1.『聖国』の闇
今から、約五分おきに投稿していきます。
これから一気に投稿されていくのは、ほぼ全てシリアスです。
タグにコメディと書いたってのは、嘘じゃないのでご安心を。
では、どうぞ。
これは、『戯言王』と呼ばれる男と、その仲間たちが描く物語。
☆
リグレット王国がまだ、『聖国』とよばれていたころ。
今はもう、地図に名前がない村があった。
美しい金の短髪に宝石のような赤の瞳を持つ少年。
少年の名は、アンリ・クリエイロウ。
彼は今、落ち込んでいる。
「おいおい、アンリ、まだ落ち込んでるのか?」
その隣に、金とは対照の、銀の長髪に紫の瞳を持つ、整った顔立ちの少年がいる。
その少年の名は、リュウ・アストレイ。
アンリの親友だ。
二人とも、十五歳だ。
「うるさいな。いいよな、お前はモテるんだからよ」
「いや、そう言ってくれるな友よ。でも、今回のお前のフラれ方、面白すぎたな……」
リュウは腹がよじれんばかりに笑う。
笑いながら言う。
「だってよぉ、あなたの髪、不良みたいだから無理って、あははははははははははは!!」
「お前さぁ、ぶっ殺すよ? さっきから人の不幸をゲラゲラ笑いやがって」
「そう怒るなよ。今から俺とサリーちゃんとの惚気を聞かせてやるから」
「リア充死ねぇぇえええええええええええええええええええええええええええええ!!」
リュウへと殴りかかる。
「とう」
「ぐぎゃ!?」
見事な上段回し蹴りで吹き飛ばされた。
「ちくしょう……ちくしょう……どうしてだ……俺はただ、この世全てのリア充を滅ぼしたいだけなのに……」
「壮大なこと言ってるようで、とてつもなく悲しいことこの上ないな」
「あ、そうだ。俺、自分以外の男を皆殺しにすればハーレムエンド」
「お前、思考が末期だぞ」
アンリは涙を流した。
「先生……彼女が、欲しいです……」
「うるせぇ」
「お前を……殺したいです……」
「物騒なこと言うんじゃねェ!」
この時が、アンリの一番幸せな時間だったかもしれない。
世の中の『闇』を知らず、まだ真っ白だった。
隣に、親友がいたから。
☆
真夜中。
パチパチ、と。
そんな音で、アンリは目を覚ました。
「…………なんだ?」
耳をすまし、音の正体を探ろうとする。
だがその必要はなかった。
音でわかる前に、鼻でわかったから。
焦げ臭かったのだ。
「なにかが、燃えてんのか!?」
急いで外に出る。
そして彼の目に映ったのは、
「なんだよ、これ」
火の海だった。
家。物。あらゆるモノに火が放たれていた。
だがそれだけだったら、どれだけよかったことか。
「お、モルモットちゃん、はっけ~ん」
後ろから、そんな声がした。
ばっと弾かれたように振り返る。
そこには、子供を抱えた男が立っていた。
それを見て、アンリの血管はブチ切れた。
「てんめぇ……」
ゆっくりと腰を落とし、重心を落としていく。
彼は武術など修めていない。
ただの喧嘩の構えだ。
「ン? ……あァ、やめときな。痛い目見るだけだし」
「るせぇ。ぶっ飛ばす」
「あ~あ~あ~あ~、だからガキは嫌いなんだよ。できもしないことを簡単に口に出す」
「そうか? 背中から一発叩き込めば、終わりだぞ?」
ドン、と男の頭から鈍い音がした。
悲鳴をあげる暇すらなく、男は気絶する。
男の頭を殴りつけたのは、銀の長髪の少年、リュウだった。
「リュウ!!」
「アンリ、お前も無事だったか」
「お前、なんか冷たくね?」
「気のせいだ」
リュウは険しい顔をしながら、言う。
「アンリ、ひとまず逃げるぞ。さっきは不意撃ちだったから勝てたが、正面切ってだと二対一でも厳しいぞ」
「マジかよ、てことは相手は訓練受けてる連中ってことか?」
「そうとしか考えられねぇ。手並みが良すぎるからな」
「なんでそんなやつらが、この村で人攫いなんてやってんだよ」
「モルモット採集だよ」
アンリとリュウの後ろから、男の声が聞こえた。
二人は前に跳びながら、声の方向へと向き直る。
そこには、億劫そうな雰囲気を纏った男がいた。
アンリが、震えた声で訊く。
ただしその震えは、怒りによるものだ。
「モルモット、だと」
「そ。『材料』が、足りなくなっちまってな? それの補充のために、わざわざここに足を運んだんだよ。近かったし」
アンリは一歩前に出た。
「おい、アンリ」
「止めないでくれ。俺はあいつをぶっ飛ばす」
「違ぇよ。手貸してやるから、あの馬鹿を思いきり殴り飛ばせって言おうとしてんだ」
「はっ、~~~~~~~~~ぁ」
アンリとリュウを見ている男は、あくびを一つ。
その態度が、二人の神経を逆なでする。
「あ~、めんどくさい。めんどくさいついでに、一つ注意だ、クソガキども」
男は自然体だ。
そのまま、男は言う。
「目が覚めたら、吐き気と目眩に襲われるから、耐えるように」
「「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」」
刹那、二人は意識を手放した。
☆
アンリとリュウは、同時に目を覚ました。
男の言うとおり、二人は凄まじいい吐き気と目眩に襲われる。
今にも吐きそうだ。
だが二人は、そんなことを気にする暇すえない程に、ある感情に支配されていた。
そう、それは。
「「…………恥ずい」」
羞恥である。
だってそうだろう?
