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20.この世で一番怖いのは、女

お待たせしました。

マジで、お待たせしました。

まさか、ここまでかかるなんて。


粉☆バナナ!!

 リースの登場に、リュウとケイトはぎょっとする。


「「げっ」」


 自分たちが醜態をさらした直後に、彼女が現れたことに思わず、そんな声を漏らしてしまった。

 怒られる、とでも思ったのだろう。

 子供か。


「それで、嬢ちゃん(・・・・)、勝負ってのは?」

「……ちょっとタイム」

「は?」


 リースは、リュウとケイトの首根っこを掴んで、アンリの所まで戻ってきた。

 それにアンリは訝しげな顔をする。


「どうした?」

「ごめん、私、あいつと勝負したくない」

「「「おい!?」」」


 声を荒げる三人に、リースはバツの悪そうな顔をする。


「だって、嬢ちゃんって、大人の女に使う呼称じゃないわよね? ていうことは、あいつ、初見で初めて私の実年齢を見抜いてくれた人間なのよ」

「……あー」


 リースのドレスは、はっきり言って大人の女が着るドレスだ。

 そしてそれを着こなしている彼女は、大人の女といっても過言ではない。


「お前、いくつだっけ?」

「十六ですぅ! あんたたちと同い年ですぅ!」

「ごめん、二十前半にしか見えない」

「四歳以上もプラスしないでもらえるかしら!?」

「いや、褒めでる、褒めでるんだっでば……」


 だから首掴んで前後に揺さぶるのはやめてください!

 意識が遠のき始め、本日二度目の三途の川までご案内コースへと誘われかけていたアンリを他所に、リュウは訊く。

 ……助けてくれないのね、親友よ。


「それで、実年齢を見抜いてくれたのは嬉しいことはわかったが、それがどうして戦えない理由になる?」

「このカジノを潰すからよ」

「「………………………………は?」」


 言っていることに突拍子がなさすぎて、二人は思わずそんな声を漏らしてしまった。

 ……アンリですか? オチてますけど?

 そんな彼らに、リースはすまなそうな顔をしながら語る。


「チップがないから、賭けをしようがないのよ。だから、違うもの(・・・・)を担保にして、私は勝負しようと思った訳。それの帳尻は、このカジノの全財産で合わせられるくらいものだと私は思ってる」


 カジノは、チップを金として扱うことで賭けを行っている。

 現金で賭けを行うのは、かさ張るなどの理由があるためである。

 そのチップを換金するための金がなくなる。


 それが意味することは、その賭場の破産。


 リースは、それを気にしているのだろう。

 そんな彼女に、ケイトはめんどくさそうに息を吐く。


「あのなぁ、それだったら、こっちがマケてやればいいじゃねェか」

「はぁ……」


 リースは、心底馬鹿にするかのようにため息をついた。

 本当に、心の底から馬鹿にしたようなため息だった。


「そもそも、あんたらが有頂天になってオールレイズなんて馬鹿なマネしなかったら、こんなことしなくてもよかったんだけど?」

「「ぐッッッ!」」


 苦虫とハバネロを噛み潰したような顔をした。

 怒りと痛いところを突かれたからである。


「言っておくけど、賭場の全財産でも安いんだからね、これは」

「お前、一体なにを賭けるつもりだ?」

「だから、すぐにわかるってば」


 リースは踵を返し、テーブルへと歩き出す。

 そんな彼女を、オーナーは不思議そうに見る。


「嬢ちゃん、どうしたんだ、そんなバツの悪そうな顔をして」

「人の心配してる暇は、ないと思うわよ?」

「…………なに?」


 リースは椅子へと座った。

 そして、スリットへと手を突っ込み、一枚の紙とペンを取り出す。

 それらで何かをサラサラ書きながら、彼女は話しかけた。


「実は私、チップを一枚も持ってないのよね」

「嬢ちゃん、それなら、一体何を賭けるつもりだ?」

「それはね」


 リースは、あっさりこう言った。



私たちの人権全て(・・・・・・・・)



