Ⅱ
気が付くとソフィアは見知らぬ部屋に寝かされていた。
とても素材のよい夜着のようなものに着替えている。絹かしらと夜着を何度も触ってうっとりした。
「とても綺麗」
その時、ことっと物音がした。ソフィアがびくっとしたのもつかの間、男性の声がする。
「目が覚めましたか」
「あ、はい」
咄嗟に答えてしまった。
もう夜なのか、薄暗い部屋にランプが一つあるだけで男性の姿はほとんど見えなかった。
足音が近づく。ソフィアは夜着を握りしめた。
ふっと近づいてきた男性は、背がとても高く、ランプでもわかるくらい身体を鍛えているのだろうという体格。整った顔立ちにさらっとした黒髪の美男子だった。二十歳前半くらいだろうか?不躾にも見惚れてしまってソフィアは俯いた。
「具合はいかがですか?」
優しくとても低い声にソフィアはドキッとする。
「だ、大丈夫です」
「そうですか、よかった」
安堵した表情を見せ、ソフィアに水を勧めてくれる。コップを受け取りコクッと飲むとレモンの果汁が入っているのか、とても爽やかで飲み干してしまった。どうやら喉がとても乾いていたようだ。
「落ち着きましたか?」
「はい。ありがとうございます」
男性はコップをソフィアから受け取るとテーブルに置いた。
「先ほどはありがとうございました」
ソフィアは何のことか分からず、首を傾いだ。
「先ほど助けていただいた子は、私の甥なのです」ありがとうございますと、きちっとした深い礼をされ、ソフィアは慌てた。
「い、いえ。こちらの令嬢がはしたないまねをしまして申し訳ございません」
「アシュホード伯爵の令嬢には、もうお帰りになってもらいましたので、今日はゆっくりしていってください」
えっ、とソフィアは小さく声をあげた。明日伯爵家に戻っても仕事は首かもしれないと思った。いくらなんでも令嬢を叱ったのだ。あのときは子供を守ろうとしてカッとなっていた。男性は、ソフィアの考えていることが仕事のことだとは思いつかず、夜着に着替えさせたのは私ではないと慌てた。ソフィアはその彼の様子が何故か可愛く見えてくすっと笑ってしまった。笑ったのはいつぶりだろう。
「よかった。笑うと可愛らしい方だ」
「えっ?」
「パーティの間ずっと眉間にしわがたまっていたので気になっていました」
ステラのことにいっぱいいっぱいになっていたし、眩暈も重なって相当酷い顔をしていたに違いない。しかし、自分が見られていたことを不思議に思った。
「私はレビンといいます」よければ名前を教えてもらえますかと、レビンと名乗った彼の声音にまた胸がとくっと鳴る。
「ソフィアともうします」
「ソフィア。綺麗な名ですね」
にっこりと微笑むレビンの笑顔にソフィアは、頬が朱に染まっているような感覚にとらわれる。
「今日はもう遅いですし、ゆっくり休んで下さい。朝に様子を見に来ます」
それではと、深々と礼をしてレビンは部屋を後にした。
今までこんな素敵な男性を見たことがないと、ソフィアは胸の高鳴りが治まらなかった。だが、体は疲れていたのか、すうっと眠りの中に入っていった。