Ⅱ
女の目から見ても生粋のお嬢様といった感じの金髪の美人が、サミルとソフィアをあたたかい目で見ていた。瞳は深い青。真珠のようになめらかそうな白い肌。そしてまだ幼さの残る笑顔。もしかするとソフィアよりも年下だろうか?
侍女に促されるままソフィアはテーブルの椅子に腰かけた。
テーブルには朝食だと話していたが、色とりどりのフルーツだけ。しかしソフィアの大好きなオレンジがたくさん切られてある。大好きでもほとんど数えるほどしかた食べたことはない。
「ソフィア。昨夜は本当にありがとう。あのままもしあのものに叩かれていたらサミルは人前に出るのを怖がっていたかもしれない。生まれつきあまり体が丈夫ではなくて人前に出ること事態昨夜が初めてで」初めてであのステラの顔を見たのなら怖がっても仕方ない。
「い、いえ。お役にたてたのでしたら何よりでした」
「私はサミルの母でユリア。実はソフィアに願い事があるのだが」
「願い事ですか?」
ソフィアは首を傾げた。こんな何でもないただの使用人になんの願い事だろうと疑問符が頭の中をぐるぐる回った。
「サミルがとてもあなたを気に入ってね。あなたがよければサミルの遊び相手になってほしいと思っています」
「私でよろしいのですか?」
ソフィアは益々困惑する。特に取り柄があるわけではない。確かに小さい頃は孤児院でみんなといろいろなことをして遊んだが、貴族のしかも王子様の遊び相手となると全然違ってくるだろう。
「実は。この城に肖像画があるのだけれど、とてもソフィアに似ているとサミルが言ってね。今日改めてそなたを見たら似ているなと私も思って。その方は私の夫ミゼルの父の妹にあたる人なのだけれど、好きな人とお城を出てしまって。今も行方が分からないのよ」
おとぎ話でよく耳にすることが現実にもあるのだなとソフィアは思った。
「その話しは朝食を食べてからにしましょうか。今日は疲れていると思ってフルーツで元気になってもらいたくてね。たくさん食べましょう」
侍女がどれを食べるか聞いてきたので、ソフィアは照れながらオレンジをお願いする。
とても瑞々しく美味しそうだ。サミルはすでにイチゴをほおばっている。凄くおいしそうに食べるのでこっちも幸せな気分になる。こんなゆっくりした朝食は初めてだ。子供のころから食べるときは戦争さながら。ぼーっとしていると横取りされることも日常茶飯事。使用人になってからもとてもゆっくりと食べるような状況ではなかった。
一口食べたオレンジはとても甘くて、何故かソフィアは涙を浮かべてしまう。
「ソフィア。どうしたの?どこか痛いの?」
サミルに尋ねられ、美味しくてと、涙声で答えた。
「たくさんおわがりなさい」
ユリア様に優しく言ってもらえてソフィアは嬉しさにまた涙を流した。