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5.解説乙

五話目ー。

るーるるるるる♪ るーるるるる♪ るー、ひゃっはーーー!

 アンリとリュウは土下座をして家主の男に謝罪をしていた。

 相手が一つ目とはいえ、どう見ても人間ではないとはいえ眼前に現れて気絶するなど無礼もいいところだ。

 土下座の一つや二つ、当然の行為だ。


「「すみませんでした」」

《いや、気にしていないよ。だから顔を上げてくれ》


 おお、なんと優しく心の広いお人なのだろう。

 アンリとリュウの精神はさらに傷を負った。


《さて、お前らの目が覚めたことだし、自己紹介をするとしようか》


 一つ目の大男は、気さくな態度のまま自己紹介をする。


《俺はサイクロプスだ。まぁ、よろしく》

「「…………」」


 二人は沈黙してしまった。

 このリグレット王国は神話に関する研究がかなり進んでおり、教養の一つとして学ぶことが義務づけられている。

 その神話の中で、サイクロプスはかなり重要な位置にいる。

 彼らは卓越した鍛冶技術を持つ巨人であり、なおかつ下級神としての側面も持っている。

 その鍛冶技術は、主神ゼウスの持つ雷霆、ポセイドンのトライデント、ハデスの隠れ兜程の武器を造るほどだ。

 けど。


「神話って、お伽噺なんじゃ……」


 リュウのそんな言葉に、サイクロプスは首を傾げた。


《なに言ってるんだ? お前らの言う神話ってのは、この世界が誕生してからの神々や天使、悪魔とかといった上位種たちの日記なんだぞ?》

「「へ?」」

《…………少し、確認させてくれ》


 サイクロプスは、二人の反応を少しでも見逃さんとばかりに目を細くする。


《お前たちにとって、神ってのはどういう存在なんだ?》

「神話に出てくる、偉いやつら」

《天使は?》

「神の使いっ走りだろ?」

《…………》


 サイクロプスは黙り込んでしまった。

 そして、ため息をついた。


《どうやら今の人間たちの、上位種たちへの認識はかなり歪んでしまったらしいな》

「どういうこと?」

《…………いや、待て》


 サイクロプスは何かに気がついたようだ。

 いや、思い出したような顔と言った方がいいか。


《お前たちは森の中で倒れていたが、あんな所でなにをしていたんだ?》

「腹減って幻覚見て、気失いました」

《……質問を変えよう。お前たちの今の目標は?》

「革命を起こして、この国を変えることだけど」

《……この国が、どういうモノ(・・)か全く知らないのにか?》


 サイクロプスの言葉には、嘲笑が混じっていた。


《無知は罪とは、よく言ったものだ》

「あァ?」

《別に放置しても構わんが、無駄に命を散らすのを放置するというのも、目覚めが悪い》


 サイクロプスは無精髭を撫でた。


《この国のこと、お前たちはどう思っている?》

「人体実験がそこらじゅうで起きてる、腐った国……」

《その認識は間違ってない。じゃあ訊くが、それを主導しているのは?》

「え? そりゃ、王族や貴族じゃないのか?」


 自分たちを誘拐した組織の規模は、計り知れない程大きかった。

 それを維持するだけの人員、経費、施設を用意できるものとなれば限られてくる。


《惜しい。正解は、貴族だけ(・・・・)だ》

「いや、待てよ。王族はどうしたんだ?」

《傍観だよ。全てのことを知りながら、不干渉を決め込んでる》

「「はァ!?」」


 貴族の暴走を止めようとすらしないなんて、なんのための抑止力なのか。

 二人は憤りのあまり怒鳴ってしまったが、サイクロプスは特に気分を害すようなことをしなかった。

 気分が落ち着くまで、彼は待った。

 冷静になってから、アンリは口を開く。


「どうして、王族は傍観を決め込んでるんだ?」

《関係ないからだよ。人間の問題だからな(・・・・・・・・・)

「いやいや、なにを言って……」


 サイクロプスの話が、ようやく見えてきたような気がした。


「まさか」

《その通りだ。王族は、人間じゃない(・・・・・・)上位種だ(・・・・)

