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フラヴィウス

「それで?」

 テオドリクス大王――ドイツ叙事詩の『ベルンのディエトリヒ』の主人公にもなった王である。

 ラテン語名は、フラヴィウス。

 だがしかし、ある学者は、実際は別人のディエトリヒである可能性があるとの指摘もあり、判断が難しいという。

 それはさておき、テオドリクスは宰相ヒルデブランドに尋ねた。

「それで?」

 と。

 宰相は答えた。

「オドワケルをうまいことだまし、暗殺するのです、やつめ、西ゴートの王に取り入って皇帝としての支配権を得ようと言うらしいのです」

「は。なるほど。しかしね、じいや。オレは奸計というのが、あまり好きではない」

 テオドリクスはお気に入りの緋色の外套を身につけ、ヒルデブランドに返答する。

「しかしヤツは、既にイタリア王を名乗っておるのですぞ。若。甘い判断はなさいますな?」

 テオドリクスは右手を挙げ、

「心得ている」

 と、けだるそうに階段をおり、去っていった。

「このラヴェンナの領地をお守りできるのは、若しかおりませぬゆえ」

 ヒルデブランドはため息をついた。



 テオドリクスことフラヴィウスは、幼い頃ローマ兵にとらわれて捕虜となった。

 しかし、フラヴィウスに限ったことじゃない。この時代はゲルマニアだったら誰にでも起こったことで、ゲルマン人は捕虜にされ、ローマ式の教育を受ける。

 そうすることで洗脳していくのであった。

 この陰に潜むものは、キリスト教的な意味合いも深かったという。

 

 

 テオドリクスの両親も、ゲルマンの神々を信じていたのに違いなかった。

 オーディン、フレイ、フレイヤ、チュール、トールと言った、多神教信者の一族だったのだから。

 ところがキリスト教が布教し始めると、ことごとく多神教信者を拷問死させていった。

 彼らは、圧することでしか、布教を広めることができなかったのだろうか・・・・・・。


 

 布教に殺戮と言えば、アウグスティヌスが有名ではなかろうか。

 ルソーの告白とはまた別の内容だが、カール大帝が愛読してやまなかったという。

 おっとっと、脱線しそうだからやめておこう^^;  


 それはさておいて、一方のオドワケルとリナはどうしているだろうか。

 ちょうど林檎の収穫を祝い、村人たちがオドワケルの家に集まって宴会が行われようとしていた。

 その中には西ゴートの王、エウリックの姿もあり、陽気に酒盛りをしていた。

 オドワケルは木に登って青空を見上げるリナに声をかけた。

「何が見える?」

 リナはオドワケルを見下ろし、

「さあ。白い雲しか見えないね」

 とつまらなそうに答えた。

「いつも暗い顔しているけど・・・・・・」

 オドワケルは言いにくそうに尋ねた。

「どうして、って聞きたいの?」

 オドワケルも樹によじ登ってきて、

「うん」

 と答えた。

「もしも・・・・・・あなたが満たされた生活をしていて、戦争もない、飢えることもない生活ができて、毎日同じ時間に閉じこめられる牢獄に詰め込まれるだけの日常を送っていたとしたら・・・・・・無気力になるに決まっているわ」

「戦争も、飢餓することもないっての。そいつはすげえな。お前のいる世界を、俺は一度でいいから、見てみたい」

 毎日同じ時間に閉じこめられる牢獄。

 それは、学校を指す言葉だった。

 リナは要するに、学校が大嫌いだったのだ。

 それからふたりは、見つめ合ったまま固まってしまった。

 お互いの瞳の中に吸い込まれていきそうな、そんな錯覚をおぼえていた。

「私は戻りたくない。あの世界は綺麗じゃないもの」

 オドワケルはリナの肩を軽くたたき、

「じゃあ、いたいだけここにいろよ。みんな気のいい仲間だからさ・・・・・・」

 リナはオドワケルのそっぽを向く顔が、赤く染まっているのを何となく知っていた。

「ありがとう」

 リナは、オドワケルの手に、そっと自分の手を重ねて礼を述べる。そして・・・・・・オドワケルは感情を抑えきれなくなって、リナにキスをしていたのだった。    

 ヒルデブランドは実在したのかわかりませんが、

『わかをお育てすることにいのちを懸ける』

 じいや、ってのをやってみたかったんです(笑。

 ところでアウグスティヌスやキリスト教徒が拷問した話はまじめに、実際あった話でした。

 そしてフラヴィウスと言うラテン語名。

 彼はもしかしたら、ゲルマン人の誇りを失いたくなくて、ディエトリヒ物語を書かせたのかも知れないなー、なんてことを考えてつくってみたり・・・・・・。

 あんまり深読みしすぎてもプロットがつぶれるか(汗。

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