時の鍵
リナはいつも、学校の授業中に窓の外から空を見上げて、夢を見ているような女の子。
そして、何もせずに終わってしまう自分の人生を想うと、なんだか、つまらなく想えた。
今日の世界史の授業でやっていた、西ローマ滅亡についてぼんやり暗唱する、リナ。
家に帰り、暗唱したものをノートにまとめようと机に広げる。
そのとたん、窓が開いて、チュニック(古代ローマの服)を身につけたブロンドの少年が、
「よぉ。窓が開いてたから勝手にはいっちまったぜ」
と言いながら、ずうずうしくも部屋に上がり込んできた。
「きみは、誰」
リナは驚きもせずに問いかけた。
「おいらはクロノス様のお使いでやってきた、ゼフィって言うんだ。おまえ、リナって言うんだろ? おいらは神の使いだ、知らないことはないぜ」
「へえ」
リナは勉強をやめ、ゼフィに身体ごと顔を向ける。
「お前が今イチバン欲しいものを当ててやるよ」
リナは突然そんなことを言われて驚いた。
「ずばり、『夢』だ。そうだろう?」
「そ、そのとおり」
「お前は夢が欲しいと言うよりも、夢の見方がわからないと言ったところか。だからクロノス様が、お前を憐れんでおいらを使わしたんだ、おいらに夢の見方を指導させろってな。感謝しろ」
えらそうにふんぞり返るゼフィ。
しかし、リナは不安そうにしていた。
「そんな陰気な顔をするな。なにが不満なんだよ」
「だ、だって――」
リナの内心としては、嘘臭い神話というか、作り話と思えたのだから。
「よーし、じゃあ手始めに、今日の世界史で習った箇所の時代を見て来ちゃあどうだい?」
リナは驚いて、口を手で押さえた。
「い、いけるの?」
「ああ、だいじょうぶさ。クロノス様のお力のたまものだよ・・・・・・」
ゼフィは銀色の美しい装飾がついた、『時の鍵』といって、好きな時代へ一瞬でいけるというスグレモノだった。
ゼフィは、リナの首にチェーンをかけてやった。
リナがいなくなると、ゼフィはリナに変身して好き勝手を始める。
タンスをあさったり、ベッドの上に寝転がったり。
「リナにはたっぷり遊んできてもらおう」
ゼフィの企みは、リナになりすましていたずらをすることであったが、当のリナは何も知らず・・・・・・。汗。