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第一章 黒髪のサムライ、蒼い瞳の皇女と出会う

   1 ユグドラシルの門


 世界の中心、ユグドラシルロットにその学園は存在する。

 正確に言えば、ユグドラシルロットこそは学園その物である。

 それは世界最大の学園都市。

 大星樹連盟政府に加盟する各国の貴族階級に所属する少女たちが集う、戦巫女の学び舎。

 加盟する各国は一名以上をこの学園に常時所属させる事を義務付けられる。

 遥か東方界の大倭の国より来た、ぬばたまの髪を持つ『彼女』もまた、国より派遣された高貴の姫君。


 ………でなければならないのだが。


(無理だ。絶対に無理だ)

 スオウ・カグラは門の前で溜め息をつく。

 大倭で普及している武門の修練服と言う物は、袴の色以外は男子女子に大きな違いは無いので余り違和感は無いのだが、盛り上げた胸と巻いたサラシにはまだ慣れない。下に赤襦袢を着て上に羽織を重ねて、武家の簡易正装にしてある。合わせは女前だ。

 それにしても、疑似乳のような物を用意しておく辺り、姉は遥か以前からこの暴挙の準備をしていた事になる。カグラは女性の胸を触った記憶は無いのだが、それでも柔らかさと弾力を兼ね備えるこれの出来が良い物だと言う事が分かる。

 何処で、何を使ってこんな物を作り上げたのか、全く予想が付かない。

(何を考えているのか、あの人は)

 考えても無駄と言う事はすでに学習しているが、それでも理不尽な事に嘆く権利はある。

(………まさか、とは思うが。まさか自分用に開発していた、なんて事は)

 恐ろしい想像をしてしまい、すぐにそれを心の闇の底に沈めてしまう。

 これ以上は危険だ。気付かなかった事にするのが一番だ。別の方に意識を向ける事にする。

 荷物の中に入っていた何着かの着物は徹頭徹尾女物。褌まで女性用だった。

 情けなのか餞別代りなのか、姉のお下がりの晴着も用意されているが、着る気は全く起きない。

 見上げれば、巨大な建築物が視界を埋める。

 その名も『ユグドラシルの門』。


 さて、ここを訪れた者は大体カグラのような顔をする。これが『校門』だと言われた人間は、まずその全容を疑うのだ。

 港をすっぽりと囲む壁と据え付けられた屋敷のような建物はどう考えても砦とかそう言う類の物だ。しかし、ここには見回りらしき兵はいない。

(寺子屋とは比べ物にならないな。都の学問所よりも大きいのに、これがただの『門』。

………それに、やっぱり大倭の家屋とは造りが違うな。石を多く使っている。お城みたいだ)

 ここが出入国管理局を兼ねている。

 ここまではまだ大丈夫。しかし、ここに一歩踏み込めばもう言い訳はできない。ここから先は全世界級の男子禁制区なのだ。

 姉にボコボコにされ意識を失い、その間に上から下から褌まで女物を着せられ、荷物と共に船の一等室に押し込まれ、気が付いた時はもうどうしようもない場所に来ていた。

 その気が無かったのに国を出てしまった事はもちろん、ここでは男である事も明かせないと言う、カグラの人生の中でも最大級の危機だった。

 しかし、ここまではまだいい。まだ何かの間違いだと言える。

 くるりと回れ右をして帰りの船に乗れば良い。

 でも。帰る旅費が無い。

 おそらく意図的に財布の中に金銭が無いのだ。あの姉は無一文で弟を異界行きの船に押し込んだわけだ。どんな鬼だろう?

(そもそも大倭の貨幣は使えない、としても黄金くらいなら………)

 そもそもここには滅多に船が来ない。物資専門の貨物船以外となると、かなり少なくなる。しかも貨物船に乗り込むのはかなり難しいらしい。場所が場所だから密入航にはおそろしく厳しいのだ。行きの船の中でそれとなく話を聞いたので知っている。

 荷物の中にある晴着を売れば金になるかもしれない。

 ただし。この晴着はカグラの記憶に間違いがなければ姉のお気に入りだった物である。

 大倭は着物を大事にして長く使う。子に譲り孫に譲る事もある。

 それを売ったとなればどう言う反応が返って来るか分からない。いや、分からないと言うか分かりたくないと言うか。迂闊に手を出す事もできない。

 ………あの地上最強の生物は、そんな所まで策士なのである。非常識なくせに。

「ねえキミ。そんな所で立っていないで、こちらに来て貰えるかな?」

「は、はいっ?」

 横から声がかけられたので驚いてそちらに視線を向ける。

 大倭では子供でも考えられないほど髪を短くした少女が、建物の扉の前でこちらを手招きしている。

 髪の色は赤く、瞳の色も赤茶に近い。

 年齢はよく分からないが、カグラとほぼ同じ背の高さと女性的な発育具合からしてカグラよりも二つ三つ年上ではないかと思われる。もっとも外津国の人間の背は大倭よりも高いので正確には測れない。

(姉上よりも大きいみたいだし………って、私は何を考えているんだ!)

 服も大倭では子供が着るような裾丈の服。太股が半分露わになって目のやり場に困る。足元は大倭ではあまり見ない踝まで覆う革の靴だ。

 とは言え、呼ばれた以上は行かなければならない。動かなければ不審に思われてしまう。

 ここで逃げたら即不審者決定。もう覚悟を決めるしかないのか。

(………腹を据えよう。武門の者は常在戦場の覚悟ではないか)

 武門の家に生まれた以上、何処でも何時でもいくさの場だ。

 もし不覚を取れば一命を以て償うのみ。

 心の中で諸行無常の涙を流し切り、悲痛な覚悟を決めたカグラは一回だけ深呼吸すると、少女の方に歩み寄った。

「ボクはリンスリッド・セブンスターズ。学園星女会の者だよ。東方界の大倭国からの姫君で間違いは無いよね。迎えに来たよ」

「あ、はい。スオウ・カグラと申します。よ、よろしくお願いします」

 深々と頭を下げるカグラに、少女は少し驚いた顔をする。

「あ、もしかして、それが大倭流の挨拶、だったりするのかな?」

「え、ええまあ。おかしかったですか?」

「こっちでは人に頭を下げるのは非を認めたり自分を相手の下に置く行為だからね。他の国の文化を否定したり、こっちの倣いを押し付けたりする訳じゃないけど、迂闊に頭を下げるのは止めた方が良いね。国を代表するのだから特に立ち居振る舞いには気を付けないと」

「そうなのですか?」

 国が違えば文化も違う。まして大倭は長く続いた鎖界政策で、外津国と交流を制限していた歴史がある。言葉の方は何とかなるが、他国の知識に関してはかなり疎い。まして習俗となるとまるでお手上げだ。

「うん。ここには色々な連中が集まっている。それも嫌になる程気位が高い人たちばかりでね。そんな中で交流するには、自分の立ち位置を貶めるかもしれない行為は慎んで欲しいね。文化の違いだと分かっている人もいるけど、その辺を学びもせずにそう言う態度を見て調子に乗る奴も居るしさ。他の国の事を理解せず自分たちの流儀を押し付ける自己中な連中だっているんだよ」