あんだけ啖呵きっといて、なにもできずにノックダウンだぜ?
そりゃあもう、恥ずかしいだろ?
しかも、一緒に運ばれてきた六歳の子供に肩に手を置かれて慰められてんだぜ?
惨めだろう?
「にしても、ここはどこなんだ?」
体調不良が少しはマシになったリュウが、そんなことを呟いた。
彼らがいるところを、紹介しよう。
まずは間取りです。
なんということでしょう!
リビングとトイレが共同の、1Lではありませんか!
最低な部屋です!
ですがご安心を。
鉄格子をはめているので、中外問わず侵入者は皆無という、SECOMIいらず!
なんと敷金家賃ともにゼロという、素晴らしい物件です!
そう、何を隠そうここは……
「牢屋だよな」
あ、ちなみにガス水道はございません。
皆様もこの物件、いかがです?
☆
アンリとリュウが目を覚ましてから、二時間が経過した。
この牢屋にいるのは、三人だ。
アンリとリュウ、そして十歳児のマルコスという男の子。
マルコスは、不安そうに二人に訊く。
「お兄ちゃんたち、僕たち、どうなっちゃうの?」
「……わからん。ごめんな。大丈夫の一言も、言えなくて」
「いいよ。嘘つかれた時の方が、嫌だから」
「…………そっか」
リュウは鉄格子を殴ったり蹴ったり石を叩きつけたりして、なんとか脱出できないかと足掻いている。
アンリはマルコスの話し相手だ。
「おいアンリ、お前も手伝えよ!」
「…………」
アンリはマルコスの話し相手だ。
十歳の子供を放っておくなんて、できないからな!
ていうーかー。
「鉄格子を素手や素足や石でなんとかしようと思ってる時点で、お前の頭は末期というかー」
「よし、表に出ろ。久しぶりに、キレちまったよ」
「ここ牢屋ですぅ! 俺もお前も出られませんー!」
「おっしゃ、じゃあ今撲殺してやる」
「お兄ちゃんたち、ケンカはダメ~!」
マルコスの手により、二人の喧嘩は未然に防ぐことができた。
五歳も年下の子供に諭されるとは、なんとも情けない男たちなのだろう。
☆
「じゃ、状況を整理してみようか」
三人はそれぞれを頂点とすることで、三角形を形づくって座っていた。
マルコスはうとうとしている。
まぁ、十歳児なのだから仕方がない。
逆に好都合だし。
「リュウ、ここはどういう施設だと思う?」
「……正直わからん。だが、ロクでもないとこってことだけは、明らかだな」
「いや、そういう抽象的なのではなく、具体的なのをお願いします」
「お前、本当にここを出たら覚悟しとけよ」
「はっはっは、最近物忘れが激しくてなぁ。いやぁ、まいったね」
「うん、決めた。殺す。今殺す」
「あ、ごめん。調子乗り過ぎた。だから、お願いだから許しててててててててててて!?」
アンリは リュウの 関節ねじりを 受けた!
HPの 五分の一が 削れた!
二人がふざけていると、足音が聞こえてきた。
「リュウ」
「ああ、わかってる」
「いや、それなら離せよ」
「え? なんで?」
「鬼か貴様は」
足音が、彼らの牢屋の前で止まった。
件の人物が、すぐそこで立ち止まったのだろう。
アンリとリュウは、顔をそちらに向けた。
そこには二人を捕まえた、あのめんどくさいオーラを纏った男だった。
「よぉ。元気そうだな、クソガキども」
「チッ、何の用だよ」
「いやな、めんどくさいんだけど、ついてきてくれ」
「は、誰がてめぇの言うことなんざ」
「三つ数えるまでにこっちこないと、牢屋の中胡椒で満たすぞ?」
「「…………クソ」」
二人は口汚く吐き捨てて、大人しく牢屋から出た。
☆
三人は、薄暗い廊下を歩いていた。
こつこつ、と乾いた音の無が響く。
男、アンリ、リュウという順番で歩いている。
二人は何度かこいつを攻撃しようとしたのだが、そのたびに咳き込むのだ。
暗に、気づいてるぞと言いたいのだろう。
もう、八回目で諦めた。
「なぁ、俺たちどこに向かってるんだ?」
「うるせぇ、不良少年。髪の毛金色とか、親御さん泣くぞ?」
「これ地毛ですゥ!」
ていうか、人攫いに親が泣くとか言われたかねぇよ。
なんなのこの人、マジで。
「金色の髪の毛が地毛? いや、なに言ってんの?」
金色の髪は、本来ありえない色だ。
人間は、金色の色素を分泌できない。
「ま、どうでもいいな。それよりも、お前らここがどういう施設か、知りたかったろ? 答えあるから、あそこを見ろ」
男が指を差した方向を見て、二人は言葉を失った。
「あれが、五感改造。あれが、脳みそ弄るやつで、あっちが昇華の儀。で、あれが……っておい、どうした? ぼうっとして」
軽く、当たり前のようなことを言うように、男は言った。
おぞましい、人体実験のメニューを。
口に出すことをはばかられるような、恐ろしい所業。
人はここまでのことをできるのか、と我が目を疑った。
中には、もう死んだ方が楽なものもある。
アンリは男を睨みつけて、吐き捨てた。
「あんまり言いたかねぇが、お前。本当に人間か?」
男は肩をすくめた。
「当然。人間はこう在るものだ」
では、投稿ラッシュといきましょうか。
後書きは、あー、こんな感じだったなぁと作者が感じたことを書いていく感じです。
では記念すべき一度目。
始まったなぁ。