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ずっと一緒の親友で、好きな人で、僕を殺した人。  作者: 湊 俊介
『潮琶』視点

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8/23

『ゲームセンターで』

***潮琶***


「潮琶、放課後空いてる?駅前に新しいゲーセンオープンしたんだけどさ。一緒にいかね?」と慎太郎が言ってきた。


 俺たちの学校は毎年クラス替えがある。三年生のクラス替えでは海人と違うクラスになって落ち込んだ。クラスが変わったその日に、慎太郎は今日みたいにニコニコした表情の坊主頭で俺に話しかけてきた。


今日は慎太郎の入っている野球部が珍しく休みらしい。昨日が大会でその振替なんだと話してくれた。いいよ、と言ってから約束をしていたのを思い出した。


「ごめん、今日先約合ったんだわ」と掌を合わせて謝った。


彼女かよ、と慎太郎が聞いてきて、違うと返した。


「そうだ、三人でもいいなら。元々駅前に行く用事だったから」と提案してみた。


元々海人と二人で駅前のガチャガチャ王国に行く予定だった。


舞が好きな猫マロのガチャガチャを買いに行く。自分で行きたいけど、今日は用事があるから売切れる前に買ってきてほしいと頼まれた。


海人は俺の予定も聞かずに二人で言ってくるよと約束をした。あいつは家の中だと、かっこいい頼れる兄貴分だ。


昔は俺から見てもそうだった。


「もう一人って誰?」


「隣のクラスの、海人ってやつ。昔からの幼馴染なんだ」


「そんな奴いたっけ?」と慎太郎は首を傾げた。


「悪い奴じゃないよ。気に入ると思う」


 慎太郎は向こうがいいなら俺はそれでもと言って、チャイムが鳴ると自分の席に戻っていった。


高校生になってからはわざわざ児童養護施設に住んでいます、なんて言わなくなった。この高校で俺と海人が同じ施設に住んでいるというのを知っているのは昔からの友達数人だけだ。中学生くらいまでは俺たち兄弟だって外でも仲良くしていたし、帰り道も一緒に帰っていた。


だけど段々とそうじゃなくなっていった。中学三年くらいから、海人が恥ずかしいと俺が兄弟だと言うのを嫌がった。それに一人で帰る、と帰り道も別々になった。あいつは家では普通に仲良くして、外では冷たい態度を取って、なんだか逆反抗期みたいになっていた。


進学は海人が嫌がると思ったけれど、一人にするのが心配で同じ高校を選んだ。理由は言わずに同じ高校に行くと伝えるとあっさり、いいんじゃないとだけ言ってくれて嫌がりはしなかった。高校生になってから、あいつは外では友達も作らないで一人でいて、家では相変わらず頼れる兄貴をしている。


 放課後待ち合わせの校門に慎太郎と向かった。友達を連れて行くなんて言ったら断られるのは分かっていたから、だから海人には連絡しないで慎太郎に合わせた。海人は戸惑っていたけれど慎太郎のニコニコの笑顔とコミュニケーション能力ですぐに打ち解けたように見えた。


 ガチャガチャ王国に着くと、県内最大級と入り口に大きく書かれている。自動ドアの奥は視界全体にガチャガチャの壁ができていた。入り口側の機体から順番に見てまわっていくと次第に首が疲れてきた。四段ずつ、機体が積み重ねられて奥まで並んでいる。下から上へとすべての台に目を向けるのは一苦労だ。


本当に今日入荷しているのか、と確認すると海人は頷いた。狭い通路は二人がすれ違うのが精いっぱいだった。


「お前たち探してる猫マロって、これ?」と慎太郎は知らないうちに探し回っていてくれていた。慎太郎の後に並んでついていくと猫マロのガチャガチャがあった。


「これだよ、ありがとう」と俺は言った。

海人は何も言わずに自分の財布から小銭を取り出して機械に投入した。


「お前らがこんなかわいいキャラクター好きなの意外だったわ」と慎太郎が言った。俺が好きなわけじゃないよ、と返した。

「あ、海人が好きなのか。海人は可愛いもん好きなんだな」


「よかった、舞が欲しがってたやつ出たよ」

「なに!海人、お前彼女いるのかよ。大人しそうな顔して、お前は今日知り合ったけど俺の敵だ」と慎太郎は言った。


そして態度を急変して、彼女いるなら女の子の友達紹介してくれよと海人の肩をもんだ。


「こいつ、こんな高身長でイケメンなのに彼女の一人もいねえんだぜ。潮琶と友達になれば彼女できると思ったのに」


「お前、そんな魂胆で俺に近づいたのかよ」

海人にちょっかいをかけ続ける慎太郎の体を引きはがした。そうすると慎太郎は、冗談だよと笑った。


「舞は海人の彼女じゃねえよ。俺たちの妹だ。安心しろ」


「おい、潮琶っ」と海人が睨んできた。

しまったと口を塞ぐともう遅かった。慎太郎は頭上にハテナマークをたくさん浮かべて聞いてきた。


「俺たちの妹?」


 別に意図的に隠していた訳じゃないと、慎太郎に俺と海人の関係性を説明した。俺たちは同じ施設で育って兄弟みたいな関係性だと、いつから施設にいるとかそう言ったことは省いた。慎太郎も突っ込んで質問はしてこなかった。


「施設育ちか、カッコいいな」と慎太郎は言った。


海人の顔を見るともう帰りたい、という顔をしていた。


「でも俺ら親がいないから……」と言うと、ごめんと謝られて気まずい空気が流れた。

「欲しいものは手に入ったなら次はゲーセン行こうぜ」と慎太郎はスマホで場所を調べ始めた。気まずい空気を変えようとしてくれたのかもしれない。


「ここから歩いて五分くらいだ、いくぞ」と歩き始めた。ガチャガチャ王国を出ると、海人は俺の制服を引っ張って止めた。


「俺帰るわ」


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