 あっさり、自分たちの人生を売り渡すと言った。

 それに、アンリ、リュウ、ケイトは思わず。


「「「あァッッッ!!!???」」」


 声を荒げる。

 ついでに、リースへと詰め寄った。


「お前、なに考えてるの!? 馬鹿なの!? お前馬鹿なの!?」

「ていうか、さらっと俺たちの人権までレイズしてんじゃねェか!!」

「考え直せ、この馬鹿!!」


 そんな三人に、リースは一度笑いかけた。


「「「……………………………………」」」


 それだけで、彼らは後ろへと下がった。

 なんとも弱い男たちである。

 邪魔者たちが消えたことで、リースはオーナーへと続きを話す。


「で、そっちが賭けるのは、この賭場のお金全部。ドゥユー、アンダスタン?」

「嬢ちゃん、そいつは釣り合わない賭けじゃねェか? こっちが賭けるものがデカすぎる」

「ぜ~んぜん、安いわよ。この『霧の死神(・・・・)』の全てをあげるって言ってんだから」


 霧の死神(ミスト・リーパー)という単語に、その場にいる全員が目を見開く。

 なにせ裏の世界のことを少しでも知っているのなら、その名を知らぬ者はいない。


「それに、私が行くってことは『黒い鬼(オーガ・シュバルツ)』もついてくるし、超人的な能力を持つこの三人もオマケつき。ね? ここの賭場の全財産なんて、安いでしょ?」


 確かに、これは全くつり合っていない。

『霧の死神』程の暗殺者は手に入れることは至難であり、『黒い鬼』は一人一国の価値はあると称される程の武人だ。

 そして、超人的な力を持つ三人の男のおまけつき。

 これは、一国の王の首ですらつり合わない。


「どう? 勝負してくれるかしら?」


 リースの問いかけに、オーナーは笑って一も二もなくこう笑って答えた。



「断る」



 すっとリースは目を細めた。

 しかし、オーナーは全く動じない。


「これは少し、動くものが大きすぎる。俺のような小心者には重すぎるね」

「……はぁ」


 リースはため息をつき、先程取り出した一枚の紙をオーナーへと投げつけた。

 そして、彼女は億劫そうに語る。


「どれだけ私に譲歩させれば、気が済むの?」


 オーナーは紙に書かれているものを見て。

 心臓が止まったような錯覚に陥った。


(こりゃ、俺の金庫の暗証番号じゃねェか!!!???)


