山の声と波の音 6
高校を辞め 遊びに明け暮れていた蘭は
ある日 中学生の時のソフトボール部の先輩 麻美と たまたま再会する
蘭がソフトボール部に入部したきっかけの人とは別の人だが 面白く 当時から一番親しみ易かった人だ
学生の頃は ◯◯先輩と呼んでいたが
再会した後 すぐに下の名前で呼んでいた
麻美の弟隼人は蘭と同級生だが 全くと言っていいほど喋った事がなかった
それから毎日連絡を取るようになり
毎日遊ぶようになり
気付いたら麻美の家に転がり込んでいた
麻美は一人暮らしでもなく 実家だ
蘭は 人の家の実家に居候しだしたのだ
高校に行かなくなってから何人の女性と付き合ったか分からないくらい だらしのない恋愛をしていた蘭だったが
麻美と再会し 何故かピタリとなくなった
後に蘭と麻美は付き合う事になったのだが
再会当時は麻美と恋愛関係になる思考は全く無く
好意を抱いていた訳でも 抱かれていた訳でもないが
当時連んでいた友達とも次第に疎遠になっていった
言葉では表せない安心があった
いや 心のどこかで "家族"というものに憧れていたのかもしれない
それはきっと 無いものねだりの憧れだ
働かず居候していた蘭は 麻美のお父さんにしばしば怒られていた
真剣に怒ってくれる事を
想像している"お父さん"みたいで 蘭は少し嬉しかった
真剣に怒ってくれたお父さんだが
蘭は "分かってる"と言いながら何もしなかった
学生時代は全く喋った事のなかった隼人とは
話してみると相当気が合った
それからは麻美と隼人と3人で夜な夜な遊んでいた
麻美は正社員で働いていた
隼人はバイトしていたが すぐ辞める奴だった
ただ 蘭みたいに全く働かない訳ではなかった
辞めてもすぐ違うバイトをしていた
そしてまたすぐ辞めてくるのだが
蘭に比べると働いているだけでも優秀だ
隼人は スポーツ推薦で県外の高校に行っていたが
寮生活でホームシックになり すぐに辞めて帰って来ていた
蘭と隼人は 内容は違えど境遇がよく似ていた
そしてタイミングが合ったのだ
麻美は 蘭と隼人に専門職を極めるか夜間でも何でもいいから高校卒業資格は取りなさいと言っていた
"将来困る"と教えた
隼人は 美容学校に行く事を決意し入学した
蘭は 高校に行く事を決めた
普通の高校だが調理学科に 学年では一つ下の人達と入学した
卒業と同時に調理師免許取得する学科だった
入学当時 もちろん友達は一人も居なかった
知らない人達と全く違う環境で再スタートをした
蘭の母は勿論 反対しなかった
入学式も来てくれた
入学してまもなく麻美と別れた
周りの環境に慣れ 楽しく過ごしていたが
面白さには欠けていた
何かしたい 何かないか
考えだすと止まらないのが蘭だ
その高校は部活動が何一つ無かった
蘭は 無いなら作ればいいと校長に掛け合った
監督を自分で探すという条件で許可が出た
片っ端からお願いしに行き
社会の先生である高橋先生に辿り着く
ソフトボール部を立ち上げた
部員集めには苦労した
5人集まったがこれでは試合に参加できない
合同チームの案を出し
近くの高校に掛け合ってもらった
何とか引き受けてくれた高校が見つかり
正式にソフトボール部の活動を始めた
使用しないグラウンドは想像以上に硬く 雑草が生い茂っていた
草抜き グラウンド整備からのスタートだ
学校の予算で必要な道具を買うにあたって
高橋先生と話し合いを繰り返した
徐々に形になっていくソフトボール部は
本格的な練習をする前からワクワクが止まらなかった
毎週土曜日は合同チームとの合同練習だった
ソフトボールという競技自体を避けていた蘭だが
久しぶりのソフトボールというスポーツに触れた時 色々な感情が溢れ出てきた
複雑で涙が出そうな でもどこか微笑ましくなるような感情だ
合同チームになって 顔合わせをした日から
こいつと付き合うだろうなと思う女性が居た
可愛いとかタイプとかとは違ったが
直感でそう思った
この感覚は初めてだった
予想通りしばらくして付き合うことになったのが真奈美だ
同じ歳だが学年は一年と二年だ
順調すぎるくらい順調な幸せだった
母とも仲良くなり 蘭の家族同然だった
蘭が二年生の夏の大会の時
真奈美は三年生最後の大会となる
蘭の学年は二年だが大会は年齢で決められる
練習試合は出場可能だが大会は二年で終わる
蘭にとっても最後の大会だった
大会を終え 真奈美は看護学校へ行く事を決め
試験に向けて猛勉強していた
合同チームを組んでいた高校も三年生が抜けた事による人数不足で廃部となった
蘭からまたソフトボールが無くなった
蘭は再び 全ての力が抜けた様に環境が崩れ始める
三年生になろうかという頃 学校を辞めた
なんて勿体ない事をしているのだろうか
だがその頃の蘭はそんな事を思っていなかった
そして真奈美とも別れた
真奈美は第二の青春そのものだった
家庭環境に対する心のズレ
家族 友達 恋人 そして自分自身
何も無いのに何かが違う
そんな感覚だった
心はまだ足掻いていた
蘭は 働いてみる事にした




