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ずっと一緒の親友で、好きな人で、僕を殺した人。  作者: 湊 俊介
『潮琶』視点

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ナンデモウ

神原高校の体育館は二つある。バレーの試合が二つ同時にできる大きさの第二体育館と、その二倍以上はある第一体育館だ。


その第一体育館に集められて、並ぶと座りなさいと言われた。


いつもなら教頭が、静かになるのに何分かかりましたとマイクを叩きながら言ってくる。そして遅いと文句を言って、早いと素晴らしいと褒めてくる。それも無いままに教頭はみんなが座ると前のステージの上に立って話を始めた。


「大事な話があります。皆さんにどうお伝えするべきかを職員室で話し合っていました。これから校長先生からお伝えしますので静かに聞いてください」


 もしかして慎太郎に何かあったのか……。死んだとか。嫌な想像が浮かんできて、みぞおちの辺りを擦った。


校長がステージに上がってきて入れ違いで教頭が階段を下りていく。少し小太りでステージに上がる階段を登るだけで汗をかいたのかステージの中央に向かいながらハンカチをおでこに当てていた。えー、と言いながら校長は俺たちの方を見まわたしてから話し始めた。


「簡潔に大事なことだけをお話します。皆さんのクラスで、現在欠席をしている生徒がいると思います。


本日欠席者が各学年の全クラスに一名ずついます。すでにご存じの方も担任の先生から他言無用と言われていたかもしれませんが、その生徒全員が……。現在行方不明になっています」


 体育館は揺れのない地震みたいに騒つきはじめた。


 行方不明って慎太郎も?……。


「静かに!」と体育の瀬戸先生が声を張り上げた。体育館は誰もいないみたいに静かになった。


「混乱するお気持ちは分かります。正直、先生たちもまだ混乱しています。最後まで静かに話を聞いてください。現在は警察と協力して捜索を行っていますが、事件性があるのか偶然なのかもまだ分かっていません。


もし、行方不明の生徒を見かけたり知っていることがあれば、先生に教えてください。誰でもいいです。


言いやすい先生に言ってもらえれば助かります。皆さんを不安がらせないように通常の学校生活のまま送ることも考えましたが皆さんの安全第一を考えて、本日より午後の五時間目で授業終了として部活動もすべて休止といたします。


下校中は決して寄り道をせずに、真っすぐお家に帰ってください。警察の方はすでに本格的に捜索がされます。登下校時の見回りも増やしてくれています。


これ以上、行方不明者が出ないように、よろしくお願いします。先生たちも見回りします。以上、質問があれば担任の先生に聞いてください。保護者の方へはお知らせのメールを後ほどお送りします」


全校集会は終わって教室に戻された。帰りの廊下はガヤガヤと、さっきの話で騒がしいのに先生たちが注意することは無かった。


 各クラス一ずつ行方不明……。

さすがにこの規模のことに海人が関与しているとは思えない。けれど、慎太郎の一件がある。もし本当に、俺の悪い予想が当たったとして、海人が俺に薬を盛っていたとするならば、そのことに何も気がついていない、ふりをしないといけない。


また記憶を消されたら海人を止められない。いつも通り、仲良く。全部俺の思い違いで、ただの被害妄想だったら、それが一番いい。 


五時間目の授業が終わると、朝の全校集会で言われた通り下校することになった。眠い六時間目の歴史の授業が無くなってよかったとみんな喜んでいた。その代わりに宿題が出されて、一斉にブーイングの嵐になった。


行方不明になっているクラスメイトがいても我関せずみたいなやつが多かった。休み時間に聞こえてきたのはある噂話だ。行方不明の生徒は素行の悪い生徒が多いという。


すべてのクラスに不良がいるわけではない。けれど、決まっていなくなっているのは髪を染めていたり、陰でタバコを吸っていたりと評判の悪い生徒が多いということみたいだ。慎太郎はもちろん例外だ。


緑山先生に念の為、慎太郎も行方不明なのかと聞いてみると何も言わずにただ頷いた。拓哉は慎太郎から電話がきたことを話そうと言ってきた。


本来はそうするべきだ。だけど、俺の知る限り同じ学年に、かいと、という名前はいない。言ってしまったら海人が警察から怪しまれてしまう。海人は止めたいが、海人と離れ離れになるのはどうしても考えたくない。


好きな相手を疑うなんて……。複雑にいろいろな感情が重なり合って、すべて口から出てきてしまいそうになる。もういっそ海人が悪いことをしているなら、俺も悪の道に染まったっていいとさえ思えてくる。


拓哉をどうにか言いくるめて、俺を信用して黙っていてほしいと頼みこんだ。


どうやって海人の秘密を探ろうか、怪しまれないように、まずは体調はどうって普通に話しかけよう。あとは成り行きで話してみるしかない。


部屋に戻るとそんな考え事すべてが、フリーズして目の前で起きている状況を理解しようと処理し始めた。


 壁につけられた棚に、ずっと前から飾ってあったカワウソのぬいぐるみがある。水族館に行った時に誠先生に二人でねだって、お揃いで買ってもらったぬいぐるみだ。


それが何にも触れずに、宙に浮いていた。ちょうど目線の高さに浮いて時計回りに円を描くように回っている。俺のカワウソと海人のカワウソ、ぱっと見でどっちが俺のかはすぐにわかる。


俺のカワウソの方が毛並みの色が薄くて柴犬にそっくりだから。9時の辺りから3時の方へ時計の針の動きみたいに山なりに移動していく。それを追いかけるように海人のカワウソが同じ軌道をたどる。


それがボテンと床に落ちて海人の声が聞こえてきた。


「何でもう帰ってきてるの」と海人は言った。


海人はベッドに腰かけて目をまん丸く、焦ったように言った。その言葉の意味でさえ一瞬理解できなくなっていた。


 ナンデモウカエッテキテルノ。


海人の言葉が片言のアメリカ人みたいにしか理解できなかった。


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