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昔書いたやつ

ハードボイルド、俺

作者: 粟家 大三治

ボスからの指令の吹き込まれた

テープが届いた。


この世界に身を置く者として

仕事の失敗、それは

報酬が得られない、程度の話ではなく

即、自らの死を意味する。


俺のように

組織の裏の仕事を

引き受けている人間にとっては

当たり前の話だ。

俺はこれまで

明るみに出れば

組織が壊滅してしまいかねないレベルの

やばい橋をいくつも渡ってきた。

だからこその

いわゆる口封じ、

というやつだ。



組織の指令通りに

がむしゃらに働いてきた俺は、

ついに去年、殺し屋部門で

年間ボス賞

の栄誉に輝いた。

副賞として

“組織ナンバーワン殺し屋”

の称号を得、

組織の新人殺し屋の

研修担当の大役を仰せつかり、

さらには

組織の殺し屋組合においても

理事の一人に大抜擢されたりした。

いわば殺しのベテランだ。


そんな俺でも、

指令を聞きおわるその瞬間までは

毎回緊張してしまう。


今回の指令は

いつもと変わらないもので、

俺にとっては

至極簡単な内容だった。

ターゲットがこの街から出る前に

確実に息の根を止めること。



ただ、いつもと違っていたのは

テープの最後の部分だった。


今回もいつものように

ボスの声で

「なお、このテープは自動的に消滅する」

といったというのに、

なかなかテープが消えないのだ。


密かに、テープが消える瞬間を

俺はいつも楽しみにしていた。

どういう仕掛けかはわからないが

突然テープがぱっと消える。

それが面白くて面白くて。


しかし今回はそれが起こらない。

俺はテープを巻き戻し

再び再生してみたりもしたのだが、

やはりテープは消えない。

もう、気になって気になって

およそ考えられうる全ての手段を用いて

テープを消そうと躍起になった。



数日後、

俺はアジアのとある町にいた。

この世界は信用が全て。

失う時には全てを失う。


はじめて仕事を失敗した俺は

組織の刺客から身を隠すために

この町にやってきた。

まさか

テープをいじくって遊んでいるうちに

ターゲットが街を出てしまった

とは言えない。


かたゆで卵を食べながら

俺はカバンに目をやる。

そこには

まだ消えることのない

一本のテープが入ったままだ。

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