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鏖物語  作者: 夜兎@雪兎
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第三話

ある日、突然のことだった。

いや、もう本当に突然のことで、前触れもなく、予言もなく、何もかも普通で、日常で、平和で、当たり前だったんだ。


その「ある日」の前日までは。
















実父の会社が、倒産した。





原因不明。


でも、会社は潰れてしまった。

私が幼いながらに、社会は残酷だと、そう思い知った瞬間だった。

いや、でも最初は、まだまだ小さい私達に、その「倒産」という言葉の意味を理解できるはずもなかったんだよ。


だから、私がその場で、直観的に感じたのは・・・



何か、とてつもなく良くないことが起きたってことだけ。



その時、リビングの隣の和室でうずくまる私と、兄の目に映ったのは。


優しい実父が泣き潰れる様と、実母の怒りがそのまま映し出されたかのような、恐ろしい顔。

時々、口を大きく開けて、大きな声で二人が言葉を荒々しく交わしているのが見えたの。

でも私達には、呆然と見ていることしかできなかった。

それしか、私ができることはなかったの。




ああ、子供というのはなんとも無力なんだろうって。


それと同時期、実母はある男性と出会っていた。


実父よりもっともっと大きな会社の社長の、ニ十代後半の男性。

たしか、名前は・・・広瀬(ひろせ)(はじめ)っていったっけ。

しかも二人が出会った場所は、そういうお金持ちの人が行くような社交界パーティーだった。


いつの間に、そんなところに行っていたんだって、思ったでしょ?


奇遇だね、私もそう思った。


ところが、そのパーティーをきっかけに、二人の仲はどんどん濃いものに変わっていって。

離婚を間近している頃には、もうそのふたりは半同棲するほどの仲だったんだ。

実父は本気で愛していたのに、実母はそうじゃなかったの。

お金をがっぽり搾り取って、実父が年金退職したらその年金も持ち逃げして離婚するつもりだったみたい。


薄々、私も実母がこのことが目的だったんだってことぐらい、わかってたよ。

それでも、ひどく私の心は空しかった。


離婚の件も綺麗に片付き、私と、兄と、母で義父の家へ向かおうとしたとき。

「ハヅキッ!」

「実父」が、私「だけ」を呼び止めた。

実母が無理やり私を連れて行こうとするけど、なんとか実父が説得して、二人で話せる時間をもらったんだ。


実父は、泣きながら私を抱きしめた。

『ハヅキ・・・ごめん・・・ごめんよおぉ・・・』


この人は悪くない。

涙でぐしゃぐしゃになって謝る実父を前にして、まず思ったのは、このことばだった。

ただこの人は、悪魔のようなあの女の、術中にはまってしまっただけ。

だからあなたは、わるくないって。


雨の中、頬に冷たいなにかが伝った。

それが、雨の雫だったのか、それとも、心の雫だったのか。

『・・・お前には、これから、悲しい試練が待ち受けるだろう』

実父は泣きながら、私にそういったわ。

幼い私は、実父がなにをいってるのか、よくわからなかった。


『悲しくて、苦しくて、辛くて、打ち砕けてしまいそうになることもあるだろう。だけど!・・・その思いは、思わぬところで、晴れてしまうことになる』

父は、私の肩をがしっと掴んだの。

『だけど、自分を見失ったり、私のようになってはいけない。・・・ハヅキ!』


実父は、さらに、最後だとでも言うように、もう会うこともないとでも言うように、

苦しいような

悲しいような

怒っているような

寂しいような

うちひがれるような

それらがぐるぐる混ざり合ったような声色で、私に訴えた。


『たとえ、お前の周りのすべての人間が、お前を憎むようになっても』


悲しい

寂しい

苦しい

辛い


『父さんだけは!』


いや

『お前の味方だ!』

そんなこといわないで


その時、私の心にははっきりと、それらの感情がぐるぐる混ざった言葉が、浮かんできた。

目の前に実父がいるのに、


もう、どんなことをしようとも永遠に会えない、最後の言葉のような気がして、ならなかった。


すると、実父が、今まで肌身離さずつけていた『もの』を、私に手渡した。


それは・・・・・・栗色の紐状(ひもじょう)に通った、卵の形をしている、金属でできたペンダント。

それを開けると、中には白い大理石が埋められてあり、そこに、かつて実父と一緒にみた花図鑑でみた、色つきの「花菖蒲(はなしょうぶ)」の絵が彫刻されていた。

花菖蒲の花言葉は・・・・・・




『心意気、優しい心、優雅・・・・・・《あなたを信じる》』


ものすごく、熱いものが流れてきそうだったよ。


『だから、どうか・・・・この哀れなお前の父に、約束してくれ』

また、実父が私を抱きしめる。

よけいに、目の奥が熱くなっていった。

熱い「何か」が、頬を伝って止まらなかった。

視界が曇って、ぼやけた。

『・・・必ず、生きるって・・・』

それが、父の最後の言葉だったの。


私たちを乗せる車が発進し、しばらくして・・・父の悲しそうな顔は、見えなくなった。

なぜ実父は、母にも、実母に可愛がられていた兄にも言わず、わたしだけに言ったのかな。

実父が、私を、愛してくれていた証拠なのだろうか・・・。


その理由は、今でも、わからない。








遅くなりましたが、この小説のタイトルは「みなごろしものがたり」って読みます。物騒なタイトルですみません;

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