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11話 俺ちゃん、なんか人気者(・ ω<)ゞ☆

 はー……こんな目に遭うくらいなら、やっぱ教師やるのやめときゃよかったぜ……。


「どげんしたんやか先生? ため息ついとるばい」

「ため息ついたら幸せ逃げるんじゃないか? つか、うっとうしいぜ」

「……おいチームガッツ、どうして俺様が当たり前のようにお前らと中庭で、仲良く一緒に弁当食ってるかわかるか?」

「じぇになかねら、ばいね? うちんお弁当の今ん生命線、やったっけ?」


 その通り。予想以上の薄給により日々の食事もままならねぇ俺様は、悲しい事にレヴィから弁当せびらねぇとメシが食えねぇ身分になっちまってんのさ。


 となればレヴィから弁当貰う→当然一緒に食べよとか宣う→金魚の糞でディジェまで着いてくる。のトリプルスタイリッシュコンボが炸裂すると。そんな流れさ……シット!


 先月から友達になりすぎてんだろ、とっととホテルでも行ってマセガキらしく盛ってろ、嘴の黄色いアヒルの子が。


 まぁ、レヴィの泣き虫が治ったのは、いい事ではあるがね。


「親父も呆れてたよ、先生があまりにだらしないってさ。それよか金ないなら自炊すりゃいいんじゃないか?」

「めんどくせぇ。それに買った方が安いんだよ、食事ってのは」


 言っとくがな読者諸君、俺様もとりあえずメシは作れるぞ。腕前はシェフ並だ。


 しっかしディジェの奴、ヨハンから「何吹き込んだんだあんた!」ってクレームは聞いていたが。


「その口ぶりだと、ヨハンとは話すようになったみてぇだな」

「うん、先生の言った通りに、思いっきり殴ったんだ。親父を」

「意外とアグレッシブだな。当然喧嘩になったろ」


「当たり前だろ、この一ヵ月、親父とずっと言い争いばっかりだよ。でも、先生の言う通りにしてから、本音で話せてるって言うか。前より距離が近い感じはするんだ」


「けっ、男ってのは腕っぷしで語る生き物だ。黙ってばっかで互いが分かるかよ」

「男ん人っち難しいんやね、うちは両親っち喧嘩した事なかばってん、したばい方のよかんやろうか」

「やめとけよ、女の喧嘩ほど面倒なもんはねぇ」


 生涯無敗の俺様も、キレたコハクはおっかねぇからな……女は怒らせず、愛でるに限るぜ。


「ただまぁ、親が元気なうちに喧嘩は楽しんでおけ。将来確実に、親が先に逝くんだ。本音で話す機会を失ってからじゃ間違いなく後悔する。覚えときな、家族に甘えられるてめぇらは、俺様より遥かに幸せもんだぜ」

