表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ずっと一緒の親友で、好きな人で、僕を殺した人。  作者: 湊 俊介
『潮琶』視点

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/23

図書館で

海人のその行動が嬉しくて俺にとってのヒーローだった。


最初はへそを曲げて無視していたりもしたけれど海人は文句も言わずに隣に居てくれた。


優しい奴だから海人からしたら、なんても無いことで記憶にすらないかもしれない。


だけど気づけば海人に夢中になっていた。


好きな女の子も過去にはいた。女の子を好きになろうと努力をしていただけだけど、そんな時期もあった。


けれど海人といた方が楽しかった。他の誰かと一緒に居ても頭の中に浮かぶのは海人だけで、女の子に告白されたこともあったけれど、おはようって、挨拶をされたみたいに何も感じなかった。


海人と一緒に居られれば、他には何もいらないとも思っている。冗談じゃなくて本気で思っている。別に海人と肉体の関係を持ちたいわけじゃない。向こうから迫ってきたら拒否はしないけど……。


ただ昔みたいに隣に居てほしい。この先も変わらずに、だから海人が変わってしまうのが怖い。彼女ができたり、薬物に手を出したり、自分の知らない世界に行ってしまうのが恐ろしい。


 ホームルーム終わりの集団がやってきて、その一番後ろを海人が歩いていた。昨日と同じく、海人が靴を履き替えているタイミングで自分も靴を履き替えた。海人の後方を歩きながら、リュックからパーカーを取り出して制服のシャツの上から重ね着した。


これでぱっと振り返られただけでは気がつかないはずだ。等間隔でついて歩いた。


カンデラの家を通り過ぎるまでは昨日と同じだった。今日も駅前に行くのかと思うと、今日は東側の道へと曲がった。図書室のある方だ。海人は寄り道もせずに学習センターに併設の図書室に入っていった。


 昨日は途中で見間違えただけで本当に図書室に行っていたのかもと、見間違いだった線が浮上してくると少し気持ちが楽になった。


学習センターの中央ホールから窓ガラス越しに図書室の中が見えるようになっている。中に入ると出くわしてしまう、中央ホールから少し離れた自販機横のベンチに座って図書室の中を見張った。


窓際の方に読書スペースがあるようで、座って本を読んでいる人の頭が見える。海面から浮き出るサメの尾ひれみたいに窓枠から頭が飛び出ている。しばらくすると海人が右から左の方に歩いていくのが見えた。それと同時に窓枠の手前を左から右に歩いていく尾ひれが見えた。


その顔は、ついさっきまで教室で見ていた慎太郎に間違いなかった。目を凝らしてみたから間違いないはずだ。


慎太郎は図書室の入り口から中に入っていった。でもなんであいつがこの図書室にいるんだ。あいつの家は駅の向こうで高校からここは正反対だ。そもそも部活をやっている時間だし、あいつは本は読まない。


漫画すら字が多いって諦めるレベルだ。図書室とは一番縁が遠い、なのになんでここにいるんだ。慎太郎は窓枠の中を右から左に歩いて行った。海人がいる方向だ。


俺は慎太郎に電話をかけてみた。けれど図書室の中だからか呼び出し音が鳴り続けるだけだった。


「今どこにいる?」とメッセージも送ってみた。けれど返信は来なかった。二人の間に何か用事でもあったのだろうか。


気になりすぎて胃腸がムカムカとむず痒くなる。


鞄の中にマスクがあることを思い出して、それをつけて図書室に入った。鞄でばれない様に、ベンチに鞄は置いたままにした。


図書室の中は奥側に本棚並んでいて、入り口側には読書用の長机にパイプ椅子が並べられている。


二人は左側にいるはずだ、一緒にいるのか、ただの偶然か分からない。まっっ直ぐ向いたまま、受付のおばさんに会釈をして奥の本棚スペースに隠れた。


棚の隙間から読書スペースを覗いてみると、机の一番奥の席に座る慎太郎の顔が見えた。向かい側には海人の後ろ頭が見える。二人は待ち合わせをしていたようだ。


わざわざこんなところで何を話しているんだろうか。海人と慎太郎は俺が無理やり合わせた時以来、接点は無いはずだ。もし何かあれば海人は黙っていても、慎太郎がすぐに話してくるはずだ。


教室のにこやかな慎太郎の顔と違って真面目な顔をしているように見える。いや、真面目な顔というより、何も感じていない死んだ表情をしている。口は閉じて、ただ真っすぐ海人を見ている。


「何してるんだ」と無意識につぶやいてしまった。


向こうに届く声の大きさじゃなかったはずなのに、それに反応するかのように慎太郎の顔が表情を変えずにこっちを向いた。俺は咄嗟にしゃがみこんで隠れた。


一瞬だったけれど、その顔の動きが日本人形の顔が勝手に動くホラー映画みたいに不気味さを感じた。


隠れてしまったけれど、別に悪いことをしている訳じゃない。それにバレたなら普通に話しかけようと思った。よし、と深呼吸をしてから立ち上がって慎太郎の方を見た。すると二人の姿はいなくなっていた。


図書室の中を探し回って、学習センターの入り口の方を探したけれど二人の姿はどこにもなかった。慎太郎からの返事も無い。謎だけが増えて家に戻っても海人はまだ帰ってきていなかった。


キッチンに顔を出すと舞と拓海が晩御飯の手伝いをしている。僕が野菜を切ったと、拓海は自慢げに言ってきた。誠先生は洗い物をしていて、舞はカレーをみんなのお皿に盛りつけしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