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ずっと一緒の親友で、好きな人で、僕を殺した人。  作者: 湊 俊介
『潮琶』視点

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20/23

小学校の見学で

小学四年生の頃に、学校の授業で建物を見学して新聞を作った思い出がある。ゴミを燃やして電気を発電している施設だ。


「ここ昔見学に行ったよな?」と海人に聞くと無反応だった。特製トーストを前にして眠っていた。


海人、と名前を呼ぶとビクンと体を震わせて目を覚ました。


「ん、寝てた。なんか言った?」


「この工場、昔見学行ったよなって」と聞くと、そうだっけと興味なさそうにトーストに噛り付いた。


「そうだよ、お前この煙突に手を向けて、念じていたの覚えてるわ。ヒーローの真似して倒れろーって」


 当時は超能力を持つヒーローに二人で憧れていた。よくそのヒーローごっこをして遊んでいた。決め台詞は……。


「正義は痛みを伴う……。それでも俺は選んだ」


 誠先生が低めに声を落として言った。右手の親指を右頬に、人差し指をおでこの真ん中に置いて、手で顔を隠すように決めポーズもしている。


「よく覚えてるね」と俺は言った。


「あれだけ毎日のようにリビングで走り回ってヒーローごっこしてるの見せられたら嫌でも覚えるわよ。海人がいつもヒーロー役で潮琶は適役で、よく飽きないなって見てたわ」


 言われるとより鮮明に映像になって、思い出がよみがえってきた。思わず、恥ずかしさで身震いした。海人を見るとまた眠そうにウトウトしている。


「ほら、海人。早く行くぞ」と海人の肩を揺さぶった。


 玄関を開ける前に振り替えると、海人は靴を履かずにうつむいていた。どうした、と声をかけると海人は具合悪そうに言った。


「ごめん。今日は体が重すぎて、休もうかな」


「珍しい。大丈夫か?」


「うん。誠先生に話してみるよ。気を付けてな」と言って、海人はキッチンの方にダルそうに歩いて行った。


教室につくと、拓哉に話があると腕を引かれた。教室じゃダメなのかよ、と聞いてもいいからと腕を引かれて誰もいない屋上の入り口前まで連れていかれた。


拓哉が開けようとしても、屋上への扉は鍵がかかっていた。


「ここでいいか」と拓哉は言って黙り込んだ。遠くに聞こえる話声くらいしか聞こえない。


「どうしたんだよ、何かあったのか」

「慎太郎から昨日電話がきたんだよ」

「え、あいつ、俺には何にもよこさないけれど」


「分からないけど会話ってよりは単語を繰り返すだけでさ。気味わるくて、何言ってるか正直分からなくて」


「なんて言ってたの?」


「とかい、とかい、とかいって、ぼそぼそって繰り返しててさ。大丈夫かって聞き返してもそれだけ言って切れちゃってよ。なんだと思う?」


「都会、都会、とかい……」……かいと、海人。


海人と慎太郎……。今朝みたいに映像が頭の中に流れ込んできた。でも今度は恥ずかしさで身震いはせずに、心の中にどっと重りがのしかかるみたいに、気持ち悪さに襲われた。


俺はなんで忘れていたんだろうか。あいつに彼女ができたんじゃないかって追いかけたら、建築現場で見失った。


そしてガラスが割れてきて死にかけた。図書室に海人を尾行した日、なぜか慎太郎がやってきた。そして二人は何か話していた。慎太郎がいなくなって探しに行こうとしたとき、海人が現れた。


そこからの記憶が曖昧だ。それに慎太郎は気がついたら建築現場にいたと言った。カラスが死んでいくのを見かけた日も駅前で海人を見かけたと言った。


全部が偶然なはずはない。


「どうした?大丈夫か?」と拓哉は俺の目の前で指を鳴らしていた。


「ごめん、大丈夫だ。また何か連絡あったらすぐに、教えてほしい」と言って教室に戻ろうとした。


「何か知ってるなら教えてくれよ」と拓哉に引き留められた。


「ごめん、まだ何も分からない。ちょっと頭を整理したい」と言って一人で教室に戻った。


 朝のホームルームになっても緑山先生は来なかった。その間に自分なりに仮説を立てた。仮に海人が違法な薬物を作っていたとする。それをあの建築現場で作っていた。


薬物をカラスに与えて効果の実験をして、その影響でカラスの不審死が起こった。薬物の生成途中でミスが起きて爆発が起きた。それでガラスが割れてしまった。


そして慎太郎が海人を建築現場で見かけたと嘘を伝えてしまったから、目撃者を消すつもりで慎太郎を呼び出して薬を飲ませた。そして記憶が混乱した。


俺も慎太郎から何か聞いていると思って、俺も気づかないうちに薬を飲まされた。 


薬の効果は個人差か、俺に飲ませる量が少なかったのか、効果は慎太郎ほどではなかった。こう考えると自分の中ではしっくりとくる。


海人が俺に違法薬物を飲ませたと思うと心のガラスがパリパリと割れていく。


でもあくまで仮説だ。すべてが偶然で海人は何もしていない可能性もある。でも念のため海人からもらう食べ物は食べないようにして、家でも食事の時も海人より先にキッチンに行こうと思った。


いつどこで盛られるか分からない。それに薬物じゃなくて噴射式のスプレーとかそういったものかもしれない。あいつの正面には立たずに少し距離を置いて話そう。  


問題は寝ている間だ。ベッドの足元に鈴でも置いておこうか。なんて真剣に考えているのか、ふざけているのか少し分からなくなってきた。


 それにしても緑山先生が来ない。教室は気がつくと、ざわざわと休み時間みたいにざわついていた。そして校内放送のチャイムが鳴って教頭の声が聞こえてきた。


「お知らせします。今から全校集会を行います。担任の先生が教室についたら移動を始めてください」と二回繰り返した。


放送が終わると数分で緑山先生はやってきて何も説明なく、廊下に並んでくださいと言った。廊下に男女二列で出席番号順に並んで体育館に向かった。みんな何事かとざわついている。


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