「うす!」

「わかったけん!」


 年長者のアドバイスを素直に聞き入れるのは、まぁ評価してやるよ。

 つーかお前ら、必要以上に俺様にべたべたすんじゃねぇ。これじゃ仲良しトリオに見えるじゃねーかよ。

 一ヵ月経っても相変わらず俺にゲロ吐かされてんのに、よくもまぁこんな引っ付けるもんだぜ。大した進歩もねーくせに、全くよぉ。


「やはりここに居ましたか、先生」

「あん? んだよ、ネロか」


 カインの息子、ネロ。親の七光りで周囲に威張り散らす、あいつのガキとは思えねぇ悪童だ。

 初日にぶちのめしてから、みょーに絡んでくるんだよな。想像の斜め下方向に。


「ネロ……何の用だ」

「君には関係ないだろ、黙っていてくれ、ディジェ」

「なんだと!」

「うるせぇから黙ってろディジェ、ネロもだ。俺様メシ食ってんだろうが」


 ディジェの奴、マジでネロを目の敵にしてやがんなぁ。


 聞いた話じゃ、こいつら幼馴染らしいんだ。元勇者パーティの子供だから当たり前だわな。十二までは特定の読者諸君垂涎物の、それはそれは仲の良いショタだったらしいぜ。


 だが、十三になってネロが覚醒しやがったらしくてな。実力が開いちまったせいで、仲が拗れちまったんだとか。


「食事が終わったら、お時間いただけませんか? 先月からお話ししている件について、答えをしていただきたいのですが」

「だから嫌だっつってんの。こいつらで俺様手いっぱいなんだから」

「それなら力づくで追い払えばいいのに。出来の悪い生徒の指導ほど負担はないでしょう」

「ネロ!」

「だぁからいきんなディジェ、そもそも現時点のてめーで勝てる相手でもねーよ」


 腐ってもカインの息子だ、自力はディジェよかずっと高ぇ。俺様が別格過ぎるイケメンなせいで掠んじまうが、物語が違ったらネロは充分主役張れるくらいの地力はあんぜ。


「力ない君がいくら吼えようが、なんとも思わないよ。と言うよりさっきから負け犬の声がうっとうしいんだけど、止めてもらえるかい?」

「くそ、俺だって!」

「無駄だよ」


 殴りかかった所で、たった一ヶ月の指導程度じゃ差は埋められねぇよ。

 案の定カウンターで顎にフック一発、それだけで倒れやがった。


「ディジェ君、よかよか!?」

「手出し、無用だ……くそっ!」

「へぇ、立ち上がれるんだ。それなりに進歩はしているみたいだね。一センチ程度は」


 いちいち癪に障るみみっちぃ挑発しやがるなぁ、挑発ってのはもっとド派手にやるもんだろうが。ヘイ! 無様な写真撮るからもっと笑顔笑顔、いいねその顔はいチーズ! って感じにな。ジェスチャー加えて煽りを入れるのがポイントだ。


「人の目の前で喧嘩してんじゃねぇ、メシがまずくなるんだっつの。……しゃあねぇ。レヴィ、そのアホ介抱してろ。ネロ、話してやっから場所変えるぞ」

「お時間いただき感謝します」


  ◇◇◇


 先月から俺様が絡まれてる理由は、専属の教官として指導しろ、ってもんだ。どうもディジェとレヴィを指導してんのが気に食わねぇらしくてな。


「前から言ってるが、俺様も暇じゃねぇの。てめぇまで見ている余裕はねぇんだって」

「職員室に行く度昼寝をされているようですが?」

「そーだよ、惰眠を貪るのが俺様のお仕事だからな」

「でしたら、あの二人の指導を止めれば、僕の指導の時間を作れるのではありませんか?」


 あー言えばこー言う……カインそっくりだぜ。


「大体俺、てめぇをボコっただろうが。なのになんで俺様に指導仰ぐんだ? 普通逆恨みするもんだろ、マゾか? マゾなのか?」

「僕は強い者には敬意を払う主義なのです。僕が出会った教師達は皆弱かった、僕の力と父の威光を示すだけでヘタる弱者から学ぶ事などない。ですが貴方は、途方もなく強い。そんな方に指導を貰いたいと思うのは、強者として当然。そうでしょう? 大賢者ハワード様」


 こいつは、俺の正体を知っているのさ。

 ま、一ヵ月も自重せず暴れてりゃ、こいつみてぇなのも出てくるもんよ。カインの事を考えりゃ大人しくすべきなんだろうが、あいにく俺様は正直者でね。俺自身を表現しないと気が済まねぇ性質なのさ。

 ……だから俺から離れろっつったんだ、馬鹿弟子が。


「かつて魔王を倒し、魔界から帰還した伝説の大賢者、ハワード・ロック。魔王の右腕を取り込み、その力をさらに強大な物としている、世界最強の男……失礼を承知でお願いしますが、貴方の腕を見せていただきませんか? その、魔王の右腕を」

「ん、見せるだけならな」


 ただし触るなよ。俺ぁ野郎に触られるのが嫌いなんだ。


「おお……これが、魔王の右腕……黒く、逞しく、雄々しいほどの魔力に溢れている……! 素晴らしい、これが、魔王の力か……!」

「表現気色悪ぃよアホ」


 ちょっと触れやがって、この野郎。なんだてめぇ、ホモか? ホモなのか?


「これは失礼しました。しかし、想像以上の力をお持ちですね。貴方が僕ほどの逸材を鍛え上げれば、我が父を凌ぐ勇者となる。そのためにも賢者様、どうか僕にご指導を」

「嫌だ。気が乗らねぇ」


 てめぇのガッツは褒めてやる。ただ、てめぇから感じるガッツは、気に食わねぇ。


「何故です? どうしてそうまで拒むのですか。僕はあの二人より遥かに優れた人間だ、そんな原石ではなく、どうして貴方はあの二人を指導するのです!」

「てめぇのガッツは、冷たすぎるんだよ。ネロ」


 あの馬鹿二人は、正真正銘のドアホだ。けどよ、俺様の大好きな、真っ赤に燃えるガッツの持ち主なんだよ。

 だがネロのガッツは、まるで真っ青な氷だ。力だけ膨れ上がって中身が弱い、俺様の苦手なガッツなんだ。


 意味が分からねぇって? ま、憤るなよ。読者諸君もあんだろ? 言葉じゃ説明しきれない、感覚的なもんがよ。それと同じさ。


「俺様は赤く、燃えるようなガッツを持つ奴じゃねぇと気が乗らなくてな。ネロ、もし俺様に指導してほしかったら……じっくり自分と会話して、力をどう使いたいのか。それを見定めてからもっぺん来やがれ。今のてめぇを指導する気は、全くねぇよ」