「「…………」」


 王族と貴族は、元から倒すつもりだった。

 だがまさか、人外を相手取るとは思わなかった。

 上位種の存在は荒唐無稽だが、目の前にその一人がいるのだから疑いの余地はない。


「それで、王族は、どれなんだ?」


 サイクロプスは、その問いにあっさりと答えた。



《天使だ》





 サイクロプスの衝撃発言から、十分ほど経った。

 その間、アンリとリュウは口を開けて固まっていた。

 サイクロプスは待ちくたびれたのか、うとうとしている。


「「《は!?》」」


 二人はようやく正気に戻ったようだ。

 それ同時に、サイクロプスも目を覚ました。


「ごめん、呆けてた」

《いや、俺も寝てたから気にするな》

「それにしても、どういうことなんだ? 王族が天使? ここでは聖戦の準備でもされてるのか?」

《いやいや、そういう訳じゃない…………たぶん》

「「たぶん!?」」


 二人の声に、サイクロプスは肩をすくめた。


《いや、本当に知らないんだよ。そんなに知りたいんだったら、自分で訊いてみろよ》

「「いえ、けっこうです」」

《諦めるの早いなぁ》


 だって殺す相手のことを知ったって、しょうがないじゃん?


「でもよ、天使って殺せるのか?」


 リュウがごもっともな質問をした。

 それにサイクロプスは、あっさり頷く。


《ああ、殺せるとも》

「「マジで!?」」


 てか、リュウ。

 なんでお前も驚いてんだよ。


《お前ら、竜人って知ってるか?》

「当たり前だ。確か、竜の因子を持った人間のことだろ? 身体能力が異常に高くて、皮膚も馬鹿みたいに硬いってやつ」

《認識に違いがあるから、教えてやる。それは、『加護』による恩恵だ》

「「加護?」」


 首を傾げる二人に、サイクロプスは頷いた。


《あいつらは、竜から加護を授かっているんだ。それによって得られる効果が、身体能力の強化と攻撃によって与えられた、斬撃・打撃を問わずの衝撃の半減》

「「チートじゃないですか、やだー」」

《そして攻撃による衝撃(・・・・・・・)のカットだから、あいつらの皮膚は普通に柔らかい》


 こいつの話を聞いていると、常識がどんどん壊れていく気がする。

 だが、ここでその話をしたということは……


「まさか、天使も?」

《ご明察。あいつらも加護を得ているぞ。効果は、武器による衝撃をほとんど削るってものだ》

「拳は?」

《普通に効くぞ?》

「武器使いは相性最悪だな」

《といっても、達人なら余裕で攻撃は通るがな》


 そこで、リュウはあることに気づいた。


「総合的に見たら、竜人の加護の方が凄くないか?」


 確かに、武器による攻撃が効かないとはいえ達人はそれに適用されない。

 それを考えれば、身体能力強化のある竜人の加護の方が魅力的だ。


《その通りだ。だがあいつらは、身体能力強化なんて必要ないんだ。素が凄い(・・・・)からな》

「どういうことだ?」

《竜人といってもな、所詮は人間の亜種なんだよ。詰まる所、肉体の構造は人間とさして変わらないんだ。対する天使らは、体からして人間と別種だから身体能力は普通の人間のそれと比べ物にならない》


 本当に、こいつの話を聞いていると世界の見る目が変わる。

 今まで畏怖の対象とされてきた竜人は、加護なんていう摩訶不思議なものを得ているだけの、ただの人間だという。

 それに、これから敵対するであろう天使は、生まれながらにして人間より強い。


「なぁ、天使に素手で挑んだとして、勝率はどれくらいだ?」

《そうだな。達人なら話は変わるが、そこいらのチンピラなんかじゃまず勝てない。ていうか、土台無理だぞ?》

「じゃあ、武器でその差を埋めたいところだが……」

《その武器は、天使には通用しない》


 アンリとリュウはため息をついた。

 この世界、人間に厳しすぎないか?


《そこでお前らに、良いことを教えてやる》

「「良いこと?」」

《俺が鍛えた武器なら、天使の加護を無視することができる》

「「なんですとォ!?」」

《当然だろう。俺は鍛冶の神だ。天使のみならず神をも殺す武器を造ることができる》


 その話が本当なら、かなりありがたい。

 だが。



(話がうますぎないか?)



