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ずっと一緒の親友で、好きな人で、僕を殺した人。  作者: 湊 俊介
『潮琶』視点

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特性トースト

「おはよ、特製トースター焼き上がったとこだよ」


「おう、ありがとう」


「海人お前知ってるか?昨日不思議な事故あったんだってよ」


「知らない」と海人は言った。


 久しぶりに海人と一緒に登校した。去年まではクラスが一緒だったけれど登校するのは別々だった。


毎日一緒に登校したら変に思われると海人が嫌がって別々になった。一緒に通ったのは高校に入学して最初の数カ月だけだ。


話しながらダラダラと登校していると学校に着くのがいつもより遅くなった。下駄箱でチャイムが鳴りだして朝から走る羽目になった。教室につくと背中が汗ばんでいた。


「昨日の帰り道にさ、やばいもん見たんだよ」と慎太郎が言ってきた。珍しく海人と一緒に登校するのが一週間くらい続いた時だった。。帰りは別々だけど、海人の中で気が変わったのか朝は一緒に登校するようになった。


「何があったの?」


「昨日の部活帰りに駅前通ったらさ、カラスが死んでるんだよ」


「なるほど」と俺は言った。


「いや、一匹じゃなくてよ。地面に落ちているだけで三十匹以上いたんだよ。もう気味悪くてさ」


「カラスは匹じゃなくて、羽な。一羽、二羽」


「し、知ってるわ。そんなこと」と慎太郎は顔を真っ赤に染めた。


そんなことより、と話を続ける。


「しかも、俺がいる間もカラスが空から落ちてくるんだよ。飛んでいるカラスが急に地面に吸い込まれるように落ちてくんのよ。腹減って早く帰りたいのに気になってその場で見てたんだけど原因分からなかったわ。銃声とかも聞こえないし」


 確かに変な話だけど、正直カラスが不審死したところでどうでもよかった。それは大変だったな、と返すと気になることを言ってきた。


「海人も見てたはずだぞ。カラスが落ちてこなくなって帰ろうとしたときに似たやつ見かけたんだけど」


「見間違いじゃない?朝何も言っていなかったし、それに駅前に一人じゃいかないよ」


 今朝も一緒に登校したけれど、そんなこと言っていなかった。それに昨日駅に行った話も聞いていない。 


「潮琶お前信じてないだろ。今日の帰り、駅前行ってみろよ。何匹かまだ落ちているかもしれないし」


「いやだよ。信じてるから行かない、面倒くさいし。それにさっきも言ったけど」

「分かっているよ、羽だろ。言い間違えただけ」と慎太郎は言った。


そして一々細かいなと小声でぼやいて席に戻って行った。その日カンデラの家に戻ると、夕方過ぎに帰ってきた海人に聞いてみた。


「おかえり、どこ行ってたん?」


「ちょっと用事で」と言ってリュックを机に置いた。


「あっそ。昨日、慎太郎が駅前でお前のこと見たって言ってたけどなんか用事あったの?」


「……別に、本屋に行ってただけだよ」


「あ、じゃあ本当に海人だったんだ。スーパーの隣の本屋の方が近いのにわざわざ駅前まで?」


「なに?尋問?悪いことしたの俺」とムスッとした顔をした。


「いや、ごめん。そういうわけじゃ。慎太郎が駅前で変なの見たって」


「俺がなんかしてるとこでもみたの……あいつ」


「だれもそんな、カラスが不審死してたって……。海人も見たかなって」


「……。ああ、そのことね。めっちゃ落ちてたよ。鳥インフルエンザでも流行ってるのかもね」


「それはやばいな。当分駅前行けないわ」

 起きると久しぶりの雨が降っていた。ボタボタボタと窓の外から打ち付ける雨音が聞こえていた。天気予報では昼過ぎには止むらしい。今日も海人と雨の中一緒に登校した。傘が放つ打撃音で会話が聞こえにくい。海人は声を張って言ってきた。


「今日は放課後、図書室行ってるわ」


「なにそれ、カップルかよ。放課後の予定伝えてきて」


「お前が昨日、気にしていただろ。詮索されんの嫌だし、ぜってえ来るなよ」


「いかないよ。俺が本読むタイプじゃないの分かってるだろ」


 海人は昨日の会話をよほど気にしていたのか。別に詮索をしたつもりは全くなかった。そもそも一体何を詮索するんだと思った。


「てか、詮索されんの嫌ってお前なんかしたの?」


 海人の目はまん丸くパチパチとした。そしてあからさまに黙って下を向いた。


「……お前なにしたの」と聞いた。

そして数十秒の沈黙があった。

「なーんてね。なんもしてねえよ」と海人は顔を上げて言った。


傘を持っていない方の手で俺の肩に拳を当ててきた。俺の体を押すと、先に走っていく。ピシャ、ピシャ、と海人の靴が地面を踏んづける度に水滴が宙に跳ね上がっている。まったく、と思って海人を追いかけた。急に始まる鬼ごっこ。いつも俺が鬼だった。まて、と追いかけて学校に着いた頃にははズボンは色を変えていた。


カラスの話題は日に日に、クラス中の話題になっていた。カラスの不審死が連続で続いているのだ。


政府の低周波超音波で害獣をやっつけているとか、誰かが毒の餌をまいているんじゃないかとかいろんな噂がたった。ニュースでも連日取り上げられてカラスから毒は出てこなかったと、駅の周囲で異常な音波は確認されなかったと報道されてその線は無くなった。それに不思議なのがカラスが空から落ちてくるのは夕方の時間だけのようだ。


 海人は今週ずっと、どこに行くのかを伝えてくる。図書室、映画館、リサイクルショップ、そしてまた図書室と、逆に来てほしいのかとさえ思えてきた。だけど必ず付け加えて言ってくる。


「絶対来るなよ」


「いかねえって、てか毎日のように報告しなくていいんだけど。俺今日は慎太郎の家で遊んでくるわ」


「て、お前も報告してるじゃん」


 海人は今日も図書室に行くという。俺の慎太郎の家に行くというのは嘘だった。今日は海人の怪しい言動の真実を掴もうと計画していた。


あまりにも報告してくるから、実は彼女でもできたんじゃないかと疑っている。そして放課後に海人の後をついていくことを決めた。彼女ができたなら、一言言ってほしい。それを受け止める俺の心の準備も必要だからだ。


 正面玄関近くのトイレから海人の下駄箱を見張った。帰りのホームルームが終わってすぐに教室から抜けてきたから、まだ学校は出ていないはずだ。


帰りに用足しに来る他の男子生徒は、何しているんだという顔でチラリと俺のことを見てから入ってくる。スマホをいじっている振りをしながら待っていると海人の前に慎太郎が来てしまった


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