表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

泥濘の夜

作者: 水縒あわし
掲載日:2026/01/27



 カーテンの隙間から、青白い月光が細い線となって差し込んでいる。




 深夜二時。



住宅街は死んだように静まり返り、遠くを走るトラックの走行音だけが、潮騒のように響いていた。




 鍵の掛かっていない掃き出し窓。




 それが、彼女からの無言の招待状だった。




 男は音もなくリビングを抜け、寝室へと足を踏み入れる。




 ダブルベッドの片側は綺麗に整えられ、主の不在を告げている。夫は長期出張中だと聞いていた。




 その隣で、彼女は浅い呼吸を繰り返していた。




 シーツから覗く白い肩。



左手の薬指には、月光を弾いて鈍く光るプラチナのリング。




 それが、男の胸の奥で燻っていた残り火に、どす黒い油を注いだ。





 愛している。


けれど、この手には決して入らない女。




 「……ん」




 男がベッドサイドに膝をつき、その頬に触れると、彼女は恐れることなくゆっくりと瞼を開いた。




 驚きはなかった。



潤んだ瞳が、闇の中で濡れたビー玉のように男を射抜く。




 彼女もまた、待っていたのだ。





 「……馬鹿な人」



 咎めるような、それでいて懇願するような掠れた声。




 男は答えず、彼女の唇を塞いだ。





 再会を懐かしむような甘さは微塵もない。




 飢えた獣が獲物に食らいつくような、乱暴で貪欲な接吻だった。




 舌をねじ込み、唾液を貪り、酸素を奪い合う。




 彼女の細い腕が男の首に絡みつき、爪がうなじに食い込む。





その痛みさえも、今は愛おしい。




 男は彼女が身につけていた薄いキャミソールを、破らんばかりの勢いで捲り上げた。





 露わになった乳房は、記憶の中よりも柔らかく、豊満になっていた。




 冷たい夜気に晒された尖端を指先で強く摘み上げ、そのまま口に含んで舌先で転がす。




 じゅる、ちゅぷ、と卑猥な水音が寝室に響く。





 「あっ、んぅ……!」




 彼女が腰を弓なりに反らせ、シーツを握りしめる。




 男の手は執拗に身体を這い回り、腰のくびれを撫で、太腿の内側へと滑り込む。




 秘所はすでに、期待と背徳感で溢れ出し、指が濡れるほど湿り気を帯びていた。





 「こんなに濡らして……誰を待ってたんだ」




 「……いじわる、言わないで」



 男はズボンのベルトを解き、張り詰めた自身の熱源を解放した。




 怒張した楔を、濡れそぼった彼女の入り口にあてがう。

 



 

 粘膜が絡みつく音と共に、男は一気に最奥まで腰を沈めた。




 きつい。


まるで初めての夜のように、彼女の中は男を締め付け、拒絶しながらも受け入れている。




 その矛盾した感触に、脳髄が痺れた。




 「あぁっ、は……ふ、深いっ」


 「愛してる……お前も、俺が欲しいんだろ」




 男は理性というタガを外し、激しく腰を打ち付け始めた。




 パン、パン、と肌と肌がぶつかる硬質な音が、リズムを刻む。




 揺れる乳房、乱れる髪、苦悶とも歓喜ともつかない表情で喘ぐ唇。




 その全てが、今は男のものだった。




たとえ戸籍上は他人のものであっても、この肉体が発する熱だけは、男のために燃えている。





 「んぁ、あッ、そこ、だめぇ……! 声、出ちゃうっ」



 「出せよ。誰もいないんだろ」




 男は彼女の両足を自身の肩に担ぎ上げ、さらに深く、容赦なく突き上げる。





 奥をノックするたびに、彼女の身体がビクビクと痙攣し、内壁が脈動して男を吸い上げようとする。





 結合部からは愛液が泡立ち、白濁した音が部屋に満ちる。



 汗が滴り落ち、彼女の鎖骨のくぼみに溜まる。


男はそれを舐めとりながら、耳元で愛を囁き続けた。




 これは復讐だ。





 選ばれなかった自分への、そして彼女を奪った見えない夫への。




 「いく、もう、おかしくなるっ!」



 彼女の爪が男の背中を引き裂く。





 その痛みと快楽のピークが重なり、男もまた、限界を迎えた。





 「俺も、いくぞ……!」




 男は彼女の腰を強く掴み、獣のような唸り声を上げて、最後のストロークを叩き込んだ。





 ドクン、ドクンと、熱い飛沫が彼女の胎内へ勢いよく放たれる。



 彼女もまた、白目を剥くほどの絶頂に達し、全身を硬直させて男の全てを搾り取った。






 長い、長い余韻。





 荒い呼吸だけが重なり合い、二人の身体は汗と体液でぐしゃぐしゃに濡れていた。




 男はゆっくりと身体を引き抜く。





 とろりとした液体がシーツに零れ落ち、取り返しのつかない染みを作る。





 月明かりの下、彼女の薬指の指輪だけが、変わらず冷たく輝いていた。





 どんなに激しく交わっても、朝が来れば、男は窓から去り、彼女は「妻」に戻る。




 その残酷な事実だけが、二人の間に横たわる深い闇のように残されていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