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2.覚醒

二話目ですね。

ひゃっはー。

 それからの日々は、地獄としか言いようがなかった。

 身体は弄られ、子供が泣き叫ぶ声、いや、断末魔が牢屋に響き渡る日々。

 命の火が消える前に、発狂して『処分』される者も少なくなかった。

 そんな生活が、三か月。

 生き残りは、アンリ、リュウ、マルコスを含めて十二人。


「リュウ、今日はどんな実験をされた?」

「目弄られた。視力が上がっただけって、使えねぇモンだった」

「お前もか。俺も、脳弄られただけだった」


 二人の目標は、すぐに決まった。


 この研究所を、叩き潰す。


 そのために、強力な『力』を得られる実験を施されたがっている。

 だが、生半可なものでは無理だ。

 二人を捕まえたあの男、デュレンには勝てない。


「クソ、手っ取り早く身体能力強化とかやってくんねぇかな」

「暴動とかを恐れてる結果だろう。あいつら、狂ってるくせにそういうところだけは理性的なんだよな。腹立つ」


 どうやらあいつら、『うん、こいつはもう逆らわないな』と絶対の確信を持つまでは、強力な人体実験を施さないのだ。

 判断基準がよくわからない。

 あれ? もしかしてこの牢屋、監視されてる?


「マルコス、あいつら今日も悪だくみしてるのか?」

「うん、なんかね、ここをね、潰すんだって」

「そっか~、いや~、ご苦労様だな。さて、報告に」

「「お前らかァァァああああああああああああああああああああああああああああ!!」」


 マルコスとデュレンが会話しているのを、二人は今しがた気づいた。

 マルコスはびくっと肩を震わせ、デュレンはめんどくさそうに耳を指でふさぐ。

 デュレンは鬱陶しそうに二人を見る。


「なんだよ、俺は職務を全うしようとしてるだけだぞ?」

「「全うされたら俺たちが困るんだよ!」」

「だろうな、だが職務怠慢で減給されたら俺が困る」

「「所詮金でしょうが!」」

「馬鹿野郎! 金は大事なんだぞ! ッか~~~~~、これだからガキは」


 二人は誓った。

 将来、こんな汚い大人だけにはならない、と。


「さて、報告にいくとしますかね」

「「待てェェェえええええええええええええええええええええええええええええ!!」」


 デュレンの胸ぐらを掴もうと手を伸ばすが、鉄格子が間にあって手が届かない。

 デュレンは愉快そうに笑いながら、跳びはねながら妙なダンスを踊る。


「うはっはっは、うはっはっは、うはっはっは~」

「「ムカつくお前!」」

「おっと、すまんな、悪い子の諸君。報告の時間だ。さらば!」

「「クソがァァァああああああああああああああああああああああああああああ!!」」


 デュレンは走り去ってしまった。


「えと、その、ごめんなさい」


 マルコスの謝罪が、なぜか牢屋に響いた。





 アンリは、研究員の一人に連れられて廊下を歩いていた。


「なぁ、今日のメニューはなんだ?」


 今日の晩御飯の内容を聞くかのような気軽さで、そんなことを言う。

 彼もどこか、『狂って』しまったのかもしれない。


「魔術だ」


 アンリは目を見開いて、息をのんだ。

 魔術の力は、強大だ。

 だがそれは、諸刃の剣なのだ。

 人間には、誰でも魔力を持っている。

 その魔力は、どうやって作られるか。

 人間は生きていくだけで生命力を消費していくのだが、使いきれない生命力の残りカスが、『魔力』と呼ばれる。

 そして魔術の必要とする魔力量は、個人差もあるが、人間の一生分の生命力。

 これだけの悪条件にも拘らず、まだ魔術は発動しない。


「さて、お前がどうなるかは微塵の興味もないが、データ採集には役立ってもらおうか」

「…………」


 魔術は強力だ。

 魔法とは比べ物にならない程に。

 加減を一切せずに密集地に撃てば、一度で五百人の命を奪えると言われている。

 だが。


(頼って、いいのか?)


 一回使ったら死ぬような力、そんなものに頼ってもいいのか?

