消えた隊長
「目標は、砦の壊滅!」
オドワケルとラヴェンナの王子とは砦越しににらみ合う。
ラヴェンナ領地のフラヴィウスの砦。
「その前に、リナを返せ。あいつは自由にしてやってくれ」
「よかろう」
あっさりと答えたので、オドワケルは呆気にとられた。
「そら、連れてきてやったぞ」
翡翠色のローブを着て、リナはオドワケルの前に姿を現す。
「リナ!」
だがリナは、オドワケルから顔を背けた。
「えっ、どうして・・・・・・」
動揺するオドワケル。
「お前とは会いたくないだとよ。一生涯。あっはっは」
かわりに答えるライバルの、耳障りなテノールが気に入らないオドワケル。
「なんだと。きさま、リナに何か吹き込んだのだろう!」
「おれがそんな卑怯者に見えたのか。だったら貴様は、大した器じゃない。従って、皇帝を名乗る資格すらないってことだ」
ぶちっ。
オドワケルの理性の糸が断ち切れた。
「うるせえ! てめえのその、女の腐ったみてえなツラに泥を塗り、ケツの穴にネズミ花火ぶち込んでやるから、覚悟しやがれ!」
「ぬっ・・・・・・」
オドワケルは傭兵軍団を引き連れて、突撃命令を出した。
砦の入り口が、数百人の兵士の力でギシギシと押されていく。
「バカモン、なにをためらっておる、矢を放て、石火矢を用意しろ!」
ヒルデブランドがラヴェンナ兵に命じるが、よもや遅かった。
激しい地響きとともに、体当たりを繰り返した末、頑丈そうな扉は崩れ去り、オドワケルはまっすぐ迷わずにリナのもとへやってくる。
「リナ・・・・・・」
両腕を伸ばし、
「こっちへ、こい!」
と懇願する。
だがリナは応えなかった。
「どうして!?」
「貴様とは永遠にお別れと言ったじゃないか」
フラヴィウスの狡猾そうな瞳が輝いた。
フラヴィウスはリナの髪を右手でつかみあげると、左手でナイフを持ち、首筋にあてがった。
「てめっ、何を!」
「用は済んだ。だから。――殺す」
ナイフを捨て、今度はロングソードを持ち出すフラヴィウス。
リナの背中に突き立てた。
「やめろ!」
「だったら、貴様がおとなしく降伏し、俺の刃にかかるがよろしい、まずは武器を捨てろ」
オドワケルは剣を投げ捨てる。
「わかった・・・・・・」
だが、フラヴィウスは含み笑いすると、リナにソードを突き立ててしまった!
「あっ!」
「愚かな。コイツがなんだかわからぬか」
フラヴィウスはリナの髪を見せた。
トウモロコシの毛であった。
「な、人形・・・・・・」
「というか、こんなことで騙されるお前も、バカだ」
フラヴィウスは苦笑した。
そして、
「悪いがお前とそっくりな人形を作らせてもらうぞ。そして、仲間は俺に引き渡せ」
と言いながら、器用にオドワケルそっくりの人形を作りだした。
「リナの提案だよ」
とフラヴィウス。
「リナの?」
「そう。あの子は戦いを望まない。だから、俺たちが和解することを望んでいるんだ。それに、彼女には償いきれない過ちを犯してしまったから、言うことを聞くよりなくて・・・・・・」
オドワケルはリナの居場所を尋ね、リナのいる部屋の扉を開いた。
「リナ!」
「オドワケル・・・・・・」
抱きしめようと近寄るオドワケルを、腕で押し返した。
「私はあの人に乱暴されたのよ、綺麗じゃなくなったの・・・・・・」
「かまうもんか!」
力強く、力強く、リナを抱きしめるオドワケル。
「かまうもんか・・・・・・だって、俺はリナだから好きになれたんだよ・・・・・・」
そしてふたりは、フラヴィウスが用意した小舟でラヴェンナ領を脱出。
ところが砦の上から矢を持った老人と青年がおり、
「撃て」
と青年の方が命じた。
「リナには悪いが、やはり殺すほかない」
青年はフラヴィウスだった。老人は無論、ヒルデブランド。
ヒルデブランドは矢を放つ。
オドワケルの背中に毒の塗られた矢が刺さる。
「ぐふっ」
「だいじょうぶ」
リナは驚いてオドワケルを凝視する。
「だいじょうぶ・・・・・・ちょっと目がかすむだけだ」
何とか、岸にたどり着き、リナはオドワケルを横に寝かせた。
「水を持ってくるから」
その場を離れようとすると、オドワケルがリナの袖をつかむ。
「待ってくれ、これからも、そばにいてくれるか?」
リナはオドワケルの手を握り、
「そんなの決まってるでしょ、何を言うの」
「それで、安心し・・・・・・た・・・・・・」
オドワケルは寝息を立てて眠りに落ちた。
リナは水をくみに離れてしまったが――。
オドワケルは、既にその場所から姿を消していた。
だが血のあとが転々と残されていて、リナはあとをたどったが、途中で途切れてしまっていて行方はつかめなかった。
なんだか、胡散臭くなって参りました^^;
こんなんでええんかい!? と思ったら、ご一報ください(笑。