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7.破壊卿

前回のあらすじ


サイクロプス《天使をハネムシって、お前、何様?》

オーディン《神様》

サイクロプス《俺も神様》

オーディン《うるせぇ三下》

 アンリとリュウはサイクロプスの小屋を後にし、町へとたどり着いていた。

 今は、喫茶店でお茶を飲んでいる。

 彼らは、話し合っているのだ。

 今後の方針を。


「うへ、うへ、うへへへへへへへへへへ」

「開始早々気持ち悪い笑い声をあげるな」


 アンリは気持ち悪い笑い声をあげていた。

 いや、本当に笑い声かすら怪しい代物であった。


「だってよぉ、武器が増えていくんだぜ? 嬉しいだろうよ。これで、俺はどんどん強くなれる」

「そういや、なんかこの町に来る途中に言ってたな。武器の数が、お前の強さに直結するって言ってたな。それ、どういうことなんだ?」

「ん? そういや、まだ言ってなかったな」


 アンリは頭の後ろで手を組んだ。


「俺、はっきり言ってお前より弱いじゃん?」

「そうだな」

「……お前、そこは、そんなことないぞ友よって言うところだぞ?」

「やかましいわ」


 アンリは肩をすくめる。

 刹那、彼の手元に一本の剣が現れた。

 剣が突然現れたことにリュウは目を見開く。


「……お前、それどこから出したんだ?」


 虚空から剣が現れたのだ。

 当然驚くだろう。

 アンリは悪戯が成功した子供のように笑う。


「お前もさ、サイクロプスの小屋で俺が開けた固有結界の穴を見たろ?」

「まぁな」

「で、問題です。俺は、あの穴を塞いだか?」

「あ? ずっと開けっ放しのはずだろ? でないと、サイクロプスから武器を受け取れないんだから」

「そういうこっただ。そして、俺がこの通り何もない所から武器を出したのも、そういうことなんだ」

「……まさか、お前の後ろに、『固有結界』を展開し続けてるのか?」

「御名答。こうすりゃ、呪文の詠唱する手間が省けるしな」

「けど、それだけじゃタカが知れてるんじゃないのか?」


 確かに、これだけでは足りない。

 なにせこれだけなのならば、ただの倉庫と変わりない。

 持ち運びという手順が不要なだけの、ただの剣士だ。

 ……ん?


「なぁ、魔法剣士ってカッコいいと思わないか?」

「中二の世界に帰れ」


 アンリはがっくりと肩を落とした。

 そんな状態のまま、彼は説明を続ける。


「でさ、この空中で静止してる状態のまま、射出するんだよ(・・・・・・・)

「それは、撃ち出すってことか?」

「あ~、外から見ればそうなんだが、うつって言っても、銃撃とかの撃つじゃなくて衝撃で武器を打ち出すんだ」

「いや、衝撃起こすって、どうやって?」


 アンリは、剣の刀身を指で突く。


「半分くらいこっち(・・・)に出てるからわかりにくいが、もう半分は俺の固有結界の中にあるんだよ。固有結界ってのは、魔力で世界の『(すべて)』を創りだす魔術なんだ。そして、固有結界の中にある俺の魔力が通ってるものは、俺の意のままに操ることができる。大気、土、水を問わずにな」


 自分で言っておきながら、恐ろしい魔術だ。

 なにせこれは、『世界』を創造しているのと同義なのだから。

 神の所業と言っていいだろう。


「それでだ。まず、固有結界側にある武器の側面の空気を圧縮する。それで、その圧縮を解いた空気は、どうなる?」

「暴発するな」

「そうだ。で、その暴発した勢いで武器をこっち側に打ち出す。まぁ、俺がやろうとしていることはこんなところだ」

「成程な。で、原理はわかった。スペックはどの程度のものなんだ?」

「最大速度は武器の種類によって少し変わるが、全部音速以上は軽く出る。同時に射出できるのは、最大で三十六だな。固有結界の腕が上がれば、もっと出せると思う」

「オーバースペックだな、お前」


 銃弾の速度は、ほとんど音速と同じ秒速三百四十メートルと言われている。

 その銃弾の威力は、弾丸の素材にもよるが人体を貫通するかしないか程度である。


 だがしかし、これが剣や槍だったらどうなるか?


