6.武器獲得
やばい、前書き、書けなくなってきやがった。
ネタがー、尽きるー。
アンリとリュウは、サイクロプスの言葉の意味がわからず言葉を失っていた。
アンリが確認するために、訊く。
「えと、火ですか?」
《そうだ。鍛冶をするために必要なものは、ざっくり言って三つだ》
「三つ?」
《そのうちの一つが工房だ。これがないと話にならない。お前たちに頼むことは、その工房の施設の一つである火炉に火を点してほしい》
話にならないとか言ってきながら、それがちゃんとできてないってどういことだよ。
というかそもそも。
「なんで火がついてないんだよ」
《仕事がこなかったから、整備を怠っていただけだ》
「お前職人失格だな!?」
スポーツ選手が、試合に参加できないからって練習をサボるようなものだ。
それはやっちゃいけないことである。
《馬鹿野郎!! 工房維持すんのすげぇ大変なんだぞ!?》
「逆ギレすんじゃねェよ!?」
《不景気なんですゥ!!》
「知るかよ!?」
「いや二人とも、話戻そうぜ」
リュウの言葉で、二人は冷静さを取り戻した。
《とまぁ、そんな訳でお前たちには火を用意してほしい》
「火っつっても、特殊または神聖なものなのか? だとしたら、俺たちの手には余るんだが」
《いや、そういうものじゃない。ただ温度が高いだけのもので大丈夫だ》
「具体的に、どれくらい?」
《最低三千度だ。それ未満だと仕事ができない。良い素材使うんだったら、五千は欲しいな》
鉄の融点は二千度だ。
それが基準ではないということは、それよりも融点が高い素材を使うということなのだろう。
「なにか決まったやり方じゃないとダメ、とかある?」
《いいや。ただ火を熾してくれればそれでいい》
「五千度のか?」
《欲張りめが……》
サラッと良いものを造らせようとするあたり、アンリも相当である。
サイクロプスはため息をつく。
《とにかく高温の火を熾したいのであれば、燃料を分散させずに一点に集中させて空気を送り続けろ。五千度に達したら、あとは俺が保たせる》
「了解だ」
《……あっさり返事するな。どれだけ大変なことかわかっているのか?》
「はっはっは、俺なら一瞬だよ」
《なにを馬鹿な……》
呆れるように言うサイクロプスの言葉を遮り、アンリは紡ぐ。
魔術の呪文を。
「怒れる炎の神よ。我が前に立つ愚者を焼き払え」
アンリの眼前に、黒い火の玉が現れた。
「お? それが魔術ってやつか? 初めて見たな」
「おいおい、触るなよ? 俺たち三人吹き飛ぶからな」
「いやもっと安全なの出せよ!?」
「これが最高火力なんだよ!!」
「いや今求められてるのは火力じゃなくて温度だよ!?」
「ブァカァめ! これが最高火力なんだから、最高温度でもあるに決まってんだろ!」
「お? お前、今ちょっと馬鹿にしたか?」
「今さら気がついたか? お前と初めて会った時から俺はお前を馬鹿にしてるぞ?」
「表出ようぜ。久しぶりに、キレちまったよ」
「上等だァ! 魔術を習得した俺に勝てると思うなよ!」
「テメェの人生今ここで打ち切りにしてやるァ!!」
《まぁまぁ落ち着けお前ら》
サイクロプスは黒い火の玉を、ちょんと突いた。
刹那。
ドッパーン!! と。
火の玉は爆裂し、黒い炎が三人を呑み込んだ。
「「ぎゃァァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???」」
☆
アンリとリュウは目を覚ました。
まず一番最初に目に入ったのは、木の天井。
そして、火が何かを焼く臭いが鼻をついた。
というか。
「あれ? 生きてる?」
「俺も死んだかと思ったんだが……」
確かに魔術は発動したはずなのだ。
不発などではない。
火の臭いの下へと目を向けると、サイクロプスが黒い炎を素手で握って、火炉へと水のように流していたところだった。
《目を覚ましたようだな。ちょうど今、火炉に魔術の火を移し終わったところだ》
「お前、火を掴めるのか?」
《まぁな。俺は下級神とはいえ、鍛冶の神だ。それに俺たちは、ヘパイストスの傘下に入っていた頃もあってな。その頃の加護も、まだ残ってる》
「成程な」
なにがともあれ、これで火は提供した。
これでサイクロプスに、武器を造ってもらうことができる。
「じゃ、これから武器を造ってもらうぞ」
《あァ、そういう約束だからな》
「わーい」
武器があれば、天使にもある程度対抗できるだろう。
だがアンリは気づいていない。
そういう考えは、素人の考えであると。
《なぁ、一つ、訊きたいことがある?》
「なんだ?」
サイクロプスは、神妙な顔つきで訊いてきた。
《お前が今使ったのは、魔術なのか?》
「そうだけど?」
《なにか体に異常はないか? 体の節々が痛いとか》
「関節痛かよ。なにもないけど?」
《……お前は、魔術が何たるかを知っているのか?》
「え? なになに? そんなヤバいことなの?」
怖い怖い。
そういう煽りやめてよ、怖いから。
《魔術と魔法の差を知ってるか?》
「効果、発動手段、消費魔力量だろ?」
《そうだ。だが、一つ足りないぞ》
