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ずっと一緒の親友で、好きな人で、僕を殺した人。  作者: 湊 俊介
『拓海』視点

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六話『テレビのニュース』

バタバタとヘリコプターの飛ぶ音と、赤く光るパトカーや救急車、その奥に舞ねぇの通っている中学校が映っている。


去年、舞ねぇの合唱コンクールの時に行ったことがあるから間違いない。それにアナウンサーの女の人が緊迫した声で中継をしている。


「こちら神原中学校前から臨時ニュースをお伝えします。先ほど神原中学校で事件が発生しました。男性教師一名がガラスのようなもので体中を切り裂かれた状態で、屋上から転落した姿が発見されました。現場は騒然となり、部活動中だった生徒たちからは動揺の声が聞こえています。警察は自殺と事件の両方で捜査を進めており関係者からの事情聴取も行っているとのことです。一連の市内で起きている異常な事件との関連性はあるのでしょうか。現在、校内は立ち入りが制限されており現場検証が続いています」


 そして、近くに住む人や舞ねぇとおんなじ制服を着た子がインタビューされていた。


「え、舞あなた知ってたの?」と誠先生は聞いた。


舞ねぇは首を振った。


「本当に物騒なニュースばかりで……」と言ってテレビのチャンネルを変えた。


「ちょっと当分は学校終わったら道草禁止ね。舞の学校でもこんなこと起きてたら心配よ」


僕たち四人は黙ってうなずいた。三人とも部屋に戻っていったから僕は先にお風呂に入ることにした。いつもはご飯の後に、舞ねぇが一番先にお風呂を占領するけれど今日はしないみたいだ。


洗濯機の上の、洗濯物入れのカゴは舞ねぇと僕たち男三人用で二つに分けられている。男三人用のカゴに海にぃのシャツがクシャクシャに丸まって入っている。僕はそれを広げてみてみた。シャツの肩辺りが真っ赤に汚れている。トマトジュースを吹き出してもここは汚れないし、海にぃは怪我はしていないはずだ。だとしたらこれ

は……。


僕は考えるのを止めて、自分の脱いだ服でそのシャツが見えないように洗濯かごに入れた。


頭と体を洗って湯船に浸かっていると少しだけさっきまでの重い気持ちが少し楽になった。舞ねぇが泣いていたことも海にぃの服の血のことも気にはなるけれど僕は考えないようにした。何かが変わって、もう元に戻れないんじゃないかって不安が押し寄せてきて涙が出そうになるから。僕は山上君と何をして遊ぶかを考えることにした。


駅の方の古本屋さんにお小遣い貰って行くのも楽しそうだな、なんて考えていると少しは気がまぎれた。


お風呂を上がって髪を乾かし終わるとドアの向こうが騒がしいような気がした。脱衣所のドアを少しだけ開いて、隙間から廊下を覗いて見た。玄関がちょうど見えて誰か来ているようだった。誠先生の声も聞こえる。しばらく覗いているとようやく誰が来ているのか分かった。警察官だ。


警察が玄関に来ている。もしかして、本当に海にぃを捕まえに来たのかもしれない。

 

僕はどうしようかと、扉を静かに閉めて考えた。二階に行って海にぃに知らせないと、僕はこっそりと脱衣所を出て階段に向かった。裸足で慎重に、音を鳴らさないように階段を上がった。


まず、舞ねぇに相談しようと部屋をノックして開いても誰もいなかった。海にぃ達の部屋の扉が少し開いていて、隙間からのぞき込んだ。舞ねぇが海にぃのベッドに座っているのが見えた。


「舞ねぇ、警察が来てる。海にぃ捕まっちゃうの?何かしたの?」と僕は小声で聞いてみた。下にいる警察に聞こえないように。だけど舞ねぇは何も言わなかった。


「二人はどこに行ったの?」


舞ねぇは開いた窓の外を指さした。僕は覗いても何も見えなかった。僕は気づかれないようにキッチンに下りた。


そして裏口のサンダルを履いた。警察官はまだ玄関にいる。誠先生のブカブカなサンダルを履いて外に出た。歩くとペタペタと音が鳴るし走りずらい。


外に出てきたけれどどこを探そう。海にぃ達の行きそうな場所を考えているとピカッと南の空が白く光った。


なんだろう。あっちにあるのは神社くらいだと思う。大みそかにみんなで初詣に行く神社だ。それくらいしかない。僕はとりあえずそこに向かうことにした。


ペタ、ぺタ、サンダルが脱げないようにつま先を上げながら早歩きで向かった。あとは真っすぐ五百メートルくらい進むと見えてくる。十字路の角にあるお酒屋さんに着いた。とっくの昔につぶれた酒屋さんで、最初から開いているところなんて見たことない。


信号は赤だった。僕は押しボタンを押して、早く、早くと自然と足踏みをしていた。


「痛っ」足裏に激痛が走った。何か刺さった痛みだ。


電信柱に手をついて右足を裏返してみた。サンダルの板を細長い、つららみたいなガラスが突き破っている。痛い、けど見た目ほどじゃないと思う。ほんの少し刺さっただけで深くはなさそうだ。


僕は唇を噛んで一気に引き抜いた。


口から空気が、吐息と一緒に出てきた。抜いたガラスを見ると先っぽが赤く滴っている。ガラスを投げてサンダルを履いた。ジャリ、と音がした。よく見るとあたりにガラスが散らばっている。危ないな、と僕はガラス片が散らばっているところからゆっくり大股で離れた。   


走っている車のライトで明るくて気がつかなかった。道路の街灯が消えている。全部だ。神社に続く道が真っ暗になっていた。

街灯のガラスが割れているのかな、でもなんで全部割れているんだろう。


なんとなく、海にぃがやったんじゃないかって思ってしまった。僕はその考えを振り払って頬っぺたを叩いた。


よし、行こう。


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