お願い
「へぇ。桜って言うんだね。 私の名前は茜だよ。 よろしくかな?」
「はい。 よろしくお願いします。 あの。 助けて頂いてその上、お願いとは自分でも失礼だと思っていますが、聞いて頂けないでしょうか。」
「内容によるよ。 とりあえず、聞くのは聞くよ。」
「それでは。 どうか、私のいた村に来て頂きたいのです。」
「それは、どうして?」
私、闘技場の中に入るのは躊躇ってしまうけど離れたく無いしな。
私がいない間に、闘技場の中に誰かが入るのは嫌だしなー
どうしようか。
「私は、これでもオーガの次期当主でして。 そんな私が、人間に捕まってしまい、茜さんに助けて頂いたのですから、感謝したいのです。」
「感謝なんていいのに。 気にしないでいいよ。」
「もう一つ、理由があります。 私を助けたのがオーガだとすると、ここまで多くのオーガが訪ね、迷惑になると思ったからです。」
「成る程ね。 ここに来られると確かに迷惑なんだよねー」
「はい。 なので茜様に村に来て頂きたいのです。」
「桜ちゃんの言う事は分かったよ。 でもごめんね。 私の背後に建っているこの闘技場から離れたく無いんだよ。」
この闘技場の中のクラスメイトの血の臭いで魔物が来ないとも限らないし。
やっぱり、闘技場から離れられないね。
「そうですか。 一度私が村に帰って、警備隊を連れてきて守らすのもダメなんでしょうね。」
桜ちゃんが苦笑いをしながらそう言ってるのを見ると美少女を困らせているという罪悪感から心が押し潰されそうだよ。
「この闘技場は、自分で守りたいんだ。 誰も近寄らなきゃ、桜ちゃんと一緒に桜ちゃんの村に行けるんだけどね。」
誰も近寄らなきゃ?
なら近寄らさせなけばいいんじゃ?
記憶創造で出来るじゃん!
「桜ちゃん。 やっぱり行けるかも知れない。」
「本当ですか!」
「でも、出発は明日でもいい?」
「もちろんです! でも、闘技場はどうするのですか?」
「多分、今からしようとしている事をすると、今日一日もう動けないと思う。 から私の事、任せてもいい?」
「茜様の事をですか? よく分からないですが、頑張ります!」
「ありがとう。」
記憶創造で魔力を使って現象を起こすと必ず、身体の力が抜ける。
今までは、魔力を全て使い切った事は無い。
足りないと言われた事はあるけど…
けど、今から私は、全部の魔力を使って闘技場全体を結晶化させる創造をするから、身体の力が抜けるでは、すまないと思う。
気を失うのが私の予想だ。
けど、成功させる事ができたら自分以外の何者も闘技場に指一本触れる事も出来ない様にできる。
ついでに、空気ごと結晶にするのでクラスメイトの血痕が乾く事も無いだろう。
正しく現象維持と言える。
桜ちゃんを信じてない訳ではないが、魔法だと勘違いしてもらう為に雰囲気を出してやろうかな。
「記憶創造展開!」
私は、そういうと闘技場全てが私以外に決して解く事が出来ない結晶になるという想像をした。
【想像を確認。 ユニークスキル記憶創造を実行します。】
闘技場が結晶の中に入って、星の光が反射している光景が落ちていく意識の合間に見えた。
うっ、身体に力が入らない。
まさかここまで力が抜けるとはね。
やっとの思いで目を開けると、真っ暗だった。
あれ? 真っ暗って事は、そんなに時間経って無いのかな?