「足りない、だと」
《そうだ。それは、名前だ》
「「いや、当たり前じゃん」」
そりゃそうだ。
違うものだから、なにかを判別するために名前をつけるのだ。
《名前というものを馬鹿にするなよ? 言葉には力がある。いわゆる、言霊ってやつだ》
「ふむふむ、それで?」
《魔法と魔術ってのは、略称なんだよ。魔法は、『魔の法の下に置かれた力』。魔術は、『魔の力を操る術』。この意味がわかるか?》
「「いいや、まったく」」
《お前ら、少しは自分で考えようとは思わないのか?》
サイクロプスは呆れたように息を吐いた。
《つまり、だ。魔法は、決められた規則に則った力しかない》
「つまり、なんだ? 魔法はショボイって言いたいんだろ?」
《まァ、詰まる所はそうなんだがな。だがそれはな、お前たち人間のための規則なんだぞ?》
「「は?」」
《魔術はな、魔の力を際限なく引き出す術なんだ。そしてそその反動は、上位種でなければ耐えられないんだよ》
「え? 魔術って、そんな御大層な力だったの?」
《理解できたようだな。それじゃ、もう一度問うぞ? お前は本当に人間か?》
「…………」
アンリ自身は、人間のつもりだ。
百%純粋な、人間だと思っている。
だが。
(人ならざるものの力を使っている、俺はなんなんだ?)
パシン! と。
考えに没頭していたアンリの後頭部に、衝撃が走った。
リュウにはたかれたのだと、遅れて気づいた。
「いって!? なにすんだよリュウ?」
「アホが。くだらないことで悩むな。ンなこと考えたって、仕方ないだろ。悩んでそれは解決するのか? 答えは出るのか? そうじゃないなら今すぐ辞めろ馬鹿が」
「ったく、他に言い方ないのかよ?」
「お前にはこれくらいが丁度良い」
「お前なぁ……」
だが、リュウのおかげでスッキリした。
悩んでも仕方ないのだから、これは先送りにするとしよう。
開き直りだろうがなんだろうが、わからないものは仕方ない。
「さて、サイクロプス、武器造ってくれ」
《やれやれ、流すことにしたようだな》
「そうだな。悩んでも仕方ないし」
《そうか。いいだろう。じゃ、オーダーを聞こうか》
「「……オーダー?」」
《…………おい》
オーダー?
なにそれ?
職人さんが依頼主に最適な武器を、勝手に造ってくれるんじゃないの?
《お前たち馬鹿か? 俺たちは注文を承って、その要望にどれだけ応えるかって職業なんだ》
「「…………」」
アンリとリュウは、静かに向き直った。
「リュウ、どうする?」
「言っておくが、俺のはほとんど決まってるぞ?」
「裏切り者め!」
「俺の場合は、弾丸かな」
「お? 水銀で加工した銃弾でも頼むのか?」
「吸血鬼でも狩るつもりなのか、お前?」
「え? 天使って水銀の銃弾で狩れないの?」
「聖書を読め」
二人の会話に、サイクロプスがため息をつく。
何度もため息ついてると、幸せ逃げるよ?
《水銀でも狩れないこともないぞ?》
「「マジで!?」」
《重要なのは、その武器が天使の加護を打ち消しうるものがあればいいだけだしな》
凄いことを聞いたが、特に重要じゃない。
だってどうでもいいし。
「それじゃサイクロプス、俺には銃弾を頼む」
《了解した》
くっ、リュウはさっさと決めちまいやがった。
おのれブルジョワジー。
※使い方間違ってます。
《で、お前はどうする?》
「……そうだな」
アンリは自己分析をする。
自分は、武術なんてかじったことすらない。
喧嘩は何度かしたことがあるが、訓練を受けた兵士と一騎討ちすれば負けるだろう。
となれば。
「よし、全部頼む」
「《……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?》」
「だから、剣、槍、槌、斧とかさ。とにかく白兵戦で使う武器は全種だ」
どうせ素人なのなら、全部もらう。
そして恐らくだが、武術の修業をする暇はないだろう。
それに達人の道のりとは、武人が一生かけて修行したとしても至ることすらできない者が過半数という、狭き門だ。
そんな賭けに身を投じるつもりはさらさらない。
それなら、素人なりの戦い方をやってやるさ。
《お前さ、確認するけど》
「なんだ?」
《俺が全種用意したとしよう。だが、それだけ大量の武器をどこに保管するつもりだ?》
「固有結界を使う。ンで、全部その中にぶち込むさ」
《固有結界だと? お前、本格的に人間やめてるな》
そういうこと言うのやめて。
マジ心にくるから。
「それじゃ、頼めるか?」
《……まぁ、出されたオーダーに応えるのが俺の仕事だ。承ろう》
「あ、それと盾くれないか? とにかくデカくて頑丈なのを。重さは無視してくれてもいい」
《大盾も? それなら、こいつをやるよ。お前にうってつけのやつをな》
「お? あるの?」
《あァ、俺の最高傑作だ》
サイクロプスは立ち上がり、ふすまを開けた。
そして、その中から漁ってなにかを探す。
最高傑作そんなところに入れるなよ。
《お、あったあった》
ふすまから取り出されたのは、金属製の蕾のようなものだった。
なにこれ?
