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8.人員不足

前回のあらすじ


ウェーズ「さぁ、どうする!? 僕をこの子ごと撃てるかな!?」

アンリ「もちろんですともォ!」

ウェーズ「え!? ちょ!? 当身!!」

アンリ「ぎゃあ!?」

 アンリとリュウは目を覚ました。

 どうしてだろう。

 最近、二人仲良く眠って目を覚ますことが多いような気がする。


「目が覚めたようだね」


 ウェーズが二人に声をかけてきた。

 彼はやはり、ホッケーマスクをつけたままだ。

 ウェーズはそのまま、声をかけてくる。


「申し訳ないが、君たちは本当にデュレン君に勝ったのかい?」

「「…………」」


 アンリとリュウは黙り込んでしまった。

 確かにデュレンを斃したのは彼らなのだが、あれはマグレ勝ちだ。

 彼が無駄話をしている間に、言葉の間に幻覚魔術の呪文を口々に挟むことで幻覚にはめたのだ。

 それが成功していなければ、今頃二人は生きていないだろう。


「ふむ。どうやら君たちは、デュレン君が君たちの土俵に合わせて闘って初めて発生した低い確率の中で、勝利を拾ったようなものらしいね」

「「うぐ」」


 図星である。

 ウェーズは呻く二人に、気にすることはない、と口にする。


「君たちは、後衛だね。まぁ百歩譲っても中衛だ。前衛には決してなれない」

「「おぉ」」


 アンリとリュウは感激した。

 なぜなら彼らが欲しかったのは、これなのだから。


「前衛をこなせる人間を仲間にした方がいい。君たちの戦闘力は低くないどころか、むしろ高いんだから……って、どうしたんだい? そんなに顔を輝かせて」

「「いえ、そのまま続けてください」」


 的確なアドバイス。

 彼らは、これを心の底から欲していた。

 デュレンなんかは、頑張れ的なことしか言わず空の弁当箱を寄越してくる始末だった。

 二人は初めて人間に対して明確な殺意を覚えた。


「君たちの白兵戦の戦闘力は、精々が精鋭兵ってところだろう。だが、自分の土俵で戦うことができれば、恐らく君たちは達人にも十二分に通用する」

「「はい」」


 二人は目を輝かせた。

 この人は、なんてお優しいのだろう。

 ありがたやぁ。

 三人は椅子に腰かけた。

 アンリは前々から気になっていたことを訊く。


「ウェーズさんって何をしているんですか?」

「何、というと?」

「仕事ですよ。デュレンのことを知ってたり、俺たちにアドバイスをしているんだから、たぶんあいつと同じようなことしてるんでしょうが」

「うん、まぁそうだね。僕は、貴族の護衛や過激な反乱分子の始末(・・・・・・・)などをしている」

「え?」

「あぁ、君たちを始末するつもりはないよ。僕が始末しているのは、短絡的な血の気の多いやつらだけだからね」

「そ、そうですか」


 よかった。

 家畜を太らせて後で美味しく収穫、なんてことにはならなさそうだ。


「でも、解せないっすねぇ」


 リュウが半眼になりながら、ウェーズに言う。


「あなたの今の仕事は、お国のためってやつだ。あなたは他でもない、人体実験被験者なのに。国を恨んでないとは思えない」


 リュウの言葉に、アンリは若干困惑する。


「いやいや、それを言うならデュレンだって国が運営してる施設で働いてたぞ?」

「あいつはまだわかる。あいつの狙いは、あそこで国を変えることができる可能性を持ってるやつを待つことにあったんだからな」


 その『可能性』とやらが、アンリとリュウということなのだろう。

 押しつけられた側としては、迷惑極まりないのだが。


「それで、どうなんすか? あなたは、どういう理由でそれをやってるんすか?」

「……ふむ、どうやら君はあれこれ考えてしまう質らしい」

「……まぁ、相棒がこんなんですし」

「おい、リュウ? それはどういう意味だ?」


 だがアンリのそんな言葉は、無視される。


「リュウ君、だったかな。あまり君は、頭が良い訳ではないだろうから、必要な仲間リストに、参謀も加えておいた方が良い。でないと、策略で足下をすくわれる日がくる」


 ウェーズは、はっとしたような顔を(たぶん)した。

 そして、反省したように頭をかく。


「すまないね。説教臭くなってしまったよ。つい、前の職のノリになってしまった」

「前の職?」

「あぁ、元教師なんだよ」

((なんで達人が教師なんてやってたんだろう))


