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ずっと一緒の親友で、好きな人で、僕を殺した人。  作者: 湊 俊介
『拓海』視点

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五話『不吉な予感』

「火事になっているのかな」と僕は聞いた。


「なにが?」と言われて山上君の耳には聞こえていなかったみたいだ。それだけ集中して読んでいたようだ。自販機の上にある時計を見ると十七時になるところだった。


「もうこんな時間か、帰らないとね」


「うそ……。ほんとだ。本を読んで終わっちゃったね。せっかく遊ぼうって言ってたのに」


「でも僕、一緒に本を読んでるだけでも楽しかったよ」


「うん、俺も楽しかった。またこうやって一緒に遊ぼうぜ」と山上君は言ってくれた。


僕は山上君の顔を見つめて思った。これが友達なのか、一緒に居るだけで楽しいし気楽にいられる。

「なんだよ、見つめてきて」


「ううん、何でもない。これからもよろしくね」と言って学習センターを出た。外は太陽が沈みかけでオレンジ色の空になっていた。道路では赤い光と一緒にまたサイレンの音が走り去っていく。今度はパトカーだった。学習センターの前の十字路の大きい道路を真っすぐに走っていく。


「なにかあったのかな?最近変な事件が多いからね。カラスが死んだり工事現場で窓ガラス割れたり」

「関係ないとは思うけど……。でも向こうは中学校くらいしかないはずだけど」と山上君は言った。


舞ねぇが通っていて、僕も山上君も来年から通う神原中学校だ。僕たちは十字路を左に曲がって家に帰った。カンデラの家に帰ると誠先生に心配された。いつもこんな時間まで出歩かないからだ。僕は友達と遊んできたと説明した。すると心配顔が一気にニコッとなった。


「でも最近物騒だから、今度からはどこで遊ぶか書いておいてほしいな。心配しちゃったわよ。さっきも遠くでサイレン聞こえた気がしたし」


 僕は分かった、と答えた。


「舞ねぇは部屋にいる?」と僕は舞ねぇが泣いていたことをすっかり忘れていた。


「靴があるから部屋にいるはずよ」


 僕は部屋の机に借りてきた本を置いて舞ねぇの部屋の前に立った。ノックしようとすると中で誰かと話しているみたいだ。たぶん潮にぃの声だ。小声で聞きづらいけれど、僕はドアに耳をくっつけた。


「海人が?何しに?」


「分からないの、だけど俺に任せろって……ごめんなさい。私が相談したから……」


「話は分かった。あとは俺に任せて……」


 いったい何の話をしているのか分からない。けれどよくない話に思えてくる。海にぃが何かをしたのか、何かあったのか、僕は呼吸を止めて耳を澄ました。


「誠先生に相談しないと」


「ダメだ、あいつが捕まっちまうかもしれないし、俺が海人と直接話す」


 海にぃが捕まる?僕は心臓が飛び出してきそうなほどドクドクしてきた。耳から心臓の音しか聞こえない。


「ごはんよ―」と誠先生の声が下から聞こえてきた。二人が出てきてしまう、と僕は急いで自分の部屋に戻った。そして何も聞いていないふりをして二人が下に降りたのを確認してからキッチンに降りた。


「海人はいないの?」と誠先生は聞いてきた。


「いつも遅くなる時は連絡くれるのに」と、誠先生は心配そうな顔をしている。舞ねぇ達は顔を見合わせていた。

まあ食べちゃいましょうかと、誠先生が言ったときに玄関が開く音がした。キッチンのドアが開いた瞬間に誠先生の悲鳴が上がった。


「どうしたのそれ!?怪我したの?」と誠先生は絶叫に近い声で叫んだ。僕はその声で心臓が止まるかと思った。海にぃの白いシャツの首元は赤く汚れていた。


「え?」と海にぃは気がついていなかったみたいだ。シャツの汚れに気がつくと、海にぃはものすごく動揺していた。

「か、海にぃ。トマトジュースでバンパイアごっこしたの汚れてるよ。本当の血見たい」と僕は言った。


我ながら、頭の回転が速いと思った。海にぃが警察に捕まっちゃうのは嫌だ。何をしたのか知らないけど、海にぃは僕の大事なお兄ちゃんだ。


「あ、そ、そう。うわーこんなに汚れてるの気がつかなかった。ちょっと着替えてくる」と言ってお風呂場に行った。


「バンパイアごっこ?」と誠先生が聞いてきた。


僕が今読んでいる本で、海にぃも好きなバンパイアのシーンを真似してくれると説明した。誠先生は「あの本ね」と納得したようにうなずいた。


「冷めちゃうから、先に食べちゃいましょ」と海にぃを待たずに食べ始めた。僕の大好きなゴロゴロ野菜の入ったカレーだった。大好きなはずなのに、いつもみたいに美味しく感じられなかった。


 カレーを半分食べ進めたくらいで海にぃは着替えて戻ってきた。髪が濡れていて、ちゃんと乾かさずに頭の上にかきあげている。


「あんまり制服汚さないでね。白いシャツは汚れ落とすの大変だから」と誠先生は海にぃのカレーをよそいながら言った。


気を付ける、と海にぃは答えた。潮にぃはスプーンを持ったまま、海にぃを見ている。舞ねぇも同じだ。


「なんかまだついてる?」と海にぃが聞くと二人は首を横に振った。誰も目を合わせなかったし話もしなかった。誠先生も席に戻ってカレーを食べ始めるとテレビをつけた。夕方のニュース番組だ。もう終わる時間のはずなのにニュース番組は終わらなかった。そして中継の画面が映った。


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