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3話・勇者、貴族邸に突撃する

 タンッ。着地の衝撃を『歪曲場メビウス』で吸収して、俺は村の中心部に降り立った。


「あ、あんたいま、空から降ってきた……のか?」

 

 たまたま近くにいた村人が仰天している。

 が、仰天したのは俺も同じだった。


 こうして見渡してみると、本当に貧相で原始的な光景だ。

 信じがたいことに家屋はすべて木造のようだった。

 千年前にはめずらしくもなかった、オリハルコン建材で造られた超高層建築物メガストラクチャーは影も形もない。


 村のメインストリートであるはずなのに、道が舗装されておらず土がむき出しなのも驚きだ。

 魔動車などは走っているはずもなく、主要な交通手段はなんと馬のようだった。


 村人たちが身につけている衣類も、ミスリル繊維ではなく木綿製だ。

 星暦九九九年では、骨董品的価値しかなかった代物である。


 これは――たしかに、疑いようもなく、俺は異なる時代に飛ばされてしまったようだ。


 なぜ? 考えられる原因はひとつしかない。

 魔王トワイライト。時間の支配者。時間――


「なるほどな、そういうことか」


 ようやく得心がいき、俺は苦笑するしかなかった。


 最後の悪あがき。今際の際に発動したあの魔法。

 俺と刺し違えるのではなく、あえて生かしたまま未来へと飛ばす。

 考えてみれば実にあの女らしい、人を食ったような嫌がらせだ。

 だが勝ったのは俺だ。

 魔王を倒し、ついに俺は最強となったのだ!

 それが果たせれば、ここが未来だろうと過去だろうと知ったことではなかった。

 

 それにしてもこの光景、この文明レベルは、千年後の未来ではなく千年前の過去と言われたほうが余程うなずける。


「おい、そこの男。いまは星暦何年だ?」

「えっ? 一九九九年だけど……?」


 先ほどの少女と同じ答え。

 やはり嘘をついている様子はない。

 そもそも嘘をつく必要がないはずだ。

 

 ここは千年後の未来。

 なにかしらの反証材料が見つからない限り、そう考えるしかなさそうだ。


「ありがとう、助かったぞ」

「は、はぁ? なにが……?」


 村人は眼をぱちくりさせていた。

 そんな彼にふたたび視線をむける。

 魔力探知をしてみると、おそろしく微弱な反応だった。

 生まれたての赤子並。

 だが眼の前の男はどう見ても立派な大人だ。


 馬鹿な、こんな魔力量では最低レベルの初級魔法ですら使えるかどうか怪しいぞ。


「ところであんた、魔法はどのていど使える?」


 俺は率直にたずねてみた。


「はっ? おいおい兄ちゃん、なに馬鹿なこと言ってるんだ」


 返ってきたのは呆れまじりの苦笑いだった。


「平民の俺が魔法なんて使えるわけないだろ。それともあんた、まさかこの俺が貴族に見えるってのかい? ははっ、それこそありえねえ話だよなぁ」


 平民は魔法を使えない、というのもまた俺の常識に反する話だった。

 たしかに魔法は生来の才能によるところが大きい。

 いくら努力しても、才能に恵まれない者は一流の魔法戦士にはなれない。

 が、適切な指導のもとに訓練すれば、誰でも一定レベルの魔法は使えるようになる。

 というのが、俺の知る千年前の常識だった。


 それに、貴族というカビ臭い単語が普通にでてきたことにも驚かされた。

 星歴九九九年の時代では、貴族制はとうの昔に廃止され、ほぼすべての国が共和制か連邦制、あるいは立憲君主制をとっていた。


 過去の遺物であったはずの身分制度が、千年後の未来では復活しているのか。

 文明の退化は相当に深刻なようだった。


 まあ、俺は政治になどいっさい興味はないから、そこは正直どうだっていい。

 しかし――


 俺は魔力探知の範囲をめいっぱいひろげてみた。

 限界は直径一〇〇メートルほど。

 万全ならば大陸全土を覆い尽くすことができたのだが、嘆いても仕方ない。

 俺が探知した村人はあわせて三五人。だが男女年齢とわず、魔力量は最初の村人と似たりよったりだった。


 これはまずい。これは深刻な問題だ。

 魔法を使える者が激減し、一部の魔法戦士ですらいちじるしく低レベルになっているとしたら、とうてい看過できない。


 だってそうだろう。

 強いやつがいなかったら、俺はいったい誰と戦えばいいんだ!?