 その言葉は呑み込んだ。


「だから僕は、元来血を見るのが嫌いでね。だから、僕は穏便な方法で国を変えようと思ったんだ」

「どゆこと?」

「僕は、この国を内側から変えることにしたんだよ」

「内側、ね」

「その仕事の一部である、反乱分子の始末なんだけど、あれには貴族(・・)も含まれているんだ」

「「な!?」」

「僕を飼っている貴族の、政敵。そいつを殺すことで、僕の飼い主の力を大きくしていく。そして僕は、飼い主を誘導する。僕は、それをずっと続けてきたんだ。これなら、犠牲は本当の意味で最小限になるからね」

「「…………」」

「デュレン君のやり方は、クーデターでドンパチやらかして、王族を打倒するというものだった。僕はそれを間違っていると言うつもりはないが、それでは血が流れすぎる。僕は許容できない」


 ウェーズは、優しい声音で語りかけてくる。

 誰よりも、温かくて優しい声音で語りかけてくる。


「僕はこれでも、こんな顔でも(・・・・・・)、僕はまだ教師のつもりだ。教育者が、真っ先に暴力を振るう訳にはいかないだろう?」


 けど、こんな人も国を変えようとしている。

 温厚なこんな人が、手を汚さなくてはいけない程に、この国は腐っている。


「……どうして」

「ん?」

「どうして、国を変えようと思ったんですか?」

「……決して面白くない話だけど、それでもいいかい?」


 二人は一も二もなく頷いた。

 それにウェーズは応えるために、語り始める。


「僕は、故郷の村で教師をやっていたんだ。生徒たちが、これが良い子ばかりでさ。呑み込みも早くてね、将来が楽しみな子ばかりだったよ。そんなある日、研究員が村人を捕まえるためにやってきた」


 彼の声は、震えていた。

 それは怒りなのか、悲しみなのか。

 それは、本人にしかわからない。


「僕は皆を護るために戦ったけど、あっさり負けた。被験者はデータの質の問題上、子供だけを使うんだけど、達人ということで、僕も被験者になった。それで、顔を弄られて、子供たちの悲鳴を延々と聞かされた。毎日毎日、先生、先生って助けを求める子供たちの悲鳴を聞き続けた」


 彼の声に、先程の優しさはもうなかった。


「あの時、いや、今でも僕は自分の無力さを呪ってる。それである日、研究員たちを殺せるチャンスが訪れてね。僕は子供たちを助けるために、研究員を迷わず皆殺しにした。でも、遅かった(・・・・)。もう、手遅れだった」