なんて、思っていると桜が焚き火でうさぎのような魔物を5匹程焼いていた。
「桜ちゃん? 私、どのくらい寝てた?」
「茜様! 起きられたんですね! 良かったです。 茜様は、丸一日寝ておられました。 それにしてもあんな大きな魔法を使って、丸一日で目を覚ますなんて。」
「丸一日も寝てたの!? 桜ちゃん。 ごめんね。 今日、村に行く予定だったのに。」
「いえいえ、村には手紙を飛ばしておきましたので。 夕食をお食べ下さい。 話は、それからです。」
「ところで、何で全部うさぎなの?」
私は、うさぎの魔物と言うのが面倒になったのでもう、うさぎと呼んだ。
「えっ! 茜様が好きなのかと思って、ポポロを狩っておきましたのに。」
「そうなの! とりあえず、ありがとう。」
うさぎは、ポポロって言うんだ…
スルーしてくれて良かった。
「昨日、茜様が倒れられてから焚き火の近くで寝た方が体調崩さないと思い、焚き火の元へ運んでいくと丸焦げのポポロがあったので、てっきり…」
「確かに、ポポロを食べようとしてたよ。 私の為にありがとうね。 桜ちゃん。」
私がそう桜ちゃんに言うと、桜ちゃんは、顔を赤く染めていた。
風邪でもひいたのかな?
「大丈夫?」
「何がですか! さぁ早く食べて、もう一度ゆっくり寝て下さい! まだ本調子ではないのでしょう? ゆっくりと休んで下さい。」
「あ ありがとう。 優しいね。 桜ちゃんは。」
私はポポロを食べた後、桜ちゃんに言われるままに眠りについた。
桜ちゃんが麻袋と戦ってる時、助けてあげるべきだったかな。
反省反省。
「おはよう。 桜ちゃん。」
「おはようございます。 茜様。ところで、いつ出発致しますか?」
「手紙を飛ばしても桜ちゃんを心配してるだろうし、もう行こうか。 村は、どっち?」
なんとなくだけど、魔力が半分ぐらいまで回復している様な気がする。
でも、感覚的には進化した時と変わらない。
勝手な憶測だけど、魔力の量が倍に増えたんじゃないかな?
そんな事を考えながら私は、桜ちゃんの村に歩き出していた…
「ちょっとお待ち下さい!」
「何? そんな、大きな声を出して。」
「何? では無いですよ。 その服装で行くのですか?」
「だって、これ以外に無いし。 おじさんの死体がつけてる服だって、私のせいでお腹のあたりに大きな穴が開いてるし。」
「昨日の間に作っておきました。 これを着て下さい。」
桜ちゃんから、黒をベースとしていて、桃色と白色の椿が描かれた和服を貰った。
「これ、桜ちゃんが作ったの?」
そういえば、今更だけど桜ちゃんの服装は、和服の様だ。
桜ちゃん自身が可愛いから、正に大和撫子といった感じだ。
っと脱線してしまった。
「はい。 私の村の人達はこの様な、服装ですから。」
「ありがとう。 嬉しいよ。」
あっ… 今気づいたけど…
記憶創造で、服も作れば良かったんじゃ…
まぁ終わりよければすべて良しだ。
おかげで桜ちゃん手作りの和服もらえたじゃ無いか。
気にしない気にしない。
「出来れば、下駄も作れれば良かったのですが… もしくは、私の下駄を貸せれば…」
「攫われた時に落としちゃったの?」
だから足袋だけだったのか。
早く気づけよ、私!
桜ちゃんが足袋だけな訳ないじゃないか。
「はい。 お陰で………いいですけど。」
「何て? 聞こえなかった。」
「何でもありません。 何でもありません。」
「そう? 何か言ってたような。 まぁいいや。 服のお礼に下駄をプレゼントするよ。 桜ちゃんにぴったりの奴。」
「どうするのですか?」
「こうやってだよ。」
私は、桜の絵入った下駄と桜ちゃんの手作りの和服に似合う私の下駄も記憶創造で創造した。
「はい。 これが桜ちゃんの下駄。 この絵は桜ちゃんと同じ、桜っていう木なんだよ。」
「ありがとうございます。 宝物にさせて頂きます。 履くのが勿体無いですね。」
「いやいや、履かないと、桜ちゃんの足が汚れちゃうじゃない。」
「いいんですよ。 私の足が汚れるより、この下駄が汚れるのが勿体無いと思いますし。」
「桜ちゃん。 履きなさい。 別のまた作ってあげるから。」
「分かりました。」
「じゃあ、桜ちゃんの村に行きましょうか。」