第4話 でーと? その2
「うまいな」
「ですね〜」
俺達はあれから10分ほど歩いたところにあるラーメン屋で昼飯を食うことにした。
俺もモエもしょうゆラーメンだ。 なかなかうまい。
ただ一つ失敗してしまったことがある。
それはラーメン屋にシューマイが置いてなかったということだ。 よくよく考えてみれば俺にはラーメン屋でシューマイを食った記憶がない。 まぁ、モエも気にしてないみたいだし大丈夫だろう。
「あ、そうそう」
「はひ?」
ラーメンを口に入れた状態のままこっちを向くモエ。
「ああ悪い、先にそれ飲み込んでくれ」
「わかりまひは」
「いやだから早く食えって」
「ひゅいまひぇん」
「……」
こいつバカか?
どんどんと胸のあたりを叩き、口の中のものを無理矢理飲み込んだモエ。
「それで、どうしたんですか?」
はぁ、やっとか。
「あのさ、同い年だしその敬語はやめないか?」
そう言うとモエはきょとんとした顔になり、
「モエ、敬語になってますか?」
何を言ってるんだこの天然娘は…
俺は軽く呆れながら答える。
「ああ、なってる」
「ぅぅ〜、すいません…」
うつむきながら謝るモエ。
「それだそれ! ごめんでいいって」
なんか俺がいじめてるみたいだな。
「はい… じゃなくて… うん?」
「まぁ無理に直さなくてもいいけどな、それはそれでモエらしくていいかもしれないし」
急に変えろと言われても難しいだろうしな。
「モエらしい。 ですか?」
首をかしげながらこっちを見てくるモエ。
なんか、かわいいな。 って何を考えてるんだ俺は…
「ああ、雑な先輩と違って丁寧でモエらしいよ」
俺がそう言うとモエは顔を赤らめ、照れだした。
「えへへ〜」
なぜ照れる!? そんなに嬉しいことか?
ここで先輩からのメールを受信。
『死ね』
なぜ!? 何かしたか俺!?
「ぁの、顔色悪いですよ?」
心配そうに見つめてくるモエ。
「ぁ、いや、なんでもない! それよりそろそろ行こうか」
「はぃ〜」
ちなみに飯代は、先輩の指示で俺が払わされた。
まぁ別にいいんだけどな。 だいたい予想はしてたし。
そして俺達は店を出たあと、特にすることもなかったので近くにあるショッピングモールをぶらぶらすることにした。
途中、先輩から『手、つなぎなさい』とメールがきたが、もちろん無視することにした。
二人で並んで歩く姿は本当にカップルのようだ。 …だけど会話がない、気まずいな。 何とかして会話を生まないと。
そして俺はベタに、
「モエって好きな人とかいるのか?」
と自然に聞いてみた。
「へ!? ぃゃっ! ぁの、その…」
なぜかテンパるモエ。
あれ、変なこと聞いちまったか?
「ぁ、言いたくなかったら言わなくていいからな?」
「そ、そうじゃないんですよぅ〜 モエはシ、シュウ君、が… ぅぅ〜」
モエは顔を真っ赤にしながら下を向いてしまった。
やば、さすがに年頃の女の子に好きな人を聞くのはまずかったか。
とここでまたメールがきた。
『殺』
こわっ!? 恐いですって! 確かに今のは俺が悪かったですけど。
『そこじゃない』
へ? じゃあなんなんだ?
『自分で考えなさい』
何かしたかぁ…? 俺。
「ぁの…」
何のことか考えていると、モエが声をかけてきた。
「ん? どした?」
「楽しく…ないですか?」
モエは今にも泣きそうな顔で聞いてきた。
「そんなことないって! 楽しくなさそうだったか?」
「はぃ、なんか難しい顔してました…」
おっと、ついつい一人の世界に入ってしまってたな。
「わるい! ちょっと考え事をしてて」
両手を合わせ、少し頭を下げる。
「本当、ですかぁ?」
「ああ本当だ」
だからそんな目をうるうるさせないでくれ。
「なら、よかったです!」
ニコッと笑顔になるモエ。
「ぉう、お詫びに何かおごるよ。 何がいい?」
「い、いいですよそんなの!」
両手をブンブンしながら断るモエ。
「本当にいいのか? 遠慮しなくていいぞ?」
「ぁ、ぇと、じゃぁ…」
そう言いながらもじもじとするモエ。
「なんだ?」
『裸になって幼稚園に乗り込んでください!』
先輩は黙っててください。
俺は先輩からのメールに心の中でツッコミつつ、モエが口を開くのを待った。
「今度、今度シュウくんの家に遊びに行っていいですか?」
「いいけど、そんなのでいいのか?」
「はい! いいんです! それがいいんです!」
なぜか必死になるモエ。
「ならいいけど。 でも別に何もない普通の家だぞ?」
「いいんです! 楽しみに待ってますね!」
モエはなぜかとてもテンションが上がっている。
そんなに喜ばなくても… 何を想像したのか知らないけど、変にハードルを上げられてがっかりされても困るような…
〈らんらん らんらららんらんらん〉
とここでモエの電話が鳴る。
「あ、お姉ちゃんからだ」
なに、今度は何をするつもりだ?
「もしもし〜 うん。 そーなの? わかった〜」
電話を終え、携帯を閉じたモエに恐る恐る聞いてみる。
「先輩、何だって?」
「ちょっと緊急事態だから帰ってこいって」
「そ、そうか」
ってそれだけ、か?
「えっと、じゃあ…」
口ごもるモエの変わりに俺が一言。
「んじゃ帰るか」
「…うん!」
一瞬だけ悲しそうな顔を見せるモエ。
まだ遊び足りないのか?
そのあと俺はモエを家まで送り届け、自分の家に着いた頃にはもう日が半分沈んでいた。
にしても最後の電話、珍しく先輩が変なことを言わなかったな。
まぁ、それにこしたことはないんだが。
後日、先輩が『わかる乙女心!』とゆー本を俺に買ってくれたが、意味がわからなかったので、俺がこの本を読むことはなかった。