 剣や槍の重さは、ものにもよるが数キロにも及ぶ。

 重いものであれば、十数キロに届くだろう。

 そんなものが、音速を超えた速度で飛来する。

 その威力は、城壁をも貫通するだろう。


「つっても、まだ狙いが大昧なんだよな。デュレンクラスのやつには、たぶんまだ当たらない。乱射して、ラッキーパンチが当たれば良い方だ」


 といっても、そのラッキーパンチ一発で人類は皆K.Oなのだが。

 リュウは話を聞いて、頷いた。


「わかった。それでだ、話を戻すがこれからどうする? 俺たち自身が強くなるための修業か? それとも仲間集めをするか?」

「そうだなぁ…………仲間集めからしないか? 俺たちが自主トレしたとしても、タカが知れてるだろうし」

「ま、その通りだな。独学じゃ、限界がある」


 我流で武の術理を開拓していく者もいるが、そんな彼らだって基礎は学ぶ。

 その基礎すら学ばずやり遂げる者もいるが、それは本物の天才だ。

 アンリやリュウは、もちろん天才などとは程遠い。


「そいでだ、どうやって仲間を集めるかだが、どうする?」

「ん~、そうだな。とりあえず」



「君たち、ちょっと迂闊過ぎやしないかい?」



 アンリとリュウの横から、そんな声がした。

 二人は、そちらに向き直る。

 そこには白のビジネススーツに身を包んだ、身長は二メートルほどの大男がいた。

 スーツを着ているだけならただの社会人に見えるのだろうが、顔はホッケーマスクを被っているため全く素顔はわからない。

 アンリは、恐る恐る男に声をかける。


「こんにちは。いかがしました?」

「こんにちは。君たちが、革命だのなんだの口にしているって通報があってね。それで、対応するために僕がやってきたのさ」

「お国の方か……」


 今しがた気づいたのだが、喫茶店にはアンリとリュウ、そして目の前の大男以外人はいなかった。

 おそらく、この男が避難でもさせたのだろう。

 彼は諭すように言ってくる。


「君たち、悪いことは言わないから革命なんてやめなさい。命がいくつあっても足りないしね」

「いや、そういう訳にもいかない。俺たちは、この国を変える」


 アンリの言葉に、男はため息をつく。


「あのねぇ、そういうことは口に出すものじゃない。それに君たちは、まだ子供なんだから」


 男の言葉に、アンリとリュウは苛立ちを覚えた。

 彼は善意から言っているのだろうが、余計なお世話である。

 それに。


「そんなんで辞めるかよ。それに、あいつとも約束したから」

「あいつ? 誰のことかな?」

「いや、あんたに言ってもわからないでしょ」

「おじさん、こう見えても情報網が広いんだ。この国の反乱分子の名前はわかるつもりだよ」

「そうなの? 名前は、デュレンっていうんだ」

「……デュレン?」


 男の声のトーンが、一段下がった。

 彼はそのトーンのまま、口を開く。


「もしかして、凄くめんどくさがり屋?」

「そうそう、まさしく。知り合い?」


 男は、ゆっくりと確かめるように訊く。


「デュレン君は、本当に君たちに革命をしてくれって頼んだのかい?」

「まぁ、うん」

「くくく、ははは、はははははははははははははははははははははははははははは!!」


 男は突然笑い出した。

 何事!? と、アンリとリュウは驚くが男は気にしない。

 彼は笑い続ける。


「いやァ、デュレン君がねェ。彼は今、君たちと一緒に行動しているのかい?」

「いや、違うけど」

「ほう、ということは、彼を倒したんだ」

「え、あ、うん、まぁ」


 倒したではなく、斃したが正しいのだが。

 そこは言わぬが華である。


「君たち、まだ二十歳……いや、十六か。その年齢で彼に勝つとは、大したものだ」

((こいつ……))


 一目で二人の正確な年齢を見抜いた。

 かなりの観察眼の持ち主だ。


「くくく、君たち、この国で人体実験が起きているのは、知っているかな?」

「当然だ。それをなくしたいから、革命をしようとしてるんだ」

「けどねぇ、聞いただけ(・・・・・)の人間が多いんだよ。人体実験がどういうものかを、見たことある人間は意外といない」

「「?」」


 男はホッケーマスクを外した。


「「な!?」」


 思わずアンリとリュウは声をあげてしまった。

 なにせ男の顔は、ぐちゃぐちゃだった(・・・・・・・・・)

