出逢い
あの悪夢のような日から一日が経過した。
私は、闘技場を拠点とし辺りを探索していた。
闘技場を拠点としてと言っても中には、入っていない。
何故なら、クラスメイト達の血痕やアイテムを見るたびに心と言えばいいのか、ガタガタと勢いよく崩れていってしまう様な感覚に陥っていたから。
とにかく、今日一日中探索をしていてわかった事は、この闘技場は、大分昔に使われていたという事。
今は夜であまり見えないが、理由は、罅が至る所に入っていて、観客席には巨大生物が投げつけられたかの様な大きな窪みがあったから。
今日は、闘技場を中心として、約半径1キロメートルほどの円を描く様に探索してみたが、数匹のうさぎの様な魔物っていうのかな?
そのうさぎの魔物が5、6匹ぐらいしかいなかった。
私自身はというと、凄くお腹が空いている事と角の事、あと凄い馬鹿力、髪の色、が違うくらいで日本での時と変わらない。
自分で考えてほとんど違うじゃんと、思ったけど、そこは見ないふり。
自慢ではないけど、私は学校で凄くモテたらしいよ。
私のどこが可愛いのかは分からないけど、綾人が言ってた。
「茜は、可愛いからみんなが狙ってたんだよ。」
だってさ。
確かに学校で同じ学年の女の子達から、イケメンだのクールだの噂されていた先輩から、体育館の裏手で告白されたりもした。
けど上から目線というか高圧的というか、私が断ることも考えていない。
そんな告白の仕方だった。
「お前、俺の彼女にしてやる。」
だっけ?
告られて二、三秒、止まってしまった。
その先輩の告白を振って、足早に体育館裏から逃げ、先輩の姿が見えなくなったところで笑いを我慢できなかった。
まぁ日本での話はこれくらいにして、今は、今日狩ったうさぎの魔物を焚き火の火で焼いている
それにしても、今の私の服装は、とても恥ずかしいものだと思うな。
ゴブリンの時から着ていたワンピースの様な布切れを上と下とに破り分けて巻いているだけだからね。
当然、布も足りなくなるよ。
進化して、小学校低学年ぐらいだった身長が一気に170センチくらいまで伸びたんだからね。
角は、昼に観客席を探索してた時に見つけたバンダナの様な物をつけている。
つまり、第三者から見ると美人が際どい格好で焚き火をしているという絵面になるのかな?
誰もいないからって自分の事を美人とかいうのは、どうなんだろうか…
でも、布が無いから、我慢しないといけないだよね。
「お前ら。 ……だろうが。」
そんな事を考えてると、森の方からそんな声が聞こえた。
声がした方を見てみると、私が焚いているのとは、違う火の明かりが見える。
こっそり見に行って見ようかなー、なんて考えてると、向こうからやってきた。
「おっ! こんなところに女がいるぞ!」
三人組のおじさんが出てきた。
その先頭のおじさんが三人組のリーダーだと思う。
おじさん達は、いかにもゲームとかで出てきそうな、冒険者という格好をしている。
腰に剣をぶら下げ、鎖帷子の様な装備を付けている。
それにしても、見られてるだけで、こんな嫌悪感を抱いたのは初めてだよ。
ニマァと嫌らしい笑みを浮かべながら私を見ている。
背後の二人も同様に。
「お嬢さん。 俺たちについて来ちゃくれねぇか?」
「嫌です。」
こんなおじさんについていっても何もいいことなんて無いしね。
そんな事を思ってもう一度、三人組をみると背後の二人が引きずりながら持っていた、麻袋の様な袋が動いた。
大きさ的に、人でも入っていそうな袋だ。
人?
まさか、人では無いよね?