 この世界、生きていてこそだ。

 死んだら、意味がない。


「ついたぞ。それじゃ、始めようか」

「ここは……?」


 アンリが連れてこられたのは、広間だった。

 その中心には、直径五メートルほどの巨大な魔法陣が描かれていた。


「見てのとおりだ。あの魔法陣の上に立て。あとは脳を少し弄れば演算能力が向上して、お前は魔術を使えるようになる」


 脳を弄るということは、そういうことだ。

 魔術には、高度という言葉では生温い程の演算能力が要求される。

 これだけやって、使えるのはたったの一回。


「どうした? まさか、拒否するつもりなのか?」

「チッ」


 ここは従って、従順なふりをするしかない。

 今ここで逆らっても、殺されるだけだ。

 アンリは魔法陣の上に立った。


「それじゃ、始めるぞ。お前はなにもしなくていい」

「あいよ」

「んじゃ、ブレイン・ワークス」


 刹那。

 アンリは意識を手放した。





 アンリを実験室に連れてきた研究員は、困惑していた。


「どういうことだ? これは気絶したりするようなものではないぞ?」


 頭の中を注射されたような、チクッとするだけのはずだ。

 そんなもので気絶するほどの虚弱体質なのか、それとも。


「なにか、イレギュラーが?」





 アンリは目を覚まして、自分が妙なところにいることがわかった。


「なんだこりゃ」


 赤く錆びた鉄でできた部屋だった。

 当然、部屋の中は鉄臭い。

 なにこれ?


「ああ、きたか」


 突然、男の声が響いた。

 そちらに向き直ると、そこには美しいのに寝癖が目立つ金の短髪に、銀色の瞳の男がいた。

 その男はなぜか隻腕で、左腕一本しかない。


「あんた、誰?」

「まだ、お前が知る必要のないことだ」

「あ?」

「それより、質問に答えろ」


 この男、上から目線で腹が立つ。

 まぁ、質問くらいは答えてやるか。


「お前、力が欲しいか?」

「欲しい」


 即答してやった。

 こいつが何者かは知らないが、力がもらえるのなら欲しい。


「ふむ、いいだろう。ついてこい」


 男は踵を返し、鉄の扉の前に立った。

 左手を押し出すことで、扉を開ける。

 アンリは黙ってついていった。

 男はそれを確認して、歩き出す。


「ここはどこなんだ?」

「お前の精神世界、とでも思っとけ。さて、たどり着けるかな」

「あ?」


 また、扉を開ける。

 黙って歩く。

 奥に進んでいくたびに、体が重くなり息苦しくなる。


「なぁ、どこまで行くわけ?」

「ほう、口を開く余裕があるのか。こりゃ、案外いけるかもな」

「なにが?」


 扉を開ける。

 もうこれで、四回目だ。

 体は鉛のように重くなり、凄まじい吐き気と目眩に襲われている。

 これ以上、奥に進んではいけない。

 本能に似た何かが、そう叫んでいる。


「あんたさ、なんなんだよ」

「くくく、その軽口も、これで最後かな」

「あ?」


 男が扉を開けた。

 刹那。

 凄まじい痛みに襲われた。


「ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!」


 声にならない悲鳴をあげる。

 あまりの痛みに脳に異常をきたし、声を出すという命令を出せなくなっているのだ。

 内臓をかき回され、頭を直接切り開かれるような痛み。

 気丈に振舞っていたが、これが限界だった。


「ふむ、中々我慢強い。力を手に入れるには、これより奥に進む必要があるぞ? それでも、行くか?」

「ッッッ、当然」


 アンリは歯を食いしばって、そう答えた。


「そうか。それじゃ、奥に進むぞ」


 二人は奥に進んでいく。

 身体が軋みをあげてもおかしくないような痛みに苛まれながらも、アンリは歩く。

 男は一度も振り返らずに、淡々と歩いて扉を開けていく。


 もう、十回目。


 その頃には、限界を超えていた。


(これ、前に進んでるのか? 俺、足ついてるか? ていうか、なんのために進んでるんだっけ? あれ? そもそも、俺って……あれ? 俺ってなんだっけ?)


 精神が崩壊し始めている。

 男はそれと同時に、アンリへと向き直った。


「そろそろ、限界らしい。さて、質問だ」


 男の声が、アンリが正気を保つ唯一のものだった。

 なにかにすがりつかないと、今すぐにでも発狂しそうだ。


「この奥にある力を得たら、こういう苦しみを背負い続けるぞ。ていうか、こういうわかりやすい痛みが少ない。お前が生きようとしてる、そういう世界だ。死んだ方が、たぶん楽だ。

 だからこそ、また問うぞ」


 男は、それ以上多くは語らない。

 男は、取引を持ちかける『悪魔』のように、問う。


「力が欲しいか?」


 冗談じゃない。

 こんな苦しみが溢れている世界?

