魔王
桜ちゃんの村に向けて出発してから約一時間程たった。
あともう少しで着くらしいけど、結構な距離、桜ちゃん誘拐されてたんだなぁ。
桜ちゃんに誘拐されたときの事を聞くと、村で歩いている時に不意打ちで袋に入れられたらしい。
でも、オーガの馬鹿力があれば袋ぐらい破れるんじゃ?と私が聞くと、桜ちゃんが入れられていた袋は、マジックアイテムという物の一種類だった。
袋の大きさで効果の強弱は変わるらしいが、人が一人入る程の袋ならば、オーガが全力を出しても破れないそうだ。
しかし、袋の外からは簡単に開閉ができるというアイテムらしい。
「桜ちゃん。 村に着くまでに、二つ程質問しても良いかな?」
「何でしょうか茜様。 私が知っている範囲であれば、何でもお聞き下さい。」
「じゃあ、遠慮なく。 まず一つ目の質問
。 魔族と魔物の違いは?」
「その質問の答えを伝える前にはまず、茜様が魔力について、知っておかなければなりません。 そもそも魔力とは、魔法や茜様の使っていた、記憶創造を起こす為のエネルギーとなるのが魔力です。
魔力が枯渇すると、茜様が体験された、気を失うなどが起こります。
それでも尚魔力を使おうとし続ければ、魔法は発動せず、発動したとしても暴走または暴発します。 他にも寿命を縮め、体、もしくは脳に甚大な影響が出る事もあります。
ここまでで分からないことはありますか?」
要は、魔力は魔法を使うエネルギーで魔力が尽きると気を失い、尽きているのにもかかわらず魔力を使おうとすると上手く魔法が発動しないうえに、寿命も縮めると。
「今の所は大丈夫だよ。」
「よかったです。 次は魔物と魔族の違いですが、魔力を元から持っているのか持っていないのかの違いです。 魔物は、初めは魔力を持っていません。 しかし、魔王領であるこの地には大気中に魔力が漂っています。 その大気中の魔力を吸って育った植物は魔力を帯びて育ちます。
その魔力を帯びた植物を動物が食べることで魔力が蓄積され魔物となるのです。」
「ちょっと待って。 魔物っていうのは、魔力を帯びた植物を食べて、魔力を蓄積させた動物だって事はわかったんだけど、それじゃあ、魔物は植物しか食べないの?」
「いいえ。 植物を食べて魔物となった魔物を食べ、魔物となる肉食の魔物もいます。」
「オッケー ありがとう。 次に、魔族について教えて。」
「畏まりました。 魔族は魔物と違い生まれた時から、種族によって一定の魔力を持って生まれます。 個人によって多い少ないは異なりますし、その後の成長具合も異なります。」
「じゃあ、ゴブリンはどうなの?」
「ゴブリンは一様、魔族とされているのですが、知能があまりにも低い為にオーガと同じ他の魔族は、ゴブリンを魔族とは認めてはいません。」
「あれ? でも、桜ちゃんを誘拐してたおじさん達は、私の事を魔物め!って言ってたよ?」
「それはですね。 ゴブリンを一様、魔族としているのは魔王レオ様がおっしゃられたからなのです。 しかし、人間はゴブリンを魔物としている為、ゴブリンから進化したオーガを魔物と呼ぶのです。」
「質問その二、魔王レオ様ってどんな魔王なの?」
「レオ様は剣と魔法どちらも、優れた人でとてもお優し方です。 人間達に命を狙われているというのに魔王領の魔族の村に出向き、戦闘の手ほどきをしていただいたり、小さな子供達と遊んだりと、とても良い君主だと思っています。」
「何故、命を狙われてるの?」
「何故と言われると、魔王という存在になってしまったという事だけで命を狙われてるのです。 この世界では二十年に一度、魔族で五人の者の手にある紋章が浮かび上がります。 その五人の内、一人は魔王様が選ぶ事ができます。 自分を選ぶ時もあれば、信用に足るものを指名する事が出来ます。 後の四人は種族の族長が選ばれます。 現魔王のレオ様は、前の魔王様より指名され、もうすでに百年ほど魔王となられています。」
「でも、どうやって魔王を決めているの? 五人選ばれたから、五人とも魔王になるの?」
「いいえ。 魔王は必ず一人に決めなければなりません。」
「なら、どうやってその五人の中から一人を選ぶの?」
「それは、時代によって異なります。 四人が戦って勝ったものが魔王になる事があったそうです。 しかし、レオ様が魔王になってからは、話し合いで魔王を決めています。 皆、レオ様を慕っているので争うことをしたくないのです。 」
「この世界… いや、レオ様は百年近く魔王をやっていると、桜ちゃん言っているけど、人間がレオ様を殺そうと挑んで来なかったの? 例えば、勇者とかいないの?」
「茜様。 勇者の事を知っていらっしゃったのですか。 はい。 何度も攻めてきました。 しかし、レオ様は魔族の事も人間の事も考えていらっしゃいます。 なのでわざと長期戦をし、人間の士気を下げ、食糧を減らし、争いをしにくくしました。 そんな事をしている間に人間が争いを仕掛ける事がすっかり無くなり、今では争いすらありません。」
「成る程。 是非ともレオ様にお会いしたいものです。」
「あっ! そういえば。 後三日程経てば、レオ様がオーガの村にいらっしゃいますよ。 もしかしたら、お話できるかもしれませんね。」