「……なら……僕の力を今一度示せばいいのですね、先生……! 分かりました、必ずあなたに示して見せます。そうしたら、父も受けたという貴方の指導を、願えるのですよね」

「……ま、善処してやるさ」


 ちなみに読者諸君、善処するって言葉は信用すんなよ? それはつまり、めんどくせぇから考えねぇよって遠回しな返事だからな。


「見せてやる、必ず僕の力を……力、力……! もっと、力を……!」


 力に固執する、か。なんとなく理由は分かるが……ま、様子を見守ってやるか。

 手ぇ出すのが指導じゃねぇ。てめぇで考え、実践させるのが指導だ。もし間違った事したら、俺ら大人がどうにかすりゃいいだけだしな。


  ◇◇◇


「ふぃー……今日もまた面倒だったぜぇ……」


 いやぁ、屋根がある家ってのはいいもんだぜ。特にこの教員寮は居心地よくてよぉ。

 いつもなら仕事終わりに一杯ひっかける所なんだが、今日はなんか気分じゃなくてな。直帰しちまった。ま、たまにゃあそんな日もいいか。


「確かビールとサラミがあったな……へへ」


 酒とつまみは大人の楽しみだぜ、読者諸君。肝臓がお行儀のよい処女になりやがったから、毎日酒飲んでアルコール大好きなビ○チに調教せにゃあな。

 って時にノックがしやがった。


「ハワードさん、ちょっといいかい?」

「ってヨハンかよ……俺様今忙しいんだ、後にしろ」

「どうせ酒飲んでるだけだろ? 入るよ」

「ちっとは俺様のプライベート考慮しろ! 何の用だよ」

「机に足乗せるなよ、行儀悪いな……重要な話があるんだ、カインも来ている。ハワードさんの耳にも入れておきたい事があってね」

「クビの話か? 別にいいがね」


 って思ったが、違うようだな。カインの顔を見るなり思った俺ちゃん、賢い。


「魔王の気配を感じたんだ、師匠。つい先日、この街で、うっすらとね」

「……へぇ? そいつはまた、退屈しのぎになりそうだな」


 カインは冗談を言わねぇ奴だ。そんな奴が持ちかけた、面白そうな話だ。


「どうして魔王の物だと分かった」

「二十年前、魔王と戦った時と同じ魔力を感じたんだ。肌にへばりつくような、嫌な感じのする魔力。師匠は感じなかったのか?」


「ああ、なぜだろうな。俺様は魔王の右腕を持っている、魔王が出たなら、てめぇより先に感じても不思議じゃねぇんだが」

「……今考えても仕方がないか。もし魔王がまた世界に顕現したら、二十年前の悪夢が再来する。それだけは何としても避けたいんだ」


「確かに、そいつは言えるぜ。んで? また俺様に調査を依頼するってのか?」

「その通り。師匠には、この街での調査をお願いしたいのです。魔王の気配を感じたのは、このベルリック。顕現するとしたら、この街の可能性が非常に高い。俺は外を回って、情報を集めようと思います」

「ま、その方が効率的か」


 いつもなら残業代をせびる所だが、今回ばかりは無給でやってもいいぜカイン。

 このところ平和で骨のある奴と戦えず、欲求不満でもあったんだ。魔王なんて魔界以来の極上物、久しぶりに食ってやる。


 俺ぁ、三度の飯と同じくらい、喧嘩も大好きな男なんだよ。


「相変わらずの戦闘狂だな、どっちが魔王だよ、ハワードさん」

「はっ、別にいいだろうが。そもそもこんなもん(魔王の腕)くっつけた奴だ、魔王と呼んでも差し支えねぇんだぜ?」

「魔王が教える勇者道か……なんか奇妙な感じだよ」

「言ってろ」


 話はまとまったな。そんじゃ、俺様は勝手にやらせてもらうぜ。


「おっと師匠、まだ話は終わってませんよ。師匠一人にやらせると、また街を破壊しかねませんからね。お目付け役を用意させて頂きました」

「あん? んな奴必要ねぇっての」

「下手すれば来月の給料無くなりますよ」

「へい是非ともブレーキ役をあてがってくだせぇ社長」


 畜生、金の力には勝てなかったよ……!


「改めて紹介するよ、勇者ランキング1位の子でね、きっと師匠の力になってくれるはずだ。入っておいで」

「ランキング1位? おいまさかそいつって」

「失礼します、カイン様!」


 ヘイヘイヘイ! こいつは予想外のパートナーじゃねぇか!


「久しぶりだな! 会いたかったぜ愛しのカワイ子ちゃん(マイスイートキティ)!」

「って、ああああ! あ、あの時の変質者ぁ!?」


 ハロー! ブレイズちゃーん!

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