 決して軽くは無い内容の話を彼女はあっけらかんと話す。

 少なくとも少女のそんな態度にカグラは安心する。彼女は遠い異国から来たカグラに対して襟を開いて話をしてくれたのだ。

「なるほど。ご助言に感謝します」

 今度は言葉で謝意を伝える。

「どういたしまして。で、キミの荷物はそれだけ?」

「ええ、多くは持って来ていませんが」

 持ってくるも何も姉に与えられた物のみだ。それも背に中くらいの行李を一つ背負っているだけ。

 他は左の腰に差した大小の刀。この二振りはつい先日、元服時に授かったカグラの愛刀だ。もっとも、特に銘は無い簡素な造りの刀である。鞘も鐔も最低限の意匠しか入っていない。代わりに中身は数打ちの刀など足元にも及ばない時代錯誤の戦場刀だ。

 自らを武門と呼ぶスオウ家らしい質実剛健の選択だった。

 リンスリッドと二人で横に並んで建物の中に入る。

「立派な建物ですね」

「立派って言うか、物騒って言うか。ボクたちの中じゃ牢獄みたいって言うのが結構多いね。実際に見た事や入った事は無い人ばっかりなんだけどね。暇な分、耳年増って言うか」

御牢おろう、ですか。それはそうでしょうね」

 意外と思うかもしれないが、牢獄や監獄と呼ばれる場所は、本来ある程度の身分がある人物や政治犯などが収監されるのである。身分が低い場合はと言うと、即処刑が基本。

 実のところ、カグラの故郷である大倭でも牢屋はそれほど広くは無い。同様に即処刑か、もしくは牢内での事故死だからである。牢死率はかなり高い。

 中に入ってすぐのホールがそのまま入国手続きの部屋になっていた。

 三つある窓口にはそれぞれ数人の列が並んでいる。しかし、並んでいるのは学生には見えない人物ばかりだ。

「学園の関係者、と言う感じもしませんが」

「基本的には学生以外は入れないんだけど、物を搬入する業者なんかがいるからね。なんてったって、ここには生産力がほとんど無い。正確には生産的な人間が居ないのね。そのくせ物を求める人間は山ほど居るから」

 商売が成立する。

「なるほど」

「でもキミは大丈夫? それっぽっちの荷物しか持たない姫なんて初めて見たよ。一人だし」

「充分だと思いますが」

 そのまま入国手続きをする為に人が並ぶ列の最後尾に付こうとすると、リンスリッドがカグラの袖を掴んで引き止めた。

「そっちじゃないよ。こっちこっち」

「そうなのですか?」

「うん。そっちは一般用だから」

 カグラに内心焦りが出てきた。

(………よく考えていなかったけれど、か、身体を調べられたりするのではないだろうか?)

 背中に嫌な汗が流れる。

 案内されたのはホールの隣。幅、高さともに明らかに大きさの違う通路だった。おそらく馬車くらいなら悠々と通れるだろう。扉がある事ので外からも通じているようだが、てっきり大荷物を通す通路だと思ったほどだ。

「手形はある? 国元発行の」

「はい。ここに」

「じゃあそれをそっちの人に見せて」

 言われるままに通路に立つ女性係官に見せると、それだけで通行の許可があっさりと下りた。

 そのまま広い通路を並んで歩く。

「あの、これでいいのですか? もう少し何かしら検査を受けるのかと思いましたが?」

「あっはっは。だってキミ、言ってみれば大使だよ? ちょっと意味は違うけど、立場的には国賓じゃん。懐窺う訳にはいかないでしょう。まして身体検査なんて無理無理。誰がやるのさ、そんなヤバイ事」

 言われてみれば、確かに極めて政治的な問題である。

「なるほど。そう言えば、世の中には婚姻前に肌を見せる事を良しとしない方々もいるとか」

 上流の女性とは大抵そう言う物だ。

「そうそう。いるいる。でも、カグラちゃんだっけ? 君は脱がせてみたいけどネ」

「………はい?」

 不適当な発言に足が止まる。

「いや、国際問題にはしないでね。だってそんな闇みたいに綺麗な黒髪、どこにも無いしさ。手入れもきちんとして艶々だし、肌は白いし、手足は細いし、顔は可愛いし」

 妖しげな言動に背が震える。

「………そっ、そのお、リンスリッド殿はその、女子同士でゴニョゴニョするケがあるのでしょうか?」

 身体検査の脅威から解放されたかと思ったら、別の方向から奇襲されたような感じだ。無論そんな事をされたら一発でおしまいである。

「え、ボクには無いけど? でも君がそれくらい魅力的だって事だよ。コロッと行っちゃいそうだね。凛々しいのに柔らかそう」

「み、魅力的、ですか」

「才能もあるみたいだしねえ。ほら、ボクたちはきちんと会話している。『言霊秘術バベルコード』だね」

 当然ながら大倭と各国では言葉が違う。そこで使用されるのが言語を統一する『言霊秘術』と呼ばれる秘術だった。簡単に言えば呪力で無理矢理言葉を習得するのである。これを習得できるだけの力を持っている事が派遣される戦巫女の第一条件と言ってもいい。

「まあ、目立つ事は間違い無いよ。ただでさえ東方界の果て。大航界時代でも上陸できなかった奇跡の島国の事は学園でも大きな話題だって言うのに。キミときたら想像してた以上に綺麗なんだよ」

「き、綺麗ですか?」

 男子への褒め言葉ではないが。カグラもよく「かわいい」と呼ばれていたがそれとは少々趣が異なる。

「ああ、髪も瞳もそう。ああ、まるで闇の女神が与えたような黒。服も面白いね。どこか直線的で鋭さがある。キミの纏う雰囲気に良く似合ってる」

 女神云々と言う所に反応して顔が赤くなった。照れていると言うよりは恥辱の方が勝っている。

「そう言われましても。大倭ではこれが普通なのですが。髪や目で言うのならリンスリッド殿もお綺麗かと」

 近くで見ると、炎を思わせるような赤毛が見事な色合いである事に気付かされる。

 大倭の陶芸家好みの色合いだ。一見派手だが、どこか侘び寂びの心に通じる艶がある。

「ここでのレア度で言えばボクは並だね。カグラちゃんは星五つ。

 だから注意した方がいいよ。目立つって言う事は良い事ばかりじゃない。ボクは違うけど、さっきカグラちゃんが言ったような女の子同士で興味を持っちゃう娘もいるし、中にはさっき言ったように勘違いしている娘もいる。そう言う事を知っているのと知らないとでは行動行為に差が出るからね」

 ようやく、カグラはリンスリッドが生活における注意事項を述べているのだと言う事に気が付いた。

 ここはおそらく他の国々にとっても異質な場所。そこで共同生活するには注意事項は幾らでもあると言う事だ。統一した法など造れる筈が無い。本人同士が自覚しなければとても秩序が成り立たない。

