第3話 ~赤の間 出会い~
心を落ち着けるように深呼吸
ドアから離れ、壁にもたれる
何だかとんでもない所に迷い込んだみたいだ・・・
手の中にあるのはオレンジの薔薇
この薔薇が一体何だってんだろうか?
逃げ出す際にチラッと見た文章
『そのバラ朽ちる時あなたも朽ち果てる』
『バラとあなたは一心同体。命の重さ知るがいい』
薔薇と一心同体ねぇ・・・?
つまり、この薔薇が枯れたら僕はお陀仏と言う事なんだろう
でもさ、どうやったら枯れるんだろう?
右手に持った薔薇をマジマジ見てみる
ガタン・・・
近くで物音がした
反射的に振り向いて目を見開く
そう言えば、この部屋に入ってから探索してない
あの部屋の様に絵が襲いかかって来るなんて事も・・・
「あった・・・」
そこには額から体を乗り出した、『赤い服の女』がいた
「マジか・・・」
ガタンッと床に落ちたそれは
鋭い目で僕を見ると床を這い、近付いてきた
逃げようと一歩踏み出した時
ブラウスの裾を何かに掴まれた
「ん・・・?」
ギチギチと後ろを振り向けば
『緑の服の女』が裾をつかんでいた
しかもご丁寧に壁から外れず、上半身だけ出して
グンと後ろに引っ張られ、ぶつかる先は絵画
普通、絵の中に吸い込まれるなんて事はないが
ここは、絵が命を持っている
当然あり得るわけで・・・
「ゲッ・・・」
絵の中の空間へと引きずり込まれていく
抵抗した時に右手から滑り落ちた薔薇の花は
床に落ちた方の女に拾われてしまった
僕は、必死に額縁をつかみ
引き込まれるのを阻止している
一方、薔薇を手にした女はうっとりと眺め
花弁を1枚摘まんだ
「スキ・・・キライ・・・」
1枚1枚丁寧に毟っていく
そして1枚毟られる度に、体に激痛が走る
成程・・・花弁が散ったらお陀仏ですか・・・
って、そんな悠長に解説してる場合じゃない!
「・・・っ!」
こんな所で死んでたまるか
まだ死ねない、死にたくない
「誰かっ・・・いない、訳・・・?」
「・・・スキ・・・」
「クソっ・・・」
「・・・キラーイ・・・」
「ふっざけんなぁぁあ!!」
突然叫んだためか
手を止めてこちらを向く女たち
何だか色々吹っ切れた気がする・・・
「ふざけんな、まだ死ぬわけにはいかないんだよ!
つか、勝手に人の花で花占いしてんじゃねぇよ!!」
「ギャリー、人!」
「あら!!」
捲し立てている隙に、いつの間に入ってきたのか
2人の人がドアを開けて立っていた
僕の状況を見て慌てて助けに入ってくれた
小さい女の子は薔薇を取り返してくれて
背の高いオネエな男性は僕を引っ張り
絵から出してくれた
で、そのまま担がれて
追ってくる女性たちを振り切り部屋を出る
しばらく、ドアを叩く音が聞こえたが
出て来れないようだ・・・
「はぁ~、全く何なのよ・・・」
「あの、降ろしていただけると・・・」
「そうね、はい。怪我は無かった?」
「ありがとうございます。えっと・・・」
「あぁ、アタシはギャリー。」
「イヴ、です。」
「僕はリオ。よろしく。」
自己紹介の後、イヴは僕に薔薇を渡してくれた
花弁は既に5枚を切っている
もし、この人たちが来なかったら僕は死んでたんだろうな・・・
2人には感謝しないとね・・・
その後、2人が通ってきた所に
花瓶があると聞いて、そこまで戻ってもらった
水色の花瓶に薔薇を活けると
たちまち減った花弁が復活した
それに何だか体が軽くなった事に驚いた
イヴとギャリーはつい先ほど会って
僕の声を聞いて、慌てて来てくれたみたい
僕だけじゃなくてよかった・・・
そんなことを考えていると、ギャリーと目が合う
途端に彼の目が見開かれた
「アンタもしかして美術館でライター拾ってくれた子じゃない?」
ぐっと詰め寄ってきた彼に、思わず上体をそらしてこくこくと頷くと
やっぱり!と嬉しそうな声を上げた
「良かったわ、少しでも知ってる人に会えて!」
そう続ける男の人に、僕も体から力が抜けるようだった
「そっか、じゃあアンタたちも何でこんな事になってるのかはわからないワケね・・・
アタシの方も大体同じ感じよ。おまけにこの薔薇・・・
花弁ちぎられると自分の身体に痛みが出てきてさー。
さっきは死ぬかと思ったわ・・・取り返してくれてありがとね、イヴ。
で、とりあえずさ、ここから出る方法を探さない?
こんな気味の悪い場所ずっといたらおかしくなっちゃうわ。」
「それもそうだね。」
三人並んで壁に寄りかかるとギャリーが喋りだして今にいたる
僕もイヴも口数が多いわけじゃないから、最低限の返事と相槌を返していると
彼だけがずっと話しているかのようになってしまった
ちょっと罪悪感
反省します・・・
てか、イヴって結構肝が据わってんじゃないか?
話を聞く限り、ここまで一人であの恐怖を乗り越えて来たなんて
ホントに強い子なんだとつくづく思う
一方、ギャリーは怖がりでさっきも戻るとき
壁にかけてあった絵に唾を吐きかけられたのだ
必死に取り繕うギャリーを見て
イヴと顔を見合わせると思わず笑いがもれた
「僕も一緒に行っていい?」
「うん!」
「勿論よ!多い方が良いわ。」
こうして3人で出口を目指す事になった
1人より2人って奴ね
『人数は多い方が心強いだろ?』
ん・・・?
前にもこんな事あったような・・・
脳裏に一瞬だけ浮かんだ映像
誰といたかなんて思い出せないけど・・・
「リオ?どうしたの?」
イヴの声にハッと我に返る
いけない、こんな事で迷ってる場合じゃない
今は、前に進むしかないんだから・・・
「何でもない。大丈夫だよ。」
そう言ってニコリと笑ってみると
イヴもニコリと笑い返してくれた
やっと本編沿いに合流!
イヴとギャリーにも会えて、ようやくスタートラインです!
次話、灰色の間へ・・・
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