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ずっと一緒の親友で、好きな人で、僕を殺した人。  作者: 湊 俊介
『潮琶』視点

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2人の秘密

「信じてないだろそれ(笑)ほんとなんだよ」

「分かった分かった。また明日な」


 記憶喪失とは、また無茶苦茶な理由をつけたものだと思った。拓哉からのメッセージもすっかり忘れていた。


そういえば駅前で見かけたって教えてくれていたんだった。


心配で探しに行こうとして、海人に帰ろうって誘われてすっかり忘れていた。ということはたいして心配していなかったのか。


海人が戻ってくる前にお風呂に入ろうと脱衣所に行くと、ちょうど拓海が入ろうとしていた。


「あ、潮にぃお風呂入る?」


「大丈夫、先に……。たまには一緒に入ろうか?頭洗ってやるよ」


「うん!」と拓海はニッコリと笑った。


 拓海は小学校六年生にしては落ち着いていて、しっかり者だ。「潮にぃがお風呂に誘ってくるなんて珍しいね」と服を脱ぎながら言ってきた。拓海の腕と足は思ってた以上に細くて驚いた、


「まあ、たまにはいいよな」と俺は言った。

海人は拓海と舞と、俺にだけ優しい。あと、誠先生にも。その代わり今の海人は外では不愛想だ。俺は自分に関わる人間全員に平等に優しい……と思っている。海人を別にしてだ。


だから海人は俺よりも拓海や舞からめちゃくちゃ慕われる。それが少し羨ましく思える時がある。


「てか細すぎないか。ちゃんと給食も食べてる?」と言って拓海の前腕を掴んだ。親指と中指で挟んで指先がくっついても隙間ができるほどだった。


「食べてるよ。ちゃんと。潮にぃが大きくなりすぎたんだよ」と拓海が笑った。


「海にぃだって細いから、心配してないよ。海にぃと僕は、あの薬のせいでちびのままなんだって思ってるよ。きっとそのせいだって、海にぃもずっと言ってるし」


「あの薬ってアレルギーの?」と俺は聞いた。


「うん。あれの副作用だって思ってる。飲んでるのは海にぃと僕だけだし、共通して背が低くて細い」


 確かに海人は背が低い方ではある。俺は中学で身長が急成長した。成長痛に悩まされていた時期もあったけれど、海人はそれが無く卒業した。


けれど同じような身長の奴だっていなくはない。


拓海だって身長順に並ぶとクラスで前から三番目だというけれど、これからら伸びていくはず、薬の副作用なんかじゃないはずだ。


「そんなことないから。たくさん食べて運動すれば俺みたいにデカくなれるよ」と拓海の頭を撫でた。でもずっと疑問だった。


何のアレルギーなんだろう。誠先生に海人が聞いたことはあるけれど、大人にならないと難しくて分からないアレルギーなんだと言った。


「だからあいつ俺にも飲ませようとしたのか」


「潮にぃに?」と拓海は言った。


「そう、自分ばっかり飲まされてずるいって誠先生に突っかかってさ。潮琶が飲まないと俺も飲まないって、誠先生めちゃくちゃ困ってたよ」


「潮にぃも飲んだの?」


「俺はアレルギーが無いからね。潮琶が飲んだら死んじゃうよって誠先生が言ったら海人はクソって顔をして大人しく飲んだよ」


「ふーん」と拓海が言った。


「でも僕もアレルギーないんだよ」と小声で言ってきた。


「なんでそんなこと知ってるの?」


拓海は俺の腕を掴んで、しゃがんでと言うように腕をしたに引っ張った。耳を拓海の口元に近づけると、お風呂の中で話すよ、とまた小声で言ってきた。


 お風呂場の白い椅子に拓海を座らせて、シャワーの温度を確認してから頭の上からお湯をかけて、わしゃわしゃと髪の毛を洗った。シャンプーを泡立てて指先でマッサージするように力を入れた。


「潮にぃ、頭洗うの上手だね」


「そう?昔は海人の良く洗っていたからね」

「そうなんだ。潮にぃには海にぃがいていいな……」


「拓海にだって俺らがいるじゃんか」


「でも、ずっとは一緒に居られないじゃん。学校が違うしさ……」


「それは、そうだけど」


「同い年の親友みたいなのがいたらなって、たまに思うんだよね」


「できるよ。拓海は頭がいいし、優しいから」


「でももう、六年生になっちゃったからみんなどこかのグループに入ってるよ。一応ね普通に学校で話す子はいるんだよ。でも学校の外でも遊べる友達がいないんだ」


「仲の良い友達か……。俺がこの家に来た時、俺はすごい無口だったんだ。それこそ転校してきて友達も誰もいなくてさ。でも海人がそんな俺に話しかけてきてくれて、隣に居てくれて、俺は海人に心が開いたんだよ。だから拓海も、誰か心を閉ざしているような子がいたら話しかけてみなよ。そうすれば、相手の気持ちが動くかもしれない」


「学校で心を閉ざしている子なんて、僕ぐらいだよ」と拓海は笑った。「でもチャンスがあったらやってみるよ」


 拓海の髪を洗い流して体も洗ってあげた。自分の体も流して湯船に入ると、あふれ出てお湯が流れていく。


「あー。海にぃ入るときにはお湯ないね」


「後で足しておけばばれないよ」と俺は言った。


昔は海人と二人で入っても余裕な広さだったのに、足を曲げないといけなくて窮屈だ。


それで、とさっきの話を聞いてみた。お風呂の中だし、誰も聞いていないはずなのに拓海は片手を口元に添えて内緒話をするように話し始めた。


「海にぃと誰にも言わないって約束してるから、誰にも言わないでね……。僕たちもうあの薬飲んでないの」


「え?」と思わず聞き返した。


「少し前にね、海にぃとアレルギーの検査をしに内緒で病院に行ったの。誠先生はアレルギーっていうけど何のアレルギーか教えてくれないから、海にぃが調べようぜって言ったんだ。それで保険証をこっそり持ち出して、病院で検査を受けたんだよ」


俺は黙ったまま頷いた


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