「この通路もさ。広いと思うでしょう?」

「広いですね。大きな荷車でも通れそうです」

「通れるだろうねえ。屋敷を運び込んだ通路だもん」

「や、屋敷いッ?」

 想像以上の回答に唖然となる。

「屋敷とは………人の住む大きな家、と言う事ですよね?」

「そうですよ? いや、さすがに屋敷を物置にする為に運び込むバカはいないと………思うんだけど………やりそうなのは居るんだよねえ」

 唖然とする。

 そもそもカグラの家は名門の本家だけあってそれなりの敷地と建物を所有しているが、それでも想像のつかない話だった。まあ、そもそも家を移築する、と言う発想があんまり無いのだが。

「何て言うか、身分の凄く高い人ってのは何でか知らないけど荷物が多くてさー。解体して国元から運んだとは言え、屋敷を運び込んだバカはその極め付けだねえ。だって貨物船丸々一隻使ってだもん」

「バカって………偉い人なんじゃないですか?」

「所詮別の国だしねえ。ただバカな皇族を頭に置いている国が不憫なだけかな。逆にカグラちゃんは荷物少ないみたいだけど………って言うか、繰り返すけどさ。本当に幾らなんでも少な過ぎないかい?」

「いや、まあ、私は武家なので最低限の着る物と大小があれば」

「おおー。大倭の姫はそんな感じなのかぁ。質実剛健、って感じ?」

 実際、カグラの姉はそんな感じである。まあ粗暴とか腕力主義とかそう言う言葉も付いてくるのだが。

 そのくせ、茶や琴や生け花などの習い事に関しても頭抜けている。外見も美しい大輪の華のようだ。

 おそらく、あれは超天才と言う別種の生き物なのだろう。できれば天上なり地獄なり、それに相応しい場所に居るべきだと思う。

「私は姫と言われるほど地位が高い訳ではありません。私は御皇族でも大将軍家でも摂関家でもありませんから」

「ふんふん。聞いた話によると、君主と軍の総帥と大貴族、って事かな。でも、ここだと逆にレアな話だけどねえ。ここは上流階級の方が圧倒的に多いから。ややこしい事にならなきゃいいけど。さーて、出口が見えてきました」

 物騒な単語を聞き流しつつ前を見ると、なるほど出口らしき扉が近付いてきた。

「………結構歩きましたね」

 建物の中なのに、だ。歩で測った限りでは、軽く長屋二棟は幅がある事になる。

 リンスリッドはそんなカグラの疑問に笑って答えた。

「そりゃそうよ。普通に抜けるなら書類検査やら荷物検査やら身体検査やら、その分のスペースと係員の部屋がある訳でさ。

 ちなみに、ヘタするとここで半日潰れるのよ。で、ここにはその為の宿泊施設も兼ねてるのね。だからこの建物はちょっとした村くらいの大きさがあるかもしれないね」

「集落が一つ建物の中に、と言う事ですか………」

 大倭の発想ではない。スケールが違う。しかも、ここが全てではなく、まだ入り口に過ぎないのだ。

「それに、ここは街道が整備されているからね。いざと言う時、ここが防衛拠点になるのは当然だと思わないかい?」

(………なるほど。その通りだ)

 リンスリッドの指摘に、カグラは納得した。

 この場所が世界にとってどれほど重要な場所か、その事を考えれば答えは簡単だ。

 この建物はカグラの抱いた第一印象の通り、万が一の場合に備えての砦でもあるのだ。

 侵略から防衛する水際作戦の拠点となる為の。

「んー。ボクたちにはここを中立に維持する義務が有るんだよ。世界がここを巡って争いを起こさない為にね」

 それはすなわち、世界規模のいくさを引き起こさないと言う事。

 同時にそれは国々の面目を懸けた物、と言う事ではないか。

(………こっ、これほど重要なお役目を………嗚呼、姉上)

 重圧と、行き場の無い憤りで拳が震える。

 そうこうしているうちに出口の大きな扉が開かれ、カグラたちの目の前に………巨大な森が広がった。

「ようこそ、ユグドラシルロットへ!」

 リンスリッドは大袈裟に手を広げてそう言った。

「え………だって、森?」

「そう、森!」

 港から見た建物の威容にも驚かされたが、そこを抜けた光景もまた驚きだった。

 道は馬車二台分程度。最低限の手入れしかされていないだろう雑木林がカグラの目の前に広がっている。林と言うよりも森。街道の横に壁のように木々が密生している。

 少なくとも視界に人家は映っていない。

「さあ、街まで歩いて一時間は覚悟して貰おうか!」

「分かりました。では行きましょうか」

 あっさりと答えたカグラに、リンスリッドは振り上げた手の行く先が見付からないような微妙な表情のまま固まった。

「………あのー、驚かないね?」

「驚いていますが?」

「えーと、歩いて一時間ですよ?」

「走れば半分くらいで行けますね」

「いやいや、ちょっと待って! カグラちゃんってそこまでスパルタン? 強化してれば行けるだろうけど、わざわざ走るって選択肢が出るのっ?」

「すぱるたん? 誰でも一時間くらいは走るでしょう?」

「普通、上流階級の人は走らないけどね。せいぜい馬とか」

「まあ、確かにそうですが。私は武門ですし」

「……ちぇ、可愛い顔を引き攣らせたかったのに」

「え?」

「冗談よ。ちゃんと移動用の馬車があるよ。言えば用意してくれるから。と言うか、カグラちゃんを歩かせたらボクが怒られるし」

「そうなのですか? 私は別に歩いてもいいのですが」

 カグラにとって、と言うよりも大倭では歩く事はごくごく普通である。

 何しろ陸路の主力は徒歩なのである。高貴な人物と言えど、常に馬や輿が使える訳ではない。一般女性でも毎日結構な距離を歩くし、霊験あらたかな神社へのお参りとなれば身分の高い人物でも徒歩になるのだ。

 ついでに言うと、男女問わず徒歩速度も結構速い。

「……あー、カグラちゃんって本当に可愛いよね。学園に入ったら絶対大変な事になるよ。ちょっと待ってて。今手配してくるから」

 リンスリッドが離れて、一人青々とした雑木林を見ていると、僅かに心が安らぐのを感じた。

 植生している木の種類こそ違うが、こう言った原生林の光景は大倭では珍しくない。懐かしさを感じる。

 カグラも幼い頃からよく山で修行したものだ。山は厳しい場所だが、こうした豊かな表情も持っている。

 山鳥の声も騒がし過ぎず趣が有る。耳を澄ませば、どこからか微かなせせらぎも聴こえてきそうだ。

「ここは良い所なのかもしれませんね。四季はあるのでしょうか?」

 大倭より遠く離れた外津国、異界の地である。

 生活が変わる事は理解し覚悟していたが、大倭の山に似た雰囲気と言うのは嬉しい話だった。

 色々問題を抱えている身だが、小さな一つは解決したかもしれない。

 と、道の向こうから何かが近付いてくる音がした。

「……馬の蹄………にしては少し黒金の音が混じっていますが。それに車輪の音。これは馬車がこちらにやって来るみたいですね」

 まだ見えてはいないが、振動音から考えるに二頭立てでかなりの大きさではないかと思う。車輪も多い。響きが重なる事からして少なくとも四つだ。

 音が大きくなり、その姿も見えてきた。

 実際、カグラの予想通りだった。

 二頭立ての巨大な馬車が目の前に停車する。

 まず、馬が違う。大倭の馬とは体格が二回りも違う。二頭とも立派な黒鹿毛だ。

 当然御者付き。後部の馬車は見事な細工が施された大きな造りで、ちょっとした部屋一つ分はある。出入の扉は大倭で言う所の観音開き。両開きの大きな物だ。車輪はなんと八輪である。