 末恐ろしく、なんとも甘い小娘である。

 なにしろこいつは、金庫の番号を知っていながら、こうして勝負をしようとしているのだ。

 彼女の能力をもってすれば、金庫の中身を持ち出すこともできただろうに。

 本来であれば、彼女が勝負をする必要すらないのだ。


「どう? 勝負、受けてくれるかしら?」

「……応じよう」


 断るという選択肢は、オーナーには存在しなかった。





 テーブルには、大量の野次馬が殺到していた。

 オーナーがリースへと訊く。


「それで、勝負の内容はどうする? ポーカー? ブラックジャック? 神経衰弱? ルーレット? それとも七半か?」

「そうねぇ、こっちも人生かかってるし、ポーカーといきましょうか」

「いいだろう。ディーラーは、俺でいいな?」

「構わないわよ。ただし……」


 それにリースは微笑む。

 その微笑は、悪魔の微笑に見えてしまったオーナーを誰が責められようか。


「イカサマがないかを調べさせてもらうために、カードを調べさせてもらっていいかしら?」


 駄目だ、と反射的に言いそうになるのをぐっと堪える。

 鋼の精神力に賞賛を捧げたい。


「いいだろう、当然の権利だ」


 この女は、平気でイカサマをするだろう。

 呼吸するのと同じように、当たり前のことだといわんばかりに。

 こういう確認作業の時が、バイヤーがイカサマをするための仕掛けをする数少ない瞬間なのだ。

 だから、確認作業などさせたくないのが本音だ。


「ほら、カードだ」

「ありがとう」


 だが、させないための口実がない。

 イカサマするでしょ? だから駄目、なんて言ってしまったら、ゲームは破綻する。

 なにせそれは、イカサマのための仕掛けをして、それがバレたくないように言ってるように聞こえてしまうからだ。

 オーナーはイカサマをしない主義だが、猜疑の視線とは恐ろしく、でっち上げをされる可能性すらある。


「ふむふむ」


 リースは本のページを、ぱらぱらとめくるように適当にカードを確認した。

 そしてカードを束ね、テーブルの中心へと置いた。


「どうやら、イカサマの仕掛けはないようね」


 それにオーナーは、肩透かしを食らったような気分になった。

 どうやら、相手はイカサマをするつもりがないらしい。

 あんな適当な動作の中に目を凝らして見張っていたオーナーの目をかいくぐって、繊細な作業を要求されるイカサマの仕掛けを施すことなどできない。

 イカサマの心配をせずに、ゲームができるようでなによりだ。


「それじゃ、ゲームスタートと行きましょうか」

「あぁ」


 オーナーはカードをシャッフルする。

 そして、テーブルの中央にデッキを再び置く。


「カットをしてくれ」

「はいはーい」


 リースはデッキを等分し、上下に別れたデッキの上下を逆にする。

 カットは完了した。

 ゲームスタートだ。


「勝敗は、どうやってつけるのかしら?」

「先に三勝した方が勝ちで、チェンジはこのゲームで二回までだ。降りる権利は、一回のゲームで一回まで。勝敗がついたら、使った降りる権利は回復する。ちなみに、レイズもありだ」

「了解。カードをちょうだい」


 カードを配る。

 さて、俺のカードはっと……


(ふむ、3のスリーカードか)


 3という数字が弱いから泣きたくなるが、スリーカードならそうそう負けることはないだろう。


「俺は、このまま勝負だ」

「そうね、私は二枚チェンジで」


 周りがざわめく。

 たった二回しかないチェンジの権利を、最初の勝負で使うなど愚かだ。

 しかし、周りの反応を歯牙にもかけずに、リースはカードを急かす。


「早くして~、二枚カードをプリーズ」

「……わかった」


 そして結果は。



 リース:5のスリーカード

 オーナー:3のスリーカード



 リースの勝ちであった。

 周りはざわめく。


「ふふふ、運が良いわね♪」


 なぜだろうか、凄くイライラする。

 オーナーは無言でカードを配る。


「さて、と。今回も勝てるかしらね」

「さぁな? 運次第だろ」


 8とJのツーペア。

 ぱっとしない手札だ。

 ここは無難に、降りるべきだろうか。

 そう悩んでいると。


「今回は降りましょうか」


 向こうが先に降りてくれた。

 なんとも有り難い話だ。


「それじゃ、配り直すぞ」

「お願い」


 今度の手札を見て、オーナーは心の中で笑う。

 その歓喜はおくびにも出さない。

 なにせ手札は、フルハウスなのだ。

 これなら、そうそう負けるはずがない。


「おれはコールだ。チェンジするか?」

「いいえ。まぁ、降りることはできないから、勝負するしかないわね」

「そういうことだ」


 二人は手札をオープンする。

 その結果は。



 リース:Aのフォーカード

 オーナー:9とQのフルハウス



「馬鹿な!?」


 勝てると思っていた。

 そのはずなのに、負けた。


(いや、待て)


 そもそも、前提からしておかしい。

 その前提とは、役のことだ。

 オーナーは、一度もチェンジを行っていない。

 それなのに、だ。

 それにも拘らず、だ。


(役が揃い過ぎてないか?)


 これがおかしいと言わず、なんという。

 どこかで、イカサマをされたに違いない。


(だが、どこでだ?)


