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映画の【魔】

〈人生は夜長寝惚ける如きなり 涙次〉



【ⅰ】


杵塚の映画最新作『鬼面菩薩』、例の* 映画監督ギルドのボイコットに依り、ゲリラ上映せざるを得なくなつたが、中身は手を拔かず、しつかり造り込まれてゐた。

表題が全てを語つてゐる。これはじろさん、こと此井功二郎の武術人生を描いた映画なのである。菩薩のやうに優しいじろさんが鬼の面を被る時、それは對戰相手の(時には)死、を意味する。じろさん役には老境のモダンダンサー・生田泰西(いくた・たいせい)を起用し、じろさんのしなやかな動きを再現、じろさんが繰り出す不思議な(としか思へない)技の描冩には特撮を用いた。



* 当該シリーズ第45話參照。



【ⅱ】


【魔】の桎梏が自然に(かう云ふ事もある)解けた映画監督ギルドは、杵塚に陳謝して來たが、この映画にはアングラな雰囲氣がマッチする、と云ふ事で、ゲリラ上映は續けられた。各地(外國も含む)の協力者たちから、滿員御礼の便りが相継いだ。

もはや杵塚の才能は折紙付きのものとなつた。世界各國の主要な映画祭のオープニング作に選ばれた『鬼面菩薩』。かつて映画大國であつた頃の日本、の幻燈が仄かに點つた...



【ⅲ】


ところ變はつて魔界。*「ゲーマー」は片腕となつた屈辱を嚙み締めつゝ、いつか復讐してやる、と云ふ氣概は持ち續けてゐた。-その「ゲーマー」、杵塚の得てゐる榮誉が鼻に付いた。こゝは一丁、『鬼面菩薩』のヒットを利用して、人間界に騒ぎを起こさせてやるか。その為には... 妖魔「勘違ひ」を使ふのが良からう。さう心に決め、そいつを手許に呼び寄せた。

「勘違ひ」は見たところ一羽の雌鶏だ。だがその産む卵に毒がある。こいつの卵を食べると、その食べた人間が一つの「勘違ひ」に囚はれる。『鬼面菩薩』主演の生田に、「勘違ひ」の卵を食はせたら、一體だうなるかな。「ゲーマー」は(くひゝ)と一人ほくそ笑んだ。



* 当該シリーズ第115話參照。



※※※※


〈今日を生き明日生きられぬと云ふ事は多分ないだろ多分たぶんね 平手みき〉



【ⅳ】


生田は、初老になり初めて俳優業に手を染めた。そしていきなりの大ブレイクである。モダンダンサー、所謂ブトー(舞踏)イストとして海外ではそれなりに知られてゐたが、日本本國で脚光を浴びるのは、これが初なのだ。当然の如く俳優としてのオファーが相次ぎ、本人いさゝか嫌氣が差す(彼はダンサーとしての自分をもつと観て貰ひたかつた)ぐらゐであつた。



【ⅴ】


生田は引き締つたボディを保つ為、食事制限してゐたが、* 筋肉を造るのに良いと云ふ鶏卵は無制限に食べた。その中に「ゲーマー」は、「勘違ひ」の卵を混ぜて置いた。その卵が引き起こした「勘違ひ」とは... 生田、自分がじろさんのやうな武道の達人だと思ひ込んでしまつた! そして有らう事か、当のじろさん本人に喧嘩をふつ掛けて來た- じろさん、温厚な生田は知つてゐた。然し、無闇に人に喧嘩を賣る彼は見た事がない。だが、


「此井さん、私の武術で死んで貰ふよ」-死ね、とはまた大きく出たものだな、じろさんさう思ひ、まずは彼の手並み拝見、と洒落込んだ。生田の躰はダンサーとしては優れたものだつたかも知れないが、それは武術家のものではなかつた。その結果が、屁つぴり腰の「似非武術家」生田、の姿であつた。



* 眞偽の程は分からないが、なかやまきんに君がさう云つてゐた・笑。



【ⅵ】


「これは...【魔】、かな」カンテラもさう云つてゐる。取り敢へず、じろさんは裸絞めで彼を「落と」した。

じろさん「杵、いや杵塚監督、お宅の役者さんがご乱心だよ」-杵塚「一體彼に何が!?」



【ⅶ】


(くひゝ、いゝ氣味だ)喜びの余り、「ゲーマー」は失態を犯した。彼は氣分屋で、心のアップダウンが激しい。「ゲーマー」は「勘違ひ」を抱いた己れの姿に、ヴェールを掛けるのを忘れた。その結果、「方丈」水晶玉に、彼の像ははつきり映し出されてゐた。

こゝで一つ問題(カンテラ一味側の)が生じた。「ゲーマー」を斃せば、* 君繪の成長の件、約束が反故になる可能性がある。從つて彼には手出し出來ない。



* 当該シリーズ第105話參照。



【ⅷ】


さてだう出る、カンテラ一味!? この儘では、生田は際限なくじろさんに突つ掛かり續けるだらう。そして、一體あの雌鶏は? ふとした「ゲーマー」の氣紛れから、大ごとになつた。



※※※※


〈火祭の火被りてまた命延ぶ 涙次〉



今回のところはこれ迄。次回、雌鶏「勘違ひ」の謎を解かねばならないな。と云ふ譯で、續く。


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