そんな前の事言われても、困ります
皆様方、死んだ後ってどーなると思う?
オーソドックスに天国と地獄があって、生きていた頃の行いに応じて振り分けられるかな。それとも、祖霊とか精霊とかに変わるとか。あぁ、死者復活して現世に舞い戻る系もあるよね。復活まで行かないで、キョンシーとかゾンビとかマミーかな。それとも『クリスマス・キャロル』式に幽霊となって永久に地上を彷徨うとか。____それとも仏教式に輪廻転生とか。
私は輪廻転生派。正確に言うなら、仏教とかの六道思想とか信じていない。少なくと私の体験した中にはないかな。いや、そもそも死後の事なんて生きている間は思い出せない仕様なのかも。
私の感覚的には、この世界で幼少の頃読んだ絵本に似ている。タイトルは何だったかな。そうそう『百万回生きた猫』! あの絵本に近いかな。
私は『百万回生きた猫』みたいに、何回も何回も生まれ変わっているの。同じ姿に、同じ顔に、同じ名前。私も猫だったら気にされないんだけど、もーこれが大問題! 私って黒い髪に青い目をしているんだけど、場合によっては産まれてすぐに殺されたりするんだよね。金髪碧眼の夫婦の間に私が産まれたら、明らかに浮気した風にみられるんだもん。それに顔立ちが親にまったく似てないんだよ? それは時代とか産まれた所とか身分とかによっては、死亡フラグって奴。
そんな死亡フラグに塗れているからかな。私は長生きしても二十歳を越える事なく死んじゃうんだよね。百万回そんなこと繰り返しているから、まー慣れたかな。どうしてこんな風に転生を繰り返すのかは分からないけどね。
私はねぇ、色々な世界に産まれるの。御伽噺みたいな妖精とかいる世界もあったし、機械っていう金属で出来た絡繰りが溢れている世界もあった。人間以外の種族がいた世界もあれば、人間がまるっきりいない世界もあった。
色んな人に出会って、笑って、喧嘩して、時に殺されながら、私は生きている。
私は今、モーレツに困ってる。
現状? 分類するに、爽やか系の和風美人に手を握られている。おまけに、涙を流しながら。『滂沱の』とか冠に付いちゃう感じに。知り合いにいない筈なんだけどな?
「あの……?」
「リーン……リーン……」
リーン……。あ、西洋風だと呼び易さの関係上、リーンって呼ばれてたなぁ。私の今の名前は尾上凛。名前は何処行ったって変わらないからずーーっと《りん》なんだよね。
前世関連の関係者かぁ……。
「リーン。今度はちゃんと迎えに来たから、どうか僕と一緒に____」
「すみませんが、誰かと勘違いしておりませんか? 私は(今)リーンという名前じゃりませんし」
「そんな事ない!! 君はリーンだ。だってこんなにも姿も魂の形も同じなんだから!!」
魂ねぇ? つーことは、魔法とかあるファンタジー世界かぁ。色々行ったからなぁ……。百万回ぐらい生きたり死んだりしてるからなぁ……。心当たりがありすぎて、誰だから分からん。
「りん? もしかして、りん、なのか!?」
イケメンに泣きつかれている平凡少女(私)を遠目で眺めていた見物人達の環をすり抜けて、乱入者が! 私の前に踊り出て来たのは、肩ぐらいで切りそろえたおかっぱの男の子だー。
「燐、だと」
交差点の向こうからいぶし銀のおっさんが、キター!! アジア系だと色々な漢字なんだよね、私の名前。うーん? 誰だろうこのおっさん。
そう言えば何回か転生先で生まれ変わりと再開ってあったけど、皆は私みたいに同じ容姿ってわけじゃないしなぁ。
「リーン!? 婚約者の僕を憶えているかい?」
「なッ!? 燐はわしの嫁御だぞ!! 何たわけたことを!!!」
「おっさん達こそなに言っているの!? りんは僕の奴隷なんだよ!!」
「リーン……僕を、選んでくれる、よな?」
…………………………もう、めんどいわ!
「何の事やら、さっぱりです」
そんな前の事なんて言われても、憶えているわけないでしょう。前世は前世。今生は今生。
私は懐からスマフォを取り出した。
「すみません。頭のおかしい男性が絡んで来ているのですが____」
警察コール、なう。
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尾上凛
本作主人公。百万回生きている少女。短命。
黒髪碧眼で容姿は中の上くらい。普通に可愛い。
人生経験は豊富なので見た目に似合わぬ落ち着きがある。
ヨーロッパ系だと『リーン』、アジア系だと『リン』と呼ばれる。
イケメン青年
ファンタジー世界出身の転生者。
いろいろやらかしちゃったパート1。
リーンとの関係は婚約者だったが……。
おかっぱショタ
奴隷制度があるどっかの世界の出身転生者。
色々やらかしちゃったパート2。
りんとの関係性は主人と奴隷。
いぶし銀おっさん
アジア文化系の世界出身の転生者。
色々やらかしちゃったパート3。
燐との関係性は夫婦。