 馬を繋ぐ馬具を見ても、農作業に使うような木製の素朴な物ではなく、手入れの行き届いた煌びやかな金属製だ。

 これだけ見てもこの馬車が高級な部類、否、国家元首クラスの者が使用する物だと理解できる。知識など無くとも、何より漂う風格が違う。

 内側から扉が厳かに開く。

 最初に降り立ったのはコートを着た女性剣士だった。防具らしい物は身に着けず、腰に品の良い鞘に収まったサーベルを差しただけの軽装だが、その動きに隙が無い。なかなかの腕利きだと読む。

 ………しかし、本命は彼女ではない。カグラは馬車の中から強者が放つ独特の存在感を感じ取っていた。

 戦巫女が纏う独自の力。

 大倭ではこれを刀気とうきと呼ぶ。

 剣を携える者が辿り着く境地にして、果てしなき達人への入り口。

 まるで一本の刀のような気配を感じさせる事からこの字が当てられたと言う。

(………おそらく、この剣士より強い)

 剣士の彼女は次に姿を現す人物を護衛しエスコートする為に先に降りたのだ。

 いや、護衛とは名目だけかもしれない。単に帯剣した侍女に過ぎないかもしれない。それほどまでに中の人物とは刀気の量が違う。おそらくは数倍の差がある。

 剣に喩えるなら、細身の剣と人の背ほどの丈のある豪刀ほどに違う。

 知らず、カグラの身体から力が抜ける。脱力のきわみに入る。

 余分な力は要らない。ただ一点に力と速さを収束させるのだ。

 ……が。

 降りてきた相手を見て、カグラは思わず息を呑む。

 年の頃はカグラとそう変わりはしないだろう。

 まるで秋の稲穂を思わせるような色の、背まで届く豊かな濃色の金髪。

 整った顔に美しい蒼い瞳。

 カグラの目から見れば、彼女こそ天女のような顔立ちだと思う。

 しかし、その身を包むのはアーマードレスと呼ばれる女性用の黒のプレートアーマーだ。金字の紋章が刻印された甲冑で上体を隙無く固め、籠のように開き足元まで隠すスカート部分にもプレートが着けられている。僅かに見える足元も金属製のグリープで固めている。

 まるで今から戦に赴くような重装備ではあるが、鎧の細工や彼女の雰囲気から全体的に武骨さよりも高貴さを感じさせる。

(………うわ)

 兜の代わりに真紅の宝石をあしらった白銀のティアラを着けたフル装備で、彼女はカグラの前に降り立った。

 ここまでの装備だと一人で歩くのも大変な筈だが、少女は何の苦も無く動いている。エスコート役の剣士も形だけだ。

「貴様が東方界より来たと言う大倭の姫か?」

 不敵な笑みを浮かべつつ尊大に言い放つ同世代の少女の突然の出現に、カグラは目を丸くした。


   2 黒い鎧の姫君


「ふむふむ。世界広しと言えども他に例の無いと聞く、夜空の闇の如き美しい黒髪ブルネットは間違い無かろうが、さては貴様、姫君の従者であるな」

 見定めるような視線を向けた後、少女はふんと鼻を鳴らした。

「折角この我が見物しに来たと言うのに居らぬとは何事か。その方、さっさと呼んでまいれ」

 上から目線で命令をされた。

 さて、どうしようかと考える。

 まあ答えは一つしかないのだが。

「殿下の御言葉に従いなさい」

 従者の剣士が静かに、だが強い意志を潜ませた口調で告げた。

 こうなると、正直に答えるしかないだろう。ここで引き延ばす事は無意味だ。

「私が大倭より参った者です」

「………汝が? はッ、デタラメを」

 一瞬で否定された。

「よろしければ、その心を聞かせて頂けますか?」

 大倭の事を知っているとは思えない風貌の彼女がなぜそこまで断言できるのか、カグラは少し興味が湧いた。

「ふふん。何故ならば我は知っておるのだ! 大倭の姫君の衣装は十二単じゅうにひとえと呼ばれる実に絢爛な物であるとな!」

「………ええと」

 しばし言葉が出なかった。

 間違いではない。

 ただしそれは厳密に言うと室内正装であり外出に使用される事は殆ど無く、しかも上流階級の中でも非常に高貴な一握りの女性のみが特別な儀式でのみ着用が許される装束である。