 考えられる可能性は、カードのすり替え。

 イカサマで突くのは、心理的な盲点だ。

 彼女の隠密のスキルをもってすれば、達人の動体視力をも欺くことも可能だろう。


(とでも俺が考えると思ったか)


 カードのすり替えなど、一番警戒するに決まっている。

 そんなことをした日には、即この場から叩き出してやる。

 だが、それをした素振りはない。

 となると、だ。


(わからないぃ、イカサマの正体がわからないぃ!)


 イカサマはしたはずだ。

 お互いに、役が揃い過ぎるようなイカサマをしたはずなのだ。


「さて、最終ラウンドといきましょうか」

「やかましい!」


 俺が負けるはずがない。

 そうだ、そうだよ。

 俺が突き進んでいるのは、正々堂々な王道なのだから。

 負けるはずがないんだ!


「私は、四枚チェンジで」

「……ほらよ」


 オーナーは手札を、そこでようやく見る。



(は、はははは、今回は俺の勝ちだな!!)



 来たのは、なんとストレートフラッシュ!

 これで負けるなど、ジョーカーが混ざったファイブカードかロイヤルストレートフラッシュしかありえない!


「コール!!」


 しかもリースは、チェンジをしてしまった。

 つまり、もうチェンジをこのゲーム中にすることはできない。

 ここで勝てば、オーナーのアドバンテージは計り知れない。


「それじゃ、手札オープン」



 リースの手札は、❤の10、J、Q、K、Aだった。



「な、ん」


 ロイヤルストレートフラッシュ、だと!?


「馬鹿な!?」


 この役が出る確率は、六十四万分の一なのだ!

 出るはずがない!


「ふふふ、今が、その時だったんでしょう」


 リースは笑って、席を立つ。

 まっすぐに、オーナーの部屋へと歩き出す。

 彼はそれを、ただ見送ることしかできなかった。





 アンリ、リュウ、ケイトは、オーナーの部屋の前で土下座をしていた。

 待ち伏せをされていたリースは、驚愕に目を見開く。

 だってそうだろう。

 金を取っていこうと部屋に向かっていたら、男三人が土下座をして待ち構えていたのだから。



「「「ありがとうございましたァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」」」



 まったく同じタイミングに、感謝の言葉は紡がれた。

 そして、三人は面持ちをあげる。


「俺たちのミスを取り返してくれて、ほんと助かった!」

「あのオーナーに、バレないようにイカサマだなんて恐れ入ったぜ!」

「それで、どんなイカサマをしたんだ!?」

「……ねぇ、イカサマしたの確定なの?」

「「「もちろん!」」」


 ふーっと、リースは息を吐きながら顔を上げた。

 そうしなかったら、怒りで我を忘れてしまいそうだったから。


「まぁ、確かにイカサマはしたけど」

「けど、一体どんな方法を使ったんだ? あいつの目を掻い潜りぬけるのは、至難だろう」

「まぁ、私がやってたら、たぶんバレてたでしょうね。だから、オーナーに仕掛けをしてもらった」


 言っている意味がわからなくなった。


「私がやったのはね、カード確認作業時にカードの配置全記憶と、俗に言うメンタリズムってやつよ」

「今さらっと凄い単語が」


 カードの配置全記憶?

 見た時間、三秒にも満たなかったよね?


「それであいつ、パーフェクトシャッフルができるから、それを利用させてもらった」


 ファローシャッフルというものがある。

 これは、デッキを二つに分割したもの端を押しつけあうようにし、それらを統合してデッキに戻していく方法である。

 熟練者はこれを寸分違わず二等分することができ、デッキを統合していく際、一枚ずつ噛みあわせることができる。


 このように完璧にファローシャッフルをこなす事をパーフェクトシャッフルというのだ。


「メンタリズムで、シャッフルをする回数を誘導。後は、私が勝てるように私がカットをするだけ」


 恐ろしい女である。

 さらりと言っているが、どれ一つ取っても常人にはマネできない。



「それじゃ、お金取って帰りましょう。オードルが待ってるでしょうし」



 こいつが味方でよかった。

 三人は、心の底からそう思ったのであった。

さて、次回は少し戦闘を入れようかな。

では、さよならーん。

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