「んっ… た…す…けて…」
「おい! ディン! バート!オーガの群れから命懸けで盗んできた、嬢ちゃんが暴れて、傷付かない様にしておけ! 傷付いたら商品にならないじゃねぇか。」
盗んできたって事は、イコール連れ去ってきたって事だよね。
じゃあ、さっきディンって呼ばれたおじさんもバートっておじさんもリーダーぽいおじさんも、全員悪い人なんだね。
良かった。
人間を辞めるとは言ったけど、あんまり関係の無い人とか、良い人は殺したく無かったんだよね。
「おじさん。 最後に聞きたいんだけど、どの辺に人間の街があるの?」
「はぁ? そんなのそこら中にあるじゃねぇか。 人間? 嬢ちゃん変わってるな。 嬢ちゃんも人間なのに…」
「ごめんね。 おじさん。 私、人間じゃ無いんだよ。 おじさんが誘拐した、オーガと同じだよ。」
私は、そう言うとバンダナを静かに取った。
私がバンダナを取るとさっきまで余裕そうな顔をしていた、おじさん達が腰につけていた剣を抜き放った。
「そんなに、ビビらなくて良いじゃない。」
「騙したな! この魔物め! 仲間を取り返しに来たのか!」
なんか、おじさん達が勘違いしてるけどまぁ良いや。
サクッとやっちゃおう。
私は、おじさん達が土の槍で貫かれるところを想像した。
【記憶創造を実行します。】
「馬鹿な…」
「魔力感知が追いつかなかった…」
「ぐはぁ!」
なんて三人ともバラバラな言葉を残しながらも死んでいった。
まぁ殺したの私だけどね。
誘拐されていたオーガ?は、まだおじさん達が死んだのを知らないから、必死で暴れている。
少し面白いから見ていよう。
10分後、勝負がついた。
麻袋の方ではなく、オーガの女の子の方が負けた。
動きが止まってなんの面白味もないから、袋から出してあげようか。
案の定、袋の口を開くとはぁはぁはぁ凄く息切れをしている、美少女がいた。
彼女は私に気づき、初めは怯えながら戦おうとしていた。
そんな、息も絶え絶えでどうやって戦うつもりなのだろうか…
「貴女は、私を誘拐した人達の仲間ですか!!」
怒鳴る様に彼女がそう言ってきた。
まぁ警戒されたままだと話も出来ないから安心さしてあげよう。
「貴女を誘拐したのは、そこに寝っ転がってる人達だよ。 多分ね。」
彼女は、おじさん達の死体を見て、息切れで真っ赤な顔だったのが、青くなっていった。
それが普通の反応だよね。やっぱり。
私は、死体を見てもなんとも思わなくなった。
多分、というか闘技場での事件のせいだ。
「貴女がこれをやったのですか?」
「まぁね。 今度は、私が質問する番。 オーガってゴブリンから進化するものじゃ無いの? ゴブリンから進化しているなら、貴女は若すぎない?」
私は、彼女を見て一番初めにその質問が浮かんだ。
理由は、彼女が中学生ぐらいの見た目をしていたからと、私は、あんな事があったから進化できたけど、普通死んでしまうよね。
と思って質問したのに、彼女はキョトンとしている。
「貴女は、ゴブリンから進化してオーガになったのですか? 珍しいですね。」
「質問してるの私なんだけど…」
「ごめんなさい。 私は、産まれた時からオーガだったのです。 元々、オーガが生まれたのはゴブリンからなのですが、それは先代だけなのです。 オーガとオーガの子供はゴブリンにはならず、オーガとして産まれるのです。」
「そうなんだ。 だから私が珍しいって事なんだ。」
じゃあ、ゴブリンとオーガは別の種族って事だね。
だって、先代さんしか、ゴブリンからオーガになって無いからね。
って事はゴブリンは、力をつけたらゴブリンソルジャーになるんだね。
魔物?って不思議だ。
「申し遅れました。 私を助けて頂いたのに名前も教えずに。 私の名前は、桜といいます。」
あれ?
魔物?の方が日本人の名前ぽいのかな?