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1話 魔王の右腕を持つ賢者

 この俺様、最強の大賢者ハワード・ロックが居る勇者パーティは、たった今クソッタレな魔王様をぶっ倒したところだ。


 中々タフな野郎だったぜ。魔界から人間界に出てくるなり、あっという間に人類の二割を奪っていきやがった。そんだけ強大な魔王を、たった四人のパーティで倒せってんだから、国王様も頭のネジがとんでやがる。


 それでも魔王は最後、勇者に敗北する。それが物語のセオリーってもんだろ? なぁ読者諸君。


 だがさすがは魔王様だぜ。俺たちに殺される直前、魔界へつながるゲートを開いていきやがった。しかもご丁寧なことに……ゲートを封じるには誰かが魔界に行って、内側から扉を閉じるしかねぇと来たもんだ。放っておけば魔物の大群が押し寄せて、第二の魔王が来るってわけ。


 タダでは転ばん、誰か一人は道連れに、ってか。へ、見上げた根性のやろーだぜ。


「俺が、行く。俺は勇者だ、世界を守る、義務がある」

「止めてカイン! 貴方が居なくなったら、私……私っ!」


 わざわざ死にに行こうとする俺たちのリーダー、赤毛の勇者様ことカインに、魔法使いちゃんのコハクが涙ながらに縋りついた。青髪の可愛らしい女の子だぜ? そんな子を泣かすなんて、男の風上にもおけねぇ奴だぜ、全く。


「しゃあねぇ奴だな。おいヨハン、二人は任せたぜ」

「え……おいハワードさん!? 何するつもりだよ!」


 緑頭が目を引く戦士の小僧、ヨハンの文句を無視して、俺はゲートへ向かった。

 カイン、コハク、ヨハン……こいつらは全員十代だ。たった一人、保護者様として同行した俺は唯一の四十代。ぴっちぴちの四十三歳のおっさんさ。


 だったらよ、誰が道連れになるかなんざ、決まってんだろ。


「俺様はスラム育ちの大賢者様、抱く嫁も○ッ○スフレンドも居ねぇ寂しい親父よ。どうせ消えても、悲しむ奴はてめぇら三人だけ。なら、一番の適任だろ?」

「ば、馬鹿を言うな師匠! 俺はまだ、あんたから教わりたいことが、山ほどあるんだよ!」


 ちっ、カインの奴……何甘えたこと抜かしやがる。


 てめぇはこの世界を救った勇者、いわば平和の象徴だ。それがいつまでも師匠離れできねぇでどうすんだこのカス、てめぇにはやるべきことが……てめぇに縋ってくるその女を守るっつー使命があんだろが!


「あいにくだが、俺ぁもうてめぇらと一緒に居るのは沢山だ。いっつも年上の俺に甘えやがって、うざったらしくてしゃあねぇんだよ。いい加減乳離れしやがれ! それ以上文句言ったらパパの○○とママの○○に分けて、股座に叩き戻してやるぞファ○キ○クソ野郎共」


 ま、こんだけ悪口言えば見限ってくれんだろ。後腐れないように、最後は嫌われてお別れしてぇんだ。その方がまぁ、俺らしいしな。


「嫌だ……嫌だ! 師匠が行くなら、俺も!」

「おらぁ!」

「げはぁっ!?」


 文章の尺取り過ぎなんだよ馬鹿、蹴り飛ばすぞ! 蹴り飛ばした後に言うのもあれだけどな!


 気絶したカインをコハクとヨハンに放り投げ、俺はゲートに向かう。その間も、ぴーちくぱーちくひな鳥がうるせぇのなんの。

 いつまでも逃げないアンポンタン共だから、衝撃波を叩き込んで、無理やり魔王城から追い出してやったよ。


「待って……待ってハワード!」

「ち、っくしょおおおおおっ!」


 はっ、こんなおっさんのことなんざさっさと忘れちまえ。未来ある若木ども。


  ◇◇◇


 一人魔界に飛び込み、ゲートを閉じる。これで人間界に、魔王が出ていくこともねーだろ。

 しっかし強固な扉だったぜ。読者諸君にゃ分からねぇかもしれねぇが、魔界とのゲートを閉じるには、錆び付いた百トンの鋼鉄製の扉を腕ずくで無理やり閉じる。そんな努力をする必要があったんだ。


 正直、こいつを閉じられたのは大賢者の俺様か、カインだけだろうな。ったく魔王の奴め、最初っから最高戦力奪う気満々じゃねぇか。


「俺とカインが、勇者パーティどころか、人類の二強だったからな」


 俺の世界にゃ、レベルやステータスって概念がある。ファンタジー大好きな読者諸君にゃ、お馴染みの概念かねぇ?


