Ⅱ
ソフィアは眩しさで目を覚ました。日がかなり高くなっているのにびっくりして飛び起きた。着替えようとしたが着替えがない。部屋の中をうろうろしていると、ノックがしてメイドなのか老女が部屋に入ってきた。
「お着替えをお持ちしました」
「あの私の服は?」
「あの服はこちらで処分しましたのでこちらにお着替えください」
「処分?」
あの服は、デザインは悪いが最近新調したものだった。
ふんわりとした笑顔になった老女は、ソフィアの手を取った。
「サミル王子をお助けいただいてありがとうございました」
「王子様?」
「昨夜お助けいただいたのは、サザーランド国の第一王子ご嫡男サミル様です」
ソフィアはさっと血の気が引いた。
「サミル様は産まれたころより病弱でして、あまり公の場に出席したことがありませんでした。昨夜は少しはしゃぎすぎでございまして」
警護のものもいたのだが、対処しきれなかったところにソフィアが助けてくれたのだと話した。
「王子様とは知らず申し訳ございません」
お咎めを受けるのではないかと恐怖が募る。孤児として育ってきたため、目上の人達には従うように生きてきた。ではここは国王様のお屋敷?なんてことになってしまったのかと更にソフィアは青ざめる。
そして思った。昨夜会ったあのレビン様は、あの子を甥と言っていた。レビン様も王子なのではないか。淡い憧れが急に冷めたものに変わっていった。なんて身分違いな。早く気づいてよかったのだ。
老女のされるままに着替える。着替えたら少しの報酬を貰い放り出されるのだろうと考え暗くなる。これからまた仕事を探さなければならない。
「できましたよ」
老女の声にはっとしたソフィアは自分の姿に目を奪われた。
鏡には、別人ではないかと思うほど素敵な自分が写っていた。長身のソフィアにぴったりのドレスは水色で、レースもたくさん使われており、胸のないのを気遣ってくれてか、胸元が開かないデザインで、とてもソフィアに似合っていた。呆然としているうちに、髪も整えられ、綺麗に結い上げられる。ソフィアの黒髪が艶めいていた。
自分の髪じゃないみたい。
アナと名乗った老女に連れられて廊下に出た。そしてここがやはり国王様のお城なのだと実感した。兵士の数。働いている人の数に圧倒される。手入れのされた庭の花々、広い庭なのかも分からず歩きながらいろいろなものに目を奪われていた。
ここです、と言われてソフィアは我に返った。
どこにきたのだろうとアナに問うと、サミル様のお部屋ですよと言われソフィアは裏返った声でどうしてですか?とアナに叫んだ。
アナからの答えを聞く前に扉が開かれる。部屋からは眩しいくらいの光が差し込んでおり、ソフィアは眩しさから目を細めた。
「ソフィア」
待ちわびていたのかサミルがソフィアの足元に抱きついてくる。
昨夜はほとんど助けた子を見ていなかったので改めて見つめると、黒髪で愛嬌がある瞳。ちょっと不健康そうだなと思うくらい色が白いなと思った。
「サミル。ソフィアが驚いてしまうでしょう」部屋の奥からサミルを窘める声がした。
サミルははっとして、しゅんとした様子でごめんなさいと小さな声で謝る。
「大丈夫ですよ。サミル様」ソフィアはしゃがんで目線をサミルに合わせて頭を撫でた。サミルもにっこりとしてくれて、ソフィアは胸が温かくなった。
「二人ともこっちにきて一緒に朝食にしましょう」
声の主を見てソフィアはどきっとした。