4.旅立ち
四話目だす。
今回、コメディかな?
どうぞ。
アンリたちは、デュレンを埋葬した。
あんなやつでも、なんだかんだで死んだらやはり悲しかった。
アンリとリュウは旅支度を整えているところだ。
だが二人は遠出などしたことないため、支度に四苦八苦していた。
「本当に行っちゃうの?」
マルコスが不安そうな声で、言ってきた。
「おう、あのめんどくさがり屋と約束したからな」
この国を変える。
デュレンの最後の頼みだ。
やるといったからには、やらない訳にはいかない。
「デュレンさん、二人のために荷物まとめてたみたいなんですよ」
「「マジで?」」
今までの苦労はなんだったの?
マルコスが引きずって、バッグを二つ持ってきた。
「あいつ、俺たちが革命やっるて前提で準備しすぎだろ……」
「いや、それが二人のためだけじゃなくて、みんなの分もあるんだよね」
「え?」
この研究所には、アンリ、リュウ、マルコス以外にもまだ生き残りはいる。
人数は三人を含めて十五人。
アンリとリュウは、マルコスに残りの十二人をまとめることを頼んだ。
デュレンはその全員分の荷物を用意していたのだという。
「あいつ、いつものめんどくさいは、どこ行ったんだか」
呆れたようにそう呟いて、一つのリュックサックを注視する。
それには、ご丁寧に『アンリ用』と書かれた紙が貼りつけられている。
その隣には、リュウのためのものもある。
「まぁ、手間が省けてよかったじゃねぇか、アンリ」
「まぁ、そうだけどよ」
マルコスが小走りで小さな箱を二つ持ってきた。
「なにそれ?」
「お弁当だよ。デュレンさん、みんなの分作ってたみたい」
あいつ、なにしてるんだよ……
「デュレン……………………料理できたのか」
「そっち!?」
マルコスが驚いたような声を上げたが、当たり前だ。
料理ってのは繊細なものなんだ。
あんな怠惰の塊のような男ができる道理などない。
「はい、デュレンさんが作ったミートボール」
「いやいや、あいつの料理なんて…………まいうー!?」
口に突っ込まれたミートボールは、絶品であった。
とにかく柔らかく、それでいてきちんと噛み応えがあり、肉汁がスパーキングする。
思わずのけ反ってしまった。
「マルコス、俺は弁当を持っていくぞ。絶対になァ!」
「う、うん」
マルコスは思わず、一歩退いたのであった。
☆
アンリとリュウはリュックサックを背負い、街道の前に立っていた。
マルコスは研究所の扉の前で、彼らを見送るためにいる。
「そいじゃ、他の奴らのことは頼んだぞ」
「うん、人をまとめることなんてやったことないけど、頑張るよ」
「頼んだぞ」
「ま、これで俺たちもお別れだな」
リュウの言うとおり、もうマルコスと会うことはもうないだろう。
彼らこれから、もう人目に触れないように生きるのだから。
いわゆる、世捨て人だ。
「うん、お兄ちゃんたち、ありがとね」
「おう」
「元気でな」
それぞれ思い思いの別れの言葉を紡いで、アンリとリュウは旅立った。
☆
アンリとリュウは街道を抜けて、森の中を歩いていた。
日は、やや高い。
もう三時頃なのだろう。
二匹の腹の虫が同時に鳴いた。
「アンリ」
「ん……?」
「腹減った……」
「そうだな……」
二人は空腹に苦しんでいた。
弁当は、ない。
食べた訳ではないのだ。
それなのに、ない。
とんちのようだが、そうではない。
それを説明するには、時を少しばかり遡る必要がある。
アンリは両手を広げながら、少しばかり高いテンションでリュウに語りかけていた。
「嘘じゃないんだって! あいつの料理、超美味いんだって!」
「あの怠惰が人間の皮を被って歩いてるようなデュレンの料理が美味い? 冗談も程々にしとけよ」
「だから、本当なんだよ!」
「そんなに言うんなら、まあ少し早いが昼飯にするか? 弁当もらってんだろ?」
「お、それもそうだな」
二人はリュックサックを背中から降ろし、チャックを開けて弁当箱を取り出した。
弁当箱は、思ったより軽かった。
「あいつ、手ェ抜いて量減らしやがったな」
「まぁまぁ、美味いんだから、そこは勘弁してやろうぜ」
苦笑しながら言うアンリに、リュウは溜息を吐いた。
二人は同時に、蓋を開ける。
そして目に飛び込んできたのは。
『ハズレ
Byデュレン』
と、書かれた紙切れ一枚だけだった。
他は、なにもない。
空っぽだ。
食べ物など、入っていない。
二人は向き直った。
同時に、頷く。
「「デュレェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエン!!!!!!」」
二人の慟哭が、森の中で木霊したのだった。
そして時間は元に戻る。
二人は空腹で死にそうになっている。
それこれも全て、あのめんどくさがり屋のせいだ!