 そんな世界、絶望せずにはいられない。

 馬鹿げている。


「ああ、欲しいよ」


 それなのに、そう言った。

 悪魔の誘いは、蹴らなければならないのに。

 甘美な誘惑には、必ず罠があるのに。


「俺は、あいつらと一緒にいたい。この世界で、生きたいよ」


 絶望だらけでも、幸福はある。

 だからその幸福のために、それを護るために。


「だから、そのための力をくれよ」


 男は頷いた。


「いいだろう。力をやろう。あの扉を抜けたら、ゴールだ」


 霞みだらけの視界で、扉を映した。

 あそこが、ゴールなのだという。

 だが。


「体が、動かないんだ」

「いいよ、俺が連れてってやる」


 男はアンリの髪を掴んだ。

 そのまま力づくで引きずっていく。

 痛いけど、抵抗するだけの力は残っていない。


「さて、ゴール」


 男は扉を蹴破った。

 そして、アンリを扉の向こうへと放り投げる。

 刹那、意識がクリアになった。


「……なんで」

「ようこそ」


 男が部屋の中心で、両手を広げていた。

 彼の隣には、黒い箱がある。


「ここが終点だ。そしてこの箱が、お前の求める『力』だ」

「なんだ、武器でも入ってるのか?」

「違う。この箱は、封印だ。この中には、お前が本来持っていた知識と魔力が封じられてる」

「知識?」

「ま、開けりゃわかるさ。箱に触れ」


 言われた通り、箱に触れる。

 刹那。


 知識が頭の中で溢れかえった。


「う、ぉ、あ」


 吐き気がする。

 頭もぐらぐらする。


「あ~、知識酔いか。一度に取り込み過ぎたな。ま、そのうち治るさ」


 男は愉快そうに笑っている。


「お前、人が苦しんでるのに笑うとか、どういう神経してるんだ」

「まぁ、死にはしないからな」

「この野郎ォ……」


 男は、温かい微笑を浮かべた。


「ンじゃ、精々足掻いてこい。で、生きてみろ」





 アンリは目を覚ました。

 今度は、あの研究員がいる。あの広間だ。

 何も変わっていない。


「……おい、なにがあった?」

「ああ、凄ぇな、これ」


 アンリの頭の中を除いて。

 彼の頭の中には、魔術(・・)の知識が詰まっていた。

 一度使っただけで死ぬなんて代物だ。

 そんなもの、危なくて使えるはずがない。

 なのに、なぜだろう。


「まぁ、大丈夫か」


 そんな根拠のない確信が、胸の中にある。

 だから、使ってやった。

 呪文を唱える。


「我が精神が喰らうは現」


 刹那。


 新たな『世界』が創られた。


 なにもない、砂漠。

 本当になにもなく、地平線が見える。

 そんな世界に、アンリと研究所の全職員がいた。


「なんだこれは!?」

「知らぬ存ぜぬ!」

「我関せず!」


 なんか研究員たちが喚いている。

 うん、うるさいや。


「我が精神は我が器に納まる」


 景色が、あの広間へと戻った。

 職員たち?

 砂漠に置いてきた。

 あのまま一生さまよい続けて、餓死するだろう。


「アンリ!!」

「お兄ちゃん!!」


 リュウとマルコスが走ってきた。


「お前ら、なんで」


 こいつらは、牢屋にいるはずだ。

 ここにいるはずがない。



「俺だよ」



 入口に、指で鍵を回している男がいた。

 めんどくさい、といわんばかりの億劫そうなオーラを纏った男。

 デュレンだ。


「お前……」

「いや~、小僧、大したもんだ。凄ぇな、魔術ってのは。なにあの砂漠」

「見てたのか」

「おうよ、バッチシ」


 この男、本当に底が知れない。


「お前の傍にいりゃ、一緒に戻れるっぽかったしな。いやぁ、外れだったらどうしようかと思ったぜ」

「その行き当たりばったり、やめた方がいいぞ」

「あ~、やだ。それが俺のマイ・ルール」

「俺のが被ってるぞ」

「ははは」


 笑った後、デュレンの雰囲気が変わった。

 表情は変わっていない、笑顔のまま。

 それなのに、震えが止まらない。


「ちょい、真面目な話をするぞ。黙って聞いてくれ」


 三人は動けない。


「この国ではな、こういう人体実験なんて下らない行為が、そこいらで行われてんだ。いやぁ、めんどくさいよな? ほんと」


 デュレンの顔は、笑顔のまま。

 だがその奥の感情を読み取ることはできない。


「でさ、頼みがあるんだ」

「頼、み……?」

「そそ」


 デュレンは手を合わせて、頭を下げた。


「この国、変えてくんね?」

「「「…………は?」」」

物語、始まりまったな~。

ただ、携帯でこっそり友達と仲よしこよしで始まったこの作品。

もうこっから革命編大きく携帯のものから、変わっちゃってまして。

やっべ、こっからどうしよ、と思ったのはいい思い出。

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