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俺はイタリア王

 ビザンツ帝国。

 一般的には、ローマ帝国と呼ばれていた。

 史実で伝える限り、テオドリクスは悪役として描かれることがない。

 ドイツ叙事詩においても、『ベルンのディエトリヒ』としてのテオドリクス大王は英雄である。

  


 しかし、オドワケルはテオドリクスによって、だまし討ちされた不幸な男であった。

 そのいきさつを語る前に、リナとオドワケルの出会いを見てみよう・・・・・・。


 

 450年頃。

 ちょうどオドワケルが二十歳の頃である。

 彼は庭に植えてある林檎の樹によりかかり、赤く熟した実をひとつ、ほおばった。

「お兄ちゃん! だめじゃない、つまみぐいしちゃあ!」

 村の子供がオドワケルをしかると、オドワケルは笑ってごまかそうとした。

「お前たち珍しいな、なんだってこんな村はずれまで遊びに来たんだ」

 林檎の樹があるのは、村はずれの丘。

 滅多に人は来ることがなかった。

「あのね、オドワケル様〜。そこに人が死んでるの」

「なに!?」

 にこにこ笑顔が急に消え、オドワケルは血相を変えて子供らに死体の場所まで案内させた。

「どこだ、どこに死んでいた?」

「あっち。気になって帰るにも帰れなかった」

  

  オドワケルが生えている木をかきわけて、とうとう倒れている娘のそばへたどり着いた。

 それは、まだ幼さが残る娘だった。

 オドワケルはそうっと、彼女を抱き上げてみる。するとまだ息があった。

「生きているぞ」

 オドワケルは揺すったり殴ったりして、様子を見ながら彼女を起こす。

「起きろ、無事か?」

 彼女はついに目を覚ました。

 娘は、リナであった。

 オドワケルも子供たちも、ホッと安堵の息を吐く。

「腰いたッ・・・・・・。打ち付けたのかしら。ここはどこ?」

「どこって、西ゴート王国」

 リナは心の中でやった、と喜んだ。

 ゼフィの言ったことは、ほんとうだったのだ!

 一瞬のうちに過去の、しかも古代のローマ帝国へやってきてしまったのだから。

「お前、なにをにやにやしているの; あ、そうだ、腹減ってないか、林檎食えよ」

 食べかけの林檎を、恥ずかしそうに渡すオドワケル。

「あ、ありがとう」

「あっと! 食べかけでゴメン・・・・・・」

 今頃気づくオドワケル。

 リナはあわてるオドワケルがなんだかおかしくなって、くすくすと笑いだした。

「な、何を笑っている」

「べっつにぃ〜」

 オドワケルは照れた笑みを浮かべて、

「え、ええと、名前は?」

 と聞いてきた。

「私? リナよ」

「リナか、いい名前だね・・・・・・」

 オドワケルはなんだか、うっとりした目つきでリナを見つめる。

「ちょっと、あなた。人に名前をきいといて、自分が答えないつもり?」

 少し強気に、リナが声を張り上げる。

「はは、すまねえ。俺はオドワケル、将来はイタリア王になる予定の男だ」

「・・・・・・イタリア王?」

 首を傾げるリナに、子供たちが説明する。

「あのね、オドワケル様、皇帝になるんだよ〜」

 リナは皇帝という単語で、なるほどと合点がいった。

「ああ、わかった。そうなのね」

「スゲーだろ。リナ、俺と一緒になるつもりなら、今のうちが旬だぜ。なんたって、皇帝の妻になりたがるものは数が多い」

 リナはこれを聞いて、引きつった笑顔を見せる。

「なんだよ、そんな顔して・・・・・・はは〜ん、さては照れてるな」

「ば、バカ言わないで! それに私、権力なんかいらないし・・・・・・」

 かなりの自信家でもあるオドワケルと、対して地味でもいいから平穏無事をと望むリナ。

 対照的なこのふたりは、近日中に争いの渦中に巻き込まれていく・・・・・・。

 世界史が好きになったきっかけが、『ベルンのディエトリヒ』でした。

 それがテオドリクス大王とは限らないものの、おもしろく読めたこともあり、おかげで「オドワケル」を書くことができました。

 古代戦と近代戦、どちらが書きやすいか?といえば、やはり古代のカール=マルテルやアラーリック、アッティラ王とかでしょうかねぇ。

 ちょっと違いますが、李白や安禄山なども好きです。

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