 戦える人間のレベルってのは精々20が平均値なんだが、魔王軍の雑魚共の平均レベルはなんと70。冒険者五人が束になって、やっと一匹倒せるかって強さなんだよ。


 魔王様に至っては、平均900レベルオーバー。軍が束になっても勝てやしねぇのさ。


 だがカインは人類の突然変異種って奴でね、なんとあいつはレベル999もあるお強い人間だったんだ。この俺様と同じくな。

 そ、俺もレベル999もある、突然変異種さんなわけよ。まぁ普段の生活態度のせいで勇者さんにはなれなかったがな。平和の象徴は、クソ真面目なカインに任せるぜ。


 んでまぁ、突然変異種同士、仲良く勇者パーティを組んで魔王と戦っていた。それが俺とカインの経緯って奴よ。


「人間界は任せたぜ、カイン。俺は魔界で……楽しくやるからよ」


 見上げる限り真っ赤な空に、生気を感じねぇ棘だらけの植物が生えた土地。近くにある湖は血で満たされた、ドブみてぇな臭いのする最低な場所だ。


 ここが魔界、魔王さんたちが日夜仲良く喧嘩している世界ってわけか。しかもだぜ?


「嬉しいねぇ、こんな沢山の客引きが来てくれるなんてな」


 俺の前には、無数の魔物が迫ってきてやがる。数は千か? 万か? それとも億か? 数えるのもめんどくせぇ。


「丁度女と遊びたい気分でね、サキュバスのキャバレーにでも誘ってくれやチェリー君!」


 魔界の連中をぶちのめすってことは、それだけカインたちの世界が平和になるってことだ。


 老兵は死なず、ただ守るだけ、ってね。あいつらは俺にとっちゃ、大事な大事な家族みてぇなもんだ。あんなことした以上、嫌われちまっただろうけどよ……それでいい。俺みたいなはぐれものは、嫌われるくらいが丁度いいのさ。


 お前らには、未来がある。辛いことはあるだろうが、楽しいこと、嬉しいことも同じくらい起こるんだ。


 こんなおっさんと心中するなんざ勿体ねぇよ。だから……俺ができなかった分まで、沢山人生を楽しんでくれ。


 俺は魔界の害虫として、残りの人生を過ごしてやる。大事な連中が笑顔で過ごせる時間を作るために、命の肥料となってやるさ!


「さぁ……踊ろうぜ魔物ども!」


  ◇◇◇


 そっから先のことは、まぁ特に話すことはねぇな。


 毎日血みどろの殺し合いを続けてよ、襲ってくる魔物を潰しまくってた。俺様は魔法とステゴロ組み合わせた喧嘩殺法の使い手でね、数で押してくる乱戦は大得意なのさ。賢者らしからぬスタイルだろ。


 食料? 水? そんなもん自分からやってくるじゃねぇか。魔物の肉を焼いて食い、血を水代わりにして渇きを癒した。そんくらいしか食う物がねぇんだよな、魔界ってのはよ。


 睡眠も魔法で脳みそ騙してよ、無理やり疲労を回復させて、不眠不休で魔物漁り。とほほ、やるならキレーな姉ちゃんの○○○○を漁りてぇもんだぜ。


 んでまぁ、魔界の害虫として暮らしているうちに段々情勢が分かってきてな。


 どうも魔界ってのは無数のエリアに分かれていて、エリア毎に沢山の魔王が治めているらしくてよ。ずっと戦い詰めだと飽きちまうし、暇つぶしにゲーム感覚で魔王を一匹ずつぶっ殺すことにしたんだ。こいつを殺したら何点、って感じにな。