 尋ねてみてなんだが、これは返答に困る。根本的な勘違いだからだ。

 しかしどう答えればこの少女の誤解を解き、かつ温和に収められるか全然分からない。

 僅かなやりとりで、彼女が誇り高く、また己の知識に自信を持っている事が窺えた。こう言う手合いは、一手間違うとややこしい事になりそうだ。

 と、カグラが悩んでいるとそこに、

「カグラちゃん待たせたね。馬車の手配は………おや?」

 この窮地にリンスリッドが戻って来てくれた。

 カグラは内心で安堵したのだが、リンスリッドを見た少女が急に怒気の篭もった声で叫んだ。

「リンスリッド・セブンスターズ! なぜここに居るのだ!」

「それはこっちのセリフだよ。エルジェメルト・バトリ。ボクは学園星女会の仕事で彼女を迎えに出て案内するところだ。で、キミは?」

「見物である!」

 言い切った。ある意味凄い性格だと思う。

「喧嘩を売りに来た、の間違いじゃないのかい?」

 対するリンスリッドも、落ち着いているようだが、言葉の端々に棘が潜んでいる。

 初対面の自分にあれだけ友好的だった態度が嘘のようだ。

「海賊娘に言われたくはないわ! どーれ、いつものアイパッチはしておらんのか?」

「ボクがいつそんな物を着けたよ! 頭が能天気だと記憶障害も併発するんだね!」

 このままだと言い争いに入ってしまいそうなので、カグラは言葉を割り込ませた。

「……あの、リンスリッド殿。こちらの方はどちらの方なのですか? 拝見する限りでは何処かのやんごとなき姫君とお見受けしたのですが」

「ああ、このバカ娘はオゴレウス神聖帝国第三皇女エルジェメルト・バトリ殿下さ」

 返って来た答えに、カグラは驚いた。

 外津国の話に疎いカグラでも、その国の名は知っていた。

 いや、ここに来る以上は知らないでは済まない。

「ちょっと待って下さい。神聖帝国と言う事は、ここの?」

「如何にも!」「違うね」

 二人の声が揃うが、中身はバラバラだった。

「ここは完全な中立地帯だ。世界のどの国家もここを支配する権利は無い」

 二人の言葉はどちらも正しい。何故なら、ユグドラシルロットは地理上ではオゴレウス神聖帝国の領土に囲まれているからだ。

 だが、囲まれているだけだ。

 人類史が始まった時からの聖地であるこの地を巡っての大きな戦争は、歴史書に出るほどの規模の物を数えただけでも二十を下らない。

 異なる民族。異なる国。異なる宗教。それらが一概にここを聖地としているのだ。戦争にならない方がどうかしている。

 聖地奪還をお題目とした度重なる不毛な争いの結果、国々は一つの組織に名を連ね、ここに平和の象徴である国家不可侵地域を作った。

 それが大星樹連盟政府であり、学園都市ユグドラシルロットなのである。

「それを我が物顔でやって来たのが彼女さ。さっき話した、ここに屋敷を持ち込んだバカも彼女の事だよ。本来なら完全な協定違反なのにこのバカはそれを無視して押し通した」

「我をバカ呼ばわりするとは無礼な! しかも三度も言ったなッ!」

「バカで無ければアホか無知だ! 先人の築いた共和の礎を破壊するだけでも許し難いのに、何か考えがあっての事かと思ったらただの考え無しだ!」

 エルジェメルトはまるで眠りから覚めた獅子のような迫力だった。

 今にも斬りかかろうとするような覇気すら感じさせる。

 武器こそ持たないが、リンスリッドからも強烈な刀気を感じた。

 ここに集うのはただの姫君ではない。彼女もまた、戦いの道を進む戦巫女なのだと言う事をカグラは否応なく意識する。

 そして、この二人の仲が非常に悪い、と言うのはカグラにもすぐに分かった。

 リンスリッドの登場は、救いどころか、火事に油を撒くような事だったかのもしれない。

 人当たりが良かったリンスリッドも明らかにエキサイトしている。

 このままではマズイ。闘鶏に使う軍鶏のように殺し合いのみの激しい争いになるのは目に見えている。

 皇女に従う剣士に目を向けても動かない。

 と言うか、何処に納めていたのか何気なく剣を持ち出している。

 大倭では考えられないほど巨大な剣だ。丈は長槍以上。幅はグレートソードと分類される代物よりも遥かに広く巨大。

 護衛役の彼女の剣ではない。彼女の剣は腰にある。とするとまさか皇女の剣だろうか。それをわざわざ持ち出してきたのは、止める気など無い、と言う事だ。

 これは非常にマズイ。一触即発の事態だ。

 ならば、ここで動くのは自分しかいない。

 これでカグラは責任感が強い。一応スオウ家の次期当主と言う立場であり、元服を済ませたので自己責任と言うものに目覚めてもいる。

 それは女顔であった事も関係しているかもしれない。責任感に男らしさを重ねているのだ。

 カグラはすっとリンスリッドの前に身体を割り込ませる。

 自然に、流れるように、カグラは二人を隔たる壁になった。

 こうしたいがみ合いは顔を突き合わせると激化するが、こうして誰かが間に入ると鎮静化する切っ掛けになるものだ。

「エルジェメルト殿下。リンスリッド殿には私の学園案内を務める役目がございます。ここはその役目に免じて退いて頂けませんか?」

 微笑みを混ぜて穏やかに。決して強く言ってはならない。

 これが諍いを鎮める基本である。

 実際、カグラの対応にエルジェメルトは毒気を抜かれたかのように表情から険しさが外れた。

「な、う、うむ。しかし我は別に争うつもりなど無いのだ。正直期待外れではあったが見る物は見た。屋敷に引き返すのも頃合いであろう。うむ」

 ぷいと顔を横に向けるエルジェメルト。先程までの空気は何処にも無くなっていた。

「では殿下。学び舎でお会い致しましょう」

「待て。そなたの名は? まだ名を聞いておらぬ」

 そう言えば名乗りを挙げていなかった。武門としては有るまじき失敗にカグラは反射的に顔を赤く染めた。

「スオウ・カグラです。名がカグラになります」

 名前を聞いたかと思うと、エルジェメルトは背を向け馬車に乗り込もうとする。

「ああ、殿下。一つだけよろしいですか?」

 完全に乗り込む前に、カグラは皇女を呼び止めた。

 振り返り、カグラを見下ろす。

「………ふん。なんだ?」

「ご期待に添えず。我が国では十二単は皇后陛下、皇太子妃殿下、大将軍の御台所みだいどころ様のみに許された結婚用の正装なのです」

「………ぬう。我が物知らずと言いたいのか」

「いえ。書物も結構ですが、真実を探るのは書物だけではありません。人の言葉を聞くのも大事ではないかと思います」

 穏やかな言葉に、エルジェメルトは「ふんっ」と顔を逸らした。僅かに頬が染まっているのは勘違いをした羞恥の為か。

「生意気な奴よ。ふん、面白い。ならばこれからの生活を楽しみにしているが良い! そなたにたっぷりと教えてやるわ!」

 カグラが馬車から離れるのを待って、馬車は元来た道を戻って行く。

 それを見送ったカグラに、リンスリッドが声をかけてきた。

 彼女はカグラが皇女の相手をしていた隙に馬車を連れてきたらしい。

 エルジェメルトの物に比べれば遥かに小さい。と言うか車輪が二つで御者台のみと言う簡素な物だ。

 馬も一頭で、二人乗りがせいぜい。大きな荷物を積載する事も難しそうだ。カグラの荷物が簡素なので、馬車も簡単な物を借りてきたのだろう。

「………意外に厳しいねー。カグラちゃんは」

「リンスリッド殿もです。譲れぬ部分もあるでしょうが、火に油を注げば言葉も届かなくなる事もあるのですよ」

「………あ、あれ? ボクに飛び火したかな?」

「少し小言を言わせて頂きますか。さあ、到着までみっちりと」

「ま、待って、それ少しじゃないし? 折角だし風景とか見た方が良いんじゃないかなあ? ね? ボクは馬を操らなきゃならないし?」

「ではゆっくりお願いします。決して前を走る馬車に追い付き追い越せなどと言わないように」

「え、あ、うん、そ、そうだよねー?」

 しばらく走ると、視界が大きく開けて街並が見える丘に来た。

「大きな街ですね。しかし、それ以上にあれは」

 多くの建物が並ぶ壮観な光景だが、その中心には信じられないほど巨大な樹が天を支えるかのようにそびえ立っている。

 天頂は高山にも匹敵するのではと言う巨大樹だ。

「………話には聞いていましたが、あれがアメノフトタマノオオノキ………」

「そう。あれが、ここを聖地としている意味。大星樹だよ。ボクたちの学園はあの麓にある」

   *

 外見も類を見ないが内装も普通の馬車の常識を越えている。

 普通の馬車は当然座席しかないわけだが、この皇女専用馬車は内装も凝っており豪華な調度品はもちろん、緊急時の為の携帯トイレ………おまるとも言うが、まで据えられている。ちょっとした休憩室サロンである。

 大きな馬車と言うのにはそれなりの理由が有った。

 まず乗り心地。これは大きい方が揺れない。正確に言うと車輪の上が揺れるので、そこに座席を作らないようにできる。また、車輪を増やしているのでその分衝撃は減少している。更に床に最新技術を導入して振動を抑えている。これが小さな馬車だとそうはいかない。

 もう一つが服装だった。

 本来彼女のようなアーマードレスと言う物は地上に立つか騎乗でこそ意味がある。戦場に特化したスタイルなのである。逆に馬車のような場所で座ると言う動作には全く向いていない。どうしてもスペースを取ってしまうのだ。