 リュウはサイクロプスを信じていなかった。

 助けてもらったとはいえ、こいつとは初対面なんだ。

 信用しろという方が無理な話だ。

 隣で目をキラキラさせてる馬鹿は、うん、例外。


《あァ、ただし報酬はもらうぞ?》

(ほらな)


 その『報酬』とやらが、法外的なものであればすぐにでもアンリを連れてここを出よう。

 リュウはそう決めて、サイクロプスの話を聞く。


「え~、タダで頼むよ~」

《無理に決まってるだろう、馬鹿め》

「で、その報酬ってのはなんだ?」


 リュウの問いに、サイクロプスはあっさりこう答えた。


《火を用意してくれ》


「「…………はい?」」





 リグレット王国のとある施設。

 その施設を一言で言い表すのならば、異常という言葉がふさわしい。

 なにせその施設には、目的がない(・・・・・)のだから。

 その施設は、ただあるだけ(・・・・・・)だ。


 ただしそれは、人間から見たら(・・・・・・・)


 そこは、『住居』だ。

 誰かが住むための、家。

 そこの住人たちには、ある特徴があった。

 彼らは一様に。


 頭の上に環が(・・・・・・)浮かんでおり(・・・・・・)背中に純白の一対の(・・・・・・・・・)翼を生やしている(・・・・・・・・)


 彼らは、人間ではない。

『天使』だ。

 人間を超える上位種であり、竜人のような紛い物(・・・)などではない、純粋な人外だ。

 天使は、生まれながらにして人間を超えた力を持っている。

 これは理屈ではなく、定められた『ルール』だ。


 故に、『人間』は『天使』には勝てない。


 そう、決められている。

 そう、そのはずなのだ(・・・・・・・)

 そう、決められているはずなのだ。

 ならば。

 どうして。


 天使の屍の山ができて(・・・・・・・・・・)その上に人間が(・・・・・・・)立っている(・・・・・)

 天使らは血まみれで(・・・・・・・・・)人間が五体満足なのだ(・・・・・・・・・・)


 人間は、男だった。

 まだ二十歳にもなっていないだろう、青年だった。

 その手には、一本の黄金の槍。

 青年の体は真っ紅だというのに、槍には一滴も返り血がついていない

 彼は、淡々と言う。


「ここも潰したな。次に行くか」


 百もの天使を屠ったというのに、彼は息一つあがっていなかった。


《貴様!!》


 青年の下に、男の天使がやってきた。

 彼は、無感動に天使を見る。

 男の天使は、青年に脅すような声音で訊く。


《貴様が、これをやったのか?》


 青年はめんどくさそうに応じる。


「あァ? そうに決まってんだろ? もしかして、俺以外に容疑者がいるのかよ? もしいるのなら、今すぐ俺に紹介してくれよ名探偵」

《貴様……》


 馬鹿にされた天使の額に青筋が浮かぶ。

 だが、まだ攻撃はしないので踏み止まる。

 これだけは、訊いておかなければならないから。


《貴様は、人間か(・・・)?》


 青年は、その問いに肩をすくめる。


「さあなァ。俺は人間のつもりなんだがな、最近は自分でも自信(・・・・・・・・・)がなくなっちまった(・・・・・・・・・)……あァ、そう言えば、あいつからは、もう『人間』じゃないって言われてたっけなァ」


 青年はなにが面白いのか、喉を鳴らして笑う。嗤う。嘲笑う。

 狂ったように笑う。


《あァ、うん、お前は壊れてるよ》

「それは自覚してるよ」


 青年は黄金の槍を構える。

 天使は、決めた。


 殺そう、と。


 こいつを生け捕りにしても、得るものはなにもない。

 狂ったモノを捕まえたところで、意味はない。

 うまみもない。

 メリットもない。

 ならばこの手で、壊そう。

 故に天使は、腰を落として走り出す準備をする。


《死ねよ》


 青年は天使が踏み込むのと同時に、槍を掲げていた。

 そして、呟く。

 その槍の銘を。



「グングニル、十%」

あれ?

天使、弱くね?

ちょっと新キャラ引き立てすぎたかなー。

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