山の声と波の音 7
蘭は 二つ目の高校を辞めバイトを始めるのだが
それと同時に自由治療という方法で
ホルモン注射を打ち始める
カウンセリングを受け 診断書を貰い 治療を始める
という方法が一般的なやり方だが
カウンセリングを飛ばし治療を始める方法がある
それが自由治療だ
自由治療は親の承諾が有れば可能だった
治療に対してのリスクは全く怖くなかった
するかしないかの選択肢は昔から無かったからだ
考えるのは"いつから始めるか"なだけだ
時が来たと思ったのか 思いたかったのか
今思い返しても解らない
だが タイミングは悪くなかった事だろう
バイトは行くもすぐ辞めた
まるで隼人だ
因みに 親友
いや 兄弟感覚の隼人は美容学校で頑張っていた
バイトを辞めた蘭は
急いで隼人と同じ美容学校に入学する
同級生が高校卒業してから入学する年と同じ年に入学したかったのだ
とはいえ 蘭はまた急で根拠の無い大胆な行動を取ったのだ
2年制の美容学校は 蘭が入学と同時に隼人は卒業し
た
美容学校についても 母は反対しなかった
入学式にも来てくれた
そうしてまたもや環境が変わり 友達も変わり
今度こそと奮闘していた
美容学校に通い出してすぐ姉の真季から
2年分の誕生日プレゼント
と教習所に通うお金を貰った
なんて優しい姉だ。
真季は 地元の高校を卒業後
携帯ショップに就職し安定しているように見えていたが
就職して一年くらい経った頃
蘭に"家出をするから手伝ってほしい"とお願いした
蘭は理由を聞いた
"お母さんが本当のお母さんじゃなかった"
と言った
泣いていた
父と母は再婚同士らしい
再婚前に父は二人の子供が居た
それが姉の真季と兄だと知らされた事のある 帰省した時にいつも居た男の子だ
母には蘭が居た
父と母が再婚して妹の紗希が産まれた
らしい。
真季は酷く哀しんでいたが
蘭はというと 別にどうでも良いくらいの話だった
もし自分の母では無かったらと考えてみるが
実際の話ではないからなのかあまり何も思わなかった
ただ兄妹は本当に仲が良かった
そして当時付き合っていた男性の家に住む事を選んだ真季は
母に置き手紙を残し
夜中 自転車で一緒に荷物を運んだ
そこから一年半程は 蘭も会っていなかった
そんな真季がくれた誕生日プレゼントは
嬉しいのはもちろん 最高にかっこよかった
運転免許も真季のお陰で無事に取れ
授業も楽しく 順調かと思いきや
2年になる頃に辞めた
ただ新しく始まった授業がつまらなかった
授業を抜け友達とカラオケばかり行っていた
そして面白くなくなった
そう 蘭は気付かず内に "逃げ癖"が完全に染み込んでいた
何かにつけて理由を付け 自己解決してるつもりで
何一つ最後までやり切れていなかった
急に全てが恥ずかしくなった蘭は 自分を変えたくて地元を出た
たまたまテレビで見た綺麗な所
そこに決めた
片道切符同然で出て行き
今ではあまり聞かないが 直接"働かせて下さい"と申し込みに行った
そこはやった事もない パチンコだ
一週間程車中泊していたが 泊まらせてくれるという女の子 留衣に出会い 付き合い
蘭はまたもや 人の"実家"へ居候する事になった
全く違う土地で"自分"を探しに行ったが合わず
半年程で留衣を連れ地元に戻って来た
同じ日本人でもこんなに違うのかと思い知っただけの短い旅の幕を閉じた
地元に戻った蘭は 地元で就職した
アルバイトではなく契約社員だ
半年後留衣と別れ 留衣は地元に帰って行った
蘭は 何かが吹っ切れた様に働き倒した
地元の居心地の良さに感動もした
働き始めて一年後 正社員の声がかかった
"お願い致します"と返事をしたが
それを機に一ヶ月休みを貰い タイへ飛んだ
会社は社長と経理一人だけ 事情を知っていた
他は当然 誰も何も知らない
そして普通の男性だと思っている
理由を告げられずに一ヶ月の休みは悪く思う人も居た
性格上 蘭には関係のない事だが
一緒に仕事をする上で 良い気にはならないだろうなと思い
しつこく聞いてくる人には "タマを取ってくる"と言っていた
嘘だが系統としてはあながち間違いではない
いよいよ タイに出発する日がきた