 要は、この正装の為にこれだけの大きさが必要なのだった。

 中で直前に着替えるにしろ、やはり広さが必要だ。

 ちなみにこれは裏技である。皇女たる者、そんな情けない事はできない。建前上は。

 戦争とファッションは痩せ我慢なのだ。

 言ってみれば空間の無駄遣いだが、この馬車に乗るのは最大三名。彼女が皇女だからこそ、こう言う真似が可能なのだった。

 この学園都市に居る人物の中でもここまでできるのは彼女くらいだろう。

 中央に据えられた椅子に座ったエルジェメルトは肘掛台に体重を預けながら面白そうに言った。

「………ふん、スオウ・カグラか。十二単は見られなかったが面白い物を見せて貰ったな」

「そうでしょうか? 腰に妙な得物を差していたようですが、あのような細身の剣ではそれなりの腕前と言えど殿下の相手ではないと思いますが」

 隅に座る剣士が事もなげに言う。自分が、と言わないのがこの護衛役の性格だ。

「どうであろうな。あいつは我とリンスリッドの間に流れるように入り込んだ。あれは簡単そうでなかなかできんと思うぞ。それに、大倭では長く外との交流を断っていたが、その中で独自の戦闘術や武器が洗練されたと言う。物の本で読んだが、おそらくアレは『カタナ』と言う物だろうな。反りの入った片刃の剣で、両手持ちで使うのだと言う」

「あんなに細いのでは殿下の剣とは比べられないと思いますが」

「さて。形はそうだが技術はどうかな」

 他に例の無い武器にはどんな剣術が付随しているのかも分からない。こればかりは見てみなければダメだろう。

 それに。

 ここに来た以上は通常の武芸者などとは比べ物にならない力を持っている事は間違い無いのだ。それは時に武器の優劣どころか数の優位すらひっくり返す。

 もっとも、彼女にとっては大概の闘法は意味を為さないだろうが。

 記憶の中で長い黒髪と白い肌と美しく整った顔を反芻する。

 それだけではない。スラリとした体躯も他に例を見ない服も秘められた実力も。

 彼女を芯から興奮させるのだ。

 当然、彼女は気付いている。

 自分の前に立った大倭の姫が相当の実力を持っている事に。割り込んだ歩法はその僅かな一端に過ぎない。

 薄らと口元に笑みが浮かぶ。

「………アレは………欲しいな」

 どこかうっとりとした主人の呟きを聞きとがめた剣士は、不快そうに眉を顰めた。


   3 学生寮街の喫茶店


「で、何処が良いかナ?」

 テーブルに広げられた地図を前に、リンスリッドが微笑んだ。

 てっきり自分の宿舎に連れて行かれるのだと思っていたカグラだったが、リンスリッドが馬車を停めたのは、漂う香りから察するに何かの飲食店らしき場所の前だった。

 ちなみにリンスリッドの馬車操縦技術は神業で、リクエスト通り遅過ぎず早過ぎず安定していて、更に観光案内を交えたトークも込みと言う驚くべき物だった。

 そこは小さな喫茶店で、店員も一人しかいなかった。

 四人がけの広いテーブルに向かい合って座ると、まずメニューを広げる。

「注文は………あ、中味分かんないか」

 カグラにもメニューの文字は読めるのだが、さすがにそれがどう言う物かが分からない。

 言葉は『言霊秘術』で分かるが、知識が付随していないからだ。

 『鶏の丸焼き』くらいなら意味は理解できる。しかし訳せない名詞は読む事はできるが、中身が分からない。

 更に、味に関してはもう経験するしかない。

 来る時の船の中では一等室だったので食事は決まった物が出されたからメニューの選択に悩む事は無かった。

 ちなみに、カグラには基本的に好き嫌いが無い。何故かと言うと、食べ物を選んでいては山籠りで死ぬからだ。山籠りならまだマシで、食料調達が困難な荒れ地に投げ出された事も、木々が雪に埋もれた冬山に放り込まれた事もある。その時は、本当に大変だった。

「……私は別に何も頼むつもりは」

 ここはやんわりと断わる。

 持ち合わせが少ない、と言う問題もある。ここでの生活が不透明な以上、来たばかりで金銭の浪費は避けたいのがカグラの実情だった。

「あ、大事な話忘れてた」

「はい? 何でしょう?」

「食べ物には注意した方が良いよ。ここには世界中の人が集まる。中にはとんでもない物を食べる人たちもいるからね。当然、そう言う人に対応する店もある。ここのは比較的にどこでも大丈夫な筈だけど」

「なるほど、そう言う事ですか」

 いつまでも避ける訳にもいかないだろうし、いずれ時期を見て挑戦する必要はあるだろう。

「例えば南方界の人の中には香辛料たっぷりのとんでもなく辛い料理が当たり前って言う人がいるんだ。ボクもご馳走になった事あるけど、美味しいけど汗がもうダラダラで舌はピリピリ。終いには何食べてるんだか分かんなくなっちゃって」

「そうなのですか。しかし生憎と今の私には懐に余裕が無いので遠慮させて頂きます。リンスリッド殿は御遠慮なくどうぞ」

「あ、大丈夫。ここはボクが御馳走するから」

「いや、しかしそれは申し訳なく」

「と言うかね、星女会からお迎え用の予算が出てるんだよ。そしてきちんと使わないと上の人にすっごく怒られるんだよね。予算を懐に入れたって。と言う訳でボクがおススメを選ぶってのはどう? あ、食べてはいけない物とかあったら先に教えて貰えると嬉しいな」

「それならば。特に禁忌になる食べ物はありません。私は出家………僧侶でもないので。御注文はお任せします」

 カグラは元服しているので酒を呑んでも構わない。ただ、不覚を取る訳にはいけないのでここでは控えようとは思っているが。

「おっけー」

 リンスリッドは店員に注文を出すと、今度は荷物の中から書類の束を取り出してテーブルに広げてカグラに尋ねた。

「これは?」

 書類の一枚一枚に文章と簡易な図が記されている。おそらく間取りだ。

「これからカグラちゃんが生活する寮を決めるんだけど、何処が良い?」

「何処………と言われましても」

 実はカグラが入居する寮は決まっていなかったのだ。

 これは国元の不手際でも学園側の嫌がらせでも無い。住む場所は可能な限り自由意思で選択すると言う学園星女会の方針だった。

「やっぱり自分が落ち着ける場所がいいからね。一応寮は充分に用意されているけど、希望次第で色々できるよ。小屋を建てて住むのも有り。まあ不便だけど。とは言え、自前で屋敷を持ち込むのは行き過ぎだね」