《こいつは、『アイアスの盾』。英雄アイアスが使っていた大盾だ。こいつに魔力を流してみろ》
「どうやって?」
《……触れて、自分の中にある水をこれに流し込むようなイメージをするだけでいい》
アンリは言われた通りにやってみた。
刹那、蕾が開花した。
花弁は、真っ紅だった。
まるで、血のような紅。
それが発光している。
花弁の枚数は、十枚。
「綺麗だな」
《それだけじゃないぞ? そいつは、込められた魔力の量が多い程花弁の枚数を増やす。花弁が増えれば増えるだけ、防御性能は上がる。最高である十枚ともなれば、魔術すら防ぎきるだろう》
「凄いな、これ」
手を離し、花は蕾になった。
「これ、もらっとくよ。我が精神が喰らうは現」
刹那、虚空に穴が開いた。
その中に、アイアスを放り込んだ。
《固有結界か。まさか本当に扱えるとは》
「あぁ、それと穴はこのまま開けておく。武器を造ったはしからここに放り込んでくれればいいから」
《……便利だな》
「だろう?」
アンリは体の調子を確かめる。
それに、サイクロプスは目を細めた。
《もう、出発するのか?》
「まぁな。あんまり、ぐずぐずしてられないから」
《そうか。達者でな》
「まぁ、暇があればまた来るよ」
《そうか》
「おい、アンリ、そろそろ行こうぜ」
リュウが待ちくたびれたと言わんばかりに、催促してくる。
いや、言外にそう言っている。
「んじゃな~、サイクロプス」
「ありがとうな」
《じゃあな》
思い思いのあいさつを交わして、アンリとリュウは小屋を後にした。
☆
カン、カン、と金属音が響く。
木の小屋から響くその音は、金属を打つ音だ。
サイクロプスは、アンリとリュウが出て行ってからずっと武器を打ち続けていた。
久しぶりに聞くこの音が心地いい。
感触が気持ちいい。
そんな感覚の海に溺れること早三時間。
そんな時だった。
《もう、いないか》
《あ?》
突然、背後から男の声が聞こえてきた。
サイクロプスが向き直ると、そこには頭からつま先までローブで隠した男(?)が現れた。
男と判断しているのは、声がそうだからである。
サイクロプスは、そいつが誰か知っていた。
《なにしにきたんだ? オーディン》
戦争、死、魔術を司る主神だ。
心当たりはないものの、こいつがサイクロプスを殺しにきたのだとしたら、彼にはどうしようもない。
こいつの強さは、神の中でも最強クラスに分類されるのだ。
下級神であり、戦闘タイプですらないサイクロプスが相対できるはずもない。
オーディンは、静かに答える。
《なに、ここに天使と敵対するつもりのやつらが来たと知ってな。俺の契約者に、引き合わせようとしただけだ》
《なんでだ?》
《お前、最近天使の『住居』が襲われて、皆殺しにされているのは知っているか?》
《まぁな。けっこう大騒ぎになってるし》
《それの犯人は、俺の契約者なんだよ》
《お前の力を借りているとはいえ、そいつは人間とは言い難いな。数百単位の天使を相手取って、生きてるなんてな》
《ははは》
オーディンは笑う。
全くの見当違いをしている者に対するように、笑う。
《違うな。あいつはもう、『人間』じゃない。『修羅』だ。一つの目的のために、『神』も『天使』も『悪魔』も『竜』も喰らって糧とする、化物だよ》
《それで、どうしてそんなやつを俺の客に引き合わせようとする?》
《ん? あぁ、それなんだがな》
オーディンはめんどくさそうに言う。
げんなりと。
まるで、人間のように。
《人間をやめてると言ってもな、まだ弱すぎるんだよ。見ていて危なっかしい。あっさり死なれても詰まらないので、仲間を作らせることにしたのさ。お前と出逢ったんだ。資格としては、十分だ》
《そうか……》
サイクロプスは、考える。
あの二人が、本気で革命をしようとするのであれば、仲間は不可欠だ。
だったら。
《オーディン》
《なんだ?》
《そいつは、大丈夫なのか?》
《まぁ、下級天使相手に気を大きくしてるガキだが、お前の心配しているようなことにはならないだろう》
《そうか。それなら、あいつらの居場所を教えてやる》
《そうか。感謝する》
サイクロプスは、内心笑った。
(さて、これが吉と出るか。後は頑張れよ、お前ら)
今回は、解説回でしたね。
思わせぶりな、展開じゃー。
そして言っておきましょう。
え~、【ピ―――】の出番、喰われちゃってるよー!?
なんで自主規制にしたかって?
ネタバレになるからです。