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ずっと一緒の親友で、好きな人で、僕を殺した人。  作者: 湊 俊介
『潮琶』視点

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16/23

心配じゃないの?

慎太郎は珍しく部活を無断で休んだ。


だけど部室にグローブとかを置いてからどこかに行った。


女でもできたんじゃないかって噂になっている。くらいの話しか聞けなかった。


「昨日はマネージャーの子も急に休むって言って休んだんだよ。


二人どっかでイチャついているんじゃないかって気にしなかったけど、マネージャーは今日来ているし、何も知らないって言ってんだよ」と話しながらもゲームから目を離さなかった。


「心配じゃないの?」と俺は聞いた。


「心配って、高校生の男子球児が一日どっかにいなくなったくらいですぐ帰ってくるぜ。俺だって全部やめて一日中ゲームしていたい日があるよ。どっかでサボっているんだよ、きっと」


「……そんなもんか」と自分の席に戻った。

 帰りのホームルームが終わって教室に残っていた。海人の後をつけるか、慎太郎の行方を捜すか迷っていた。


珍しく拓哉からメッセージが届いた。


「昨日、後輩が慎太郎を駅前で見かけたってよ。病院帰りだから夕方前くらいだったはずって」とのことだった。


 と言うことは、昨日は図書室で海人と会った後は自分家の方に帰ったということか。慎太郎の家は駅沿いにある。駅あたりでも行って慎太郎を探してみるかと教室を出た。


正面玄関に行くと急に右肩に重さがかかって、振り向くと海人がいた。


「たまには一緒に帰ろうぜ」と海人が肩を掴んできた。


海人から校内で話しかけてくることなんてほとんどない。


やっぱり何か隠しているようだ。これ以上疑うだけでも仕方なだってと聞いてみた。


「慎太郎が家に帰っていないんだってさ。

昨日からだ。正直に言うけど昨日お前と二人で図書室にいるの見かけたんだよ。慎太郎となにしてたの?」


俺の肩を掴む海人の手を払った。


「この前も駅向こう工事現場で見かけた。

途中で見失ったけど絶対に海人だ。お前は何してるんだ。ガラスが割れたり、慎太郎がいなくなったり、お前が近くにいて起きてるんだよ。関係ないとは思えない」


「何って、何もしてないよ。俺は潮琶と会ってないもん。潮琶は何も見てないよ」

「いや、お前が俺を見てなくても、俺は見てるんだよ」


「俺は見てない。だから潮琶も何も見てない」と言って俺の手を掴んだ。


「見てないよ。潮琶は何も見ていない」と海人は意味の分からない理論を押し通そうとしてくる。そしてじっと、目を見つめてきた。その目から視線が外せなかった……。』


「見てない……か。確かに海人は俺を見ていないなら、俺は何も見ていない」


何をムキになっていたんだろう。俺は何も見ていない。


「そう、見ていない。慎太郎どうしたんだろうね。心配だ」と海人は言った。


「ほんと、どこ行ったんだろう。まあでも、女とでも遊んでいるんじゃね」と俺は言った。


珍しく海人が一緒に帰ろうと言ってくれたから、二人コンビニで寄り道をしてアイスを食べた。俺はチョコミントで海人はバニラのカップアイスを選んだ。


コンビニ前の白色のガードポールに二人で腰かけて小学生の頃の帰り道を思い出した。学校の帰り道、どうしようもなく熱くて、緊急時用の五百円玉を使ってアイスを食べた。今みたいにコンビニの前で、だけど見回り中の先生に見つかってこっぴどく怒られた。その話をすると、懐かしいなと海人は笑った。


「食べかけのカップアイス、証拠隠滅しようとしてたよな。ズボンの中に食べかけのカップアイス入れて、隠そうとするとはけしからんってさらに怒られたし、帰ってからも誠先生にズボンとパンツベトベトに汚したのを見つかって怒られるし、潮琶のせいで散々だったな」


「そんなことまで、覚えてないよ」と俺は言った。


本当は少し違う。ただ隠そうとしたんじゃない。先生に見つかって海人は泣きそうになっていた。どうにかして対処しないとって小学生の俺に思いついたのはその策しかなかった。いつも守ってくれてるから俺が守らないといけないって当時の俺は思った。結果的に逆効果だったけど。


久しぶりに懐かしい気持ちに満たされて、吹いてくる風も心地よく感じた。帰ろうか、と海人が言い出して先に歩き出した。何かやろうとしていた気がするけれど思い出せない。


待って、と海人の背中を追いかけた。

「海にぃ、ちょっと宿題教えてほしいんだけど。数学が意味わからなくて」と部屋で海人とくつろいでいるとお風呂上がりの舞がノックをして入ってきた。


「おいおい、俺じゃなくていいのか?俺の方が成績いいぜ」


「潮にぃの教え方、難しくてわからないんだもん。海にぃ、お願い」


「いいよ。部屋に行くから待ってて」と海人が言った。


舞は部屋に戻って行った。海人は読みかけの本に栞を挟んだ。


「やっぱり、お前の方が好かれてるよな」


「なんだよ、焼きもちか」と海人は俺の方を見た。別にそんな訳じゃ無いと返した。


「だけど、拓海もお前との方が遊びたがるよな」


「どうした急に卑屈屋みたいになって、俺からしたらお前の方が羨ましいよ。身長も高くて女にモテて、俺より成績もいい。俺がこんな卑屈屋になったのはお前の影にいるせいだよ」と海人は鼻で笑う。


「……それ冗談だよな?」


「もちろん、冗談だよ」と海人は言って、部屋から出ていった。顔は笑っているのに、目だけ笑っていないような気がした。 

スマホを見るとメッセージが届いていた。慎太郎からだった。


「返事遅くなった。気がついたら親からもめっちゃくちゃ電話来てて焦ったわ。今までずっと説明してようやくサボってないって信用してもらえた。信じられるか分からないけど、昨日からの記憶がないんだよな。詳しくは明日話すわ」


「記憶がないって、宇宙人にでもさらわれたのかよ。とりあえず無事でよかったわ。また明日な」と返事を送った。


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