 つい先程出会った皇女の事を思い出す。

 美しさと子供っぽさを同居させたような印象だった。綺麗と言うよりかわいいと言った方がいいのかもしれない。

「カグラちゃんはあいつが気になる………まああんな登場されたら気にするよね」

「ええ。御身分もそうですが、相当の実力者と御見受けしました」

「通り名は《漆黒の騎士姫》。或いは《人間移動要塞》。強さなら五本の指に数えられる、かな?」

 やはり、エルジェメルトの強さは知られているらしい。

「リンスリッド殿はエルジェメルト殿下と仲がお悪いようでしたが?」

「な、仲が悪いって言うかボクは学園星女会の人間だし向こうは風紀を乱すし。って言うかお説教は勘弁だよ。そりゃあボクも吹っかけちゃったって思うけど。でも、あっちが問題を起こすんだから仕方無いって言うか、誰かが強く言わないと付け上がるって言うか」

「お優しいのですね」

「そ、そそそ、そんな事無いよっ! ほらほら、それよりも住む所を決めないと!」

「ふふっ、そうですね。広い必要は余り無いのですが。『人は起きて半畳、寝て一畳』と申しますし」

 スオウ家は武門。畳どころか野宿でも眠れるように訓練は受けている。その場合、地面で寝るのは危険なので木の上で寝るのだ。一畳も無い。

「………その単位は分かんないんだけど、おそろしく狭い気がするわ」

「まあ人が寝転がっただけになる訳ですから」

「狭っ! 物置でももうちょっと広いんじゃ。大倭ってそんなに家が狭いの?」

「いえ。長屋でも八畳二間くらいには住みますけど。このお店より少し狭いですかね」

 ちなみに嫡子であるカグラの部屋はそれなりに広い部屋が宛がわれていた。

「なーんだ。でもそれならどこの間取りでもおっけーよね。場所はどう? 学園校舎に近い方が良い? って言っても近い所は軒並み埋まっているけど」

「近い方が人気があるのですね」

「まあね。そりゃあね。通学距離は短いに越した事は無いし」

 テーブルにお茶が二つやって来る。それから二皿の黄色い茶碗蒸しにも似た、ぷるるんとした何か。

 香りの強いお茶だ。色は赤く澄んでいる。

「これは赤いお茶ですか。頂きます」

 リンスリッドの持ち方に倣って取っ手をつまみ、一口。

 口の中に含むと、独特の香りと渋み、微かな甘みが広がる。複雑な味わいだが悪くは無い。

「ああ、これはなかなか………どうされました?」

 リンスリッドは口を着けていない。カップを持ったままカグラの方を見ていた。

「え? あー、その。綺麗だなと。何かこうお茶を飲んでいるだけなのにドキドキする自分がいるのです」

「そ、そうですか? 大倭ではお茶を頂くのも作法があるのですが、勝手が違うので」

「へー。ボクの国だと、まずお茶でしょ。それからサンドイッチとかケーキをいっぱい積んだスタンドを置いて、食べたり飲んだりおしゃべりするのが基本なんだよね」

「………それは食事なのでは?」

「間食だね」

「大倭でも茶席に懐石を合わせる事がありますが。ふーむ。こちらは茶碗蒸し………ではなく見た感じ水羊羹のようですが。お茶と共に菓子を頂くのも同じなのですね。………む。むむむ………あ……甘いぃっ!」

 脳天を横からぶん殴られたように濃厚で強烈な甘味に自然と顔が険しくなる。

「うまうま。え、甘いの苦手?」

「あ………、いえ。何と言うか強烈な甘さに驚きました。水菓子とも違う、強いて言えば干し柿のように濃厚な甘味ですが、体験した事が無い感じです」

 水菓子と言うのは果物の事で、大倭では一般的な甘味である。

「これくらい普通だと思うけど」

 大倭でも女性は甘味を好むが、男子であるカグラは余り食べない。そもそも大倭では男子は甘味を好まないのが一般的だし、何より甘味に関しては異常に意地汚い姉がカグラの分を奪い取るので、始めから食べようとしない事にしていたのだった。

 個人的には祟り神へのお供え物だと思っている。

「ここのプリンはシンプルだけど甘くて濃厚で美味しいんだよねー。ボクのお気に入りなんだ」

 お気に入りと言う言葉は嘘ではないようで、リンスリッドは幸せそうな表情でプリンを口に運んでいる。一口食べては子供のように微笑む姿は実に愛らしい。

「プリンと言うのですか、これは。………あー、その、手を付けてしまって恐縮ですが、よろしければ残りをいかがでしょうか?」

「え、あ、いい………の? でもこれはカグラちゃんのだし」

「構いません。良い体験でした。ただ、私には少々量が多いようです」

「えー、いいの! うわ、じゃあ遠慮しないで頂いちゃう!」

 出迎えの時とは随分違う幼い感じが逆に新鮮だ。

(国は違えど甘味は女子の心を潤すのですね)

 阿修羅の如き姉が甘味で和む姿を思い出し、カグラはくすっと笑いを零す。

   *

 二人はしばしお茶を味わい、話はカグラの寮に戻った。

「で、どこがいいかナ? 一応それぞれに特色が有ってね。ここは食堂のメニューが豊富。でもデザートはこっちがおススメ。ここは遊戯室が充実してる。ここは音楽設備が充実していて、特に演奏場と練習場が広くて良いんだよね。カグラちゃんは何か楽器できるかい?」

「恥ずかしながら特にはありません」

 剣一筋だったのでそう言う教養は少ないのだった。これが姉なら琴でも三味線でも弾けるし笛も吹くのだが。

 大倭でも姫と呼ばれるような人物は普通なら音楽を学ぶものなので、カグラとしては馬脚を現さない為にも音楽には近寄らないのが吉である。

「そうなんだ。じゃあ運動の方はどう? ここは運動設備が整っているね。なんとプールもあるんだよ」

「プール、とは? 水溜、と言う事なのでしょうが」

「ええと、水泳をする為の溜め池ってところかな」

(水練場、と言う事ですか。………って、水練と言えば裸か褌じゃないですか! そんな姿を晒す訳にはいきません。ここもダメですね)

 とまあ、こうしていちいち慎重にならなければならない。

 と、ここでカグラはある事に思い至った。

「………あ、ちょっと待って下さい。学園校舎に近い方が人気が有ると言う事ですが?」

「うん。完璧って訳ではないけど、結構埋まってるんだよね」

「と言う事は、逆に離れた場所は人が少ないのですね?」

「そうだねー。学生の数に対して寮の部屋は倍以上あるから困らないしね。んーと、これが学生寮街の全体図。印が付いているのが寮ね」

 取り出された一枚に視線を落とす。そこには二十件近い寮が確認できた。

(………同居者が少ない方が私の事は知られにくいでしょうし)