『貴様か、魔界に迷い込んだドブネズミは』

『くっくっく、貴様が殺したのは魔王の中でも最弱……この世界の連鎖に飲まれろ!』

『ここまで戦い抜いたのは褒めてやろう。だが貴様の快進撃もここまでだ!』


 んな感じの口上を言ってくる連中は、全員ヨユーでぶっ飛ばしたぜ。いやーこいつら弱いのなんの。毎日戦い続けたから俺様ってば超強くなっててなぁ。全員瞬殺よ。


 ただ、やっぱ魔界ってのは広いよなぁ。一匹だけ、随分タフな奴が居たんだ。


 名前も唯一覚えている。魔王ルシフェル、元天使様とか言う、長い銀髪のキザったらしい全身黒タイツヤローだ。

 そいつは俺様と互角以上に戦いやがって、一ヵ月は決着のつかねぇ戦いを繰り広げたもんさ。


『むんっ!』

「いでぇっ!?」


 でもって向こうの体力は無限、こっちは有限だ。その隙を突かれて、右腕をもっていかれちまってな。


『ふ、よくこのルシフェルと戦い抜いた。貴様、確かハワードと言ったか……覚えておこう、その名前を』

「勝った気でいるんじゃねーよ、この白髪ねぎ……!」


 この時ばかりはもうダメだと思ったぜ。何しろ右腕無くしちまったからなぁ。

 でもよ、この天才ハワード様は思いついちまったんだよねー。無くしちまったら、新調すりゃいいんだよ。


「……てめぇ、俺と体格、同じだな」

『それがどうした?』

「右腕寄越せ」


 てな感じにルシフェルの右腕をもぎとって、無くした腕にくっつけたってわけ。それで形勢逆転、グーパンチで潰してやったよ。


 魔王の右腕を奪った後はまぁ、連戦連勝楽勝さ。何しろ最強無敵の俺様に、魔王の力が宿ったんだぜ? まさしく俺様に金棒だろ。

 しかもこの、黒の硬質な表皮に血のような赤の文様が走った禍々しい腕……うーん、中々イカす外見だぜ。


 しっかし魔界には呆れるぜ、何しろ魔王なんて肩書を持つ奴がごまんと居やがってな、潰しても潰しても延々と新しい魔王が出てきやがる。んで、これまた暇つぶしにぶっ殺した魔王を素材に武器を作っては、それを駆使して魔界を制圧していったんだ。


 んで気づいた頃には……魔界の食物連鎖の頂点に立っちまってた。


 聞いて呆れるだろ、死ぬつもりで魔界に行ったら、魔界最強のおっさんになっちまったのよ。ま、俺様だから当然の結果だがな。


「しっかし俺様、何年この世界にいるのかねぇ」


 こんな疑問が浮かんだのは、数千年を超えたあたりだ。

 どうも魔物を食ってるうちに、俺様の体が変化したらしくてな。歳を取らなくなった。老衰で死なない体になってやがったのさ。


 んでもって、魔界の時間の流れも人間界とは違うらしい。最初のうちは時間を数えていたんだが、六千年を超えたあたりで数えるのをやめた。いちいち覚えるのも面倒くせぇからよ。


 無数に出てくる魔王、殺しても学習せず襲ってくる魔物……途中からは「頼むから出ていってください!」とか言う悲鳴も聞こえたが、お断りだ。てめぇらを絶滅させて、カインたちが安全に暮らせる日々を守るのが、俺の役割だからな。


 だけど……やっぱ飽きは来るんだよな。あーくそ、いい加減酒が飲みてぇし、競馬もしてぇし、女も抱きてぇぜ。


 そーんなぼやきを繰り返してたら、ある時変なことが起こってな。


 その頃の俺様は、複数の魔具を使って魔王をボコるのがブームだったんだが、どうもそれが悪かったみたいでな。あまりに魔具の威力が強すぎて、次元の壁がぶっ壊れちまったんだ。


 しかも、すんげぇ吸引力で吸い出してきやがってさぁ。


「やべ、これあれだ。吸い込まれちまうな」


 抵抗もできずに俺様、魔界から追い出される。って寸法さ。

 ガラスが割れる音がした後、俺は別の世界に飛び出した。聡明な読者諸君なら、わかるんじゃねーの?


 そう、人間界。不覚にも俺様は、戻ってきちまったんだよ。懐かしき故郷に。


 でもって出てきた場所は、豪華なお屋敷の庭だ。見た感じ、貴族様の屋敷だな。


「だ、誰だ貴様! い、いったいどこから入ってきた!?」


 なら当然、衛兵が出てくるよなぁ。あっという間に取り囲まれちまった。


 まぁしょうがねぇよなぁ。俺ってば魔物や魔王の返り血で酷い見た目になっちまってたし、右腕、魔王になってるし……そもそも不法侵入してるしで、スリーアウトチェンジ、って奴だ。


 戦う理由もねーし、素直に取っ捕まってやったよ。ま、拘置所にぶち込まれるのも悪かねぇさ。屋根もあるし、粗末だがベッドもあるし、タダで飯も食える。ずっと魔界暮らしでろくに食っても寝てもねぇんだ、最高だろ? 風呂に入れねぇのは、勘弁だがな。


「なんだ、この騒ぎは。どうした?」

「は、はっ! それが、このような男が侵入していまして……」

「あ、どもー。すんませんねぇ勝手に入ってきちまって」


 屋敷の主に突き出されたんで、お詫びぐらいは言わないとな。読者の皆も、悪いことしたらちゃんと謝れよ? おっさんとの約束だ。


「…………」


 ん? どしたよ主さん。こんなおっさんの顔をまじまじ見やがって。俺ホモじゃねーぞ。


「……師、匠……?」

「んあ? なんだ急に……!」


 やっと俺様も気づいたよ。

 屋敷の主は、燃えるような赤髪の男だったんだ。大分老けているが、面影がちゃんとある。


「お前……カイン、か?」

「! 師匠……やっぱり……師匠!」


 屋敷の主改め、愛弟子カインは血塗れの俺に抱き着きやがった。

 これがまぁ、俺様ことハワード・ロックの物語の始まりだ。どうかご精読頼むぜ、親愛なる読者諸君。

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