 もしこの時代に戦うに足る相手が一人もいなかったら、しまいには退屈で死にかねないぞ。

 

 ――ハッ!? まさか魔王の狙いはこれか?


「まったく、陰険なあの女の考えそうなことだ。だが魔王、俺がすぐに諦めると思ったら大間違いだぞ」

「に、兄ちゃん大丈夫か? 気は確かかい?」

「もちろん確かだ。それよりもうひとつ教えてくれ。この村でもっとも魔法に長けたやつは誰だ?」

「そりゃあ、領主のユースティア男爵家の誰かだろうけど」

「貴族というやつか。屋敷はどの方角だ?」

「村の北の外れだけど……」

 

 まさか行く気なのかと、視線で問いかけてくる。

 もちろん俺は行くつもりだった。

 貴族とやらの魔法の実力を直接たしかめないことには気がすまなかった。


「世話になった。では俺は行くぞ」

「いやちょっと、行ってどうするつも――」


 最後まで聞かず、俺はその場で跳躍した。

 ふたたび高度一〇〇メートルに達する。

 北の方角――あの屋敷だな。


 空中で方向転換して急降下する。

 俺は屋敷の正門の前に降り立った。


 たしかに貴族の屋敷というだけあって、村の住居よりは数段立派だ。

 敷地は無駄に広大で、見渡す限り塀に覆われている。

 屋敷は重厚なレンガ造りの三階建てだ。

 千年前ならアンティーク趣味の金持ちが好みそうな外観である。

「な、なんだ貴様は? いま空から降って……?」


 村人と同じようなセリフを口にしたのは、正門前に立っていた二人の門番だ。

 職業柄なのか体格はよく筋肉質で、身長も俺より一〇センチは高い。

 手にしているのは長槍。

 ただし魔装具ではなく、木製の柄に鉄の穂先をくっつけただけの、おそろしく原始的な武器だった。

 

「お前たちは――」


 魔力を探知。

 先ほどの村人と同レベルで微弱だ。


「どうやら貴族ではなさそうだな」

「なにを当たり前のことを。俺たちが平民なことくらい見ればわかるだろう」


 見れば? それは身なりや職業のことを言っているのだろうか。

「悪いがお前たちに用はない。魔法を使える貴族をだしてくれ」

「さっきから一体なんなんだ貴様は? いきなり現れて貴族に会わせろだと? そんな無理が通ると思っているのか」

「だいたい目的はなんだ? 貴様のようなどこの馬の骨ともつかないガキが、ユースティア家の方々に会ってなにをするつもりだ?」

「魔法の実力がどれほどのものか試してやろうと思ってな」

「はぁ? なにをわけのわからんことを言っている」


 二人の門番は小馬鹿にするように笑いあって、


「それで、一体どうやって魔法の実力を試すというんだ?」

「決まっている。俺も魔法を使って模擬戦をする」


 俺が言うと、相手は噴きだして大笑いした。


「こいつは傑作だ! 貴様は誇大妄想狂かなにかなのか!」

「平民がどうやって魔法を使うんだよ! 試しにやってみせてくれよ、なあ!」

「いいだろう」


 即答して、俺は真空斬セイバーを発動した。

 人差し指を横に振り、真空の刃を飛ばす。

 スパパッ。門番たちが持っていた槍の穂先が切り落とされた。


「な……えっ……!?」


 切断された槍を見て、ぽかんと口を開ける二人。


「な、なにをしたっ!?」

「俺たちの槍になにか細工をっ!?」


 彼らにとって、俺が魔法を使えることは受け入れがたい事実のようだ。

 

 どうにも解せない。

 この時代において、魔法に長けた血統が貴族を名乗っていることはまあ理解できなくもない。

 解せないのは、平民は魔法を使えないと決めてかかっていることだった。

 貴族が魔法を独占している、ということなのだろうか。


「うるさいな、なにを騒いでいるんだ」


 そのとき、屋敷の前庭から少年の声がひびいた。

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