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ずっと一緒の親友で、好きな人で、僕を殺した人。  作者: 湊 俊介
『潮琶』視点

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特別な力

頭の中は今の光景に理由をつけようとしてフル回転していた。


動作の重いパソコンの起動画面みたいに俺の体は停止して、目の前ではグルグルとローディングのマークが回っていた。いや、本当に回っていたのだけど。


今のなんだ。ぬいぐるみが宙に浮いていたよな。夢じゃないよな。海人は何をして……。


海人の方を見ると目を瞑って防衛体制に入っている。


「海人……」


名前を呼ぶと、パッと目を開いて言った。

「まあ、いいや。ずっとは隠してはいられないと思っていたし」


「……今の何?手品か何か?」


 海人は笑った。そしてベッドに下ろしていた右腕をあげた。それと同時に地面に落ちていたカワウソのぬいぐるみが、さっきと同じ高さに浮いた。二匹のカワウソが宙に浮いて俺を見ている。


「理解できるか分からないけれど、俺超能力使えるんだよね。少し前から」


オレチョウノウリョク、ツカエルンダヨネ。スコシマエカラ。


海人の言葉はまた、片言になって頭で反復されたけれど理解できなかった。気がつくと俺は隣に座って話を聞いていた。海人は部屋にあるものを色々と浮かしながら話していた。本、貯金箱、椅子、大きいものや、重いものだと脳がより疲れると海人は言った。


「初めはさ、ただ車を潰れろって、念じただけだったんだよ。そしたら本当に潰れちゃってさ、もうびっくりして、それでいろいろと自分の力を試したりしてたのよ。


物浮かしたり、動物に命令したり、今じゃ人の心を操ることも出来るようになったよ。疲労がすごいけど……。すごくね!?俺にも自慢できることがやっとできたんだよ」


「人の心操るって……。お前もしかして慎太郎に何かしたのか?」


「そんな怖い顔するなよ。あいつに見られたと思ってあの時は焦って。まあ、いろいろと……」


「まさか、行方不明者出てるっていうのもお前なのか。最近起きてる色んな事件の元凶は、お前なのか?」


「そう大声出すなよ。元凶って言い方わるいな。コントロールが上手くいかなくて予想外のこともあったけど、俺の力だよ。


俺は正義のために力を使おうとしているんだ。すごくね?俺のさじ加減でこの街の人間、いや世界中の人間を思い通りにだってできるんだぜ。


潮琶も俺と一緒に……』と言って、俺が開いたままにしていた扉に向けて手を伸ばした。伸ばした人差し指をくるっと巻くと、扉は勝手に閉まった。すると扉の向こうで階段を上る足音が聞こえてきた。舞の足音だ。


「まだなにするって決めてないけど……。そうだな、銀行に行って大金を持ってこさせて記憶を消せば、ニュースにもならずにも済むぜ。そしたら舞と拓海とどこかで優雅に暮らしたりもいいよな。まあでも、ちょっとは目立ちたい気持ちもあるけれど、俺を捨てた両親も後悔するよ。こんな力を持った子供を捨てるなんて」


 目の前で話す海人の目は瞳孔が開いていた。それにいつになく饒舌だった。その自信ぶりだけは昔好きだった海人そのものだった。けれど俺の好きだった海人はこんな目をしていなかった。


俺に声をかけ続けてくれた時と同じで、海人の中に悪意なんて存在していない。海人は本気で正義のためと思って言っている。車の事故も、カラスの変死も、行方不明者も、どうやったかは分からないけれど海人の中の正義らしい。


「自首しよう。警察に言って全部話すんだ」と言おうとした。けれど、そうしたら本当に海人が捕まってしまう。海人を止めなくてはいけない。けれど海人を失うのも怖くて言えなかった。


「慎太郎を返してくれ。学校のみんなも、そしたらもうこんなこと辞めよう。そんな能力なんかなくたって海人は特別だよ。俺にとって大切な、欠かせない存在だ」


「そんな能力って、嫉妬かよ」


「そんなんじゃない。慎太郎も、いなくなった他のみんなも家族が心配している」


「能力が無くても特別って……。お前は容姿も頭もいいから分からないよな。俺みたいなやつの気持ちなんて」と少し声を荒げて言った。


「俺みたいな奴って……。海人は海人だ。俺にとってかけがえのない兄弟で、ヒーローだった」と海人をなだめるように言った。


「ヒーローって、お前に言われると皮肉にしか聞こえない。俺が昔振られたとき、なんて言われたか分かる?」


「……」


中学生の時、海人が振られた時の落ち込み用はすごかった。傷口を悪化させないようにと思って、詳しくは聞かずにいたから知るはずもない。口をつぐんでいると海人は話を続けた。


「勘違いさせちゃったかな。ごめんね、潮君のこと気になってて」と海人は少し、裏声を混ぜて言った。


「いつも俺たち一緒に居たから、お前にほれ込んだ女の子が近づいてはニコニコしてた。俺はそれに勘違いしてただけの恥ずかしい奴だった。だからお前と外で一緒に居るのをやめたんだよ。みじめに感じるんだよ。そのくせお前は彼女作らねえから、俺たちの間にホモ疑惑もたってたんだぜ。想像するだけで気持ち悪い」と言って海斗はベッドから立ち上がった。   


数歩歩いて振り返ってこっちを見た。

「でも、潮琶の言うとおりだ」と海人は言った。


海人は両手を広げて目を瞑って天井に顔を向けた。開いていた両方の掌をギュっと握ると、部屋中の物が宙に浮きだした。宇宙船の中みたいにフワフワと、机やベッド、重いものは動かなかった。一斉に浮いていたものがドサッと落ちて、部屋の中で嵐が起きた後みたいになった。海人が目を開くと言った。


「この力があれば、何でもできるから……。って、うわ。片付けるのめんどくさ。力使うと副作用みたいな感じで別なことも起きちゃうことがあるんだよ。


まだうまく制御が利かなくてね」と説明しながら床に落ちている本を拾っては本棚に戻していった。


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