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ずっと一緒の親友で、好きな人で、僕を殺した人。  作者: 湊 俊介
『拓海』視点

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七話『兄を助けに』

信号が青になって神社へ足を進めた。道の脇はガラスが落ちているかもしれない。


僕は道路の真ん中を歩いた。右足が地面につく度にズキッと痛んで、サンダルと足の間はヌルヌルしてきた。


日吉神社は小さな山の上にある。小学校の低学年の頃は、海にぃ達とここの公園でよく遊んだ。入り口に大きい石作りの鳥居があって、そこから階段が山の上まで続いている。その上に古い神社がある。


大みそかはその上で火を焚いてお守りを燃やしたりしている。鳥居の手前には駐車場とその奥に行くと遊具の少ない広い公園がある。大きなすべり台と鉄棒にブランコ、回転する奴もあった気がする。


 昼間は灰色の鳥居も、暗闇の中だと真っ黒な色をして立っている。山に生えている木は風に吹かれてかガサガサと音を立てている。空気が冷たい気がする。


鳥居の向こう側を見ると、こっち側の世界よりも真っ暗に見える。こんなところにいるのかな、と僕は鳥居をくぐるのが怖くなった。


怖くない、怖くない、怖くない。と三回頭の中で唱えた。すると少しだけ余裕ができて僕は、おばけなんてないさ、を頭の中で歌った。うろ覚えの歌詞を頭の中で繰り返して僕は鳥居をくぐった。 


高く伸びた木に空をふさがれて鳥居の外より暗い。それに階段を一段一段登るたびに右足が痛んだ。


初めは緩やかな階段で、後半は手すりの付いた急な階段に変わる。


遠回りの緩やかな坂道もあったはずだけど、僕は早くここから出たい一心だった。それに遠回りなんかしていられない。ここに二人がいなかったら、ただの怪我損だなと思った。


急な階段は手すりがあっても、怪我した右足は悲鳴をあげた。


歯を食いしばりながらあと五段くらい。僕は小学六年生にもなって泣きそうだった。


でも泣いているところを見られたら二人に馬鹿にされる、と思って腕で目を拭った。


これは汗だ。


階段を上り終えると神社が見えた。


月明かりでしか照らされていないけれど、満月で明るい。目も慣れたせいかより明るく見える。


神社の前に誰かいる。後ろ姿で誰か分からないけれど片手を上げている。僕は息を吸うののも静かに意識した。


後ろ姿で誰か分からないけれど片手を上げているように見える。何しているんだろう。


その手の先を見るとそっちにも誰かがいた。神社の上だ。ここから見ると宙に浮いているように見える。


海にぃと潮にぃでありますように、と僕は静かに近づいた。だけど宙に浮いているなんて、そんなことあるはずがない。


 足音を立てないように亀みたいにゆっくり進んだ。何か声も聞こえる。何を言っているかまでは分からない。


神社に続いている真ん中の石造りの道からそっとずれて、左側の木陰から近づいた。叫び声が聞こえてきた。低い声だ。海にぃのふざけた時の声に似てなくもない。


僕はその二人に視線を集中させながら近づいた。


 また叫び声が聞こえてきて、油断をしていて思わず声が出てしまった。だけどその叫び声にかき消されてまったく届いていないようだった。


海にぃの声に聞こえなくもないけれど、あんなに声を荒げたのは聞いたことが無い。


僕は何が何だか分からなくなった。


「嘘だ……」と僕は口を押えた。


空に浮いている人が右へ、左へと水平に移動している。その動きは下にいる人の手の動きと一緒に動いている。まるでダースベイダーだ。


前に海にぃと一緒に映画で見た。僕はもっと近づいて三十フィートくらいまで近づいた。近づくにつれて心臓がドクドクと跳ね上がる。


歩いているのに走っているみたいだ。僕はゆっくり息を吸って鼻から静かに吐いた。そして意を決して声をかけた。近づいたけどまだ気づいていない。


「か、海にぃ?ねえ、海にぃなの?」と僕は聞いた。


 その人はすごい勢いでこっちを振り向いて、僕はおしっこがちびれるかと思った。


振り向いた顔はとても怖い顔をしていて、ヤンキーごっこの顔なんて比べ物にならないくらい怖かった。暗闇のせいかもしれない。それが海にぃだと分かるのに少しだけかかった。


「なんだ、やっぱ海にぃじゃん」と僕は言った。


海にぃに近づこうとするとドン、と鈍い音がした。海にぃの左側、神社の上から落ちてきた。


僕はすぐそっちに目を向けた。


「嘘、潮にぃ?」


 僕はすぐに落ちてきた潮にぃの所に走った。


右足の痛みが夢じゃないって何度も言ってきた。潮にぃは地面にぐったりと倒れていて動かなかった。


僕は潮にぃの名前を何度も読んだ。肩をゆすっても反応しない。頭がぐったりと人形みたいだった。


「海にぃ!」と僕は振り返って呼んだ


「俺じゃない。俺じゃない。俺は悪くない……」


 海にぃは頭に手を当ててブツブツと独り言を言っている。潮にぃの頭の下が黒く濡れていた。潮にぃの頭に手を当てると、ビチョっとした感触があった。


血っ。落ち着け、落ち着け。僕は潮にぃの口元に手を当ててみた。呼吸をしていない。


「か、海にぃ。潮にぃが息してない」


「俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない」

と海にぃはしゃがみこんだ


「海にぃ、海にぃが潮にぃ殺したの?何で?潮にぃが息してないよ。海にぃ、なんか言ってよ。ねえ。なにしたの。ねえ、ねえ、ねえ」




僕は叫んだ。


そして視界は真っ白になった。





「昨夜、神原市下野町で発生した爆発について、新たな情報が入っています。爆発が起きたのは午後八時ころ。現場は市内にある日吉神社周辺で、突然の暴風のような爆発により神社の建物は全壊、周囲の木々も外側に向かって倒れるなど爆発の規模がうかがえます。この爆発による火災は発生していないものの爆心地を中心とした半径十キロの県内の地域は現在も避難指示が継続しています。警察と消防は現在も現場の調査と住民の安全確認を行っております。また付近に住む高校生の黒木海人さん十八歳、川野湘琶さん十八歳、そして小学六年生の東郷拓海君十二歳の三人の行方が分からなくなっております。警察は行方不明者として三人の行方も捜索しています。消防によりますと、神社の天辺から爆風が噴き出したような痕跡があり通常のガスや火薬による爆発とは異なる特徴が見られるとのことで、異常な現象であることを示唆しています。住民の皆様には引き続き安全に留意し、自治体からの最新の情報をお待ちください。以上、神原市で発生した爆発の続報でした」

     


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