ勇者ノ力ハ最高、ノコノコヤッテ来タ連中ト同ジヨウニ、繭ニ包ンデヤロウ』
「まさか、この種子は全部、勇者!?」
『ソレモ女ノナ。全員、ナント上等ナ旨味ヲ持ッテイル事カ。コレナラバ、アノ方ヘノ供物トシテ充分ナ魔力ヲ得ラレル』
おいおい、マニアックなプレイしてやがるなこの魔物。
「くっ、女の敵め! 待ってて皆、今助けるから!」
『無駄ダ』
「! し、しまっ!?」
あ、捕まっちまったか。大口叩いたのに触手に絡まれやがって、世話焼かせな。どうやら、万策尽きたみてぇだな。
「そらよっ」
『ム!?』
触手を引きちぎって、ブレイズちゃんをお姫様抱っこで救出、ってな。クリフォトの奴、あまりにあっさり取り返されたもんだから驚いてやがる。
「魔法使いがお姫様に渡すのは、カボチャの馬車と相場が決まってるもんだが……触手の馬車は流石に趣味が悪ぃだろ」
『……動キガ、見エナカッタ、ダト?』
「驚いたか? こっからは俺様がデュエットしてやるよ。こんだけ沢山のマイクがあるんだ、のど自慢大会でも開いてみるかい? 満点の鐘を鳴らしてさしあげようか」
俺様の歌はファイアボールより爆発力があるからな。聞けば全世界の女達がたちまちハートを奪われちゃうぜ♪
「わ、私の敵だ! 勝手に出張るな!」
「魔法の解けたシンデレラは休んでな、足が笑ってんぜ」
「う、ぐ……!」
どんだけ強がろうがお姫様だ、とっくに心がノックアウトされてんぞ、ブレイズちゃん。ま、女の子にゃ触手責めは、ちょっと刺激が強すぎたか。
「こっからは王子様のステージさ、ついでに囚われの白雪姫達も救ってやるよ」
『ホザケ人間! ソレニ我ハ、男ガ嫌イナノダ!』
「へぇ、そいつは気が合うな。俺も男は大嫌いだ」
俺様に触手を飛ばすな観葉植物、男の触手プレイは需要がねーぜ!
右手を翳して、衝撃波一閃! そんだけで全部の触手が吹っ飛んだ。
「脆いな……花屋で栄養剤買ってった方がいいんじゃない?」
『ヌウウ! ナラバ……クロロパウダー!』
黄色い粉を飛ばしてきやがった。こいつは、催涙剤だな。
んなもん俺様には効かねぇんだが、ブレイズちゃんが吸ったら可哀そうだ。
「アイスウィンド!」
部屋全体に強烈な冷気を飛ばして、催涙剤を吹っ飛ばすのと同時にクリフォトを凍らせてやる。魔界の植物は冷気や水に弱いんだ、覚えておきなよ、ブレイズちゃん。
『ナン、ト……!? 動ケヌ……動ケヌ!』
「なんでぇ、もう終わりか。つまんねーの。さて、色々教えてもらおうか。魔物さんよ」
さっき、口滑らしただろてめぇ。あの方への供物ってよ。
「最近人間界で魔王様がいらっしゃるって情報が入ってよ、何か知らねぇかい?」
『知ラヌ! 貴様ニ話ス事ナド何モ無イワ!』
へっ、なら無理にでも聞いてやるか。サイコメトリーでな。
と思ったら、クリフォトのヤローに赤い剣が飛んできやがった。
『ゴバッ!? ナ、ゼ……我、ヲ……様……ァッ!』
急所に突き刺さって、そのまま死亡。なんだ、この剣は。
振り向いても、誰も居ねぇ。しかも剣を取ろうとしたら、目の前で消滅しちまうし。
どう見ても、誰かに殺されたと見ていいな、こいつは。しかも今、俺様の目をかいくぐりやがった。
「っと、早いとこ白雪姫達を助けねぇと」
冷気を撃ったのは、種子から剥がしやすくするためだ。凍らせるとクリフォトの触手はしぼむ、女の子は種子が盾になっているから、凍っちゃいねぇはずだ。
目論見通り、救助完了。数は五人か、結構な数が捕まってたな。
しかし見た感じ全員二十歳未満か。外見は上物だが……これじゃおいたはできねぇな。
「動けるかいブレイズちゃん、この子ら助けんの手伝ってくれ」
「え、ええ……言っとくけど、この子達に変な事したら」
「しねぇよ。俺様、二十歳以上しか手は出さねえ主義だ。未成年には、何があろうと手を出さねぇの」
「……変な奴」
さて、色々情報はゲットできた。一旦戻って整理しておくかね。
「っと! やべぇ忘れるとこだった!」
そういや第十レース終わったところか!? 結果だけでも見ておかねぇと!
「って、結局また負けかよぉ!」
また俺様の三連単がパーじゃねぇか! 畜生、今日はとことんついてねぇ!
「あ……私、当たってた」
「へ?」
「えっと、これ、単勝だっけ? 十倍だけど、当たってた。ほら」
……ちゃっかり、万馬券買ってたのねブレイズちゃん……。