「それなら……」


 リュウの言葉に、ウェーズはかぶりを振る。


「確かに、僕はこの国を憎んでる。けど、血はできる限り流さない。僕が殺戮を終えた後、辛うじてまだ息があった子が、一人だけ、いたんだよ」


 ウェーズの言葉に、涙が混じる。


「その子がね、言ったんだ。『先生、怖い顔をしないで。僕たちの、優しい先生でいて。いなくならいで』」

「「…………」」

「だから僕は、暴力で訴えない。ゆっくりでも、平和的にこの国を変える。僕は、あの子たちの先生だから」


 正直、アンリはウェーズを仲間としてほしいと思っていた。

 戦闘力はもちろんのこと、人格も気に入っていたから。

 だが、それはもう諦めた。

 自分たちがこれから進むのは、暴力や死や血で溢れている道だから。

 彼を、その道に引き込むことはできなかった。


「わかりました」


 アンリは苦笑する。


「そっちはそっちで、頑張ってください。俺たちも俺たちなりに、頑張りますから」

「ははは、ありがとう」


 いつもだったら何か言うはずのリュウも、仕方ないとばかりに肩をすくめた。

 ウェーズは椅子から立ち上がる。


「あれ? もう行っちゃうんすか?」

「うん。今夜、僕の飼い主の護衛をしなくちゃいけなくてね。速めに行かないといけないんだ」

「成程」


 名残惜しいが、これで彼とはお別れらしい。


「さよなら~」

「助言、ありがとうございました」

「どういたしまして」


 ウェーズは思い出したように、二人へと向き直った。


「ついでに、君たちにもう一つ助言だ」

「「?」」

「『黒い鬼(オーガ・シュバルツ)』」

「???」

「あ……」


 ウェーズが言った名前に、アンリは首を傾げてリュウは声をあげた。

 それは、デュレンが『破壊卿(ジェイソン)』と並べて口にしていた名前の一つだった。


「彼の名前は、オードル・シリア。絶対に、遭遇してはならない。遭遇したとしても、戦ってはいけない。あれはもう、人間じゃない(・・・・・・)

「「……き、肝に銘じておきます」」


 ウェーズをして、人間じゃないと評するほどの人間だ。

 遭遇したら即逃げようと、二人は固く誓った。


「じゃあね、二人とも」

「「先生さようなら~」」

「ははは」


 ウェーズは苦笑しながら、二人の前から姿を消した。

 仮面があるはずなのに、なぜか彼らには、はっきりそうわかった。





「あいつらが、そうなのか?」


 アンリ、リュウ、ウェーズを見ていた青年が、怪訝そうにそんなことを口にした。

 彼の隣にいるのは、頭からつま先までローブで隠した素顔はおろか、男か女かすらわからないモノ(・・)、オーディンがいる。

 オーディンは彼の言葉に答える。


《そうだ。あいつらが、お前の仲間候補その一とその二だ》

「おいおいおいおい」


 青年は首を横に振った。

 彼は言外にこう言っているのだ。

 冗談じゃない、と。


「あいつら、ただの人間(・・・・・)だろう? 足手まといはごめんだぞ」

《ナマ言ってんじゃねェぞガキ。人がせっかく丁寧に、道を示してやってるんだいいから黙って従え》

「チッ」

《本気で『四天使(・・・)』と事を構えるつもりなのなら、一人じゃどうしようもないんだよ》


 四天使。

 神の如き者(ミカエル)神の力(ガブリエル)神の薬(ラファエル)神の火(ウリエル)の四人の天使を指す言葉だ。

 全ての天使の中でも、名実ともに最上位の天使だ。

 その力は『主神』にも及び、オーディンですら挑もうとは思わない程だ。


「だが、あいつら本当に大丈夫なのか?」

《くどいぞ。まぁ確かに、お前から見れば儚く見えるだろうがな》

「だったら」

《思い違いをするな。お前はもう、人間じゃない(・・・・・・)んだ。基準にすること自体が間違っている》

「…………」


 黙り込んだ青年に、オーディンはやれやれと首を振る。


《不安になるのもわかる。だが人は、努力して強くなるものだ。今は弱くても、頑張ればそれなりのものになる》

「……わかったよ」


 青年は渋々と言った具合に、息を吐く。

 どうやら、まだ不満らしい。


《それなら、試してきたらどうだ? ともに行動するのは俺じゃなく、お前だ。決めるのも、お前だしな》

「そうかい」


 青年は、笑った。

 そう言われて、初めて笑った。

 心底愉快そうに笑う。


「それなら、そうさせてもらうよ」

《おいおい、一応言っておくが殺すなよ? サイクロプスに文句を言われても敵わないからな》

「ははは、善処する」

《ったく》


 青年は嬉々として歩き出す。

 振り返らないまま、オーディンに手だけ挙げた。


「行ってくるぜ、オカン」

《ぶっ殺すぞ》

「ははは」


 刹那、青年の姿が消えた。

 気配も痕跡も呼吸も、なにもかも。

 それを見て、オーディンはため息をついた。


《いやほんと、殺すのだけは勘弁してくれよ》


 オーディンは、そう呟いた。

 契約者である、ケイト・シャンブラーへと。

あっはっは、やっべ、ススマネェ。

携帯だと、ここ、五話の内容だぞ、おい。

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