 福笑いというものを知っているだろうか。

 人の顔の輪郭が描かれた絵の内側に、眉毛、目、口、鼻、耳の絵を目隠しながら正しい位置に置くという遊びだ。

 彼の顔のパーツの配置は、それが失敗した(・・・・)ものだった。

 口と鼻の上下は逆で、鼻の穴は下にではなく上に向いている。

 目は額に一つ、右の頬に一つ。

 見るも無残なものだった。


「…………へぇ」


 男の口角が吊り上った。

 彼の声には、喜色が混じっていた。


「成程、成程。君たちも、こっち側(・・・・)か」


 アンリとリュウは、同情するような顔をしていたのだ。

 大抵の人間が彼を顔を見たら、その顔に浮かぶのは憐憫ではなく嫌悪なのだ。

 不気味、気味が悪い。

 普通の人間は(・・・・・・)、そうなのだ。

 男だって、なりたくこんな顔になった訳ではない。

 なのに一般人は、蔑みの冷たい視線を向けてくる。

 これの痛みを、苦しみを欠片も理解していないくせに革命をしようなどという人間は、それこそ掃いて捨てるほどいる。

 だがアンリとリュウは、理解している。

 同類だから。

 この痛みや苦しみを理解しているから。

 男は、嬉しそうに笑う。


「君たちが、遊びじゃないことはわかった」

「あ、それはどうも」


 アンリの言葉遣いは、いつの間にか丁寧なものになっていた。

 それは、彼は男を認めた故だった。

 男は、質問をすることにした。


「それじゃあ、仲間は今何人いるんだい?」

「俺とこいつだけです」

「…………」


 男はいきなり沈黙してしまった。

 戸惑いながらも、なんとか言葉をひねり出す。


「えぇと、君たち、二人だけ?」

「はい。これから仲間を集めようと思ってたところです」

「へぇ、あぁ、うん、そうなの」


 男は二人の未来に果てしない不安を覚えた。

 彼はため息をつき、ホッケーマスクをつける。


「別に外しててもいいですよ? 俺たち気にしませんし」

「そうそう」

「お気遣いどうも。けど、ちょっと外に出るからね。ついてきて」

「「は~い」」


 男に連れられて、二人は喫茶店を出た。





「ここなら問題ないか」


 男に連れられて、二人は町はずれの森へとやってきた。

 リュウが、彼に訊く。


「えぇと、ここでなにをするすんか?」

「その前に、君たちの名前を教えてくれないかな? 今さらだけど」


 二人は一度向き直り、頷いた。


「俺はアンリ・クリエイロウです。で、こいつはリュウ・アストレイ」

「どうも」


 男は頷いた。

 そして、口を開く。


「僕の名前は、ウェーズ・レオバール。裏の世界では、『破壊卿(ジェイソン)』なんて呼ばれてるよ」

「「ッッッ!?」」


 破壊卿。

 それは、聞いたばかりの名前だった。

 デュレンが口にしていた名前だった。

 そして、彼言った。


 自分では、足元にも及ばないと。


 あのデュレンをして、そう言わせたほどの使い手だ。

 戦闘になったら、まず負ける。

 そんな事を考えていたら、ウェーズは用件を言った。


「ちょっと、手合せをしてほしいんだ」

((うわ~~~~~~~~~~~~~))


 案の定だった。

 ウェーズの手には、いつの間にか一対のハサミが握られている。


「デュレン君に勝ったんだろう? なら、三分以上は保つんじゃないかな?」


 それはつまり、デュレンを三分未満で倒せるということだ。

 二人ではウェーズの実力は押し測れない。


「それじゃ、行くよ」


 ウェーズは踏み込んだ。

 すっと、静かだがナイフのように鋭い踏み込みだった。

 一瞬で、アンリに肉薄していた。


(は、速ェ!?)


 シャキン、と。

 ハサミが擦れる音が響く。

 アンリは全く反応できていない。


 だが、相棒は違った。


「アンリ!!」


 バン!! と。

 銃声が一発。


「おっと」


 とぼけたような声と共に後退して、銃弾を避けた。

 一歩分。

 たった一歩分の後退だ。

 だが、それで十分だった。


「前頼む!」

「応よ!」


 リュウがまっすぐ突っ込み、アンリが後ろに大きく跳ぶ。

 刹那。


 アンリの後方に十五の剣や槍が現れた。


「むッ!?」


 さすがのウェーズも動揺した。

 初めて見たのだろう。

 当然だ。

 魔術、それも『固有結界』をここまで使いこなしている人間は、アンリを置いて他にいない。


「当たったらごめんな!」


 剣が、槍が、斧が音速でウェーズを襲う。

 ただし、リュウに当たらないギリギリを狙ってだ。

 しかも、それだけではない。

 武器の雨に加えて、リュウの拳闘に銃弾を放つ。

 ウェーズは、マスクの下で笑った。



「悪くない」



 ズドン、と。

 そんな音ともに、リュウの腹に拳が深く突き刺さった。


「ご、ぁ」

「リュウ!!」


 剣と槍、二本ずつ放った。

 だが、体をひねることであっさり回避される。


「クソ…………なッん!?」


 ウェーズはアンリに接近しようと、間合いを潰しかかる。

 そこはいい。

 彼が遠距離攻撃を持たない以上、当たり前のことなのだから。

 だが。


(あいつ、リュウを盾にしながら(・・・・・・・・・・)……!?)


 気を失ったリュウを盾代わりにしながら、ウェーズは突っ込んできたのだ。

 これでは攻撃ができない。


「チッ」


 忌々しそうに舌打ちする。

 それと同時だった。


 ウェーズがアンリに肉薄したのは。


「はい、お終い」


 ウェーズの当身が、アンリに炸裂する。

 そして、アンリは意識を手放した。

出ました! 携帯にはいなかった第二号の大人!

そして、今更ながら思いました。

遠距離戦の戦闘描写、私、苦手!

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