 同じ場所で生活するのだ。バレてしまう可能性は単純に考えると人数に比例する。

 あと、特に風呂がマズイ。

「ちなみにここがあの皇女殿下の御屋敷」

 指差した場所は学生寮街から離れた場所に広範囲で記された場所だった。

「………あの、結構大きいような」

「中程度の寮と同じくらいあるのよ。学生はアレ一人だけ。それに更に庭園まで。どこまで非常識だっつーの」

「庭園まで持って来たんですか?」

「さすがにそれは無いわ。庭木は運んできたけど、造園はこっちに来てやったのよ」

 それはそれで凄い気もするが。

 学園から多少離れてはいるが、移動手段を持つ彼女なら何の問題も無い。

 想像以上にぶっ飛んだ人物であるとカグラは再定義する。

「話は戻るけど、特に一番離れたここは人気が無いんだよね。設備がイマイチだし。まあ部屋は広いし山は近いし静かだし、それが良いって言う人もいるからねー」

 地図上では他の寮どころか側に人家すら無い。

「ここを紹介して頂けますか?」

 カグラは、その一番離れた寮を指差した。

「ええっ? だってそこ、学園まで三十分はあるよっ!」

「あ、それは全く問題ありませんが」

「不便だよ? 学園どころか街からも離れてるしさー」

「山の傍と言うのも大倭に似て落ち着くかもしれません」

「あー………そう言うのもあるかー。うん」

 食事に関しても、賄いが無くとも山に近い方が色々できそうだ。

「お風呂はありますか?」

「うん、えーと、ここは大きな共同が一つあるけど」

「共同ですか……まあ何とか」

 共同でも住人が少なければ脅威は少ない筈。さらに、いざとなったら山に逃げると言う手もある。あくまでも最終手段だが。

「人数少ないと共同風呂も動いてないかもしれないよ?」

「それならそれで構いません」

 最悪、水があればカグラは問題無い。

「んー、まあ取り敢えず見るだけ見てみる? 時間はあるしさ」

「ではよろしくお願いします」

 座席から立ち上がると、リンスリッドは厨房に向かって手を挙げた。

「あ、お持ち帰りプリンお願いしまーす。えへへ」

「まだ食べれるのですかっ!」

「え? ううん、夕食後のデザート。普通だよ?」

 いつか彼女に頼みごとをする時はここのプリンが有効らしい、とカグラは心に刻み込むのだった。


   4 始まりの夜


 結論から言えば、その物件はカグラの理想の斜め上を行く物だった。

「管理人がいない~?」

 リンスリッドの呆れた声が夕焼けの差し込んだ庭に響く。

 庭と言うか、何も無い草原と言うか。

 実際にここに来て分かった事が幾つかある。

 一つはこの寮の周辺には他の建造物が全く無い平原である事。なぜこんな場所に寮を建てようと考えたのか想像がつかないほどだ。

 しかし、これはカグラにとって理想的な立地だった。これなら来客がいきなり来ると言う事は考え難い。ここまで来るにしてもおそらくは馬車のような乗り物だろうから察知するのも簡単だろう。

 二つ目はユグドラシルロットでは非常に珍しい平屋造だと言う事。あまり大きな点ではないが、大倭出身のカグラは高層式よりは平屋造の方が性に合う。高層式の方が見張りはし易いのだが。

 そして三つ目。この寮には今誰も居ないと言う事。なんと住み込みの管理人すら居ないのだ。つまり、空き屋である。

 これはもう理想を越えていたと言っても良い。おかげでリンスリッドは一端戻って管理局に鍵を借りて来なければならなかった。

「定期的に維持管理はしているとは言え………こんな物件駄目に決まってるよ!」

「いえ、ここにします」

「だって管理人居ないんだよ?」

「私がやります。収入も得られるのでしょう?」

 ここは住み込みの管理人も一応募集されていたが、やはり成り手がいないようだった。

「そりゃまあそうなんだけどさ………女の子一人、しかも東方界からわざわざ来たのに」

「これも修業です」

「………あー、花嫁修業にはなるのか………うーん」

 カグラが花嫁になる可能性はゼロなのだが。

「お願いできませんか?」

「………う。またそう言う顔をする。………分かったよ。それなら星女会に一応報告しておくよ。正直ボクが決定できる範疇を越えてる。って言うか前例も無いんじゃない?」

「そうですか。ありがとうございます」

「今日はここで休む?」

「ええ。陽が落ちる前に寝床を確保したいですね。幸い手入れは完璧なようですから、さほど苦労はしないと思います」

 命懸けの修業の果てに、寝ようと思えば木の上でも寝る事を会得したカグラである。雨風を凌げる屋根と壁のある場所で寝れない訳が無い。

「じゃあ明日星女会に一緒に行こう。どうせ学園に編入する手続きをしなきゃならないし。朝、迎えに来るよ」

「ここまで来るのは大変ではありませんか? どこかで待ち合わせするのが良いと思うのですが」

 幸い、道は迷うような造りではない。このユグドラシルロットと言う街は、全ての道が学園、否、大星樹に繋がっているのだ。大通りを進めば迷う事無く学園前に辿り着ける。

 だがリンスリッドはそれを否定した。

「駄目駄目! カグラちゃんは目立つんだから、絶対問題に巻き込まれるよ。編入前にゴタゴタ起こす訳にはいかないでしょ?」

 リンスリッドの指摘にカグラは思案を巡らせる。

 確かに、カグラにとっても問題に巻き込まれるのは避けたいところだった。

 やろうとも思えば人に見つからずに進む事もできるが、やらないに越した事は無い。

「分かりました。それではお願いします」

「うんオッケー。それじゃあ明日ね」


 リンスリッドが乗った馬車が走り去っていくのを見届けた後、カグラは建物の中に足を踏み入れた。

「………と。こちらでは履物を脱がないのでした。取り敢えず寝れる場所を探さないと駄目かな。後は設備。………食糧の備蓄なんて無いだろうなあ」

 あったとしてもさすがに怖くて手が着けられない。

 見て回るほど広くはない。

 規模としては本当に小さい建物だ。カグラの実家よりも遥かに小さい。

 部屋数は管理人室込みで六。ただ、部屋自体は割と広く仕切られている。寝台を並べるだけなら七、八人分は充分入るだろう。

 他にある部屋は調理室兼食堂と物置と大浴場。湯沸かしは釜で薪を使う。

「………いつの物かはともかく、薪は外に積んである。沸かそうと思えば沸かせるけど」

 問題は水だった。周囲に井戸が無いのである。屋上に貯水槽があるのだが、これは雨水を溜めて使う様式なのだ。

 これでは当然、日々に使う充分な量を確保できる筈が無い。

「それに、溜め水は沸かさないと飲用には使えない。近くの川から引いてくるか汲んでくるか」

 部屋は最近手入れをしたらしく、軽く埃を払うだけで十分だった。いつ用意されたのかは分からないが、物置には毛布などのリネン類もある程度はあった。一人なら充分過ぎる。

「これだけあれば当分は充分ですね」

 身体を休める目処が付いたので、カグラは貯水槽の確認を兼ねて屋根の上に登った。

 この寮は外付けの階段があり、屋上部分にちょっとしたスペースが存在する。貯水槽もあるが、ここで洗濯物を干したりできるのだろう。

 平屋の屋根の上程度の高さだが、そこからでも街の方を眺めれば、嫌でもその巨大な姿を見る事ができる。


 大星樹。


 この多数世界を繋げ見守る聖なる大樹。

 その下に広がる、戦巫女たちが集い暮らす街。

「………本当に大きいな」

 天を覆うような大樹はここからでもよく見える。

 そこは独立した世界。

 カグラはこの世界の異分子。

 これから恐ろしく困難な道を歩む事になる。不安にならない訳が無い。

 大星樹が落とす影は、まるでカグラを拒絶する結界のようだった。

 不安は収まらぬまま、夜の帳が落ちる。


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