なんだよハズレって!?
せめて減量とかにしとけよ、あのアホが!
あァ、やめろ!
親指立てて良い笑顔でサムズアップしてくるな!
※アンリはちょっと危ない幻覚を見ています。
「ひ、ひィ!? くーるー!? きっとくるー!? きっとくるー!?」
「空腹でおかしくなってきたなこいつ」
「ご、ごめんなさい! 殺しちゃってごめんなさい! けど、殺ったのはリュウなんです!」
「お前なァ、いい加減に……うおわ!? デュレンの顔が出てきた!?」
※彼らは危ない幻覚を見ています。
「けど、幻覚にはめたのはアンリだから、大元はこいつだ!!」
「ひぃ!? 目が一ミクロンたりとも笑ってない笑顔でこっちきた!」
「あァ!? お前に押しつけたはずなのに、デュレンの顔だけ行進が止まらないンですけど!?」
※彼らは危ない幻覚を見ています。
二人の思い出から、デュレンが消えることは永遠にないだろう。
「あァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???」
二人のキャパが天元突破したため、彼らの中で防衛本能が働いた。
生物としての、生きるための本能である。
それは。
「「きゅう……」」
気絶である。
☆
二人が気絶した森に、一人の男が歩いていた。
身長は二メートルを超えており、筋骨隆々とした肉体の持ち主だ。
男は、気絶しているアンリとリュウを偶然発見した。
《う~ん》
困ったような声を出して、顎に生えている無精髭をなでる。
そうすること、十秒。
《よし》
男はそう頷いてから、片方の肩に一人ずつ担いだ。
そして、歩き出す。
男を二人も担いでいるというのに、歩みに一切の乱れはない。
体の筋肉は伊達ではない。
《ハイホ~♪ ハイホ~♪ 槌を握ろう~♪》
歌を口ずさみ、男は森の中を歩いていく。
絶賛気絶中の二人を担いだまま。
☆
アンリは目を覚ました。
「う、ここは、どこだ……?」
周りをゆっくりと見回してみる。
目に映ったのは木の壁、木の床、木の天井、木の扉、木の階段。
どうやらここは、どこかの小屋らしい。
ゆっくりと記憶をたどる。
アンリとリュウは、昼飯を食い損ねた。
デュレンの幽霊(幻覚)に襲われた。
森のど真ん中で、二人仲良く気絶してしまった。
どうやら自分たちは、偶然通りかかった誰かに助けられたらしい。
「ふむ、その誰かには、ちゃんとお礼を言わないとな」
そう呟いてから、アンリは隣で気絶しているリュウの肩を叩く。
「リュウ、起きろ」
「ン、ァ……?」
リュウもようやく目を覚ました。
やれやれ、寝坊すけだこと。
「アンリ、ここはどこだ……?」
「さぁな。だけど俺たちは、この小屋の主に助けられたらしい。後でお礼言っとかないとな」
「あぁ、同感だ」
アンリとリュウは、周りを見回す。
「ここ、どこだ?」
「さァ?」
森の中で気を失っている中で拾ってもらったのはありがたいのだが、自分たちはここでのんびりしている暇はないのだ。
なにかお礼をした後に、ここをすぐに発ちたいのだが、肝心の家主がいないのでは話にならない。
「どうする?」
「どうしよう」
二人は途方にくれた。
そんな時だった。
《お、目が覚めたようだな》
太い男の声が上から聞こえた。
どうやら家主は上の階にいたらしい。
「あ、俺たちを助けてくれたんですか?」
《ま、そういうことになるな。森ん中でぶっ倒れてるのを拾ったからな》
どうやらこの人が助けてくれた人で間違いないらしい。
家主(?)が階段から降りてくる。
《体の調子はどうだ?》
家主の身長は高かった。
二メートルは超えているだろう。
毛根は絶滅しており、代わりに髭が豊かだが、手入れがまったくされておらず生えたい放題となっているため無精髭となっている。
「いやぁ、マジ助かりました、よ……?」
「アンリ、どうし、た……?」
二人はあるものを見た。
それは、人間が見てはいけないものだった。
それは、家主の目である。
彼は、目が一つしかなかった。
本来、目は二つないといけないのに。
つまり家主は、一つ目親父なのだ。
自分たちは、妖怪と接触してしまったのだ。
故に二人は。
「「ぎゃァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」」
本日二度目の防衛本能を発動した。
シリアスないって思えば、今回、シリアスじゃね?